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野生のラスボスが現れた!  作者: 炎頭
後日談 平和になった後の世界で
194/201

後日談1 野生のメロンが現れた

メインストーリー完結後の馬鹿話です。

頭を空っぽにしてお読みください。

 それはカルキノスにとって衝撃であった。

 未知の発見であり、青天の霹靂であった。

 心を貫いたのは感動だったのかもしれないし、恐怖だったのかもしれない。

 いずれにせよ、それはカルキノスが一度として発想しなかったものである事だけは間違いないだろう。

 カルキノスはルファスから与えられた一冊の本を前に固まっていた。

 それは、ここではない何処かの世界の料理を記した本であり、カルキノスにとっては聖典にも等しい。

 定期的に『向こう』に遊びに行くルファスがお土産として持ち帰って来る本はこれで都合十二冊目となるが、いずれも飽きる事なく驚愕と感動をカルキノスへ与え続けてくれた。

 だが、これほどのインパクトがかつてあっただろうか。

 ――生ハムメロン。

 それがカルキノスを硬直させているものの正体であった。

 本の1ページを丸々占拠して掲載されている精工な絵(しゃしん)には緑色に輝く瑞々しい果物の上にピンクの肉が乗せられている。見た目からして既にヤバイ。

 何という圧倒的な存在感だろう。

 メロンという名の異世界の果物に薄切りにした肉を乗せているそれは、カルキノスの創造力の斜め上を飛んでいた。

 果物と肉……ありそうでなかった組み合わせだ。

 肉料理の締めにデザートとして果物を出す事ならばある。

 肉を野菜で巻いた料理……あるいは野菜を肉で巻いた料理なども作った事がある。

 だが甘い果物と塩漬けした肉を同時に食べるという、この奇天烈さはどうか。

 カルキノスは考える。塩漬けした肉に甘い果汁を垂らして食べたらどんな味がするのかと。

 いや、決して無いと言い切れるものではないのだ。

 例えば最近作り方を覚えた唐揚げなる料理にはレモンの汁がよく合う事をカルキノスは知っていた。

 だがあれはレモンの汁が酸っぱいからだ。だから合う。肉の味を引き締めてくれる。

 もしや、このメロンという果物もレモン同様に酸っぱいのだろうか?

 ……分からない。何故ならこのミズガルズには、メロンという果物がないのだ。

 少なくとも料理王と呼ばれるカルキノスをして、見た事がない。

 なのでカルキノスは、早速ルファスへと訪ねてみる事にした。


「メロン? そういえば、こちらで見た覚えがないな。

確か栽培には温室が必要だったか……育てるのが難しくて、向こうでも高級な果物に分類されているはずだ。

常時戦時下にあったこのミズガルズで、そんな果物をわざわざ育てる余裕など、どの国家にもなかったのだろう」


 ルファスは、このミズガルズにメロンが存在しない理由を余裕がなかったからだと推測した。

 メロンは栽培が難しい果物だ。

 育てるのには温室が必要であり、それにかかる設備費と人件費が馬鹿にならないからこそ、『向こう』でもメロンは高い。べらぼうに高い。

 別に高級でも何でもない普通のメロン五個入りの箱で4000円や5000円する。

 マスクメロンならば一玉だけで5000円を超えるし網目の多いマスクメロンならば2万円すら超えるだろう。

 しかもこの二つの違いは本当に網目の数だけであり、味に差はない。まさに余裕があるからこそ出来る、貴族の嗜みにも近い無駄な値段の差である。

 網目が多い方が高級な気がする。だから味に差は全くないけど値段を四倍にしよう。

 こんな商売をミズガルズでやれば、絶対に高い方は売れない。

 高いマスクメロンとは、ある意味余裕の現れなのかもしれない。

 平和の象徴と呼んでもいい。素晴らしい、何て高尚な果物だ。

 でも網の数とか正直どうでもいいから、買うなら網目の少ない方にしよう。

 ちなみにミズガルズで主に食されている果物はベリー系や柑橘系が多い。

 だが市場を最も席巻しているのは、やはりエイルの実だろう。

 これは向こうには存在していないミズガルズ産の果物であり、荒れ地でも気持ち悪いくらいに育って実を付ける上に栄養と水分が豊富というご都合主義万歳なチート果物である。

 収穫時期も選ばず、一年中実を生み出すのでエイルの木が一本あれば一つの村を養えるとまで言われている。

 これもう、木じゃなくて魔物なんじゃないかな。


「で、そのメロンが欲しいと?」

「ええ。どんな味なのかも気になりますし」

「ふむ。向こうに行けば買うのは難しくないが……この期にミズガルズ産のメロンというものを作るのも面白そうだな」


 そう言い、ルファスは無造作に右手を空間へと入れた。

 それからしばらくゴソゴソと探り、エクスゲートの中からアロヴィナスを引っ張り出す。

 スマホゲームに熱中してガチャを回し、運営のいいカモとなっていた最高神は突然の事に目を白黒させている。


「えひゃい!? な、何事ですか!」

「其方に聞きたい事があってな。この果物はこちらで見た事がないのだが、持ち込んでたりはしないのか?」


 ミズガルズの生物や植物などは大元を辿れば、地球の物をアロヴィナスが持ち込んで独自変異させたものである。

 だからどんな生物や果物であっても、どこか地球の物に似てしまっている。

 エイルの実も恐らく何かしらの果物を変異させたものに違いあるまい。

 アロヴィナスはふーむと考え、それから思い出したように頭の上に光球を浮かべた。

 ちなみに比喩ではなく本当に出している。無駄な事に力を使う神様もいたものだ。


「ああ、メロンでしたらこっちにもあるはずですよ。

ただ育てるのが面倒すぎたせいで誰も育ててくれず、辺境の地に放置されて今は魔物化してますけど」

「魔物化したのか……」

「はい。自分から動く事もなく、自発的に他者を襲う事もしない大人しい魔物なので、目撃例も滅多にない非常にマイナーな魔物です」


 どうやらメロンは一応こちらにもあるらしい。

 とはいえ、魔物化してしまってはもうメロンと呼べないだろう。

 ルファスはアロヴィナスを適当に近くの椅子に放り投げ、カルキノスを見る。


「だそうだ。残念だが魔物化してしまっては食用には適さんな」

「いえ、諦めるのはまだ早いですよルファス様。ミーは一度それを見に行こうと思います」

「物好きだな、其方も」

「見るだけ見て駄目だったら、その時は諦めますよ」


*


「で、俺等冒険者の出番ってわけだ」

「YES。単純なバトルはともかくとして、こういう物探しや探索ならば冒険者の分野ですからね」


 ミズガルズの森林の中。

 そこでカルキノスと、彼の依頼を受けた冒険者の一団――『鷹の瞳』は木々をかき分けて進んでいた。

 メンバーは六人。依頼主であるカルキノスと、鷹の瞳のジャン、リヒャルトのニ名。

 他のメンバーであるニックとシュウは別の依頼に出かけていないらしい。

 それから、偶然ジャン達と一緒にいたガンツと、森林に詳しい亜人のドライアド。

 最後に興味本意で付いて来たアロヴィナス。

 全く、見事なほどに何の接点も関係性もないカオスな面子であった。


「てーか、他はともかくソレは連れて来ていいのか?

その……一応、ほら、このミズガルズの神様なんだしさ。

俺、信仰とかないんだけど拝まなきゃ駄目なのか、これ?」


 ジャンが呆れたようにアロヴィナスを見ながら言う。

 アロヴィナスは全く威厳も何もないが、それでも一応、ギリギリ、認めたくはないだろうが神である。

 この宇宙で最も大きな力を持つ存在である。

 その問いに対し、カルキノスが軽い口調で返した。


「いえ、アロヴィナス様は乱暴に扱うくらいで丁度いいとルファス様も仰ってましたので普段通りにして下さい。むしろ調子に乗らせない方がいいとも言っておられました」

「それでいいのか創世神……」

「ねー、扱い酷いですよね」


 これほどに最高神の扱いが悪い世界も他にないだろう。

 そんな彼等の漫才に水を差すようにドライアドが声を出す。


「ねえアンタ等、向こうに何か変な緑色のが転がってるんだけど、メロンっていうのアレじゃない?」

「……緑色で網目模様。特徴と一致する」


 ドライアドが指さした先には、確かに写真と似たような緑色が無造作に転がっていた。

 リヒャルトもそれを確認するが、しかしその顔は引き攣っている。

 何故なら視界の向こうに見えるメロンらしき存在は……どう見ても10m級の馬鹿げた大きさだからだ。


「確かに一致するな。大きさ以外は。

けど、流石にアレは違うだろ……」


 あんなでかい謎の物体を果物とは思いたくない。

 そんなガンツの言葉にドライアドがぷう、と頬を膨らませる。


「いや、アレだって絶対。特徴一致してるじゃん」

「大きさ以外はな。あんなデカい果物があってたまるか」

「ちょっと育ちすぎてるだけでしょ! 私、普通より一回り大きい林檎とか見た事あるもん!」

「一回りってレベルじゃねーぞ。ありゃあ似てるだけの何かだ」


 ドライアドとガンツが言い争うが、どうやらその声はメロン(?)にも聞こえたらしい。

 メロン(?)はグルリと向きを変えて彼等と向き直った。


「我が名はビッグメロン。私を収穫しに来たか、人間達よ」


 喋った。

 至極当たり前のように、声帯も口もないくせに喋った。

 しかも自分からメロンと名乗ってしまった。


「ほら、自分でメロンって名乗ってるわよ。やっぱアレじゃない」

「……なんてこった」


 見た目が一致し、何より自らメロンと名乗っている。

 これはもう確定と考えていいだろう。

 ガンツは溜息を吐き、これでも一応依頼は依頼だと気を引き締める。

 その彼の横を通り、真っ先に飛び出したのはやはりジャンだ。

 だがそれにカウンターを合わせるようにビッグメロンが果汁を飛ばし、ジャンを吹き飛ばす。


「ぐわー!?」

「メロン強え!?」


 ジャンは冒険者としては間違いなく一流である。

 その彼をこうも簡単にあしらえる魔物など、今のミズガルズにはそういない。

 ふざけた見た目からは想像出来ない強さにガンツが驚き、アロヴィナスがメロンのステータスを確認した。


「ええと、ビッグメロン……レベルは99。HP18000。

へえ、結構強いじゃないですか」

「何でメロンがそんな強いんだよ!?」

「そりゃまあ、やっぱり高級な果物だからでしょうか」

「そんな理由があるか!」


 冷静に分析するアロヴィナスへとガンツが突っ込みを入れる。常識人はとても辛い。

 だがアロヴィナスはそんな彼へと微笑み、自信たっぷりに言う。


「ふふ……ご安心を。ここにいるのが誰だと思っているのです?

あんな果物程度、私の敵ではありません」


 アロヴィナスが手を掲げる。

 すると一瞬で景色が切り替わり、広大な宇宙空間へとメロンが放逐された。

 その周囲を旋回するのは幾万にも及ぶ星々の輝きだ。

 一つの銀河を構成するほどの無数の星がアロヴィナスの腕の動きに合わせて上昇し、次の瞬間には敵を打ち砕く流星群となって降り注いだ。


「明けの明星!」


 『明けの明星』はディーナも使用する金属性最大の魔法だ。

 だが使い手が本家本元のアロヴィナスならば、その規模も大きく異なる。

 このアロヴィナスは本体ではない。だがそれでも女神は女神。故にその力は絶大にして無敵。

 降り注ぐ流星は一発一発がメロンに億を超えるダメージを叩き込み、それが星の数だけ続く。

 即ちこの魔法によるダメージは――999999999×(約)2000億!

 オーバーキルと呼ぶのもおこがましいダメージがメロンに与えられる。どう考えてもメロン相手に出していいダメージではない。

 そして攻撃を終えたアロヴィナスは通常空間へと帰還した。


「ふ……まあ、こんなものです」


 アロヴィナスは絶対的強者としての余裕を漂わせ、髪をなびかせる。

 何時の間にか出していたお立ち台に片足を乗せ、『もう何も怖くない』とか今にも言い出しそうなポーズでドヤ顔を決めた。

 いかに普段がアホだろうが、いかにこの身体がアバターだろうが、それでも神は神。

 彼女がこの多元宇宙で最強の存在であるという事実に一切の陰りはない。


「……いや、あの。倒されると困るのですが。そもそもミー達はあれを手に入れる為に来ているわけでして」

「…………」


 ――だがやはりアホはアホであった。

 糞の役にも立たない女神をその場に放置してカルキノス達は再び探索を始めた。

 全く、アホのせいでとんだ二度手間である。

 収穫目的の果物にオーバーキルを叩き込んでどうするのだ。

 やはりアロヴィナスなんて、所詮はこの程度だ。


「…………」


 放置されてしまったアロヴィナスはドヤ顔決めポーズのまま、一人寂しく石化していた。


*


「で、これが完成品というわけか」


 後日――無事に別のビッグメロンを収穫したカルキノスは食堂でルファス達に早速新料理を振る舞っていた。

 勿論そのままのサイズでは食べられたものではないので、しっかりと一口サイズに切り分けている。

 その切り分けられたメロンを塩味の強い生ハムで包み、実にインパクトのある見た目となっていた。


「あまり美味しそうな見た目じゃないわね」


 ポルクスが若干引き攣ったような顔で生ハムメロンを見る。

 見た目はお世辞抜きで言えば、あまりいい物とは言えないだろう。

 メロン単品で見れば綺麗に見えるそれも、上に載せられたハムのせいで台無しになってしまっている。


「まあ、そう言うな。文句は実際に食べてからでも遅くないだろう」


 ルファスは物怖じせずに一つをフォークで刺し、口に放り込む。

 まず感じるのはメロンの甘味だ。単品でも十分に甘いそれが、生ハムの強い塩味と合わさる事でかえって甘味を増している。

 なるほど、この組み合わせはあくまでメロンがメインであり、ハムはその引き立て役というわけか。

 甘味に対して塩味というのは意外と合う。

 林檎を塩水に漬けるのは決して珍しい事ではないし、スイカに少量の塩をかけて食べるのもよく聞く話だ。

 要はそれと同じ事、この組み合わせはメロンの甘味を引き立てる為に生ハムが存在している。

 ……どうでもいいが、この逆の組み合わせ――生ハムにメロン果汁や砂糖を垂らして食べるというのは余りお勧めしない。


「だがこれは……」

「私は向こうにいた時に何度か食べてますけど、向こうのよりもやや甘味が強いですね。

もうちょっと甘味を抑えないと組み合わせとしては、ちょっと微妙です」


 ルファス同様に『向こう』の知識を持つディーナもまた、特に躊躇する事なくメロンを口に入れていた。

 魔物化した果物を食べるという事にも特に抵抗はない。

 そもそも、そんなのを気にしていてはこの世界ではやっていけないのだ。

 オーク以外ならばさして抵抗はない。

 もっとも、ディーナは半分がエルフなので肉類はそこまで好まないのだが。

 一つだけ食べてとりあえず満足したのか、ディーナは自分の前に出された他の生ハムメロンから生ハムを取り除き、ただのメロンにしてしまった。

 やはりエルフと肉の相性はあまりよくない。


「実も悪くないが、やはり皮だな」


 一方アイゴケロスはメロンの皮を当たり前のように食べていた。

 やはり山羊は山羊である。




 その後、生ハムメロンはメロンという果物の珍しさも合わさってカルキノスの経営する『キングクラブ』の人気デザートとなる。

 しかし他の商人や店がメロンに目を付けないはずもなく、各地でメロン狩りが始まり、だがビッグメロンの無意味な強さから収穫は困難を極め、需要に供給が追い付かずに市場での値段は高騰。

 結果、地球のメロンと同じ運命を辿り高級フルーツと化してしまった。

皆様、どうもお久しぶりです。

とりあえず最終話の後の番外的な話を書いてみました。

とはいえ、メインストーリーが終わった後なのでほとんど後書きのノリで書いてます。

ゲームクリア後のオマケモードです。

なので本編ラスボスのアロヴィナスとかも普通にメンバーに入れて戦わせる事が出来ます。


それと、書籍版5巻に登場するキャラクターのラフ絵なども活動報告にちょくちょく載せていきますので、もしよければ見て行って下さい。

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