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第21話 野生のゴーレムが現れた

【結構どうでもいい設定】


この物語のメインヒロインは多分ディーナのような気がする。

なろう広しといえど、これほど存在感の無いメインヒロインはこいつくらいのものだろう。

 二部屋分の鍵を受け取り、そのうちの一つの部屋へ入る。

 俺とアリエスの部屋は202号室。ディーナの部屋(予定)は204号室だ。

 間の203号室は先ほどの冒険者達であり、少しディーナと離れてしまった気がしないでもない。

 部屋の中は……ふむ、悪くないな。

 木造の素朴な部屋だがそれなりに広いし、固そうではあるがベッドもある。

 風呂も置いてあるらしく、俺としては特に文句なしの宿だ。

 いや実際ね、この世界だと風呂なしの宿なんか珍しくも何ともないんだ。

 むしろゲーム内だとそれが当たり前なくらいだったんだから、この200年で結構進歩したんだなと感心すらさせられる。

 宿代も大分安く、何とわずか30エル。3人でも90エルの良心価格だ。

 この宿を一目で選んだディーナの眼も侮れないな。


「さて、とりあえず後はここでディーナを待つとするか」

「はい、ルファス様」


 ディーナを待つとは言ったものの、恐らく今回彼女の出番はないだろう。

 というのも俺以外をリーブラの前に連れて行くと間違いなく死ぬからだ。

 アリエスとリーブラは同じ12星天同士だが、相性が最悪だ。

 アリエスは豊富なスキルで持久戦を挑むタイプなのに対し、リーブラは初手貫通最大ダメージをブチ込む殲滅特化型。

 そしてあいつの前ではHP10万を超えていない限り問答無用で消し炭にされてしまう。

 それさえ凌いでしまえば回復手段のないリーブラは一転して12星天で最も制しやすい相手になるんだが、とにかく初手の攻撃が凶悪過ぎる。

 せっかく仲間にしたアリエスだが、残念ながらリーブラと戦う事になった場合、後ろに避難させるしかないだろう。


「アリエス。一つ聞くが、其方は他の12星天の動向についてどこまで知っている?」

「ええっと、そうですね……といっても僕もスヴェルを落とす事に集中してたんで、そこまで詳しくは知らないんですよ。

ただ……『山羊』のアイゴケロスに一度『我と共に魔神族の所へ来い』と誘われた事がありますから、多分アイゴケロスは魔神族に味方しているはずです」


 アイゴケロス……種族はロード・デーモンで『これでもか』とばかりに悪魔悪魔した外見の奴だ。

 山羊と羊でアリエスと近いかと言えば全くそんな事はなく、言うならばあいつは胴体が人間で顔だけが山羊で、背中からは蝙蝠の翼を生やし、まさに伝承の中の悪魔そのものといった姿だったのを覚えている。

 まあ、ぶっちゃけて言うとそうだな……魔神族の中にいても全然違和感のない奴だ。

 むしろ魔神族よりも余程あいつの方が魔神って感じがする。


「ふむ。他には?」

「他は……ごめんなさい、分かりません」

「なるほど、12星天同士でも特に互いの動向を把握しているわけではないようだな」


 一人でも味方に戻せば後は横のネットワークで場所が判明するかと思っていたが、別にそんな事はないようだ。

 こりゃしばらくはディーナの情報を当てにして探すしかないな。

 とりあえず今はあいつが戻るまでのんびりする事にしよう。

 ――とか考えていると、丁度ドアがノックされる音が聞こえた。


「あ、僕開けてきますね」

「うむ」


 アリエスが率先して立ち、ドアを開ける。

 果たしてその先から現れたのはディーナではなく、先ほどカウンターで店主と言い争っていた4人の冒険者だった。

 彼等とは紛れもなく今日が初対面のはずだが、何の用だろう?

 見た感じ、こちらへの敵意などはないようだが。

 とりあえずアリエスだけだと何を言うか分からないので俺もドア付近まで歩いて行く。


「其方等は確か、入り口で店主と揉めていた4人だったな。

何か用でもあるのか?」

「いや、用っていうかお礼をまだしてないと思ってな。

あんたのおかげで野宿せずに済んだわけだし」


 俺の問いに多分リーダー格だろう茶髪の男が答える。

 短く切り揃えた髪が逆立った、一目で解る程鍛え抜かれた身体をした男だ。

 鋭い瞳は肉食獣を思わせ、自信に漲っているのが分かる。


「何だ、そんな事か。

別にこちらは気にしてないというのに、律儀な奴よな」

「そっちが気にしなくてもこっちが気にするのさ。

受けた恩は返す。それが俺等の流儀だ」


 見た目のチンピラっぽさとは似合わず、何とも律儀で誠実な男らしい。

 現代ではお礼もロクに言えない輩が増えている事を考えれば、彼のような若者は是非そのままでいて欲しいと思う。

 ついでに俺もああいうのは見習わないとな。


「俺達はしばらくこの村にいる。何かあったら頼ってくれ。

それじゃあな」


 それだけ言うと冒険者達は立ち去って行った。

 どうやら本当に礼をしに来ただけらしい。

 それと入れ替わるようにディーナが顔を見せ、部屋に入ってくる。


「ただいまー」

「戻ったか。どうだった?」

「ばっちしです。滞在と王墓調査の許可を頂きました。

ところで、そこで見知らぬ人とすれ違ったんですけど、あの方達は?」

「ただの律儀な冒険者だ」


 ディーナも戻り、これで堂々と王墓の調査という名目で入り込めるようになったわけだ。

 自分で自分の墓を調査するっていうのも中々貴重な体験だな。

 今日一日はのんびりして、明日にでも突入する事にしよう。



*



「――入れん」

「入れませんねえ」


 翌日、俺達は王墓の前で立ち往生を強いられていた。

 というのも、入り口に大勢の人々が集まって前に進めないからだ。

 彼等は口々にざわめき、入り口を塞いでしまっている。

 正直なところ結構邪魔だ。


「あのー、すみません。何かあったんですか?」


 ディーナが適当に近くにいた男に話しかける。

 茶髪を逆立てた筋骨隆々の……って、あいつ確か昨日の冒険者じゃないか。

 彼は俺達の姿を確認すると、「おお」と声を出す。


「あんた達も遺跡調査に来たのかい?

っと、そっちの青髪の姉ちゃんが昨日言ってた連れか」

「はい、自由商人のディーナと申します。

それで、一体何があったんですか?」


 ディーナの質問に冒険者は考えるように顔をしかめる。

 どうやらあまり明るい話題ではないらしい。


「ああ、2ヶ月くらい前からレーヴァティンより派遣されてきた特殊調査隊が入ってたんだが、今日はその定時連絡がまだ来てないんだ。

昨日の段階で最上階付近にいたはずで、攻略間近だと皆喜んでたはずなんだが……」

「何かあってまだ連絡を送れていないだけじゃないですか?」

「最初は皆もそう思ったが、もう5時間だぜ。こんなにも連絡魔法を寄越して来ないっていうのはおかしいだろ」


 冒険者の返答を聞き、ディーナは俺とアリエスの方を見る。

 俺達もそれに無言で頷き、一度集団から離れて近くの物影へと移動する。


「どう思います、ルファス様」

「恐らくリーブラにやられたな。最上階には間違いなく奴がいるはずだ」

「僕もそう思います。多分最上階に到達すると同時にブラキウムを発射されたんでしょうね」


 音信不通になった調査団というのはきっと、さぞ有能な者達の集まりだったんだろう。

 この墓がどれだけの難易度かは分からないが、今の時代基準で見れば生半可なものには見えない。

 だがなまじ最上階へ行く程の技量があったのが不幸だった。

 リーブラとのエンカウントはこの時代の人間にとって避けられない死を意味している。

 彼等の努力を無駄だなどというのは心苦しい。

 しかし、最上階にリーブラが陣取っている限り――はっきり言って、勝ち目など無いに等しい。


 弱点はある。

 ブラキウムは連射が利かないのだから、最初に誰か一人が犠牲になって無駄撃ちさせ、残りの全員で挑めば実質ブラキウムは封印可能だ。

 だがそれを知る術など彼等にはない。1発撃たれたら全滅してしまうのだから連射不可能なんて弱点を知る術がないのだ。

 まして最上階に行くだけでも命がけならば当然最後の番人であるリーブラには全戦力で挑んでしまうはずだ。

 死人に口なし――死んでしまうのだから情報すら持ち帰れない。


 この弱点を知るのは俺とミザールの二人。それ以外には誰にも話していない。

 しかし俺はつい先日この世界に来たばかりだし、ミザールは故人。

 12星天辺りは知ってそうな気もするが人類にその情報を渡すはずもない。

 だから誰もリーブラの弱点など気付けるはずもなく、今日まで犠牲の山が築かれてしまったわけだ。

 

 しかし、だからといって知っていれば勝ち目があるかといえば俺は『NO』と答える他ない。

 リーブラは確かに自力回復手段がなく、ドーピングによる底上げもない素のステータスだ。

 しかしそのレベルは910と12星天最大であり、ブラキウム抜きでも普通に強い。

 残念ながら12星天か7英雄、魔神王以外では太刀打ちも出来ないだろう。

 ……いや、12星天でもHP10万超えは半分くらいしかいないし、7英雄も弱体化してる事を考えると多分無理だ。となると本当に一部の限られた奴しかリーブラを突破出来ない事になる。


「これは早いところ回収しないと犠牲者が増える一方だな」


 アリエスみたいに積極的に国を攻めるわけではないので多少マシだが、命知らずの優秀な冒険者がどんどん減らされてしまうのは不味い。

 ただでさえやばい人類の戦力が更に減ってしまう。

 これ以上誰かが最上階へ行ってしまう前にリーブラを回収しなくては。


「よし、行くぞ二人共」

「はい!」

「リーブラは無理ですけど雑魚くらいなら僕にお任せ下さい!」


 ディーナとアリエスを連れ、俺は人々を搔き分けて王墓の入り口へ近付く。

 人々の止めようとする声が聞こえるがこれを華麗にスルー。

 しかしまさに入るというその寸前で肩を掴まれた。


「ま、待てよ姉ちゃん! あんたまさか入る気か!?

さっきの俺の話聞いてただろ! 無茶だ!

調査隊は国が認めた50人の凄腕で構成されていた。そいつ等ですら無理だったんだぞ!」


 彼はきっといい奴なのだろう。

 俺達はきっと、彼から見れば危険を理解せずに入ろうとしている頭の軽い女にしか見えないはずだ。

 しかしそれを放っておけばいいものをわざわざ呼び止めるのだから本当に人がいい。

 もっとも、俺は危険を充分承知の上で入ろうとしているわけだがな。

 というか俺以上にリーブラのやばさを知っている奴は多分この世界にいまい。


「気遣いには感謝しよう。

しかし心配は不要だ。さ、その手を離してくれ」


 肩に置かれた手をやんわりと退け、俺は王墓へ踏み込む。

 中は予想通り煉瓦のような石造りの通路だ。

 周囲は薄暗く、入り口から離れるほどに闇に包まれていく。

 とはいえ、灯りならば問題ない。アリエスが掌を翳すとその手の中に火炎が生み出され、道を明るく照らしてくれた。


 深く、深く、先へと進んで行く。

 流石に1階層だけあって、ここは既に罠なども作動し尽くしたのだろう。

 何一つとして俺達の行く手を阻む事はなく、容易く次の階層へ続く階段を見付けた。


 次の階層をしばらく進むと、俺達の前に一つの影が現れる。

 全身石造りの、適当な造りのゴーレムだ。

 しかし『観察眼』で確認するとこんな奴でもレベル150はある。

 俺にとっては雑魚だが、他の奴にとってはそうもいかないだろう。


「ほう、ゴーレムか」

「ええ。ちなみにこれ、ルファス様が7英雄との決戦時に大量に量産したやつですよ」

「ああ、なるほど。余のゴーレムだったか。道理でいい加減な造りの割にレベルだけは高いはずだ」


 俺は7英雄との決戦時、足りない戦力を埋めるべくゴーレムの量産を行っている。

 しかしゴーレムというのは同時に何体も出せるものではなく、あくまで一人1体しか連れ歩けない。

 仮に数体持っていてもアイテム欄の一番上のゴーレムが優先して出現し、それ以外のゴーレムは出てこないのだ。

 そして仮に破壊されても次のゴーレムが出るのは戦闘終了後であり、ゴーレムの大量使用を禁止されている。

 また、ゴーレムにはAIレベルというものがあり最大で5まで設定出来るが、このAIレベルが高い程次のゴーレムを作るまでの時間が長くなり、高性能なゴーレムの大量生産を封じているというわけだ。


 しかし抜け穴というものはゲームをプレイしていればいくらでも見付かる。

 高AIゴーレムは連続して作れないという事は逆に言えば頭の悪い粗悪品のゴーレムなら大量生産出来るというわけであり、それを俺自身は大量に出せないとしても勢力員一人一人に配布すればほぼ全て活用出来る。

 俺はこれを悪用してレベルの低い勢力員全員に粗悪AIゴーレムを持たせる事で強引に戦力を水増ししたわけだ。

 まあ、そこまでやっても高レベルプレイヤーの前では無双される為だけの雑魚でしかなかったけど。

 どうやらこの墓にはその時に作った粗悪ゴーレムが大量に残り、徘徊してしまっているらしい。


「さて、余が造った物のはずだが、こちらに攻撃する意志が感じられるな」

「だってこのゴーレムの思考ルーチンって、『探知範囲内にいる“ゾディアック”に所属しない生き物、及びゴーレム』に対する無差別攻撃じゃないですか。

そりゃルファス様の国はもう無いんですから攻撃されますよ」

「……ああ、そういえば一番近くの敵に攻撃を繰り返すだけのアホだったな、こやつら」


 AIの低いゴーレムはその思考ルーチンも猿以下になる。

 ぶっちゃけると一番近くにいる敵に何も考えず突撃して通常攻撃を繰り返すだけのお粗末ゴーレムになってしまうのだ。

 せっかくスキルを持たせてもAIが低ければ使用すらしないし、味方の状況も考えない。

 AIレベル2以上ならば使用するが、その場合は持っているスキルをランダムで適当に使うだけで状況をまるで考えない。

 この事から『実戦で使うなら最低限AIレベル3は必須』というのがアルケミストの常識であり、ある意味俺のこのゴーレム大量生産戦法は常識に真っ向から喧嘩を売った形となる。

 ……結果は散々だったけどな。

 常識、大事。

 あ、ちなみに『ゾディアック』ってのは俺が作った国の名前な。


「ま、それなら遠慮なく壊してしまうとしようか」


 ゴキリ、と指を鳴らしてゴーレムに狙いを定める。

 俺の造った粗悪品が200年後まで残って迷惑をかけているのなら、それを処分するのも俺の役目だ。

 しかし俺とゴーレムがまさに衝突する、その寸前。

 何者かが俺達の間に割り込み、無謀にもゴーレムの拳を剣で受け止めた。


「おっとお! そうはさせねえぜ!

恩義を忘れない男、冒険者ジャン! その他、冒険者PT『鷹の瞳』3名!

義によって助太刀させてもらうぜ、姉ちゃんよ!」



 突然割り込んで来たのは茶髪の冒険者と、残り3人の男達であり……。

 ――ぶっちゃけ、あまり有り難くない助太刀だった。


【どうでもよすぎる設定】

Q、何故メグレズはゴーレムを量産しなかったのか。

A、実はしてましたが、全部アリエスが踏み壊しました。


Q、王墓荒らしてる暇があるならメグレズが武器造ればええやん

A、実は作りましたが、国の外に輸出しようとすると必ずマルスに襲撃されて奪われてしまうので国内流通のみに留めていました。

一応正規兵は全員装備していたのですが……彼等が動いたかどうかは本編の通りです。

一応マルスの妨害はなくなったので、これからはちょくちょくメグレズ印の武器や防具が出回ると思われます。

ただまあ、多分ほとんど持っても意味のない裕福層が護身用とかで買い占めてしまうでしょうが。

結局世の中、金です。

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