第178話 カルキノスのリベンジ!
「邪魔だあああああ!」
アイゴケロスが叫び、天龍を掴んで振り回した。
とんでもない言いがかりもあったものである。何せ戦いの場に割り込んで来たのはアイゴケロスの方であり、どちらが邪魔をしたのかを問えばアイゴケロスにこそ非がある。つまりこの台詞はむしろ天龍が言うべきだ。
だがそんな道理などこの戦いには通らぬし常識的な理屈など一切通じない。
常識を動けぬように拘束して四方八方から集団リンチし、再起不能にした果ての戦場こそがこのフィンブルの冬だ。
結局の所、この戦いは理不尽VS理不尽の最強理不尽決定戦でしかなく、言ってしまえば我儘の押し通し合いだ。
自分達が強い、自分達が正しい、相手は気に入らない。だから滅びろ。
突き詰めてしまえば、どちらの陣営も言っている事はこれに尽きる。
比較的常識人寄りの思考をしているサートゥルヌスはそんなアイゴケロスの所業にドン引きし、ないわーと呟いていた。
『おのれ……おのれおのれおのれおのれ!
どいつもこいつも俺と月龍の戦いを邪魔しおって!』
無論これに一番腹を立てたのは天龍である。
怒りのままに牙をアイゴケロスへ突き立て、身体を食い千切る。
だがアイゴケロスも負けじと天龍を掴んで引き剥がそうとし……そこに無数の閃光が同時に飛来して天龍へ炸裂し、弾き飛ばした。
魔神族が行ったような攻撃として成立しないようなものではない。
アルゴナウタイ達による一斉砲撃だ。
「こらー、アイゴケロス! 何やってるのよ!
私達の相手は木龍でしょうが!」
『そうじゃぞー、儂はこっちじゃ』
ポルクスの叱咤に合わせ、木龍がアルゴー船に並んでアイゴケロスを窘めた。
距離を詰められた事でポルクスがぎょっとするが、木龍は『愉快愉快』と笑って距離を取る。
「一体相手するも二体相手するも同じ事よ。
どちらも我が主の敵だ。纏めて葬ってくれる! かかってこい!」
「それが難しいから各個撃破しようとしてるんでしょ! この馬鹿あ!」
ポルクスは泣きたくなる気持ちで叫び、しかしすぐに冷静な思考で戦況を分析した。
この戦いの中で自分が役立たずだという事は痛い程理解している。
ルファスから受け取った指輪のおかげでかろうじて戦いは見えているし、こうしてアイゴケロスを罵倒する事も出来ている。
ならば出来る事は考える事……英霊の召喚すら満足に出来なくなった自分が唯一持っている武器はこの、長年の時を無駄に生き続けた経験と頭だけだ。
龍を同時に相手にするのは難しいから各個撃破に臨んだ……だが戦況は決して思わしくない。
特にオルムだ。当初は同格の龍同士なのだからむしろ一番勝ち目がある場所だと思っていたのだがとんでもない。一番不利なのが彼だった。
同格の戦いなのに、オルムには本能の枷がかかってしまっている。
テラや魔神族もいるようだが、残念ながら戦いをひっくり返す要因にはなれないだろう。
つまりこのまま放置したらオルムは負ける。そして手の空いた天龍がどこかの戦闘に割り込んでそこから瓦解してしまうかもしれない。
アイゴケロスは勿論そこまで考えていないだろうが、結果として彼の言葉はあながち間違いとも言い切れなかった。
「……いいわ。どのみちこうなったら乱戦は避けられない。
オルムとの共同戦線に切り替えて、天龍と木龍を同時に相手にするわよ!」
ポルクスは手を掲げ、意識を集中する。
召喚出来る英霊は多くて後十人。つまり今までのような物量押しは出来ず、半端な者は呼び出せない。
だがこの戦いにはかつてのルファスの部下達ですら力不足で、簡単に消されてしまうだろう。
ならば誰を呼ぶ? アイネイアース? ウラヌス? それとも別の英雄?
否、駄目だ。それでもまだ足りない。もっと強い者でなければ戦う事すら出来ない。
ならば……ならば候補は一人。いや、一体のみ。
言う事を聞くような奴ではないが、そこは恐らく問題ない。奴の性格を考えればルファスとさえ会わせなければ勝手に龍に向かって行ってくれるはずだ。
問題はそもそも呼べるかどうか。ポルクスは彼の事を英雄などと思った事すらない。
だが無理だ無駄だと言っている時ではないのだ。出来ないなどという言葉は通じない。やるしかないのだ。
無理だというなら今、可能にすればいい。出来ないなら今出来るようにすればいい。
ルファスは自分の殻を破って、その果てにこの戦場がある。
ウィルゴの飛翔を目の当たりにした。オルムが己の限界を超えつつある事も何となく分かる。
ならば自分だって、せめてこの程度の芸当はやってみせなければ恰好がつかないだろう。
「妖精姫が認めず、されど命ずる……ヴァルハラより来たりて我が剣となりなさい。
汝、十の頭を持つ竜の王」
「っ!? ポルクス、それは……」
「――降臨せよ、ラードゥン!!」
ポルクスが叫び、雷光が轟いた。
本来の用途とは明らかに異なるスキルの使用はポルクスの身体へ負担をかけ、全身を痛みが駆け抜ける。
アルゴナウタイは英雄を呼び出すスキルだ。英雄と認めていなければ発動しない。
そしてポルクスはラードゥンを英雄だなどと思っていないし、今後もそうは思えないだろう。
それを無理矢理英霊にして召喚するのだ。無茶などという次元ではない。
だがその無理を通し、召喚は成立する。
雷光が徐々に形となり、やがて光の中から十の首を持つ竜が顕現して咆哮をあげた。
ラードゥンは十の首を動かして戦場を見渡し、それを見た天龍が馬鹿にするように言う。
『ふん、何を呼ぶかと思えば……出来の悪い我等の模造品共の親玉か。
そんなクズを呼び出して俺に勝てるとでも思ったか? クククッ……程度が知れるぞ、妖精姫。所詮はお前も木龍の分身だな。
竜王だと? 大層な名ではあるがな、塵屑の王など薄汚いだけだ。分を弁えよ』
天龍の嘲りに、しかしポルクスは不敵に笑った。
予想通り……アイゴケロスに振り回された際のあの台詞から性格は大体見えていた。
あの龍は己と同格の存在は認めるが、それ以外は見下すタイプだ。
ならば彼の前にラードゥンを出せば、必ずこういう事を言ってくれるだろうと予想していたし、それが狙いだった。
ラードゥンの十の首全てが一斉に天龍を見下ろし、怒りに満ちる。
「……今、我々を侮辱したのは貴様か?」
十の首を代表して右端の首が声を発した。
いつぞや召喚した時と異なり、今回は自我を失ってはいない。
全盛期の、ルファスに討たれる前の竜王がそのまま呼び出されてしまっている。
それ故に敵に回ってしまえば厄介この上ないが、どうやらひとまずその心配はなさそうだ。
『だったらどうした、粗悪品。事実を言われて頭にでも来たか?
笑わせるな、ゴミがゴミと呼ばれて憤るなよ。傑作だぞ』
「殺す!」
ラードゥンが殺意を剥き出しにし、天龍へと飛びかかった。
まずは狙い通りだ。いかに竜王といえど単騎では龍には勝てないだろうが、それでもあれはレオンと同格の力を誇る。そう簡単にやられはすまい。
その間にアルゴー船をオルムの近くへ移動させ、オルムへと語りかけた。
「オルム、ここは協力して戦うわよ。手を貸しなさい」
『いいだろう。私の力を君に委ねよう』
ポルクスは頷き、カストールが彼女の意識を反映して指揮を執る。
本体を同じくする双子は言葉を介さずとも相手の考えている事を何となく読み取れる。
そしてカストールは更にそれをアルゴナウタイ全体へと伝える事を可能とし、英霊の軍勢をまるで一つの生き物のように使いこなすのだ。
その彼が手を翳して示すのは木龍。
まずは木龍を集中して叩き、その後に天龍を倒そうというのだろう。
木龍はその見え透いた戦略に口の端を歪め、まずは攻撃の起点だろうオルムを狙って尾を薙いだ。
そして直撃――しかしオルムは微動だにせず、手応えも何かおかしい。
よく見ればオルムと尾の間に何か蟹が挟まっているような気がする。
「アクベンス!」
『ぬおおっ!』
相手の力を利用してカウンターを放つカルキノスのスキルが炸裂し、木龍が思わず仰け反った。
それと同時にカストールは天龍へと手を翳し、全員がそちらへと反転した。
『し、しもうた!』
「総員、発射!!」
カストールの掛け声と同時にオルムとアイゴケロスが口から破壊光を放った。
サジタリウスが必中の矢を放ち、ピスケスが口から閃光を吐き出す。
カストールが振り下ろした錨から刃が放たれ、アルゴー船の乗組員達がそれぞれのスキルを発動する。
更にアルゴー船の全砲門から一斉に砲撃が放たれ、それらが天龍へ直撃する。
凄まじいエネルギーの奔流に晒されながらも天龍がかろうじて踏み止まるが、まだ終わっていない。
ラードゥンの十の口から同時に閃光が放たれ、それは敵に当たる事なく一か所に集約した。
自分で自分の攻撃を相殺したのだろうか? それとも誤射か?
否、そのどちらでもない。
ぶつかり合った十の閃光は混じり合って巨大化し、紫電を伴った大火球となる。
それは留まる事なく巨大化し、破壊の予兆に世界が鳴動した。
「……死ね」
限界まで高まった破壊のエネルギーが解き放たれた。
それは天龍と拮抗していた全員のエネルギーと交じり、一瞬静寂が訪れる。
「不味い、伏せろ!」
カストールが素早くポルクスを抱え、全員が防御体勢を取る。
直後、天地を焼き尽くさんばかりの大爆発がミズガルズの一部を抉りながら火柱をあげた。
爆風に飛ばされそうになりながらも、ポルクスは次なる一手を兄へと伝え、それを兄が皆へと伝達する。
「ピスケス……いや、エロス! 君の固有スキルを!」
「何故言い直した!?」
カストールの指示を受け、ピスケスが文句を言いつつもスキルを発動した。
すると彼の身体がマナへと変わり、吸い込まれるように木龍の中へと入り込んでいく。
元々女神側の陣営だった者達は女神の力の一部とも言うべきものを固有スキルとして習得していた。例えばパルテノスのウィンデミ・アトリックスやポルクスのアルゴナウタイ。ディーナの認識操作の能力などはその最たるものだろう。
そしてそれはピスケスも例外ではない。
彼の固有スキルの名は『神の紐』。その効果は自らを相手に憑依させて操るというものであり、女神が今まで散々他者を操って来た能力に酷似している。
ルファスの得た『向こう側』の知識で分かり易く言えば、相手を自分のアバターとして操作してしまう能力だ。
オンラインゲーム風に言うならば、他者のアカウントに不正ログインする行為によく似ているかもしれない。
まさに、神の子だからこそ許された反則的な……いや、まさしく反則そのものの力と呼んでいいだろう。
この力を使えばあるいは異形の神もどうにか出来たかもしれないが、あの時は邪神の醜悪さに憑依する事を拒んだ事で結局発動する事はなかった。
しかし憑依した相手は木龍。いかにピスケスといえど思い通りに操作出来るはずもなく、精々が身体の動きを僅かに鈍らせるのが限界だ。
だがそれでいい。ピスケスが内側から妨害し、攻撃の照準をわずかにズラしてくれるだけでも十分勝率が上がる。
『ほっほう、儂の動きを抑えるつもりか。面白い真似をするのう』
『ぬおお……こいつ、何て奴だ……! 余に憑依されているというのに、まるで自我を失う気配がない……』
木龍の身体から木龍とピスケス、二人分の声が響いた。
両者の意識はそのまま残り、身体の主導権も木龍が握ったままだ。
このままピスケスが乗っ取る事が出来れば楽だったのだが、やはりそう簡単にはいかない。
「カルキノス!」
「OK!」
カストールは次にカルキノスに指示を送り、カルキノスは素早く天龍の後ろへと回り込んだ。
本来は盾であるはずの彼が後ろに下がるという意味不明な行動に木龍はいぶかしむが、しかし次に我が子達が何をしてくれるかという期待もまた木龍の中にあった。
『何を企んでおるのやら……』
ピスケスの憑依に、盾であるはずのカルキノスの後退。さて、これが何を意味しているのかと木龍は考える。
普通に考えればただの戦力ダウンでしかなく、ピスケスであろうと自分を操作する事など出来ない。
だがそれだけに何かを企てているのは明らかであった。
ここはあまり迂闊な行動には出ず、軽い攻撃で様子見でもするべきだろう。
だが、もう一体の龍が煙の中から姿を現して怒りに満ちた声で木龍を叱咤する。
『何をしている木龍! 邪魔者共を早く始末せんか!
この戦場に弱者がいつまでも居座るなど、目障りで仕方がない!』
『まあ待て、天の。こやつら何かしようとしておるぞ。
もう少し慎重に攻めた方がいいじゃろう』
『関係ない! 下らぬ策略など力で捻じ伏せてこその龍だろうが!』
『……どうなってもしらんぞ』
天龍が口を開き、白い輝きが集束する。
木龍が口を開き、雷光が輝く。二体の龍による同時ブレス攻撃だ。命中すれば間違いなく全滅してしまうだろう。
オルムが咄嗟に口を開いて相殺を試み、更に竜王が天龍の攻撃に合わせて再び十の口からブレスを放つ。アイゴケロスも同じく手の中に黒の光を生み出した。
だが弱体化してしまったオルムでは完全な相殺は出来ない。竜王やアイゴケロスと合わせてようやく片方のブレスを相殺するのが限界だ。
そして発射する直前、カストールの口から出た次なる指示は彼にとって予想外のものであった。
「今だピスケス! ブレスの威力を増幅させろ!」
『……!』
ピスケスは相手に憑依して身体の主導権を奪う事が出来る。
そしてこれまで女神が操った者達が強くなったのと同じように、憑依した相手に自分の力を上乗せして強化する事も可能だ。
しかし、ここで木龍を何故あえて強化するのか……その謎の指示にテラやオルムも驚きを見せるが、すぐにその答えは示された。
放たれた木龍のブレスがアルゴー船を避け、天龍へと――否、その後ろに移動していたカルキノスへと向かったのだ。
そう、カルキノスにはこれがある。相手の単体攻撃を自分へと引き寄せて自らに命中させる被絶対命中スキル『アセルス・ボレアリス』が。
だがそれはサジタリウスの必中の矢のように攻撃そのものを瞬間移動させるわけではなく、単に攻撃を曲げて自分へ飛ばすだけのお粗末なものだ。
攻撃とカルキノスの間に遮蔽物があれば簡単に失敗してしまうようなものでしかなく、その弱点を知る者からすればこの被絶対命中からのカウンターを防ぐ事は容易い。
そう……この被絶対命中スキルは間に遮蔽物があれば、それに当たってしまうのだ。
『ぐおおおおおおおおおおおお!?』
即ち、同士討ちである。
ブレスをオルム、アイゴケロス、竜王の三体がかりで相殺されてしまった天龍へ、今度は同じ龍である木龍のブレスが増幅した状態で命中してしまった。
無論その隙を逃すオルムではない。
彼が牙を剥いて天龍の首元へと喰らい付き、血飛沫をあげる。
反対側からはテラが全霊の一撃を放ち、親子二人の同時攻撃で天龍の首が千切れかけた。
もはや皮一枚で繋がっているような状態だが、それでも尚生きているのは流石天龍と呼ぶべきなのだろう。
だがそれもここまでだ。アイゴケロスが追い打ちで天龍を掴み、その首を力任せに捩じる。
龍の強固な骨が砕ける音が響き、そして遂に首が千切れ飛んだ。
その凄惨な光景にポルクスが思わず目を背け、だが天龍は呆れた生命力で最後の反撃へと転じる。
『まだだ! 俺はまだ生きている! 俺の戦いはまだ終わっていなァい!』
天龍が首だけになりながらも最後の反撃へと転じ、ブレスの発射体勢へと入った。
相殺は――出来ない。今度は位置が悪い。
オルムとアイゴケロスは天龍を仕留める為に近付いてしまっており、だが天龍の口が向いているのはアルゴー船だ。
ここからでは二人がアルゴー船前に戻って攻撃を撃つよりも天龍のブレスが届く方が速い。
アルゴナウタイ達が咄嗟にシールドを展開するが、それがどれだけの意味を持つのか……残念ながら、多少軽減した所で撃沈は免れないだろうし、他はともかくポルクスは確実に死ぬだろう。
『死ねええええ!』
天龍の口から最後のブレスが放たれた。
光よりも速く直進する輝きは竜王の半身を消し飛ばし、アルゴー船へと迫る。
だが命中する寸前で光は阻まれる。
間一髪で間に割り込んだ十二星の盾――カルキノスによって弾かれていたのだ。
だがいかにカルキノスといえど龍のブレスを受けて無事では済まない。
いかに今はルファスに引き上げられてレベル1000に達しているとはいえ。いかに天龍が死を前にして弱っているとはいえ。いかにアルゴナウタイ達のシールドがあるとはいえ。
それでも龍のブレスは星をも砕く。弱いわけがない。
甲羅が溶解し、砕け、一瞬でカルキノスのHPが危険域へと落ち込む。
しかし相手からのダメージが大きければ大きいほど彼のスキルもまた脅威を増す。
「アクベンス!」
天龍のブレスを切り裂きながら、カルキノスが突進した。
ハサミがボロボロになり、罅割れる。
だがそれでも止まらずに倍返しの刃が天龍の額へと突き刺さった。
こうなればもう勝負ありだ。首だけになってしまった天龍に、己の力すら上乗せされたこの攻撃を跳ね返す力などない。
彼は呆然と、信じられないように呟く。
『……お、俺が、負けた……?
地上の、小さき者達に……』
しばしの放心。
だが彼はやがて全てを悟り……笑った。
『ふ、ふはは……フハハハハハハハ!
見事、見事だ、小さき者達よ! なるほど、認めよう。間違えていたのは俺だったらしい。これほどの強敵を弱者と侮っては負けて当たり前よな!
だが心せよ、俺を倒しても戦いは続く。龍など所詮、あの方にとっては駒でしかない!
お前達がこの決して覆せぬ戦力差を前にどう戦うか、冥府の底から見届けてやるぞ!』
最後に捨て台詞を残し、天龍は死を受け入れた。
敗因は月龍以外を弱者と侮り、軽視した事。
むしろ歓迎すべきだった、喜ぶべきだった。こんなにも強敵が多くいたというのに、それを見落としていたとは何たる不覚か。
悔いをあえて語るならば魔法さえ使えれば……と思わない事はない。
アイゴケロスのせいで魔法が使えないというのは、龍にとっては武器を一つ奪われたに等しい事だ。
だがそれも含めて敵の戦果だ。認める他ない。
『――善き戦いを有難う……負けるなよ、小さき者共』
そうして天龍が己を打ち倒した敵を認めて敬意を払うと同時にカルキノスの刃が天龍を引き裂いた。
「……Good bye。天龍」
――四散。
龍の纏め役であった天の龍が砕け、鼓膜を破りかねないほどの轟音と共に光となって消え去った。
「うーむ、あれが日属性の頂点か……。
最後の方、死ぬ前だというのにやけにサッパリしていたな」
ルファスが腕を組んだまま天龍の死を見届け、その性格について少し考える。
まあ火龍よりはマシな奴だった。しかし慢心して戦って負けて、最後は敵を認めて捨て台詞を残して消える……何かこの流れはどこかで見たような気がしてならない。
はて何処だったか……。
「…………あ、私か」
なるほど、確かに日属性だ。
そんな妙な納得をルファスは感じていた。
【悲報】龍の頂点、蟹にやられる




