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野生のラスボスが現れた!  作者: 炎頭
後日談 平和になった後の世界で
197/201

後日談4 季節外れの水着イベント

本当は夏に投稿するつもりが、ダラダラしているうちに気付けばすっかり夏が終わっていました。

なので今回はちょっと時期外れの海回となります。

 その日、『魚』のピスケスは最高にウキウキしていた。

 別にウキウキと猿のように鳴いているわけではない。要はとても気分が昂っているという事だ。

 季節は夏真っ盛り。暑い日々が続くこの時期を活かし、ルファス達に海水浴の誘いを出したのだ。

 月に四季などはないが、それでも快く返事が返って来たのできっと皆で来てくれる事だろう。

 ルファスや皇道十三星は性格はともかくとして見た目で言えば美女、美少女が揃っている。

 それらが肌を多く晒す水着という姿で戯れるのは、想像するだけで垂涎ものだ。

 勿論出迎える準備は万全だ。

 一つの浜辺を完全に貸し切り、更に水分補給する為の屋台なども並んでいる。

 削った氷にシロップをかけた物――別の世界ではかき氷と呼ばれる物も用意してある。

 さあ出迎えは完璧。いつでも来い。

 そんなピスケスの前に、エクスゲートの術で月から仲間達がやって来た。


「来たぞ、ピスケス!」

「待たせたな」


 まず声を出したのは早くも海パン姿になっているカストールであった。

 その隣にいるのは相変わらず下半身裸のサジタリウスだ。

 更に横を見るとそこにいる面子は……レオン、タウルス、アイゴケロス、カルキノス、オルム、メルクリウス、テラ。

 更にフェニックスやハイドラス、三翼騎士もいる。


「よお、場所はここで合ってるか?」

「ガルル……」


 続けてやって来たのは誘うつもりのなかった、元勇者一行であった。

 ピスケスの誘いを受けたルファスがついでだからと彼等にも声をかけてしまったらしい。

 やって来たのはジャン、リヒャルト、ニック、シュウ。それからガンツとフリードリヒ、カイネコ、サージェス、魚人だ。

 その後ろにはかつて影ながら勇者一行を支援していたレンジャー部隊がポージングを決めている。


「お、ここか。たまには職務を忘れて泳ぐのもいいな」

「うむ」


 更に別方向からやって来たのはメグレズとメラクだ。

 嫌がらせのようにベネトナシュは来ていない。

 そればかりか、アクアリウスがいないのにガニュメーデスが単品で来ている。


「――」


 ピシリ、と音を立ててピスケスの中の何かに亀裂が走った。

 それは期待感だったのかもしれないし、欲望だったのかもしれない。

 どちらにせよ、そうした何かが砕け散ろうとしているのをピスケスは強く感じ取っていた。


「……おい……ルファス様はどうした? ほ、他の女性陣は……?」

「ルファス様は海水はベタベタして翼を後で洗うのが面倒だと言って来なかった。

ディーナは仕事が忙しい、アロヴィナス様はガチャに100万円継ぎ込んだのでディーナにスマホを取り上げられてへこんでいる。

スコルピウスは言うまでもなくルファス様が来ないならとパス。リーブラはそもそも遊ぶという行為そのものに興味を示していない。

ポルクスとパルテノスも面倒だからと言って来なかった。

ウィルゴは『向こう』に出掛けている最中で、アリエスは寝てた」


 カストールの口から放たれる絶望的な説明にピスケスはこの世の終わりのような顔をした。

 どうやら月勢は様々な理由で全滅のようだ。

 いや、月勢だけではない。他の面子を見ても分かるが女性陣そのものが全滅だ。

 ゴリラすら来ていない。いや別にアレは来なくてもいいが。

 そしてカストールはさらっとアリエスの名を挙げているが、あれは男である。


「が……が……っ! ありえない……こんなこと……っ!

バカナ……バカナ……っ!

男だけ……よりにもよって……男しかいない……っ!

あっていいのか……こんな……理不尽……っ!」


 まさかの野郎総出演(アリエス除く)にピスケスの顔がぐにゃ~と歪み、絶望に膝をついた。

 これはいくら何でもあんまりだ。

 せっかくの海だというのに、参加するのが男だけなど、そんな地獄がこの世にあっていいのか。

 こんなのは誰も得をしない。お約束をまるで理解せぬ天に唾吐く愚行だ。

 絵面が酷いなんてものじゃない。むさ苦しいというにも限度がある。

 レオン、タウルス、ガンツ、サジタリウス、オルムなどが揃うとより酷い。

 というか全員基本的に筋肉質なのでどのみち暑苦しい。

 集まった全員も、ここに揃ったメンバーを見て等しく『これどうするんだよ……』みたいな顔になっていた。


「と、とりあえず泳ぐとしようか」


 このままでは埒が明かないのでオルムがとりあえず提案し、全員が渋々と頷いた。

 野郎しかいない貸し切りの浜辺……こんな悪夢は他にない。

 しかし態々来ておいて何もせずに帰るのも癪だ。

 なので全員、暗い顔をしながらもとりあえず海に入る事にした。




 華はないが、それはそれとして海で泳ぐ事そのものは楽しいものだ。

 最初こそ渋々遊んでいた面子も、しばらくすれば開き直って楽しむ事に徹していた。

 どこかの十戒のように海を割ってみたり、海の上を走ってみたり、深海の底に潜ってみたりと、遊び方がややおかしいが、とにかくそれなりに野郎共は楽しんでいた。

 そんな時だ。海の中から巨大な何かが出現したのは。


「ヒャッハー! 海に付きもの、触手タコで御座います!

さあ、俺に水着を奪われる子猫ちゃんは何処かな!?」


 現れたのはいかにもエロモンスターといった感じの巨大タコであった。

 いやらしく触手を蠢かせ、気分はテンションMAX。

 海と言えば美少女。美少女といえばえっちいトラブル。こいつは実にお約束を分かっている奴だ。

 きっとこれがノクターンノベルであれば大活躍間違いなしだろう。

 しかし、ああ、何たる無情。こんな事があっていいのか。

 せっかく海の底からやって来てくれた彼の前に広がるのは、地獄であった。


 ――野郎しかいねえ。


「…………」


 エロタコは硬直し、改めて周囲を見回す。

 どこを見ても男、男、男の地獄絵図。

 どいつもこいつも揃って筋肉質でとても暑苦しい。

 サジタリウスに至っては脱がされる前から既に脱いでいる。とても見苦しい。

 エロタコはそれを見て、萎えた。文字通りに萎えて縮んだ。


「…………あのさあ、おたく等アホなの? 何で海なのに野郎だけで来てるの?

普通海といえばあれよ? 可愛い女の子達のちょっとアレでギリギリ一線は決して越えない程度のトラブルが望まれてるってちょっと考えりゃわかんじゃね?

俺さあ、女の子の水着剥ぐだけ剥いだ後は主役ポジの野郎にボコられる所まで織り込み済みで出て来たのに、何でお前等男だけなの?」

「……その、何というかすまんな」

「……そうか……お前もまた哀しみを背負っている男か」


 エロタコの魂の嘆きを最も理解したのはエロスだ。

 彼もまた、エロタコと同じ哀しみを背負っている。

 せっかくの海なのに、何故余はこんなむさくるしい野郎オールスターと泳いでいるのだろう。そう思うと天に還りたくなる。

 エロスとエロタコは固く腕と触手を交わし合い、無言で抱擁を交わした。

 同じ哀しみを共有する男同士だけが分かる、友情がそこにあった。


*


 同時刻、地球。

 その日、南十字瀬衣はウィルゴと共に浜辺を歩いていた。

 一緒に海で泳ぐ……というのは残念ながら難しい。

 ウィルゴは、かつてルファスも使っていたステルス包帯で翼を隠しているが、それも海に入れば流石に取れてしまう。

 そしてファンタジーではなく科学が支配するこの地球でウィルゴの翼は酷く目立つだろう。

 それでもせめて雰囲気くらいは、と思い、こうして二人で浜辺を歩いているのだ。

 瀬衣は隣を歩くウィルゴを見ながら、決意を固める。


(……もう、そろそろいいよな? もう一歩踏み込んでも、いい頃だよな?

これで実は興味ありませんとか、お友達からやり直しましょうとか言われたら立ち直れないぞ。

多分脈はある……あるはずだ……あってくれ……。

言うんだ、今日こそ……)


 瀬衣とウィルゴは恋人同士、と言っていい関係にあると瀬衣は思っている。

 少なくとも友達の領域はとうに超えている。

 しかしそんな淡い関係をいつまでも続けられるほど、人間には時間がない。

 あれから五年が過ぎた今もウィルゴの姿は変わらない。そしてきっと、これからも変わらないのだろう。

 だが瀬衣はそうではない。かつては少年の面影を残していた彼は、たったの五年で大人の男へと変わってしまった。

 身長は伸び、身体付きは以前よりも逞しさを増している。

 そして成長は終わり、これからは老いていく。

 だからこそ……まだ若い今だからこそ、もう一歩詰めなければならないのだ。


「その……ウィルゴ、大事な話があるんだ。聞いてくれるか?」


 瀬衣の言葉にウィルゴは無言で微笑んだ。

 彼女も待っているのだ。瀬衣のその一言を。

 それを理解し、瀬衣はウィルゴの華奢な肩に手を乗せる。


「俺は……君とは生きる時間が違う。きっといつか君を遺して先に逝ってしまうと思う。

けど、そんな俺でよければ……俺と……」


 瀬衣は一世一代の告白をしようとしたその時、突然海が盛り上がった。

 何事かと振り返った二人が見たのは、海から上半身を出したグロテスクにして巨大な怪物であった。

 それは狂気の運び手であり、異界より飛来した神。

 異形の邪神――トゥールー。

 それが最低のタイミングで姿を現し……瀬衣達を見て、邪神は自分がタイミングを間違えた事を悟った。


「■■■■■■■……」


 あ、気にしないで続きどうぞ。

 まるでそんな事を言っているかのようにトゥールーは手を振り、そして海へと潜って行った。

 こいつ何しに来たんだ。


「…………」

「…………」


 折角のムードが台無しであった。気のせいか、先程まで夕日に照らされて輝いていた海が黒ずんで見える。

 瀬衣とウィルゴは怒り半分、呆れ半分という表情で海を睨んでいるが、残念ながらトゥールーが戻って来る気配はない。


「……瀬衣君、帰ろっか」

「……うん」


 こんなぶち壊しムードで告白をしても何だか締まらない。

 残念ながら、瀬衣の一世一代の告白は明日に持ち越しとなりそうだ。

Q、何しに来たんだよ……

A、トゥール―「■■……」

訳:散歩

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― 新着の感想 ―
[一言] いあ!いあ!さすが大いなるタコさん!!空気が読める!!タコさん万歳!!
[一言] 水着回=女性陣だよね 
[一言] なんだよこの海
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