番外・おめでとう、???は駄女神へ進化した
皆様こんばんわ。
折角のGWなので番外を一話更新しておきます。
今回は本筋には全く関係のないとある誰か(正体バレバレ)の過去話となります。
それは、本人すらも覚えていない遠い遠い、余りにも遠すぎる過去の話。
誰が悪かったわけではなく、誰が正しかったわけでもなく。
彼女はただ――不幸にも、力を持ちすぎていた。全てはそれだけの事だったのだろう。
生まれた時から、あるいは生まれる前から。
自分が致命的にズレた存在である事を、彼女は理解していた。
世界はファンタジーではなく、何処までも何処までも現実という名の無慈悲な日常が続いていく。
人は魔法なんて使えないし、超能力なんて使えない。テレビに出ているそうした人達は皆、そうしたものを名乗っているだけの手品師だ。
占い師や予言者と呼ばれる人達はそれまでの統計から予測を立てているだけで、本当に未来が見えているわけではない。
だから当たった時は「それみたことか」と威張るくせに、外れた時はまるでそんな事を言った覚えなどないかのように姑息に振る舞うのだ。
人は空を飛べない。人は空気がなければ生きていけない。
人は手から火など出せないし、人は老いに抗えない。
故に全ての幻想は架空のお伽噺。フィクションの中でのみ存在を許される儚い夢……のはずだ。
しかし彼女だけは違った。夢も幻想もないはずの世界の中で、彼女だけは夢で、そして幻想だった。
彼女は魔法を使えた。彼女は超能力を使えた。
彼女は空を飛べたし、宇宙空間でも生存出来た。手から火を出せたし、望めば成長を止める事も出来た。若返る事すら容易だった。
試しに自らの身体を焼き尽くして灰にしてみた事もあったが、それでも自意識は途切れなかった。
身体が失われただけで意識は残り続け、そして戻そうと思えばあっという間に戻る事が出来た。
生や死ですら、彼女にとっては思い通りになる現象でしかなかったのだ。
何故こんな存在が生まれてしまったのかは彼女自身にも分からない。きっと理由など無いのだろう。
全てはきっと偶然だ。偶然、何もない無の世界に宇宙が誕生したように。
偶然にも地球という緑の星が生まれて偶然にも命が生まれたように。
この世に火というものが生まれたのと同じように、水というものが生まれたのと同じように。
森羅万象が生まれたのと同じように、彼女はきっと、彼女という概念として誕生してしまった。
彼女はいわば事象そのもの。宇宙が誕生するよりも尚低い確率でこの宇宙の中に生まれてしまった歩く特異点。世界の生み出した……最大のバグだ。
それは例えるならば海の中にパソコンの部品をばら撒いて、それが一つに組み合わさって偶然一つの完成されたパソコンが出来上がるような、まず有り得ないだろう低い確率であり、要するにまず0%と断言していい。
だが彼女はそんな有り得ない可能性の中から生まれてしまった。有り得ない事が有り得てしまったのだ。
人々は生まれたその瞬間から死に向かって歩いていく。死の恐怖と生涯付き合う事になる。
それが彼女には分からない事で、とても人々が哀れに思えた。
人はどんなに妄想しても現実という檻から抜け出す事が出来ない。夢を見る事が出来るのは寝ている時だけだ。
彼女は思った。何て可哀想な人達なんだと。
そして同時に憤りもした。どうして神様はこの可哀想な人達を助けないのだろう。こんなにも滑稽なほどに祈っているのに、死にたくないと願っているのに。どうして救いの手を差し伸べないのだろう。
どうして、どうして、どうして――疑問は尽きない。
どうして世界はこんなにも苦しみに満ちているのだろう。
どうして人々はこんなにも間違えるのだろう。殺し合い、憎み合うのだろう。
恐いから人は武器を持つ。平和を求めながら、それでも相手が武器を持って襲って来た時に自分の身を守るために武器を持たざるを得ない。
人の心に争いという概念がある限りこの恐怖は絶対に消えない。自衛手段がなければただ殺されてしまうだけだから、平和と武器を切り離せない。
人を殺す武器と平和……その二つが対極の関係で相容れないと分かっているのに、イコールで結んでしまう。
そうして皆が武器を集め、どんどん強くして、やがて人は滅びるのだろう。自ら生み出した強すぎる武器に焼かれて。
その未来を人は薄々は理解しているのだ。だから戦争で世界が滅びた後を題材とした小説や物語をいくつも作る。
だが手放せないのだ。手放せば、他の武器を持つ者達に食い物にされてしまうから。守れないから。
ならばこれこそ神様が何とかするべきではないか。
子が強すぎる玩具を手にしたなら、それを取り上げてやることが親の仕事だろう。
けれど何もしない、神様は何もしてくれないのだ。
こんな不安定で弱くて哀れな生き物は、神様がしっかり管理して躾けなければ駄目だろう。
なのにどんなに祈ろうが嘆こうが、見て見ぬ振りをする。否、きっと本当に見てすらいないのだろう。
……神様が本当にいるとすれば、何て無慈悲なんだろう。
彼女はいつからか、そう思うようになっていた。
何年、何十年、何百年と人々の中で生きて、自分とは無縁なその苦労を知る度にこの世界を生み出した何かへの不満は膨れ上がっていた。
生物は死ぬ。自らが生きた証として我が子を残し、次代へ受け継がせて死んでいく。
生物の生きる理由は子孫を残す為。自分が生きたという証を後世へと残す為に生きる。
それは生き残るために必要な進化だったのだろう。
多種多様な環境に適応する為、生物の多様性を守る為。親世代が早く死ぬことで資源を無駄にしないようにするため。
その他様々な理由はあるし、それは分かる。
だがそれでも残酷だ。知恵があるから、人は死にたくない死にたくないと言いながら死んでいく。
この世界の意思は生きている全てに対して『死ね』と命じている。
救いもせず、生まれたからには絶対に死ねと……生き残るなと。
世界はどうしてこんなにも美しく、そして残酷に完成されてしまっているのだろう。
彼女はある時から人を救う旅に出た。
病める者を、傷付いた者を、苦しむ者を……目につく全てに救いの手を差し伸べ続けた。拾い続けた。
救世主と呼ばれ、聖女と呼ばれ、女神と呼ばれた。
救って、救って、救って……だがどうしようもなかった。キリがなかった。
何故なら人は死ぬように出来ているのだ。最終的には救われぬように完成されているのだ。
世界はそう出来てしまっているのだから、根本的な所で何の解決にもならない。
この世界を救うには……全ての者達を全ての苦しみから解放するには、世界の根本から覆さねばならない。
だから彼女は、その根本を潰してしまう事にした。
到達するのは簡単だ。空を飛んで、宇宙を飛んで、光よりもずっとずっと速く宇宙の果てへと向かえばいい。
人間大の物質が光を超えて移動する事など出来ない。仮に出来たら大惨事を引き起こす。
だが彼女にそんな事は関係なかった。
何故なら彼女は特異点。この宇宙の法則などに縛られず、あらゆる法則も摂理も彼女の内に内包されている。
宇宙の常識を書き換え、自らに都合のいい法則を適用し、道理を無理で突き通す。
水は冷やせば氷となる。だが彼女が火になると言えば水を冷やして火が出来上がる。
何故? そんな事は知らぬ。出来るから出来るのだ。
彼女の所作に『何故』はない。『私は出来る』……それが全てで真実だ。
宇宙は全体を見渡せばまるで生物の脳のようで、宇宙を飛び出せばそこにはやはり人のような何かがいた。
何処までも続く白い白いせかい――そこに、世界の意思である創世の神はいた。無関心で無慈悲なそいつがいた。
それは言語など持たず、表情も持たず、だが確かに意思だけはあった。
あるいはそれは、宇宙そのものだったのかもしれない。
言葉もなく『かみ』は彼女へと意思を向けた。きっとそれは言語化すれば『愚かな』とか『身の程知らずめ』とか、そういう類のものだったのだろう。
彼女へと向けられたのは死という概念そのものだった。
どんな物であろうと必ずいつかは死ぬ、壊れる。
ならばこれに抗う方法などあるはずもなく、耐えきれる存在など皆無だ。
宇宙ですらいつかは死ぬのだ。ならば効かぬはずはなく……だが、彼女には効かなかった。
まるで動じずに佇む彼女へと『かみ』は更に攻撃を加える。
それは宇宙そのものだからこそ出来る奇跡。
超新星爆発。ブラックホール。グレート・ウォール・グレート・アトラクター。スターバースト。
様々な神の御業を発動し、だがその中心にあって彼女はまるで傷を負っていなかった。
文字通り宇宙規模の攻撃を星よりも遥かに小さな人の身で浴びながら、髪の一本すら燃えない。
驚愕の意思を見せる『かみ』へと彼女は冷たく告げた。
「……そんな程度の力しかないのですか?」
それは挑発でもなければ嘲笑でもなく、失望であった。
この宇宙そのものとも言えるはずの存在が自分の足元にすら届かぬという事実に彼女は心から幻滅し、そして納得した。
なるほど、誰も救えないわけだ。どんなに祈られても手を差し伸べないわけだ。
だって、そんな力などないのだから……こんなにも、可愛そうになるほどに神様は弱いのだから。
けれど私は違う。私は救える、私は手を差し伸べる事が出来る。
祈られれば、人が妄想から生み出した神話の神様達のように人の隣に在り、その望みを聞き入れる事が出来る。だって私はとても強いから。
「もう、貴方は要りません」
旧き神へと告げた処刑宣告は一つの宇宙の終焉を意味していた。
彼女は宇宙そのものとも呼べる『かみ』の首から下の身体に該当する部分に指を当て、軽く弾く。
それだけで首から下に該当する部分が消し飛び、彼女の手の中には宇宙が残された。
戦いにすらならなかった……何故なら彼女は余りにも強すぎたから。
彼女は笑った、無邪気に笑って喜んだ。
やった、やった、これで邪魔者はいなくなった。
無慈悲な神様はもういない。これからは私が神様となる。
大丈夫、私は絶対に人々を見捨てたりしない。全員絶対に幸せにしてみせる。救ってみせる。
特別な力が何もない牢獄みたいな世界なんてつまらない。だから私は私の力を人々に分け与えよう。
私の力の欠片で宇宙を創り、星を創り、そして皆をそこに招待しよう。
人は空を飛べるし、魔法を使える。超能力だって使える。
進化に枷だって付けない。死にたくないと望むならば何千年でも何万年でも生きていい。いっそ不老不死になる事だって許そう。どうしても事故で死んでしまう者が現れるならば死後に魂を迎え入れて『次』の命を与える場所だって用意しよう。
他者を憎む心や人を貶める知恵、そして寿命や暴力という不要な概念は悪いマナに閉じ込めて隔離して、皆が争わずに暮らせる素敵な世界にしよう。
最初はきっと、尊い理想から始まった。純粋にどこまでも他者の幸福を願う心から始まった。
だが理想はいつしか薄れ、膨大な年月に埋もれて見えなくなる。
自分が最初は何をしたかったのかも忘れ、ただ人々を幸せにしたいという目的だけが捻じ曲がって残り続けた。
そして最後には――暴走した善意だけが、宇宙の外側に取り残され、独りで滑稽に踊り続けていた。
いつまでも、いつまでも……人々を幸せにするという理想だけを忘れずに、その手段を致命的なまでに間違えながら……。
~昔~
真創世神「何やこの特大のバグ!」
???「貴方が気に入らないので倒しに来ました!(゜∀゜)」
~今~
アロヴィナス「何ですかこの特大のバグ!」
ルファス「其方が気に入らんから倒しにきた!(゜Д゜)」
・一応少しだけ擁護してあげると、この『彼女』はルファスの祖先が禁断の実を食べてしまうまでの最初の1万年くらいはこの戦争や争いもなく寿命もない、願えば全てが叶う理想郷を維持していました。
(まあ他人を憎んだり嫌ったりする感情そのものを奪った上で暴力という概念を剥奪した上でですが)
これだけ好き勝手やってるのに今でも愛の神とか言われているのは、この時の事が人の心にかろうじて残っているからです。
とはいえ、元々がアホなのでルファスの祖先が何もしなくてもそのうち破綻していた事は間違いないでしょう。所詮は駄女神です。
誰かが近くで支えて、間違いを指摘してあげればこれを永遠に維持し続けるだけの能力はあります。
そう、能力だけはあるのです……物凄いアホなのでそれを全然活かせてないだけで。