後日談8 謎の装飾品
世界トップクラスの力を持つ怪物達の集団『皇道十三星天』。
一人一人が一国どころか惑星そのものを更地にしてしまえるような常識外れの強者達で構成されるそれは、疑いの余地もなく世界最強の戦闘集団である。
そして部下が怪物ならば主は更に怪物だ。
黒翼の覇王の名で知られる存在……ルファス・マファールはこの十三星を同時に相手取って勝てるほどに規格外を超えた規格外だ。
ルファスと十三星は固い主従の絆で結ばれているが、十三星といえどルファスの全てを知っているわけではない。
例えばルファスは己のスキルで黄金の林檎を創れるが、そのくせに実は林檎よりも梨の方が好きだというのはあまり知られていない。
玉葱は煮たり焼いたりすれば問題なく食べられるが、生のままだと独特の辛みが苦手なのであまり好きではない。
実はドリアンの匂いが苦手で、生まれてから一度も食べた事がないがアバターが食べたので味だけは知っている……など、本人しか知らないような情報は意外と多い。
そして最近、十三星の間で広まっている一つの疑問があった。
――ルファス様の頭のあの飾り、何?
ルファスは頭に、赤い菱形の宝石を三つ連ねたような飾りを付けている。
普通に考えれば装備品と思う所なのだが、しかしまずはルファスの装備欄を見て頂きたい。
【装備】
頭 ――
右腕 ――
左腕 ――
体 天后のドレス
・全状態異常無効化
・HP自動回復
足 俊足のブーツ
・フィールド移動速度上昇
その他 7曜の外套
・全属性ダメージ半減
お分かりだろうか?
ルファスは頭に何も装備していない事になっている。
腕に何も付けていないのは分かる事だ。彼女は基本的に素手で戦う。
たまに思い出したように武器も使うが、肝心な場面では結局殴る。
一応剣士としても世界最高峰ではあるのだが、武器でさえあれば剣士スキルは使えてしまうので極端な話、その辺の長ネギ一本握っただけでもルファスは強くなる。
達人は武器を選ばないとか、そういう次元ではない。
冗談とか抜きで、長ネギで伝説の武器を叩き割れるのがルファスだ。強度とかどうなってんのそれ?
武器屋からしてみれば、こんなつまらない客は他にいないだろう。
ミザール級の変態であれば逆に『ルファスでも満足に使える世界最強の剣を造ってやる』と燃えるかもしれないが、そうでない者は『もうお前素手でいいだろ』となるだろう。
そんなわけで彼女は普段は基本的に武器を携帯していない。
しかし頭はどうだ。
明らかに何か着けているではないか。
これでもかとばかりに目立つ飾りがあるではないか。
何か気のせいか、少しずつ大きくなっている疑惑が浮上しているあの飾りがあるではないか。
これで頭装備なしとはどういう事だ。
そんなわけで、十三星達の間で『あれ結局何なの?』という疑問が広がり始めたのだ。
【説1・やはり装備品説】
「私はアレは装備品であると考えます」
そう言い放ったのはリーブラだ。
十三星は現在、会議室のような場所で丸テーブルを囲んでおり、話し合っていた。
別にそんな重大な議論をするような事ではないのだが、まあ雰囲気重視だ。
ちなみにアロヴィナスはここにはいない。
アホは置いてきた。とてもこの考察にはついていけそうもない。
「ルファス様は基本的にクラスの選択や取得スキルも含め、一切遊びなしの戦闘ガチ勢です。
そして装備というのは強さを左右する重要な要素であり、頭装備をわざわざ外すメリットがありません。
ステータス的にはどんな装備を付けてもオマケ程度にしかならないほどにルファス様自身のステータスが高すぎますが、特殊効果を持つ装備ならばメリットは十分にあるでしょう。
故にあれは、『装備していない』という表示がされる隠蔽効果持ちの装備であると推測します」
リーブラの推察は意外と筋が通っている。
ルファスのステータスが高すぎて半端な装備はもはや意味がない。
ステータスが数万を超えているルファスが今更『防御+1000』とかの装備を付けた所でそんなのは誤差にしかならない。
実際現在のルファスの装備は全てステータス補正が一切ない、効果に特化したものばかりだ。
「待て」
しかしここにタウルスが異を唱えた。
彼の考えはリーブラと違うらしい。
【説2・ただの飾り説】
「ルファスが一切遊びなしだったのは未熟だった冒険者時代までの話だ。
レベル限界突破を果たしてからはむしろ、スキルが余り過ぎて遊びに走っている」
ルファスはレベル1000までは確かに本気でスキル構成などを考えていた。
例えばパッシブスキルに各種状態異常無効化のスキルが存在しているが、それを全て揃えるとスキル枠を多く使ってしまう。
ルファスはそれを嫌って状態異常遮断系スキルを取得せず、代わりに天后のドレスの装備効果で弱点を補っていた。
だがそれもレベル限界突破を果たす前の話。
レベルが4200すら通り越して5000となった今、スキルはむしろ余っているくらいであり、折角なのでとばかりに状態異常遮断系スキルを取得していた。
つまり天后のドレスはもう、HP自動回復くらいしか恩恵がない。
それでも着続けているのは単純にデザインが気に入っているからだろう。
「だから俺は、アレは何の意味もない飾りだと思っている」
ルファスとの付き合いがアリエスの次に長いタウルスの言葉は重みと説得力がある。
そこにポルクスが素朴な疑問をぶつけた。
「というか、付き合いの長い貴方でもアレが何か知らないの?」
「知らん。いつの間にか着けていた」
「ふーん」
ポルクスにとっても割とどうでもいい事なのだろう。
特に深く追求するわけでもなく、タウルスの返答にあっさり納得して引き下がった。
「タウルスの言う通り、ただの飾りではないか? ほれ、ルファス様は昔から光物を集める習性があったじゃろう」
「習性てアンタ……鳥じゃないんだから」
主の事を鳥扱いするかのような発言をしてポルクスに突っ込まれたのは先代乙女改め、二代目が引退してしまったので再び乙女の座に返り咲いた高性能怨霊のパルテノスだ。
彼女の意見はタウルスと同じで『ただの飾り』となるらしい。
ルファスは元々、何故か光る物を集める趣味があった。ならば頭のアレもただのお気に入りであって深い意味などないのではないか。
そう考えるのもおかしくはないだろう。
【説3・実は武器説】
「私は案外、アレ実は武器なんじゃないかなーと思ってるんですけどね」
ここで少し変わった意見を出したのは参謀のディーナだ。
顔はアロヴィナスと同じだが、彼女と違ってこちらは優秀である。
何だかんだで前の戦いでは全陣営を騙し抜き、見事ルファスを勝利まで導いた手腕は今では十三星の中でも高く評価されている。
能力の面で最強候補にはなれないが、最優候補にならばなれる。そんなディーナの声には皆を耳を傾けた。
「ルファス様って武器をいつもエクスゲートから出してますけど、それってロスが多いじゃないですか。
けど、いつでも取れる場所に武器が一つあれば違うと思うんです。
だから頭のアレ、実は手裏剣みたいに投げれるんじゃないかなーとかちょっと思うんですけど、どうでしょう?
あるいは投げると爆発するとか」
「いやいや、それはないだろう。確かに面白い意見だとは思うが」
ディーナの意見にカストールが苦笑しながら答える。
意見としては新鮮だが、流石にそれはお遊びアイテムすぎる。
しかしそう思う一方で義兄からの贈り物と称して宝石型の爆弾をオルムに送り付けて爆破出来ないだろうかと密に考えていた。
いい加減認めてやれよ。
【説4・ドレスの一部説】
「あれも含めて天后のドレスなのでは? とミーは思います。
天后のドレスにはダブルで効果がありますが、頭のアレがライフの回復を担当しているのではないでしょうか?」
意外とまともな意見をカルキノスが出し、全員が一理あると感心した。
確かに天后のドレスには効果が二つある。そしてあの頭の飾りもまたドレスの一部とするならば、何もおかしい事はない。
頭の宝石を含めて天后のドレス……この意見は今の所最有力かもしれない。
「アンタにしてはマトモな意見出すじゃなあい」
「うむ。確かにあの頭の宝石抜きだと違和感があるのも事実……セットと考えればしっくり来る」
服は単品で成立するものばかりではない。セットにする事で初めて成立する組み合わせというものがある。
スーツにネクタイが付いて来るのは珍しくないし、野球のユニフォームは帽子を含めて一つのユニフォームだ。
ボクサーもグローブ、トランクス、シューズが揃って一つの衣装と言える。まさかトランクスを履かずにリングに上がる選手はいまい。
それはさながら、ハンバーガーのセットに付いて来るオマケの玩具の如く、無くてはならないものなのだ。
「ふむ……それだと『何故頭の装備を着けない』という疑問が残るが」
「それはデザインの問題でしょう。既に頭に宝石がついているのに、余計な装飾を加える意味はありません」
アイゴケロスの問いにカルキノスが自信満々に答え、これが答えだとばかりに胸を張った。
これで意見はあらかた出た。
ならば後は答え合わせあるのみだ。
全員の視線がアリエスに向き、彼は頷いてトコトコと会議室から出て行く。
こういうのを直接聞くならば、一番付き合いが長いアリエスが適任だ。
彼はルファスを見付けると、そちらへ駆け寄って疑問を口にする。
というか最初からそれやればよかったんじゃ……。
「ねえルファス様。ルファス様の頭の宝石って何なの?」
「ん? これか……これはな」
いよいよルファスの口から答えが出る。
それに十三星は期待してドアの周囲に集まり、次の言葉を待っている。
一部、オルムやレオン、タウルスといった者達は流石にそういう真似をしていないがそれでも気になるようで耳を澄ませていた。
そして全員の期待が集まる中、ルファスはおもむろに外を見てから両手の人差し指と中指を立ててから額へ向けた。
すると次の瞬間、額の宝石から三条の光線のような何かが迸り、遠くで爆発を引き起こした。
「ビームが出る。凄いだろう?」
「はい、凄いです!」
――アリエス以外の全員がずっこけた。
え? そんなオチ?
それビーム撃てたの?
というかそれなら、何で前の戦いで一度も使わなかったの?
そんな気持ちで胸が一杯であった。
【答え・ビームが撃てる】
「まあ、使う事で効果を発揮するアイテムだな。使用回数制限がないから弱い冒険者などは重宝するが、私の場合は普通に自分で殴った方が強いからほとんど出番がない。
ビームの速度も精々マッハ4か5くらいしかないから私自身が普通に敵に近付く方が全然速いしな……。
しかも私自身、つい最近までこれの使い方を忘れていてドレスの一部と思っていた。
まあ、結局はデザインが気に入っているから着けているわけで、アイテムとしての効果はオマケみたいなものだ。
そういう意味ではただの飾りのようなものだ」
実の所、全員の意見は全て間違えていたわけではなく、全て合っていたのだ。
ある意味では装備品のようなものであり、攻撃用の武器でもある。
ルファス自身が最近までドレスの一部と思っていたのだからカルキノスの説も間違えていたわけではない。
そして最終的には結局、ただの飾りという方向に落ち着いてしまったのでタウルスとパルテノスの説も正解だ。
思わぬ答えで床に倒れている十三星を放置してルファスとアリエスが歩き去る。
今日もミズガルズは平和であった。