第22話 もういい!戻れ冒険者!
\私は背景ではありません!/
「っおおらあ!」
冒険者――ジャン、と名乗ってたっけな。
彼が剣を振るい、ゴーレムを斬り付ける。
だがゴーレムの岩肌に傷こそ付く物の両断には至らない。
痛覚も恐怖という感情すらもないゴーレムはただ目の前の相手を殴る事しか思考せず、それゆえに単純無比。
怯まず恐れずたじろがず、ただ機械的に攻撃を繰り返すというのは場合によっては脅威となる。
ジャンは即座にバックステップでその愚鈍な拳を避けるも、顔には隠しきれない緊張が表れていた。
「っ、とんでもねえ拳だな! あんなのマトモに受けたら一たまりもねえぜ!」
訂正――俺には愚鈍に見えるが、ジャンにとってはそうではないらしい。
入れ替わるように二人の冒険者がゴーレムの懐へ潜り込む。
得物は双剣と斧。スピード重視とパワー重視といったところか。
片方の男が手数でゴーレムを何度も斬り、もう片方の男が斧でゴーレムの腕を強打する。
それに続くように今度は後方に待機していた男が弓を放ち、前衛の3人を援護した。
悪くないコンビネーションだ、と思う。
しかし……。
【ジャン】
レベル 38
種族:人間
クラスレベル
ウォーリア 38
HP 2747
SP 110
STR(攻撃力) 135
DEX(器用度) 90
VIT(生命力) 95
INT(知力) 70
AGI(素早さ) 85
MND(精神力) 72
LUK(幸運) 31
【リヒャルト】
レベル 35
種族:人間
クラスレベル
ヘビィ・ウォーリア 35
HP 3090
SP 130
STR(攻撃力) 142
DEX(器用度) 80
VIT(生命力) 150
INT(知力) 50
AGI(素早さ) 77
MND(精神力) 42
LUK(幸運) 44
【ニック】
レベル 35
種族:人間
クラスレベル
ライト・ウォーリア 35
HP 2100
SP 145
STR(攻撃力) 110
DEX(器用度) 101
VIT(生命力) 90
INT(知力) 72
AGI(素早さ) 102
MND(精神力) 50
LUK(幸運) 62
【シュウ】
レベル 36
種族:人間
クラスレベル
アーチャー 36
HP 2110
SP 156
STR(攻撃力) 120
DEX(器用度) 115
VIT(生命力) 80
INT(知力) 82
AGI(素早さ) 70
MND(精神力) 45
LUK(幸運) 108
【量産型ゴーレム】
レベル 150
種族:人造生命体
クラスレベル
HP 9087/9100
SP 0
STR(攻撃力) 305
DEX(器用度) 100
VIT(生命力) 355
INT(知力) 9
AGI(素早さ) 108
MND(精神力) 15
LUK(幸運) 70
……これは無理だな。
魔法とかがあればまだ可能性はあるんだが、こいつ等全員物理型だ。
これじゃゴーレムの防御を抜けないし、HPを削りきれない。
必死に攻撃しているようだが、恐らく一度の攻撃でゴーレムに与えてるダメージは多くても2か3程度だろう。
実際ゴーレム、あんだけ殴られて13しかダメージ受けてないし。
あれじゃゴーレムが倒れるより先にゴーレムの拳が命中してお陀仏だ。
仕方ない……助けに来た奴を助けるっていうのも鼻をへし折る行為でちょっと悪い気がするが、見殺しよりはいいだろう。
俺は小さく溜息を吐くと、アリエスへ視線を向けた。
「アリエス、あの者達を助けてやってくれ」
「はい、お任せ下さい!」
俺の指示にアリエスが嬉しそうに答え、地を蹴ってゴーレムへ迫る。
邪魔になっていた冒険者達の間を器用にすり抜けて一撃。
炎を纏った拳がゴーレムの頭部を粉砕し、更に勢い余って身体すらも吹き飛ばす。
そして壁に叩き付けられたゴーレムは粉々に崩れ、二度と動く事はなかった。
相手が雑魚とは言え、流石アリエス。
HP9100を一撃とは実に頼れるではないか。
「…………」
先ほどまで苦戦していたゴーレムを目の前であっさり片付けられた冒険者4人はポカンと口を開いている。
ああ、こりゃやっぱりプライドを傷付けちまったかな?
と思うも束の間、ジャンが子供のように弾んだ声を出した。
「すっ……げええええええ!!
すげえ、すげえ、すげえ!? おい見たかお前等!? 今のすっげえなオイ!?
なあ嬢ちゃん、今のどうやったんだ!?」
「え? え?」
おおっと、これはまさかの好意的反応だ。
詰め寄られたアリエスは目を白黒させ、返答に困っている。
まさかこういう反応を示すとは思わなかったが、とりあえずアリエスと男達を引き剥がしておいた。
「落ち着け、冒険者。
興奮する気持ちは分からんでもないが、アリエスが困っている。
それとアリエスは嬢ちゃんではなく男だ」
「お、おお、すまねえ……って、男!? 女の子だとばかり思ってたぞ!」
このジャンという男、やたらオーバーというかやかましいな。
俺がそう思っていると、彼の仲間の一人であるライトウォーリアがジャンを後ろから引っ叩いた。
「五月蝿いぞジャン。相手が迷惑している」
どうやらこっちは大分静かで話の通じる奴のようだ。
正直なところ、俺はあまりテンションの高い輩は好きではない。
何というか、耳がキンキンしてストレスが溜まる。
ま、これは俺がゲームばかりやっているゲーマーだったからなんだろうけど。
「あ、ああ。悪かったよ。
まあ、なんだ……助けに来たつもりが助けられちまったな。ありがとよ」
「構わぬ。その心意気にこちらこそ感謝しよう」
少し落ち込んだように言うジャンへ、俺は適当に慰めの言葉を送った。
実力不足とはいえ、俺達を助けようとしてくれた事は確かなのだ。
ならばその男気だけは評価していいと俺は思う。
すると単純なのか、あっという間に彼の顔は喜色に染まった。
「そ、そうか! そう言ってもらえると助かるぜ。
あんたいい人だな」
いい人、ね。
そう言われて俺は思わず笑いそうになった。
確かに今の俺は中身がこんなんだから、とりあえず悪党ではないと思う。
犯罪とかもしない、至って普通の人間……だったはずだ。
しかしルファス・マファールは200年前に世界を侵略しまくった掛け値なしのド悪党であり、むしろ悪党・オブ・悪党と呼んで過言ではない。
そんな俺にいい人、という評価は何だかくすぐったい気がした。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。
俺はジャン。冒険者でクラスはウォーリアだ」
「同じくライトウォーリアのニックだ。うちのリーダーが迷惑をかけて済まない」
「俺、リヒャルト。クラス、ヘビィウォーリア。よろしく」
「アーチャーのシュウです」
4人の自己紹介を受け、しかしバランスの悪いパーティーだなと思う。
4人中3人がウォーリア系統の前衛ってどうよ。
魔法使い系が一人もいないし、回復役もいない。レンジャーもいないんじゃ散々だろうに。
俺としてはバランスのいいウォーリアのジャンだけをそのままにリヒャルトとニックはメイジとアコライト辺りをやらせるべきだと思うんだよな。
シュウはアーチャーよりレンジャーかな。
アーチャーも悪くないが、こういう狭い場所だと能力を発揮し切れ無いし、後衛はハッキリ言って魔法型の方がいい。
というかさっきのゴーレムみたいな頑丈なのを相手にした時の為に低レベルのうちの魔法型は必須だ。
「自由商人のスファルだ。クラスは……レンジャーだ」
本当は色々なクラスを持っているが、多分それはこの世界の平均レベルだと異端なのだろう。
だから俺はとりあえず現状最も役立ち、多用する事になりそうなクラスを一つ挙げておく。
素手での格闘はグラップラーでなくとも可能でレンジャーが素手攻撃をしても『変なレンジャー』で済む。
しかしグラップラーを名乗っておきながらレンジャーのスキルを使ったら、それはもう明らかに不自然だ。
そういう事情から俺はレンジャークラスを自称する事にした。
「同じく自由商人のディーナです。クラスはレンジャーです」
何か一度もレンジャースキルを使った事のない奴が出鱈目を口にしている気がする。
まあ、ディーナに関してはどこまで本気か分からないのでスルーしておこう。
でもせめて、そこは俺と違うクラスを口にして欲しかった。
「お、同じく自由商人のアリエスです。クラスは……れ、レンジャー? です」
そして最後にアリエス。
お前絶対よく分からず、適当に合わせただけだろ。
どうするんだよ、これ。
3人パーティで全員レンジャーという意味不明のチームになっちまったじゃないか。
案の定ジャンは呆れたような顔になり、そして自分を棚に上げてこう言った。
「すげえバランス悪いパーティだな……大丈夫かお前等」
ウォーリアだらけのバランス悪いパーティのリーダーにバランスで心配された。
何だろう、この何とも言えない屈辱感は。
ちゃうねん。本当はこの程度の低難度ダンジョン探索くらい俺一人で何とかなるねん。
女神の神域とかは流石にレベル1000の仲間が5人くらい必要だけど。
あ、でも5人のうち一人は門番に一撃で吹っ飛ばされたっけ。
「心配無用だ。これでも全員レベルは高い」
「レベルによるゴリ押しか……見た目は華やかなのに凄い脳筋パーティーだな」
何かウォーリアだらけの脳筋パーティーのリーダーに脳筋とか言われた。
どうしよう、今すぐこいつの頭に特大のブーメランを練成して突き刺したい。
何と言うお前が言うな。
こいつは俺の邪魔とストレス蓄積の為にここに来たのだろうか。
「そんなんじゃあ、戦力不足だろう。
よし、昨日の借りもある事だし、俺達がボディガードとして付いて行ってやるぜ!」
うわ、要らねえ……。
いやお前等、さっき足手まといになってたろ。
ゴーレムのHPを100も削れなかったろ。
何でそんなに自信満々に付いて来れるんだ?
「要ら――」
「いいんですか? それじゃあ、是非お願いします!」
要らん、と言いかけた俺の口を塞いでディーナが勝手に同行を許可してしまった。
俺はすぐにディーナの手をほどくと、視線で彼女を責める。
しかしディーナはまるで気にした様子も無く、笑顔で語った。
「いいじゃないですかルファス様。リーブラ様の所に行くまで少しでも楽しましょうよ。
せっかく来てくれるって言ってるんだから、使えるものは使わないと」
「……其方、時々凄い黒いな」
ディーナが笑顔でサラッと吐いた『あいつら盾にしよう』発言に俺は戦慄した。
どうもこの参謀、俺が思うよりもずっとお腹の中が真っ黒らしい。
今のところ、その黒さが俺相手では発揮されないのは幸いというべきだろうか。
あるいはもう発揮されているのに俺が気付いていないだけかもしれない。
「まあ、不自然でない程度にサポートしてやるしかあるまい」
彼等を放置していれば多分ゴーレムに殺される。
かといって俺があんまり無双しては彼等の自信をへし折るだろう。
となれば、何とか協力して倒したように演出しつつ俺とアリエスが全部倒すしかない。
要するに……結論だけを言うならばディーナの言う通り彼等を盾にし、目立たず進むという事になってしまうわけだ。
「やれやれ」
溜息を一つ。
俺はディーナの勝手な行動を咎めるように軽く睨み、それから前へと進む。
すると慌てたように冒険者4人が俺の後に続き、その後をアリエスとディーナが続いた。
さて、さっさとリーブラのいる最上階まで行くとしようか。
無駄に広い王墓を進む。
この墓の唯一有り難い点は上の階層に進むほど全体が狭くなる事だ。
ピラミッド状なだけあって登れば登るほど楽になるというのは有り難い。
問題は、上に行く程ゴーレムのレベルが上がると言う事か。
物音を響かせながらゴーレムが通路を塞ぐ。
確認したところ、そのレベルは300。大分高性能な奴が出始めたようだ。
というか、このレベルだと冒険者達が一撃死するので割とやばい。
ゴーレムが冒険者を狙う前にこちらで処理する必要がある。
「ジェア!」
ゴーレムが奇妙な雄叫びをあげ、冒険者へ突撃する。
だが俺がその間に割り込んだ瞬間、何故かゴーレムは動きを止めた。
そして別の冒険者に狙いを変えようとするが、今度はアリエスが割り込む事でまたも動きが止まる。
これはどうした事だろう?
まるで俺達に攻撃をする気がないとばかりに動きが止まり、それどころか俺達にまるで退いて欲しそうにしているではないか。
挙句、他に攻撃対象がいないからと、わざわざ後ろにいるディーナを狙いはじめるという謎行動すら見せ始めた。
これはもしかして……俺やアリエスを味方判別しているのか?
ありえない事ではない。
このレベルのゴーレムとなれば俺だって少しはAIレベルを高くしておく。
つまり下のゴーレムよりもずっと賢いのだ、こいつは。
ならば国がなくなった後といえど、俺やアリエスを判別していてもおかしくない。
というか、そうでもないとリーブラが攻撃されてしまう。
……。
……あれ? じゃあ何でディーナ攻撃されてんの?
「ちょっ、ちょちょちょ、ちょっと待って下さーい!
何で私だけー!? スファル様、助けて下さいー!」
ゴーレムに追い回されるディーナを見て、俺は何だか無性に悲しい気持ちになった。
アリエスを見れば彼もディーナに同情するように遠い目をしている。
ディーナ、お前……。
……ゴーレムにすら忘れられる程に存在感が薄かったんだな……。
ルファス「やはり背景ではないか」
※私の勘違いだったようなのでやっぱり日、月に更新します。




