第181話 リーブラはメガ進化した
(;゜Д゜)申し訳ありません。予約投稿を少しミスりました。
ま、まあ20分くらいなら誤差という事で何とか……。
「ルファス様、私は……」
女神からの完全な独立を果たしたリーブラは遠慮がちにルファスへと振り向いた。
それに対しルファスはリーブラの肩を叩く。
「よく戻って来た」
「……はい」
今はこれだけでいい。
何故なら今は戦闘中で、このミズガルズもじきに消えてしまうからだ。
のんびり話すのは全てが終わった後でも事足りる。
だから今は、戦うべきだ。
その意思はリーブラにも伝わったのだろう。
彼女は空を見上げて女神が造った黒いアストライアを撃墜する。
そしてアストライアを呼び出し、背中にドッキングさせた。
「リーブラ、私はもう其方のマスターではない。
だからこれは其方自身の意思に委ねる形での頼みとなる。
アリエス達を助けてやってくれ。大分苦戦しているようだ」
「頼みなど私には必要ありません。ただ一言、命令して下さい。
私の主人は貴女です、ルファス様」
「そうか……では命じよう。覇道十二星天『天秤』のリーブラよ。
我が敵を打ち倒してこい」
「イエス、マイマスター!」
リーブラが命令を聞き、空へと飛んだ。
もうルファスはリーブラへの命令権を有していない。それは女神にある。
だがそんな事は関係ないのだ。
持ち主が道具を選ぶのと同じように、道具が使い手を選んだ。
だから己のマスターはルファスだ。彼女以外は有り得ない。そうリーブラは、自分の意思で決めていた。
きっと自分は壊れているのだろうと思う。欠陥品の失敗作なのだと自覚する。
だが、何故か思考は今までになく澄んでいて、不思議なまでに軽い気持ちだった。
人でいえばそれは迷いが無くなった、とでも言うべきなのだろうがリーブラにとってはそれすら初めての事だ。故に己の状態を表す言葉を彼女は持たない。
「リーブラ、そいつらも連れていけ!」
ルファスが声を張り上げ、それと同時に火龍と戦っているブルートガングの方面から三体のゴーレムが飛来した。
それは田中、鈴木、そしてゲートキーパーだ。
三体は空中で形を変え、パーツを分離・結合させながら形状を変えていく。
そしてリーブラの下へやってきた時、そこにあったのは形容し難い形となった何かであった。
全体的なシルエットをあえて表現するならば、台座の上に二つの皿を乗せた――そう、上皿天秤に近い。天秤の皿は後ろを向いてバーニアとなり、前の方には二つの砲身が飛び出している。
左右の側面には青と白の宝玉が埋め込まれ、今は輝く事なく沈黙を守っていた。
決して洗練されているとは言い難い……むしろ機能性ばかりを追求した結果どこまでも武骨になってしまったかのような形状の、言うならば天秤の形をした火薬庫。
それがリーブラの背に突撃し、ドッキングを果たす。
二つの砲身は内側に腕を入れる為の接合部があり、リーブラは迷いなくそこに手を入れて結合させた。
合体……と呼んでいいのだろうかこれは。
両者のサイズ差がありすぎて、もはや合体というよりは単に二つの砲身の間にリーブラを埋め込んでいるようにしか見えない。
あるいは巨大な火薬庫をリーブラが背負っているような、雅さの欠片もない形態だ。
スコルピウスもそれを見上げて「うわ、ダサ……」と呟いており、やはりお世辞にも恰好のいい姿ではない。
しかしルファスは何故か満足そうにうんうんと頷いている。
「そんじゃま……いくわよお、リーブラ!」
スコルピウスが跳躍して完全武装したリーブラの上に乗り、それと同時にバーニアを吹かしてリーブラが飛んだ。
その速度たるや今までのリーブラの比ではない。殺人的な加速を続けながらリーブラは一気に宇宙空間へと飛び出す。
『おのれ、よくも邪魔を……』
宇宙では土龍がタウルスに止めを刺すべくまさにブレスを放とうとしていた。
だがそれを視認したリーブラは全武装を展開し、砲門からの一斉砲撃を行う。
数多の閃光や誘導弾が土龍の横面へ炸裂して連鎖爆発を起こし、それと同時にスコルピウスが飛び降りてタウルスを回収。地上のアリエスへと暗器を伸ばして、縮めた反動で地上へと戻った。
リーブラは高速で土龍の周囲を飛びながら爆撃し、攪乱するように旋回する。
『小賢しい!』
土龍がブレスを放ち、撃墜を試みる。
だがリーブラは直進してくる破壊の光を避け、その周囲を回転するように飛びながら距離を詰めて砲身を土龍の鼻先へ突き付けた。
「フルファイア!」
そして発射。
土龍の顔を集中砲火し、その視界を塞ぐ。
更に今度は左の天秤を起動。
左腕を振り上げると腕と結合していた左の砲身が振り上げられ、射出口からは巨大な光の刃が出現した。
これだけでも普段のリーブラの倍以上の攻撃力に達しているのだが、まだ終わらない。
火薬庫の左に装着されていた青い宝玉が輝く。
『ウェポンサポート起動。ズベン・エス・カマリ、出力500%』
ゲートキーパーの声が響き、左の砲身から発生している光の刃が巨大化した。
その気になれば月すらも寸断出来てしまいそうな、リーブラの大きさと不釣り合いな超巨大ブレードが振り下ろされ、宇宙を漂う数多の岩を切断しながら土龍の顔へと炸裂する。
紫電が飛び散り、龍の鱗すらも焼き焦がし、決して浅くない傷を刻み込む。
続けてリーブラは右腕を突き出し、その動きに合わせて腕と結合している右の砲身が突き出された。
射出口に光が集約し、火薬庫の右側に付けられた赤い宝玉が輝く。
『ウェポンサポート起動。ズベン・エル・ゲヌビ、出力500%』
まるで電子音のようなエネルギーチャージの音が響き、右の砲身の側面に付けられたエネルギーチャージを示すマーカーが一瞬で満タンになる。
攻撃に使用するのはリーブラ自身のエネルギーだけではない。
この宇宙を構成しているマナすらも僅かではあるが集め、限界を超えた一撃を実現させようとしているのだ。
視界を焼く程の……常人ならばまず失明は免れないだろう輝きが拡散し、射出口から龍のブレスにも比肩するほどの圧倒的な破壊の奔流が解き放たれた。
発射と同時に、その反動で吹き飛ばされてしまわないようにバーニアが全開で吹かされ、リーブラの身体を元の位置にキープする。
一瞬で限界まで熱された砲身を冷ますように煙が吐き出され、だがその余韻を感じる間もなくリーブラが急降下した。
閃光が龍をミズガルズへと押し付けるように降り注ぎ、大気圏突入の摩擦で炎に包まれる。
その隣を同じく摩擦で炎を纏いながらリーブラが通り過ぎ、アリエスの隣へと移動した。
「リーブラ!」
「お前……」
裏切ったはずの……というよりは最初から女神側だったはずのリーブラ突然の乱入にアリエスは驚くように、アクアリウスは疑うように声を発した。
それに対しリーブラは目を合わせず、普段通りの声で話す。
「……言い訳はしません。私を信じる事が出来なければいつでも後ろから撃って下さい。
今、私に言えるのはそれだけです」
決して撃たれるはずがない、などとリーブラは考えていなかった。
むしろレオン辺りが普通に「じゃあ死ね」と撃ってくる可能性の方が高いと考えていたし、その時は避けずに攻撃を受けるつもりですらあった。
信じろなどと言うつもりもない。むしろ信じられなくて当たり前だ。
しかしそんなリーブラへ、アリエスは嬉しそうに言う。
「リーブラ……お帰り」
「…………ただいま、という言葉を吐く資格は今の私にはありません。
この戦いが終わり、皆の許しを得る事が出来たならばその時に改めて言いましょう」
リーブラはそう言い、土龍へと突撃した。
その一瞬、アリエス達は確かに見た。
リーブラの口元が笑みの形に変わっていたのを。
「え? あいつ今……笑った? あのゴーレムが笑うなんて俺の目の錯覚か?」
「いや、アクアリウス。僕もそう見えたよ」
二百年以上前からの付き合いになるが、リーブラの笑みなど誰も見た事がない。
当たり前だ。彼女に感情などというものはなく、感情がなければ表情もない。
だから彼女は笑った事もなければ怒る事もなく、嘆きもしない。
同じ道具の区分ではあるが、アクアリウスとリーブラの違いはそこだ。
アクアリウスは感情を最初から持っていたし、現身を通してその感情を表に出していた。
だがリーブラにそんなものはなく、いつも無表情でルファスの後ろに佇んでいた姿ばかりが記憶に残る。
その彼女は僅かに笑みを見せたというだけで、十二星にとっては信じられない大事件であった。
「あいつも変わったって事よお。結局元の鞘に収まって……だから気に入らないのよお、あいつは」
スコルピウスが皮肉気に言い、しかしその口元は緩んでいる。
そしてアリエスの上から飛び降り、光に包まれた次の瞬間には巨大な蠍の怪物としての本性を現していた。
「さあ行くわよお! あのデカブツをぶっちめてさっさとルファス様の所に戻りましょう!」
スコルピウスが叫び、毒のブレスを土龍へと吐き出した。
当然効果などない。土龍の優れた免疫力はあらゆる毒素を一瞬で分解して無効化してしまう。
だがスコルピウスとて伊達に毒の女王を名乗ってはいない。あらゆる毒が通じぬというならば……今、ここで作ればいい。
体内に内包するあらゆる毒素を混ぜ合わせ、龍にすら通じる毒をここで生み出せばいい。
新たに生み出された毒は龍の強固な耐性すらも貫き、だが効果はほんの一瞬しか続かない。一秒として持続しない。だがこのレベルの戦いにおいて一秒あれば十分だ。
スコルピウスの猛毒を目に浴びた土龍は失明し、前が見えなくなる。
言うまでもなくこれもすぐに再生されてしまうだろうが、その一瞬の間がこちらの好機だ。
リーブラの背負った火薬庫の至る箇所から銃が生え、それらが一斉に飛んだ。
例えるならばそれは銃口のみの銃。人が手にする事など一切考慮しておらず、グリップもなければトリガーすらない。
それは全てが銃の形状をした自立行動するゴーレムであり、頭脳であるリーブラの遠隔操作を受けて動き回る。
360度、あらゆる方角から射撃が放たれる事で回避を許さぬ包囲攻撃が完成し、龍の反撃を銃が自ら移動する事で避ける。
これぞ錬金術を極めた先に届いた自立行動兵器だ。ファンタジーとは一体何だったのか。
「いくぜえ! アブソリュート・ゼロ!」
「メサルティム!」
「吹っ飛べクソがァ!」
アクアリウス、アリエス、レオンの同時攻撃が重なり合い、土龍へ炸裂した。
鱗が千切れ飛び、土龍が屈辱と苦悶に満ちた絶叫をあげる。
『おのれえええ! 潰れろ、小さき者共!』
土龍を中心とした全方位対象の重力波を放とうとする。
……だが何も起こらない。
マナに働きかけて起こす魔法はもう使えない。アイゴケロスが巨大化している限り封じられてしまっている。
土龍もそのくらいは分かっていたはずだが、余程追い詰められているのだろう。
そんな事すら忘れたようで、その顔には明らかなまでの焦りが生じている。
『ならばこれだ!』
マナとは無関係の自らの身体から生じる重力を弾丸として放つ重力弾をもって反撃へと転じた。
だが追い詰められて放つ苦し紛れの攻撃などに当たるアリエス達ではない。
全員が素早く回避し、そうして出来た隙をすかさずアリエス、レオン、スコルピウス、リーブラの同時攻撃が狙い撃つ。
斥力による防御はかろうじて機能しているが、その上から強引にダメージが通っている。
(不味い……じゅ、重力弾は駄目だ。奴等には通じない。
接近しての攻撃……攻撃の為には斥力を解除せねばならん……論外だ。
か、かくなる上は!)
全ての攻撃手段を封じられ、土龍は最後の勝負へと出た。
再びミズガルズから離脱し、距離を開ける。
今一度ブラックホールと化し、今度こそ全てを飲み込んで破壊するつもりだ。
だが今は先程までとは違う。今はリーブラがいる事を彼は失念してしまっていた。
土龍を追ってリーブラが飛び、尾に噛み付こうとしていた土龍の目の前を通過。
一瞬遅れて切断された土龍の尾が宇宙空間を漂った。
自らの尾に噛み付くために斥力を解除した、その一瞬を狙い打たれたのだ。
そもそも先に発動した際にわざわざミズガルズから遠く離れた太陽系の端まで行ったのは何の為だったのか。それは今のように技の発動そのものを中断させられぬようにするためではなかったか。
だというのに、そんな事まで忘れてミズガルズの近くで技を発動しようとしてしまった。だからこうして狙い打たれる醜態を晒してしまう。
龍は完全な生物で、それに勝てる存在などいなかった。苦戦した事すらなかった。
故にこそ露呈した脆さ……龍は逆境に慣れていない。
天龍のように逆境に焦がれていたならば話は別だろうが、土龍はそうではなかった。
『お……お……お、おおおおおおおおおおッ!!』
最早怒りなのか恐怖なのかも分からぬ叫びをあげ、大口を開けて土龍がリーブラへと迫った。
その口の中に臆する事なくリーブラが突入。龍の体内へと入り込み、火薬庫から一斉に砲身が飛び出す。
リーブラの視界の中で土龍の体内のありとあらゆる臓器にロックオンマーカーが記され、マルチロックオンの文字が表示された。
「全武装解放! マルチロックオン!」
『ロックオン完了!』
「ファイア!」
巨大過ぎるというのも考えものだ。
なまじ大きすぎるからこうして、世界で最も危険な兵器を飲み込むなどというありえない大失敗を犯してしまう。
リーブラを中心として一斉に破壊光や誘導弾、爆弾、電磁砲、魔力砲、魔力弾が解き放たれて体内の臓器や骨を正確に打ち砕く。
「ファイア!」
たとえるならばこれは、体内で戦争が起こっているに等しい。
リーブラは喉から尾へかけて突き進みながら、休む事なく弾薬をばら撒いて土龍を体内から破壊し続ける。
いくら無敵の堅牢さを誇る龍といえど、いかに体内もまた強固であるといえど。
それでもこれは拷問だ。彼は今、地獄を味わっている。
喉を通して入り込んで来た異物が食道を焼き尽くし、胃袋を破壊し、腸の中で幾度となく破壊行為を繰り返す。
「ファイア! ファイア! ――ファイア!」
喉から尾へと到達したリーブラが身体中を破壊して外へと飛び出し――否、飛び出さない。
ここで行った事はまさかの逆走だ。
一度走破した場所を再び飛翔し、またも破壊を繰り返しながら突き進む。
そうして目指す到達点は一つ。土龍もそれを理解したのだろう。悲鳴にも等しい絶叫をあげた。
『やめろ、やめろおおおお!』
目指す先は――脳。
再生も追いつかない速度で土龍を焼きながらリーブラが喉まで戻り、そのまま喉を貫いて進路変更。
頭蓋へと光の刃を突き立てて切開を開始した。
龍ともなれば最も重要な器官である脳を守る頭蓋も当然桁外れの強度を持つ。
その強固さは鱗以上であり、数値にして50000を上回る。とても普通の方法で突破出来る防御力ではない。
だがそんな事はこのスキルの前では全く関係がない。
与えるダメージは常に最大値固定。対象は敵全体。
リーブラは既に、脳を含めた全ての部位を攻撃対象としてロックオンしてしまっている。
「最終攻撃モードへ移行! リミッター解除!」
『リミッター解除承認!』
天秤の左右に取り付けられた宝玉が同時に輝き、リーブラの全身が白熱する。
これより放つのは天秤の一撃。
リーブラが知るはずもないが、地球の神話にて神々が見守っていた時代を人は黄金時代と呼んだ。
だが天秤の女神アストライアはやがて人に見切りをつけ、神と人が共に生きる時代は終わりを告げたのだ。
一度傾いた天秤はもう戻らない。天秤が神を人から遠ざけ、神が人を操る時代は今日ここに終わりを告げる。
これはその、運命を決める一撃――。
『出力1000%!』
「スキルセレクション……ブラキウム・オーバーフロー!」
土龍の頭の中で破壊の奔流が渦巻いた。
基本は今までのブラキウムと何も変わらず、だがその出力が違う。
ダメージ数値が限界を突破し、999999ダメージが回避も防御も許さずに炸裂する。
脳細胞を掻き回し、砕き、すり潰し。
もはや龍は絶叫すら上げられない。白目を剥き、口の端から泡を垂れ流すだけだ。
そうして完全に動かなくなった土龍の口からリーブラが飛び出し、高く高く飛翔する。
直後、急降下。
巨大化した光の刃を加速を乗せて振り下ろし、土龍の首を寸断した。
『……お……お……』
最期に苦渋と屈辱に満ちた、言語になっていない呻き声を漏らして土龍は光の粒子となり、轟音を立てて爆散する。
飛散した光が短時間ではあるが宇宙の闇すらも覆い隠して輝く様は幻想的で、しかしリーブラはそれに何ら感慨を感じる事はない。
神の代行者とまで呼ばれた龍の最期。それを見届け、リーブラは小さく呟いた。
「任務完了……帰還します」
己が帰るべき場所は女神の下ではない。
自らの意思で判断して決めた仲間達の下だ。
主の意思から外れた神の失敗作は、こんな失敗作にも「おかえり」と言ってくれる仲間達の下へと帰還していった。
リーブラ「ニンジン、いりませんよ」
デンドロビ〇ム……じゃなくてミーティ〇……でもなくて、リーブラ最終武装モードが最終ステージで解禁されました。
裏切って途中で離脱したキャラが最終話だけ味方に戻ってくるとクッソ強いのはスパロボのお約束。
正直、リーブラの戦闘シーンが書いてて一番やりたい放題出来て楽しい。
Q、ところでこの追加武装、作中ではひたすら火薬庫とか上皿天秤とかダサい名前で呼ばれてたけど正式名称あるの?
ルファス「鈴木+田中+ゲートキーパーで鈴中キーパー……」
リーブラ「元ネタであるアストライアが見守っていた黄金時代にちなんでゴールデン・エイジです」
ルファス「え? いや、鈴中……」
リーブラ「ゴールデン・エイジです!」
【リーブラ・GA】
レベル 1000
種族:人造生命体
属性:金
地形適応:空A 海B 陸C 宇S
HP 280000
EN 600
STR 23000
DEX 13500
VIT 20000
INT 1300
AGI 9000
MND 3000
LUK 1600
備考:撃墜されても通常のリーブラに戻って継戦可能