後日談2 おめでとう、生ハムメロンは進化した
今回は少し短めです。
まあこの後日談は巻末の4コマ漫画みたいなものだし、たまにはこういうのも。
それはある日の事。
カルキノスが経営するキングクラブ……そのレーヴァティン支店に一人の男がやって来た。
それはミズガルズでは珍しいスーツ姿をしており、あの勇者瀬衣と同じような黄色がかった肌の色と黒髪黒目が特徴的な男であった。
後になって分かった事だが、どうやらアロヴィナスとルファスの戦いの影響がまだ残っていたらしく、次元の歪が生じていたらしい。
男は不幸にもそれに巻き込まれ、地球からミズガルズに迷い込んでしまったようだ。
そんな男はまず、こんなファンタジーな世界にも地球と同じような食べ物がある事に感動し、生ハムメロンを注文した。
しかし口にしてすぐに硬直し、そして偶々店に視察に来ていたカルキノスに向けて言い放った。
「この生ハムメロンは偽物だ。食べられないよ」
男曰く、生ハムメロンとはイギリスのメロンが青臭かった事から、その青臭さを消す為に生ハムと一緒に食べ始めたのが始まりだという。
なので生ハムと合わせるならば本家に近く、甘みを抑えた青臭いメロンでなければならない。それが男の弁であった。
結局この男は金を持っていなかったのでその後食い逃げとして騎士団に逮捕され、紆余曲折あってルファスが地球に送り返したのだが、しかし男の発言はカルキノスに衝撃を与えていた。
「ミーの出していた生ハムメロンは……偽物だった……!?」
偽物を客に出す……あってはならない事だ。
実際の所、客はそんな事を気にせずに専らメロン目当てで生ハムメロンを注文していたし、客の七割はまず最初にハムを取り除いて食べていたのだが、しかしカルキノスはそんな事に気付かない程ショックを受けていた。
故にカルキノスは決断した。そうだ、品種改良をしよう、と。
ミズガルズのメロンは甘すぎる。これではハムと合わない。
しかし品種改良は一朝一夕で出来るものではない。長い時間が必要だ。それこそ何年もかける必要がある。
しかしここはミズガルズ。あっという間に変えてしまう方法はいくつもある。
なのでカルキノスは手っ取り早く、それらの手段を行使する事にした。
*
「我が悪魔の力にて変異するがいい……メロンの元へ集え、暗黒の力よ!」
まず最初にアイゴケロスを頼ってみた。
いきなり誰がどう見ても分かる人選ミスだ。
勿論、奇跡など起こるはずもなく暗黒パワーを注入されたメロンはおかしな変異をしてしまった。
「ビッグメロンワープ変異! デビルメロン!」
結果は御覧の有様である。
ビッグメロンはデビルメロンへと変異してしまい、禍々しい紫色の謎物体と化してしまった。
レベルも150まで上昇し、戦力として見るならこの変異は大成功だが、しかし残念ながら食用目的である。食べ物を強くしてどうするのか。
しかしカルキノスは諦めない。マナでの変異はやはり無茶だったと分かったので次に彼は錬金術を頼り、ルファスの所へと行った。
「私に任せろ。行くぞ……錬金!」
ルファスがスキルを発動し、メロンを相手に錬金術を使う、
錬金術と料理はとても似ている。どちらも等しく、材料を別の物に変えて他の何かへと変える術だ。
例えば豆があるとして、その豆が豆乳になり、更にチーズになる。
これはもう錬金術の領域と言っていいだろう。
ルファスのスキルを受けたデビルメロンは輝き、そして更なる変異を果たした。
「デビルメロン究極変異! メタルデビルメロン!」
結果は御覧の有様である。
メロンの全身を鋼鉄が覆い、何故かバズーカまで装備してしまった。
下の部分にはクローがあり、何だか一年続く宇宙戦争にも突撃出来そうな外見だ。
勿論こんなものは喰えない。食べ物を金属性にしてはいけないのだ。
何故か満足そうなルファスとは対照的に、カルキノスはガックリと肩を落とした。
「いや、これ、もうメロンでも何でもないですよね。
どうしてこんな事に……」
次にカルキノスが頼ったのはディーナであった。
よく考えてみれば品種改良に必要な時間は彼女がいれば解決する。
忘れてはならない。このチート参謀は時間を自在に操れるのだという事を。
ディーナは「これ絶対余計おかしくなりますよ」とか言いながらも渋々時間操作を発動。
メタルデビルメロンの時間を加速させた。
違う、品種改良とはそうやるんじゃない。
「こいつがスーパーメロン3だ。時間がかかってすまなかったな……まだこの変異に慣れてないんだ」
結果は御覧の有様である。
メロンが伸びた。
球体だったそれはぐにょーんと伸び、とうとうシルエットすらメロンではなくなった。
おまけに何か黄金に輝いており、スパークまで発生している。
そしてとうとうレベルは七曜と互角の300まで到達してしまった。
これを見た魔神族七曜の一人であるルーナは「私達って実は凄く弱いのでは……」と自信喪失してしまったらしい。
その後もカルキノスは失敗を繰り返し、しかし諦めなかった。
正直、もう諦めた方が賢い選択なのだが彼は諦めなかった。
せめて新しいビッグメロンを用意して最初からやり直せよと思うがそれでも彼は諦めなかった。
いい加減諦めろよお前。
そして後日――。
「……で、これ、どうするのお?」
「その……これ、何?」
スコルピウスとアリエスが呆れたように見上げるそれは果たして一体何なのだろう。
少なくとも、もうメロンではあるまい。
全長30mに達するそれは下の方から無数の鋼鉄の足が生え、ガションガションと歩いている。
腕も生え、肩に当たる部分にはバズーカが二門。
背中から炎を発する事で飛行も可能で、メタリックな全身は黄金に輝いている。
ちなみにレベルは400である。まさにメロン究極進化と呼ぶに相応しい強さだ。
あの後もミザールやらポルクスやらアロヴィナスやらに頼った結果がこれである。
「我が名はアルティメット生ハムメロン」
「生ハムどこよお……」
メロン要素がもう残っていないし、生ハムもない。
なのに本人(?)はあくまで自分をメロンと名乗っているようだ。
いや、生ハムがないというのは間違いだ。
スコルピウスに指摘されると、メロンだった何かは頭にちょこんと乗っていた生ハムをスコルピウスに見せた。そして食べてしまった。
「我が名はアルティメットメロン」
「もうそれでいいわよお……」
スコルピウスは心底呆れたように呟いた。
その後、キングクラブのメニューにアルティメット生ハムメロンが掲載されるも当然のように注文する客はゼロ。
しかしその滑稽な姿と意外に頼もしい戦闘力が受けたらしく、彼は以降、キングクラブのマスコットとして人々に親しまれる事となる。
ちなみに最初の地球人はどこかの美〇しんぼとは特に関係がありません。
多分その本を見て影響されてしまっただけの人です。