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第54話 野生のラスボス、昼食をとる

※『野生のラスボスが現れた!』本日発売※

陽小人族の名前を『フローレシエンシス』に変更。

以降はこれで固定。

「いらっしゃい。六名様ですね」


 店に入るとエプロンを付けた小柄な少女が俺達を出迎えた。

 年齢はパッと見、十二歳かそこらにしか見えないが、恐らく見た目通りの年齢ではないのだろう。

 ドワーフとは基本的に背が低い人種であり、見た目では年齢を判別しにくいのだ。

 ゲームにおいては『陰小人族』とも呼ばれる彼等は、元々小人族と同じ生き物だったと言われている。

 それが途中で洞窟に住むか、自由に各地を放浪するかで枝分かれし、陰小人族と陽小人族とに分かれた。

 小人族といえば基本的にはフローレシエンシス(創作物だとグラス○ンナーやハーフ○ングと呼ばれる連中に近いタイプだ)を指すが、それは実は正しくない。

 正確に言えばドワーフもまた小人族なのだ。

 とはいえ、そんなのはあくまで設定の中の話であり誰も気にしてはいない。

 俺も小人族は小人族、ドワーフはドワーフで分けてしまっている。

 だからこれからも正式な学名なぞ無視してフローレシエンシスを小人族と呼ぶし、ドワーフはそのままドワーフと呼ぶ。

 正式な名前なんてそんなものだ。地球にだってネズミよりはモグラに近いはずなのにハリネズミと呼ばれている生き物がいる。

 だが、そんなのは一々気にしないし、やはり皆ハリネズミと呼ぶ。

 要はそれと似たようなものである。


 ファンタジーなどでよく見るドワーフは一般的には背が低くて髭がもっさりしているが、それはミズガルズにおいても変わらない。

 背が低いのは種族共通だし、男のドワーフはやはり髭がこれでもかと生えている。

 しかし別に老化速度が早いとかそういうわけではなく、人間と大差はない。

 ぶっちゃけると単に髭を剃らないだけで老化速度は人間と同じだ。

 ただ、男のドワーフは力仕事を多くこなす為か、やたら男らしくなりやすいとは聞いた事がある。

 そういう変異をしてしまったのか、男性ホルモンがガンガン出て、ちょっと働くだけでどんどんムキムキになるし眉毛が太くなって顔立ちもごつくなる。髭も当然凄い勢いで伸びる。

 しかもドワーフの世界では彫りの深い、いわゆる『おっさん顔』がイケメン扱いだ。

 だからどいつもこいつも三十代を過ぎる頃には立派なサンタクロース化してしまっている。

 勿論髭も生えてない人間のさわやかなイケメンなんかはドワーフの女性には全然モテない。

 ドワーフの女性はほとんどがおじ専の合法ロリなのだ。

 まあ普通に老化はするから四十代も過ぎれば、ただの背の低いおばちゃんになるがな。


「ご注文は?」

「バロメッツのスープ」


 女主人の問いにまず俺がメニューを見て答える。

 ミズガルズの世界に来たなら、一度は食べてみたいと思っていたのがこのバロメッツだ。

 ゲーム中においては食べ物が回復アイテム扱いだったりするが、これもその一つ。

 こいつは魔物なのだが実に面白い変異をしており、その本質は(多分)植物だ。

 ヒョウタンに似ているのだが、その実からは何故か子羊が採れる。

 この子羊を採らずに放置すると成体となり、顔だけを実から出して自身の周囲の草を喰い尽くし、最期には飢え死にする。意味がわからない。生存という意味で明らかに変異に失敗している。

 しかしこれがなかなか便利であり、蹄まで羊毛なので全身くまなく素材として利用出来る。

 アルケミストにとっては序盤の心強い味方だ。

 低レベルのアルケミストはまずバロメッツを狩り、羊毛の装備を整えるのが基本とすら言われている。

 まあ俺はアルケミストになる前に前衛をいくつか跨いでたんで、その頃には普通に他の魔物や恐竜を狩ってたけど。

 ついでに付け加えると、羊系の素材としては最上位の虹色の毛を生産してくれるアリエスがいたのでぶっちゃけバロメッツは完全に要らない子だった。

 で、そんなバロメッツだが喰うと美味い……らしいが、肉は蟹の味がするんだと。

 最早ギャグでやっているとしか思えない。

 いや、実際ゲームの頃はギャグだったんだろう。運営も多分狙っていた。

 しかしこの世界でまで生態がそのままというのは……もはや哀れとしか言えん。

 いやまあ、それはそれとして食べるけどね。

 と、思っていたのだがアリエスがじーっと俺の事を見ている事に気付いた。


「…………」

「……あ、いや、やはりキノコのスープを貰おうか」


 俺は自身の短慮さに気付き、慌てて注文を変える。

 うっかりしていた。羊であるアリエスの前で羊を食うのはちょっとまずい。バロメッツを羊と言っていいかが疑問だが。

 勿論こいつなら俺の事を咎めはしないだろう。しかし『ルファス様は羊が好物なのか』とか考えて自分の身を切りそうな怖さがある。

 参ったな、十二星と被る動物の肉はあまり食べるべきじゃなさそうだ。


「私はサラダ盛り合わせ」

「僕もそれで」

「我も」

「私はバロメッツのスープで」

 

 ディーナ、アリエス、アイゴケロスがサラダを頼む中、ウィルゴが躊躇なくバロメッツに行った。

 アリエスの視線も全く気にしていない。というか気付いてすらいない。


「あ、それと山羊のミルク粥も」


 今度は山羊にいった。

 アイゴケロスの視線が追加されるが、やはり気付いていない。

 ある意味凄い奴だ。


「それにしても、よくゴーレムの中で食材があるな?」

「それはですね。ゴーレム内に……」

「ゴーレム内に農業プラントがあります。育てているのは主にバロメッツと、育てるのが簡単なエイルの実、それから芋類、他野菜が数種。

といっても、食材の大半は輸入頼りのようですが」


 俺がディーナに尋ねると、ディーナの説明にリーブラが割り込んだ。

 解説役を取られたディーナはぐぬぬ、とか言っているがリーブラは知らん顔だ。

 お前等何でそんなに解説役を取り合ってるんだ。

 ま、それはいい。今は料理だ。

 運ばれてきたスープはカットされた様々なキノコが浸され、なかなかに美味そうだ。

 一部俺の見知らぬ物もあるが、そもそもキノコ自体そんなに詳しくない。

 松茸としめじの味の区別すら付かない俺にとって、毒でさえなきゃキノコなんて何でもいいのだ。


 味は……うん、塩味がいい感じに効いてるな。

 魔神族にほとんどの土地を占拠されているものの、幸いにして残った土地が海に隣接していたのは不幸中の幸いというやつだろう。

 この前魔神王さんと喧嘩した場所……つまりはレバ国付近だな。確かあそこに海があったのを覚えている。

 塩ってのは人体にとって大事なものだ。海に隣接した土地を全て取られてたら戦うまでもなく人類が詰んでいただろう。

 しかしやはり料理の技術は地球ほど進歩はしていない。

 適当に煮て、塩だけ振りかけましたって感じだ。

 ま、当然か。何せミズガルズが全世界共通で戦時下だ。味よりもまず栄養価と量が求められる。

 味を追求する余裕なんかないし、料理の実験で浪費出来る食材なんかない。だから必然的に料理は進歩しない。

 昔見た番組で、頑固料理人を気取った頭の悪いラーメン屋の親父が弟子の作ったラーメンを味が気に入らないからと一口食べただけで捨ててたが、あんなのをこの世界でやれば、それこそ殴られても文句は言えない。

 味の追求実に結構。誰だって美味い物を食べたい。

 だがそれを可能とする余裕がこの世界にはないってわけだ。


 それと調味料不足。これも味の発展を妨げている要因なのだろう。

 ファンタジーのお約束というか、この世界は胡椒が貴重品という設定があったし、実際ゲーム中でも胡椒は高く売れる換金アイテムだった。原産地が限られてるんだったかな。

 とはいえ、地球の中世時代ほどの価値はない。

 地球において胡椒は同重量の金とさえ交換されたと言われるが、その背景には大航海時代と冷蔵技術の未発達があった。

 海を渡る際の食材の長期保存には胡椒が欠かせなかったってわけだ。

 だがこの世界は別に大航海時代じゃないし、水魔法なんて便利なものもある。

 食材の保存がしたけりゃ水魔法で氷漬けにするなり、いくらでもやりようはあるわけだ。

 勿論魔法で出した氷はそのうちマナに戻るわけだが、そしたらまた魔法を使えばいいだけの事で、食料の保存という点において胡椒の出番はほとんどない。


 満足、とまではいかないが久しぶりに保存食以外のものを口にして腹も膨れた俺達は会計を済ませ、外へと出た。

 次にやるべき事は、やはりカルキノスを探す事だろう。

 しかしどこに居るかも分からない以上、しらみつぶしに探す以外の手立てがない。

 だがこの広いブルートガングをしらみつぶしに探していては時間もかかるし、第一住居もあるのだからどのみち全部は探せないだろう。

 俺達はRPGの勇者ではないのだから、人様の家に勝手に上がりこむ事など出来ないのだ。


「リーブラ、カルキノスの居場所は探れないか?」

「先ほどから行っております。

時間さえあれば全住民の呼吸音をメモリと照らし合わせて特定出来ますので、しばしお待ちを」

「ではリーブラが探し終えるまで待つとしようか」

 

 とりあえずカルキノスの捜索はリーブラがいれば何とかなりそうだ。

 時間がかかると言っているが、それでも俺達が歩いて探すよりも余程早いだろう。

 すると、ディーナが提案とばかりに指を立てた。


「あ、それなら私ちょっとお買い物に行って来ていいですか?

そろそろ食料とお水を買い足さないと」

「では私が護衛に就きましょう」


 買い物をしたいと言うディーナに、意外にもリーブラが護衛を申し出た。

 ディーナなら一人でも大丈夫だとは思うが、リーブラも行ってくれるなら尚安心出来る。

 というか俺の方からそれは提案したいくらいだった。

 ディーナの身の安全はさして気にしていない。レベル1000の彼女ならば大抵の事は自力でどうにかできてしまう。

 だがディーナを一人にすると何をするか分からない怖さがあった。

 何せ彼女は魔神族とのWスパイであり、裏で何をしているかは俺も把握し切っていないし、その危険を踏まえた上であえて仲間にしている。

 だがリーブラが近くにいれば、流石のディーナも妙な動きは出来ないはずだ。

 問題があるとすれば、現在リーブラは探索の真っ最中であり、余所に気を遣っている暇があるのだろうか? という事だ。


「ご安心を。護衛をしながらでも探索は出来ます。

むしろこのゴーレム内は一階層ごとに防音も敷かれている為、私自身が中心部に近付いた方が効率も上がります」

「ふむ。では頼むとしようか」

「お任せ下さい」


 食料などを買い足すためにディーナとリーブラが俺達から離れ、いよいよ俺のやる事がなくなった。

 彼女達が戻ってくるまでの間、どうしたものだろうか。

 食事は今済ませたばっかりだし、ここには暇潰し出来るコンビニなんかもない。

 となると、後は散歩くらいしかやる事がないな。


「よし、ディーナ達が戻ってくるまでは自由行動としよう。

各自、街に迷惑などはかけぬように」

「ルファス様はどうするんですか?」

「少しこの街を見て回ろうと思っている」

「じゃあ僕もお供します」

「我も」

「あ、じゃあ私も」

「…………」


 俺が散歩に行くと言ったら羊、山羊、乙女がゾロゾロと付いて来た。

 何だこれは。RPGでよくある、何故か勇者の後を一列に並んで行儀よく同じ歩幅で歩くお供達か。

 凄い散歩しにくいんだが。


「……其方等、好きな事をしてもいいのだぞ?」

「ルファス様と御一緒する事が僕の好きな事です」

「我も」

「ええと、一人だと迷子になっちゃいそうですし」


 遠まわしに離れろと言ってみるも、三人は離れる様子がない。

 ウィルゴの意見はまだ分かるとして、アリエスはちょっと忠誠が重い。

 アイゴケロスは気のせいか、さっきから『我も』しか言ってない気がする。

 やれやれ、こりゃ当分本当の意味での自由時間ってのは得られそうにないな。

 いや、ま、嫌いじゃないんだけどね。こいつ等の事は。


【エイルの実】

古の時代に飢饉に喘いだ人々を哀れんだ女神が遣わした戦乙女エイルによってもたらされたものであると伝えられる実。

甘く、栄養豊富で、そして季節を選ばずに多少であれば荒れた地でも実を付ける。

緑色の皮に包まれたその実は水分も豊富で、疫病や寄生虫にかかる危険の高い生水などよりも、よほど頼りになる水分の補給源。

書籍版では1巻の時点で登場済。Web版では今回が初登場。


【ミズガルズの調味料】

・砂糖

普通に存在しているがあまり多くない。

どちらかというと、より甘味の強い果糖がメイン。

果糖は大体エイルの実から作られる。


・塩

別に貴重品でも何でもない。

残された大地が海に隣接しているので、そこから採れる。

輸送手段もテイマーの使う鳥モンスターだったり、飛行出来るゴーレムだったり、天翼族だったりと色々あるので海から離れた国でもやっぱり貴重じゃない。


・胡椒

貴重品。原産地が限られる上にその原産地が魔神族の領地。

つまりルファスが考える以上に貴重で、かなり高値で取引される。

しかしミズガルズは大航海時代でもないし、食料の保存も水魔法で冷凍すればいいだけなのであくまで超珍しい調味料。


・味噌

存在しない。


・醤油

存在しない。


・ソース

似た様なものはある。


・マヨネーズ

似たようなものは造られたが、「卵を生とか馬鹿じゃねーの?」とディスられて売れず、歴史の闇に消えた。

ついでに味も外国のマヨネーズ以下で、かなり不味かったらしい。


・酢

普通に存在している。


・トマトケチャップ

今の所存在していない。

トマトはあるので、作り方を教えてあげれば出来る。


Q、お菓子とかないの?

A、果物を焼いたパイくらいならある。ケーキだのチョコレートだのといったものはない。

ぶっちゃけ現代のパティシエとかがトリップすればあっという間に金持ちになれる。で、権力者に狙われて誘拐される。

というか甘味好きの吸血姫に速攻で攫われる。

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