第62話 量産型リーブラの大爆発
この『野生のラスボスが現れた!』は週に2話程度書き進めてストックに追いつかないようにするのが精一杯なのに、息抜きに書いている二次創作は一日に5話進む。
何故なのか……。
量産型リーブラ二体が左腕を刃に変えてスコルピウスへと突撃する。
その速度はレベル700に決して恥じぬものであり、普通の敵ならば対応する事すら出来ないだろう。
だがスコルピウスは余裕の嘲笑を浮かべたまま二つの刃を素手で掴み、量産型の動きを止めてしまった。
「ぬるいわあ、お馬鹿さあん!」
刃を掴んだまま、力任せに二体を投げ飛ばす。
関節が軋む音が響き、量産型の肩に亀裂が走った。
だが量産型も即座に刃を消す事で最悪の事態を回避し、即座に体勢を立て直す。
その直後に後ろに控えていた二体が右の天秤を発射した。
だがスコルピウスは二筋の光線に怯む事なく、前進しながら砲撃を避けてしまう。
それからお返しとばかりに尾を伸ばし、砲撃してきた量産型の右腕を貫き、肩から先を吹き飛ばした。
「わかってきたわあ、貴女達の事が。オリジナルと違ってブラキウムも搭載していないどころか、天秤もどっちか片方しか持ってないのねえ。
つまりこれで、まずは一体無力化って事かしらあ」
続けて鬱陶しいもう一体の砲撃型に狙いを定める。
自らが狙われている事を悟ったのだろう。砲撃型は咄嗟に鋼鉄の翼を展開し、空へと退避した。
だがスコルピウスもただの跳躍で空へと跳び、いとも簡単に追いついてしまう。
「バァカ! 逃げられると思ったのかしらあ!?」
スコルピウスが哂い、爪を振るう。
たったそれだけの事で砲撃型の右腕を奪い取り、続けて放った尾の一撃が胸を貫いた。
内部のパーツが散乱し、量産型がガクガクと壊れたように揺れる。
いや、実際今のでほとんど壊れたのだろう。口からは意味不明の雑音が流れ、もはや言語として成立すらしていない。
だがそれでも彼女は戦闘兵器。ブルートガングを守るためだけに存在する鋼鉄の人形だ。
その顔には恐怖も何もなく、己が目的を遂行するという鋼の意志のみが存在していた。
武器を失った、ダメージも大きい。
これ以上自分がここにいても味方の邪魔になるだけであり、もはや戦力には為り得ない。
ならば取れる手段はただ一つ。
半壊した量産型は残った腕で己を貫いた尾を掴む。
そしてあろうことか、自ら前に出る事でより深く貫かせ、唇が触れ合う距離までスコルピウスと接近した。
「……ジ、バク……、シークエンス、サド、ウ……」
「!?」
量産型の身体が発光し、バチバチと電流が迸る。
ガラスのような瞳には皹が入り、顔に亀裂が広がっていく。
何をする気なのかはスコルピウスにも分かった。
この人形、最期に自爆してこちらにダメージを残すつもりだ。
だが振りほどこうにも、尾が深く刺さりすぎている上に掴まれている。
ものの数秒あればこの程度の抵抗など振りほどけるが、その数秒の時間すらがない。
発光。
一際強く空が輝き、爆音が鳴り響いた。
天まで届くほどの火柱が上がり、空中にあった雲すらもを霧散させる。
余波だけで蠍、ゴーレムの軍勢共に被害を受け、その数を益々減らして行った。
その光景を見てブルートガング内の元帥達もスコルピウスの死を確信する。
今回の戦いで受けた損害はあまりに大きすぎた。
虎の子の高レベルゴーレム部隊をほとんど失い、量産型リーブラすらも一体失った。
残った三体も無傷とはいえず、特に腹を貫かれた個体は重症だ。
武器を失ってしまった個体もいる。
自分達では完全に修理する事も出来ず、実質三体持って行かれたに等しい。
だが何とか勝った。多大な犠牲を払いはしたが、十二星の一角をようやく落としたのだ。
……否、訂正しよう。
落とせていたのならば、まだ慰めになった。
「……馬鹿な」
煙が晴れる事で見えてきた景色に、元帥が絶望の声をあげる。
他のクルー達も似たようなものだろう。
皆が信じられない、否、信じたくないという顔で戦いの結末を眺めていた。
「――危なかったわあ……流石に少しヒヤッとしたわよお。
今のには注意しないとねえ」
スコルピウスの姿は自爆を受ける前とほとんど変わらなかった。
いや、正確に言えば変化はある、
その両腕には黒い、鋏のような何が揺らめいていた。
恐らくはマナの凝縮により生み出した彼女の武器だろうそれには、量産型のパーツがいくつか付着している。
それを見て元帥は悟った。
あいつ、あの一瞬に……自爆されるあの僅かな時間に、量産型を『分割』して強引に脱出しやがった!
「でももう、それもお終い。一度見たからには二度目はないわあ。
さあて、残るはお腹に穴が空いた壊れかけが一体に武器のない役立たずが一体。
万全のが一体だけ、と……ふふっ、勝負あったわねえ?」
「……!」
スコルピウスは勝利を確信し、空を蹴って残る三体へと飛びかかる。
万全の状態でようやく『善戦』止まりだった量産型達がこれに勝てるかといえば、無論否だ。
勝ち目など、もはやどこにもない。
あるとすれば精々相打ち。何とか、自爆に巻き込むくらいしか光明が見えない。
それはつまり、どちらにせよブルートガングの切り札が消えるという事を意味していた。
*
おー、いるいる。ウジャウジャと蠍の魔物が沸いてるな。
ブルートガング内の事をリーブラ達に任せ、外へと出た俺は数百m先にいる蠍の大軍を見て口の端を歪めた。
見た所、蠍の魔物達はなかなか質もよさそうだ。
数合わせの雑魚もいるが、レベルが100や200を超えているものも普通に見かける。
だが驚くべきはそれと互角に戦えているブルートガングの戦力か。
ゴーレムの軍勢が決して退く事なく魔物達と鬩ぎ合い、ブルートガングからの砲撃が的確に敵を蹴散らしている。
何より俺の感心を引いたのは、遠くにいる一際レベルの高い、黒い女だ。
多分あいつがスコルピウスだろう。俺の中の『ルファス』がそうだと教えてくれる。
だがそのスコルピウスと互角、とまではいかないがそこそこ善戦出来ているゴーレムも凄まじい。
リーブラそっくりのゴーレム達は見事な連携でスコルピウスに喰らい付いている。
だが善戦は所詮善戦。互角ではない。
頑張ってはいるが、このままではやはりスコルピウスが勝つだろう。
一体は既に腹に穴が空いて半壊しているし、他の二体も結構不味い。
「惜しいな」
「何がですか?」
俺が思わず口にしてしまった呟きにディーナが顔をあげる。
「いや、あのリーブラ似のゴーレムがな。
見た所レベルも700と今の時代なら紛れもない逸品であるし、このまま壊れるのは余りにも勿体無い。
……ところで以前、レベル100の工作が数百万エルと言っていたが、あのクラスになるとどれほどの値が付くのだ?」
「国宝です」
「え?」
「国宝に指定される超貴重ゴーレムです」
……勿体ないどころの騒ぎじゃなかった。
まあレベル100で数百万なら、おかしい価値でもない。
そもそもレベル700ゴーレムなんて今の時代じゃ俺自身も含めて誰も造れない代物だ。
それを前線に出す事自体、ブルートガングが追い詰められている証拠なのだろうが、破壊されてしまうとなればどれほどの損害なのか……。
「仕方ない、早々に終わらせるとしようか。
ディーナ、余の武器を」
「何にしますか?」
「蛇腹剣を」
俺はそう言うと、右手を掲げる。
それに合わせるようにゲートが開き、かつて愛用していた剣が俺の手に握られた。
蛇腹剣――ゲーム中での性能は攻撃動作がやや遅く、代わりに攻撃範囲が広い事だ。
雑魚敵とかを一斉に倒すのにかなり便利で、俺が一番好んで使っていた武器でもある。
対ボス戦などではまた違う武器を使っていたが、普段愛用している武器となると、これになるだろう。
だが、このままではまだ使えない。
「ディーナ、露払いを」
「お任せ下さい」
このまま攻撃するとゴーレムを巻き込んでしまう。
それは物凄く勿体無い事だ。
俺なら造れない事もないのだが、流石にあの数は少し面倒臭いし疲れる。
壊さない手段があるならそれが一番であり、そしてその手段がこちらにはあるのだ。
「エクスゲート!」
ディーナが魔力と天力の二つの力を交差させてゲートを展開する。
その場所は、戦場の地面全てだ。
突如地面に空いた穴にゴーレム達が真っ逆さまに転落していく様は少しシュールでもあった。
しかし落ちるのはゴーレムだけだ。蠍はそこに残る。
エクスゲートは相手の合意がなければ成立しない。従って心を持たない非生物であるゴーレムは無条件に巻き込めても、生き物である魔物達は落ちないという寸法だ。
その特性は、分断という点においてこの上なく役に立つ。これで心置きなく攻撃出来るというものだ。
「さて、やるか」
俺は大きく振りかぶり、思い切り剣を薙ぐ。
すると剣は蛇のようにうねり、その刀身を遥か彼方まで伸ばした。
そしてその伸びた刀身で、戦場全てを薙ぎ払う!
加減は多少してやる。だがこれで死ぬようならそれまでだ。
確かにあの蠍達はスコルピウスの部下なのだろうが、イコール俺の部下ではない。
そもそもあれは同系統の魔物だからこそ本能でスコルピウスに従っているだけであり、基本的には知性のない本能だけの殺戮モンスターだ。つまり躊躇する必要がない。
それでも高レベルの奴なら捕獲しておけば後に役立つだろうから、強い奴だけは死なないよう加減もしている。
これで死ぬようなら、そもそも捕獲する必要もない。それだけの事だ。
何より、そろそろウィルゴのレベルも上げてやりたいしな。
やがて俺の攻撃が終わると、戦場は一変していた。
ゴーレムはおらず、蠍達も一部の高レベルを残してほぼ全滅。
そして死んだ魔物達からはマナの輝きが溢れ、俺の身体へと吸い込まれて行った。
これが経験値というやつだろうか? 以前はこんなの見えなかったはずだが……。
ルファスとの同調により視えるようになった、というところだろうか?
いや、それよりもこれはまずい。何がまずいって経験値が全部俺に飛んできている。
レベル1000の俺が経験値得たって意味ないんだって。これじゃウィルゴがレベルアップ出来ないだろ。
俺は何とか、飛んでくるマナを自分に取り込まないように意識を集中する。
こっちくんな、ウィルゴにいけ。一応戦闘参加した(?)んだから経験値が分散されてもいいだろう。
パワーレベリングさせろ、こら。
そうして俺が念じていると、マナは俺の中に入らずに掌へと集約し始めた。
何かディーナが息を呑んで驚いているようだが、今はそちらを気にしている余裕がない。
更に集めて集めて……やがて凝縮されたマナは黄金に輝き、果物の……俺もよく知る、林檎の形へと固定化された。
「……何だこれは」
俺は思わず呟く。
経験値が林檎になった。意味がわからない。
もしかしてこれを味方に喰わせればパワーレベリングになるのかな?
そう思いディーナを見れば、彼女は何やら険しい顔をしてこちらを……いや、俺の手の中の林檎を見詰めていた。
*
「黄金の林檎?」
「そう、黄金の林檎だ」
スヴェルにある賢王の屋敷。
その客間にてメグレズは来客である勇者へと、この世界に伝わる神話を聞かせていた。
それは信憑性という点において限りなく低いとされるものであるが、メグレズはあえてその伝承を勇者へと聞かせた。
何故なら、他の者の意見がどうあれ、これこそが最も真実に近い伝承であるとメグレズ自身が確信しているからだ。
「かつてミズガルズにはマナが無かった。
最も天高き山、ヴァナヘイムに暮らす白い翼の民達がこの世の穢れ(マナ)を集めていたからだ。
それこそが黄金の林檎。人が決して手にしてはならない禁断の果実」
「禁断の、実……」
「だが翼ある民のうちの誰かが、その禁断の実を口にしてしまった。
女神の怒りに触れたその民は山から追放されて翼を失い、人間となった。
いわば、この興味本意で実を食べた者こそが天翼族を除く人類全てに共通する祖というわけだ。
そして天翼族もまた、この事件以降はマナを集める力を失い、世界にはマナが溢れた」
メグレズはそこまで語り、読んでいた本のページを捲る。
その本には『ミズガルズ歴史表・七種族誕生の秘密』と書かれていた。
「でも、伝説なんですよね?」
「ああ、伝説だ。恐らくほとんどの者が信じていないだろう。
私とて彼女と出会っていなければ馬鹿馬鹿しいと一笑に伏したかもしれない。
だがそれは実在する」
穏やかに笑い、メグレズは瀬衣を見る。
そして、ある意味では勇者一行が最も知りたくなかったであろう事を口にした。
「君達が『秘法』と呼んだ、急速にレベルを上げる方法……それこそが『黄金の林檎』であり……。
そして私の知る限り、それを生み出す事が出来るのはこの世に唯一人、ルファス・マファールだけだ」
尚、味は微妙な模様。




