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野生のラスボスが現れた!  作者: 炎頭
後日談 平和になった後の世界で
200/201

後日談7 今更過ぎる固有スキル

書籍8巻発売に伴い、宣伝ついでに久しぶりの後日談投稿します。

「よく考えてみたら、私に固有スキルってないな」


 それはある日、ルファスが唐突に口にした今更すぎる言葉であった。

 彼女の配下である皇道十三星は、『獅子』を唯一の例外として全員が固有スキルを保有している。

 『牡羊』のアリエスは接触割合ダメージの『メサルティム』。

 接触ダメージといいつつ、火球にしたり火炎放射にしたりと応用が効く優秀な技だ。

 レベル1000解禁スキルとして相手の最大HPの半分のダメージを与える『ハマル』という切り札も持っている。

 『天秤』のリーブラは防御無視絶対命中固定ダメージの『ブラキウム』。

 更にリーブラGAになる事でダメージの桁を増やした『ブラキウム・オーバーフロー』も可能となる。

 『山羊』のアイゴケロスは治療不可能のダメージを与える『デネブ・アルゲディ』とレベル1000で解禁される切り札としてマナを吸収しての巨大化がある。

 この巨大化は名を『屠殺者(アルシャト)』というが、過去の戦いでは名前を明かされていないので影が薄い。

 スコルピウスは永続毒の『シャウラ』。ウィルゴはマナ消去の『ヴィンデミ・アトリックス』。

 タウルスはスキル破壊の一撃『アルデバラン』。カルキノスは倍返しのカウンター『アクベンス』。

 ポルクスはいわずと知れた超ド級チート能力の『アルゴナウタイ』。

 死者を生前の能力そのままで召喚するぶっ壊れスキルだ。

 オルムは時間逆行の『ウロボロス』を切り札に持ち、ディーナに至っては固有スキルが多すぎて列挙し切れない。

 他にもサジタリウスの絶対命中やアクアリウスの絶対回避、ピスケスの憑依など全員がそれぞれ反則級のスキルを有している。

 しかしそれらの頂点に立つルファスには実の所、ルファスだけの技というものがなかった。

 それに近いものがないわけではない。

 例えば錬金術スキルの『地を揺らす者』や『片眼の英雄』などはマナと組み合わせたオリジナル技であり、実質的にルファス専用の技と言っていい。

 しかしあれは錬金術にマナを材料としているだけで、基盤となるスキルそのものは高レベルのアルケミストならば誰でも出来るものだ。

 例えるならば『料理』というスキルがあって、そのスキルでカレーにトゥールーの肉片をぶち込んだSAN値カレーを作ったとしよう。

 SAN値カレーは確かにルファスのオリジナルレシピだろうが、基盤にある『料理』は誰でも使える。言うならばそんな感じだ。

 限界突破の『アルカイド』はベネトナシュも使えるので固有とは言えない。

 そもそもあれは限界の壁を壊しているだけだ。スキルでも何でもない。

 『ソーラーフレア』はただの魔法。よく使う『剣の冬』や『流星脚』はただの高位スキル。

 こうしてよくよく考えると、部下が皆凄いスキルを持っているのに、その上司である自分が持っていないのはどうなのだろう。そうルファスは考えた。

 実に今更すぎる悩みである。

 そんなわけでルファスは頼れる参謀であるディーナに相談を持ち掛ける事にした。


「要らないんじゃないですか?」


 その結果がこの塩対応である。

 ディーナは『何言ってるのこの人』という顔で呆れたようにルファスを見ている。

 固有スキルも何も、そんなもの使う必要がないだろう、と彼女の表情が語っていた。


「ルファス様はそんなの使うより、通常攻撃してる方が速いし強いじゃないですか」

「いや、それはそうなのだがな」


 圧倒的な力さえあればスキルなど要らない。

 それはレオンが常々言っている事だが、その脳筋理論を最も実践しているのが他ならぬルファスだ。

 ルファスの通常攻撃は速すぎて絶対命中と大差ないし、それでいて相手の絶対回避や絶対防御は適当に無効化スキルの一つも乗せておけば平然と貫通する。

 一撃でブラキウム・オーバーフロー以上のダメージを出す上にそれをとんでもない速度で乱発するのだから手の打ちようがない。

 ハッキリ言ってしまえば、十三星全員の固有スキルを合わせたよりも、ルファスがただ殴る方が強いのだ。


「それに強力すぎるスキルを持つより、単純な方がいいって私に言ったのはルファス様自身ですよ?」

「うむ……確かに言ったな。実際小細工を弄するより真っすぐ行ってぶっ飛ばす方が強いし確実なのだが……それはそれとして、やはり固有の超必殺技みたいなのがあると格好いいだろう。

言ってしまえば浪漫砲だな。そういうのがあると何かこう、盛り上がると思わんか?

ここぞという場面で出す攻撃がただのパンチでは盛り上がらんだろう」

「本編190話ずっとそれで通しておいて今更何言ってるんですか貴方は」


 ディーナの言葉は辛辣だが、的を射たものだ。

 ルファスはアリエスを止める時、特にこれといった技を出さずに殴って止めた。

 ディーナの発射した明けの明星も殴って吹き飛ばし、スコルピウスの暴走も普通に蹴って止めた。

 魔神王との最終決戦ですら殴って終わらせた。

 そんな彼女が今さら魅せ技が欲しいと言い出しても正直対処に困る。

 余談だがルファスが最も多く使用したスキルは『峰打ち』である。


「いえいえ、分かりますよ。私には分かります。

実用性云々の問題ではなく、浪漫砲はあるから浪漫なのです。

それが分からないとは、まだまだ私のアバターとして未熟ですね」

「話がややこしくなるので帰ってください、アロヴィナス様」


 噂をすれば影である。

 むしろ噂もしてないのに影である。

 内心で少し思い浮かべただけなのに、今一番来てはいけない女が来てしまった。

 ご存知、宇宙一の迷惑神にして諸悪の根源アロヴィナスの登場だ。

 こっちくんな。今すぐ帰れ。


「ほう、分かるかアロヴィナス」

「それは勿論。ここぞという場面での必殺技はやはり浪漫ですよね。

少しくらいデメリットがあって万能じゃない感じだと尚良しです。

問題は……パッと思い付くような効果って大体普通のスキルにあるか、あるいは貴方の部下の誰かしらが持ってるって事なんですよね」


 二人は腕を組み、ううむと唸る。

 浪漫砲と呼ぶからにはデメリットは必須だ。絶対無敵で一切のリスクがない技など浪漫砲ではないし、そんなのがあるならば『それだけやってろ』になってしまう。

 いつの間にか話題が固有スキルから浪漫砲に移行している気がしないでもないが、ディーナはあえて何も言わなかった。

 脳筋とアホが揃ってしまった時点で何を言っても無意味だと悟ったからだ。

 しかし二人共無駄に美人なので、こんなのでも絵になってしまうから酷い。

 具体的には腕を組む事で強調される特定部位によって魅力が増している。

 偶然通りがかったベネトナシュは「イヤミか貴様ッッ!」と叫んだ。


「それじゃ、ちょっと参考になりそうなものでも探してみましょうか?」

「例えば?」

「私は手違……いえ、悲しい事故によって殺……死んでしまった方々を異世界に転生させているのですが、その際に少しだけ希望を叶えてあげています。

最近は流行りもあって、その時に色々なチート特典を望む魂もいまして、何か参考になるかなと」

「なるほど、いいな。テンプレは嫌いではないぞ」


 テンプレとは即ち時流の正道だ。

 大勢に需要があるからこそテンプレは成立する。

 邪道とされるものであっても、世にそればかりが蔓延ればそれは反転して正道となる。

 ルファスは割とそういうものが嫌いではなく、アロヴィナスに至ってはこう見えても王道大好き女だ。

 困難を乗り越えて成長し、仲間と共に巨悪を倒す主人公が好きで好きでたまらない。

 だからといって自分で巨悪を用意して世界を滅茶苦茶にするのはギルティである。


「では行ってみましょう。いざ異世界!」

「うむ、心が躍るな」


 かくしてかつて敵対していた二人は意外なほどの仲の良さでどこかへ消えてしまった。

 自分達がつい最近まで本気の殺し合いをしていた事をもう忘れてしまったのだろうか。

 ……忘れたのかもしれない。ルファスは禍根を引きずらないわけではなく、むしろ覇王時代は憎悪全開で魔神族を恐れさせていたが、反面身内には激甘だ。

 元敵だろうが、裏切られようが、後ろから撃たれようが、それが身内ならば大体笑って許してしまう。

 裏切られて二百年間封印されても怒らない。

 そしてアロヴィナスは今やルファスにとって身内側なので、過去の事をあまり気にしなくなってしまったのだろう。

 ただし身内に手を出された場合、それが服を破いて下着姿にしたというだけの被害でも怒りメーターがMAXを振り切るので油断してはいけない。

 そしてアロヴィナスに至っては説明不要のアホである。過去のあれこれなど一々気にしていないのだろう。


 「……変な事にならなきゃいいんですけど」


 きっと変な事になるだろうなあ。

 そう思いながらディーナは、疲れたように天を仰いだ。


*


 ルファスが連れてこられたのは、何もない空間であった。

 そこはかつてルファスが封印されていた世界の狭間と少し似ている。


「終極点ではないのだな」

「ここにいる私はアバターですからね。世界管理用の空間を新しく創ったんですよ。

おかげで以前よりも細かい所にまで目が届きます」

 

 アロヴィナスにとって世界は小さすぎた。

 だからかつては細かい箇所にまで意識が届かなかったが、自由に動かせる人間大のアバターを新たに得た事で前よりは改善したのだろう。

 それに伴い、新しく色々な世界を見れる空間を必要とし、創り出したのがこの場所だという。


「おや、早速新しい魂の到着ですよ」


 アロヴィナスがそう言うと、ルファス達の前に30代半ばくらいの男が現れた。

 アロヴィナスは彼に死因などを説明し、異世界に転生させると説明している。

 ちなみに彼の死因は、転売の為に山ほどのぬいぐるみを買い占めた帰り道で階段を登る最中に前が見えず、落下して死亡らしい。


「さあ、望みのチート能力を一つどうぞ!」

「そ、それじゃあ魔力をSSSランクにして下さい!」

「いいでしょう。それでは異世界ライフを頑張って下さいね」


 異世界へ出発する青年を見ながらルファスは、参考にならないなと思っていた。

 自分が欲しいのは能力のヒントになるものである。

 魔力SSSランクなんてふわっとしたものを言われても何の参考にもならない。


「まあ、彼が転生した世界の魔力ランクはアルファベット順でAが最高なのでSSSとかランク外のクソ雑魚ナメクジなんですけどね」

「そういうのは先に言ってやれ」


 願いは確かに叶えた。

 だがSSSランクが最高だとは一言も言っていない。

 これは確認を怠ったあの魂が悪いのか、それとも説明を怠ったアロヴィナスが悪いのか判断に困る所だ。

 そうこうしていると、またすぐに次の魂がやって来た。

 今度は無精髭が汚い、あまり外出してなさそうな男だ。

 再び説明から始まり、そして男は願いを口にする。


「そ、その世界の全ての魔法を使えるようにして下さい」

「その願い、叶えましょう」


 アロヴィナスは微笑み、男を異世界へと送り出した。

 きっと彼はこれから始まるチートな第二の人生への期待で一杯だろう。

 だがそれを台無しにする一言を、彼がいなくなった後にアロヴィナスが呟いた。


「まあ、彼は魔力が低すぎてどれも1割以下の威力しか出せないんですけどね」

「だからそういうのは先に言ってやれ」


 その後もアロヴィナスの説明不足は続いた。

 アニメのロボットを特典に望んだ転生者がいた。そのロボットは勇気ある者しか使いこなせない設定だったので、ただの置物と化した。

 ゲームに出て来る主人公の恰好いい技を求めた転生者がいた。その技は主人公の心の在り方と直結する技だったので使いこなせなかった。

 ゲームに登場するラスボスの技を欲した転生者がいた。その技はそのラスボスの持つ数多の財宝があって初めて意味を成すものだったため、何の役にも立たなかった。

 特撮に出る巨大なヒーローに変身するアイテムを熱望した転生者がいた。しかしそのヒーローは主人公と融合しているから変身出来るだけで、アイテムはただのスイッチのようなものだったので変身出来なかった。

 どこかのライトノベルの主人公の技を全て使いたい転生者は、身体能力がついてこなかった。


「どうです? どれか参考になりましたか?」

「いや、全然。もっとこう、他にないのか?」


 今の所、どれも新技の参考にはならない。

 何せまだ失敗例しか見ていないのだ。参考以前の問題である。

 他にもう少し面白い奴はいないものか……そう思っていると、どこからかモテなさそうな男が走ってきた。


「くおらアホ女神! 嬢ちゃんが坊主に惚れた途端猿になったぞ! どういう事だ!」

「え? ああ、言ったじゃないですか。主人公君に惚れたら女の子は猿並の知能になるって」

「猿並の知能通り越して猿そのものじゃねーかぁ!? どうするんだよアレ!」

「がんばっ!」

「チクショォォォォ!」


 モテなさそうな男はアロヴィナスに見送られ、再びどこかへと走って行った。

 ルファスは茫然とそれを見送ったが、やがてハッとしてアロヴィナスへ向き直る。


「今のは?」

「新しく創った世界のバランスを調整する為に送り込んだ転生者で、まあテストプレイヤーみたいなものですね。敵の攻撃を一身に引き受ける『ヘイト・ギャザー』というスキルと、無限の残機を与えています。何度死んでも復活出来ます」

「ある意味カルキノスを超える壁だな」

「ただしあらゆる耐性が0なのですぐに死にます」

「ほとんど嫌がらせではないか」


 とりあえずアロヴィナスは相変わらず、世界の管理がガバガバなようだ。

 むしろこれを見ると、まだミズガルズはまともだったのだとすら思えてしまう。

 しかし今のでヒントを得る事が出来た。

 アロヴィナスが現在進行形でやっている事……『世界を創る』。

 これこそ、求めていた浪漫技そのものではないだろうか。

 自分だけの小さな世界を展開し、その中で法則も何もかもを捻じ曲げて思うが儘にする。

 この手のスキルはまだ、誰も使っていなかったはずだ。

 ルファスはこれだ、と強く思った。

 これこそまさに、浪漫技と呼ぶに相応しい。

 遂に探していたものを見付けたルファスは上機嫌で元の世界へ帰り、早速ディーナに話してみた。

 結果……。



「で、その新スキルとやらを誰に使うんです?」



 ルファスは沈黙した。

 アロヴィナスも沈黙した。

 そうである。いくら技を思い付いても、もう敵がいないのだ。

 本編は既に終わって、今は本編後の蛇足なのだ。

 これから先、そんなスキルを使う敵が現れるはずもなく、結局の所今更新技など得ても何の役にも立たない。


 その日一日、ルファスは不貞寝した。

ルファス「私って固有スキルないな」

黄金の林檎「……俺はこの怒りをどこにぶつけたらいい?

術者どころか作者にすら忘れられていた(ガチ)この怒り……俺はどこにぶつけたらいい……?(ビキビキビキ)」


本日10月16日、『野生のラスボスが現れた!』8巻発売です。

活動報告の方に表紙も載せていますので、是非ご覧ください。

今回はVS龍になります。


新作『欠けた月のメルセデス~吸血鬼の貴族に転生したけど捨てられそうなのでダンジョンを制覇する~』の方もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黄金の林檎は厳密にはスキルでは無いのでは?
[一言] ルファスかわいい
[一言] 実はトゥールーが世界を夢で侵食して自己領域を創り出す奴がいてぇ
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