第41話 野生の七曜が現れそう
【ディーナ】
レベル 1000
種族:ハーフエルフ
クラスレベル
アコライト 200
プリースト 200
レンジャー 100
ストライダー 100
メイジ 200
ソーサラー 200
HP 35000
SP 16000
STR(攻撃力) 1750
DEX(器用度) 3000
VIT(生命力) 2050
INT(知力) 11550(+2000)
AGI(素早さ) 3700
MND(精神力) 8902
LUK(幸運) 1930
装備
頭 ――
右腕 賢者の腕輪(INT+1000)
左腕 陰者の腕輪(INT+1000)
体 旅人の服
足 旅人の靴
その他 ――
……何この後衛超特化。
と、ディーナのステータスを見たはいいものの凄い偏り方をしていた。
見事に後衛職ばかりに就いてるし、本来課金しなきゃ出来ないはずのクラスレベル200を複数やっている。
加えて装備まで知力を伸ばす事のみに費やすという徹底ぶりときた。
攻撃力とHPがレベル1000とは思えない貧弱さだが、知力がドーピング勢以上になってる。
全盛期のメグレズには及ばないが、とんでもない数値だ。
でもこれだと、リーブラのいいカモだな。
あれから、当たり前のようにリーブラとアリエスには追求されたが俺とディーナは口裏を合わせて適当に誤魔化す事に成功していた。
あれは俺達もよく分からない何処かからの攻撃で、とりあえず俺が対処したという事にしたのだ。
実際俺が対処したってのは別に嘘じゃない。ただ攻撃を撃ったのがディーナというだけだ。
どうでもいいがディーナは気付いたら青い髪の、見慣れた姿に戻っていた。
あれは水魔法の『イリュージョン』――霧を利用して相手を幻惑し、姿すらも偽る魔法で、ゲーム中での効果は単なる回避率上昇――だったという事も分かった。
せめて設定通り外見変化くらいさせろ運営、とは皆が言っていた事だが実装される気配はなし。
それがまさか、こんな所で実現しているとは……世の中わからないものだ。
金と水という二つの属性を合わせ持っていたのは、それがハーフエルフの種族スキルだかららしい。
何それずるい。
ハーフエルフはエルフほどではないが知力と精神力の伸びがよく、人間には劣るが他の能力もそこそこ伸びるという。
で、天法と魔法のどちらにも高い素質を示し、挙句の果てに2属性持ちときた。
しかもエルフと違って普通に肉も食えるらしい。
エルフは森の民だからそれが出来ず、だからメグレズもドーピング勢のくせにHPだけやたら低いままだったし、選定の天秤にも一撃で消し飛ばされた。
このゲームでオーク肉を食えないエルフは絶対的ハンデを抱えてしまっているのだ。
しかも、その地雷はドーピングに手を出し初めて……つまり大体はレベル1000に達してから気付く事なので実に性質が悪い。
しかしハーフエルフにはその弱点すらなし、か。何だそのインチキ。下方修正されてしまえ。
というかエルフ用にオーク肉以外のHP上昇アイテム作れ、運営。
ま、それはともかくとしてアイゴケロスを加え、ディーナを仲間に戻した俺達は田中に乗ってギャラ国を後にした。
そろそろ人数的にきつくなってきたので田中の拡張を考えるべきだろうか。
いっそこの機会に防弾ガラスやカーボン素材でも組み込んでみるか?
こっちの世界には存在しない素材だし、ゲームでもそんなものは造れなかったが今なら可能だろう。
『向こう』の知識を利用した在り得ざる素材……それでゴーレムを作った場合の限界レベルというのはちょっと興味が湧く。
ゲームじゃ一度造ったゴーレムを後から改造とか、別の素材を組み込むなんて事は出来なかった。
やりたきゃ新しく別のゴーレムを造るしかない。
しかし今なら、それも出来なくはないだろう。ここはゲームに限りなく似ているが、ゲームではないのだから。
「ところでアイゴケロスよ。其方は何か有用な情報を掴んではいないか?
魔神族の元にいたならば、色々と話も入ってきただろう」
俺は車内に用意したソファに腰掛け、向かい側に座るアイゴケロス(擬人化)に問いかけた。
アリエスはその隣で、ギャラ国で買ってやった昼食のトウモロコシを齧っている。
最初はその辺の草を食べようとしていたが、それは俺が止めた。
人間の姿でそれをやられると、何か俺が虐待してるみたいに見えて居た堪れない。
ちなみにアイゴケロスの好物はタンポポだった。
壮年の紳士がタンポポを喰らう姿は……何というか酷くシュールだ。
やっぱこいつら、見た目変わっても羊と山羊なんだな。
「そうですな……まず、我以外に魔神族に協力していた12星ならば存じております」
「ほう。誰が向こうにいる? 話せ」
「『蠍』のスコルピウスが復讐の鬼と化して魔神族に全面協力しております。
我のように互いに利用するといった関係ではなく、あれは魔神族の道具となってでも完全に人類を滅ぼしてしまう気でしょう。
『冒険王』フェクダがかつて建国した『フロッティ』も、奴によって滅亡させられています」
――今までで一番やばい事やらかしてる奴きたよ、おい。
俺は頭を押さえたいのを何とか堪え、それでも思わず溜息をつく。
『蠍』のスコルピウスは……ま、その名の通り蠍の魔物だ。
魔物名をエンペラーバーサクスコーピオン。通称『狂帝』。
通常攻撃で毒を与え、毒霧を噴射し、毒の上から更に毒を付与して猛毒状態にし……と、ひたすらに毒、毒&毒攻撃を繰り返す毒のスペシャリストだ。
それ以外にこれといった攻撃手段はないが、とにかく固いので持久戦を強いられる。
しかも攻撃力が低いと安心してたらHPが一定値以下になると同時に狂化状態となり、凄い勢いで攻撃してくるから性質が悪い。
だが俺にとっては、こいつは別段怖い相手ではない。
悪いがステ異常ばかり仕掛けてくる相手なんぞドレス着て行けばただの雑魚だ。
しかし街や国にとって、こいつほど怖い相手はいないはずだ。
何せ猛毒の全体散布である。
それがガチで国を滅ぼす側に回るとか、冗談抜きでやばい。
「ああ、スコルピウスかあ……本当にルファス様の事崇拝してたもんね」
「あの崇拝がそのまま憎悪に変換されたのだとすれば、今の奴は極めて危険な存在であると考えられます」
トウモロコシを食べ終わったアリエスが納得したように言い、リーブラも同意して頷いた。
そんなやばい奴なのか、蠍。
「はい、今の奴は我の言葉にすら耳を貸さぬ復讐の悪鬼です。
憎悪の余りレベル限界突破を果たして今ではレベル900となり、もう我でも手に負えません」
何か凄い事してた!?
テイマーの使う魔物は800が限界値だってのに、何勝手に上限超えてるんだこいつ。
俺はリーブラを一瞥し、彼女に質問を飛ばしてみる。
「リーブラ。仮に其方が奴と戦えばどうなる?」
「……恐らく勝率は62%といったところでしょう。
当時のスコルピウスのデータを元に現在の強さを推測してみたところ、私の戦闘力を上回っています。
先制のブラキウムで大幅にHPを減らせるでしょうが、それだけでは仕留め切れません。
その後は単純な能力の戦いとなりますので、私が倒れるのが早いか、スコルピウスを仕留め切るのが先かの戦いとなります」
今の所手持ち最強のリーブラでもやばい相手か。
ゴーレムの彼女なら毒は効かないし必勝でいけるかと思ったんだが、相当やばい強さになってるらしいな。
しかしアリエスならメサルティムと毒の継続ダメージ勝負で相性勝ちを狙えるだろう。
いくら防御が高かろうと割合ダメージの前では無力だし持久戦ならアリエスの得意分野だ。
互いに火属性なのでスコルピウスが発狂しても大したダメージにならないだろうし、相性はかなりいい。
アイゴケロスは本人が『手に負えない』とか言ってるので多分無理。
ディーナは……属性的には有利だが、HPが低すぎる。発狂した蠍の猛攻に耐え切れる気がしない。
こいつがどこまで出来るか未知数だから何とも言えないが多分無理だろう。
こりゃ、会うとしたら俺かアリエスが出るしかないな。
しかし現在地は魔神族の居城だろうから、今は放置する以外に手がない。
「後は……『獅子』のレオンと『吸血姫』ベネトナシュが日夜に渡り戦争を繰り広げております。
12星最強のレオンと、7英雄最強のベネトナシュの全軍率いた殺し合いなので、魔神族7曜すら迂闊に近付けば巻き添えで死にかねません」
「ふむ……それだと若干ベネトナシュが有利か。
奴の近接戦闘力は余をも凌いでいたからな」
「いえ、それが……レオンはその、元々貴女への忠義が薄い12星の異端児でして……。
貴女がいなくなった後に完全に野生に帰ってしまい、レベルも1000に戻っています」
うわ、何そのカオス。
何か俺や勇者無視して勝手に頂上決戦始まってるじゃないか。
当時そのままのベネトナシュVSボス時代そのままのレオンとか夢の戦い過ぎて見てみたい気はするけど、あまり近付きたくもないな。
「ねえアイゴ。確かベネトナシュってルファス様を異常にライバル視してたよね……」
「うむ。かつてルファス様との戦争に敗れて以来、常にルファス様を越える事を目標とし、執着していたな。
レオンも同じタイプで、かつて最強の魔物と謳われていたのをルファス様に敗れて傘下に収まったので、従いながらも虎視眈々とルファス様の玉座を狙っていた」
「忠告します、マスター。もしもマスターが近付けば80%の確率でベネトナシュとレオンが戦闘を中断し、マスターへ突撃してきます」
……前言撤回。あまり近付きたくない、どころではない。
絶対に近付きたくない。
どうやらレオンもベネトナシュも他の12星や7英雄とは完全に異なる、俺を敵として見なすタイプらしい。
レベル1000のドーピング勢とレベル1000のボスモンスターが軍団率いて嬉々として突貫してくるとか笑い話にもならん。
うん。この二人の所は最後に回そう。
もうしばらくは二人で仲良く喧嘩しててくれ。
「それと……これはどうでもよい事なのですが、レーヴァティンが勇者の召喚に成功したそうです」
「ほう」
俺はそれを聞いて思わず上ずった声をあげた。
どうやらこの世界でもちゃんと勇者は召喚されたらしい。
勇者、というからにはクラスも多分隠しクラスの『勇者』に違いあるまい。
本来はウォーリア、ライトウォーリア、ヘビィウォーリア、ソードマスターをクラスレベル200まで極める事で初めて開放される前衛最強クラスで、ゲームではアリオトが発見するまでその存在すら知られてはいなかった。
そしてアリオト以外にそのクラスを取ったプレイヤーも俺の知る限りではいない。
何せ開放に達するまでの効率が悪い。
ウォーリア、ライトウォーリア、ヘビィウォーリアは能力が似通っており、取るとしてもどれか一つというのが基本にして鉄板だ。
加えて大して強くもない基本クラスをわざわざ課金して200に伸ばす旨みもない。
課金しての限界突破をするならばソードマスターなどの上位クラスか、あるいはアルケミストなどの上位が存在しないクラスというのもまた、ゲームを知るものならば誰もが知る基本中の基本であった。
だがアリオトはそれをやった。
能力値の伸びや効率の悪さを無視して前衛の剣士一本で絞った。
定番を完全に無視したその育て方に俺を始めとする高位プレイヤーはアリオトをネタキャラと見なしていたし、本人もまた半分ネタのつもりでやっていたはずだ。
これで強くなるわけがない。俺達は皆がそう確信していた。
しかしその馬鹿げた育て方が隠しクラスを解放し、アリオトを一気に最高位のアバターへと変えた。
能力値の伸びがそれまでの遅れを取り戻すほどに凄まじく、スキルも凶悪なものが揃っている。
HPが0になっても復活して必ず反撃し、攻撃力上昇の上で100%クリティカルヒットさせる『大逆転』なんてその筆頭だ。
もしそのクラスを最初から解放済みでレベル1スタート出来るとしたら……勇者というのは恐らく、普通に育てるだけで俺達ドーピング勢に並ぶ能力値となるだろう。
「……それは不味いな」
俺は顎に手を当て、呟く。
勇者というクラスは強い。そしてだからこそ不味い。
何が不味いって、“魔神族に勇者召喚が知られている”のがまずいのだ。
アイゴケロスが知っているという事は、もうこれは魔神族が掴んでいる情報と見ていい。
そして奴等も『勇者』のやばさはアリオトとの戦いで思い知っているだろう。
レベルが低いうちは脅威ではないかもしれない。
だがレベルが上がれば、俺や7英雄に匹敵する怪物にもなれる。
それを奴等は知っている。
さあ、そうなれば後はどうなる? どうする?
俺が奴等の立場だったら、どう動く?
――決まっている……育つ前に殺す。それが最善手だ。
「このままでは殺されるぞ、勇者とやらは」
人類の儚い希望、勇者。
それは開幕早々、既に詰みかけている。
俺のその言葉に、否定を示す者はこの場にはいなかった。
ルファス「もうしばらくは二人で仲良く喧嘩しててくれ」
ベネト「(´・ω・`)そんなー」
レオン「(´・ω・`)そんなー」




