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第171話 サーペンス、ゲットだぜ

 怪物。化物。覇王。そして死の星。

 かつて世界中が彼女を恐怖し、様々な名で呼んだ。

 だがその全てが不足だったとオルムは知った。このルファス・マファールという規格外の上の更なる規格外を表す称号としてまるで相応しくない。

 これは……そう、これは『絶望』だ。絶望という概念そのものの具現化だ。

 惑星すらも噛み砕く牙で挟み込んだ。

 星々を消し飛ばす咆哮を浴びせた。

 星の爆発に巻き込んだ。時間の檻に閉じ込めた。太陽にも押し付けた。

 死ぬだろう、普通。どう考えても効かないはずがないだろう。

 なのに平然としている。まるで通じていない。

 挙句の果てにこれでまだ本気すら出していない。武器も手にしていない。

 ……どうしろというのだ。

 こんな絶望を相手に何をすればいい? どうすればこれは倒せる?

 力を使いすぎてもはや龍の姿すら保てなくなり、オルムは人型へと変わってしまう。

 あくまで真の姿は龍だが、人型の姿にはエネルギー消費を抑えるという役割も持つ。

 真に命の危機に晒された時、オルムの生存本能は人型への変化を強要する事で少しでも消耗を抑えて生存率を高めようと働いてしまうのだ。

 だが戦闘の場においてそれは完全に欠陥だ。

 ルファスがオルムの頭を掴み、光を超えて宇宙を翔けた。

 太陽系の外へと飛び出し、恐らくはミズガルズの数倍の大きさを持つだろう惑星へと叩き付けられる。

 だが勢いは尚も衰えず、惑星に亀裂が走った。

 ――破壊。

 ただの一撃にすら耐えられずに惑星が崩壊し、爆発を起こす。

 その大熱波の中、ルファスは更にオルムを掴んで飛翔。

 力任せに放り投げてオルムを太陽へと投擲した。

 獄炎の中をオルムが通り過ぎ、反対側から飛び出すと同時に太陽を迂回してきたルファスに再び捕まった。

 まるでちょっと遠回りをする程度の気楽さだ。余りに馬鹿げている。太陽はそんなに小さくない。

 続けて拳の連打。オルムも必死に避けようとするが、とても回避出来る速度ではない。

 放たれる攻撃の全てが光を置き去りにし、ほぼ放つと同時に命中している

 攻撃を行ってから当たるまでの時間が存在していないに等しい。

 まるで因果関係の逆転――光すらも遠くに置き去りにしたルファスの攻撃は最早当たるという結果を先に出しているかのようだ。こんなものを回避しろというのが無理だ。

 オルムはここまでよくやったと言えるだろう。掛け値なしによくぞここまで戦ったと言えるだろう。

 だが彼はやりすぎた。ルファス・マファールをその気にさせてしまったのだ。

 ルファスに強敵と認められる事……それは戦いの終わりを意味する。一方的な蹂躙の開始を意味している。

 こうなってしまえば打つ手などない。ただ無抵抗も同然に捻じ伏せられる事しか許されない。

 頭を掴んで顔を膝で砕き、首を掴んで直接大出力の魔力を流し込む。

 全身を焼かれ、打ちのめされ、もはや動く事すら出来なくなったオルムを掴んだままミズガルズへと飛ぶ。

 成層圏を抜ける直前で速度を落とし、先程までと同じ孤島の上に着地を決めた。

 ……が、それと同時に孤島が砕け散った。


「……いかん。加減を誤った」


 うっかりで何の罪のない孤島を壊してしまった事に罪悪感を感じつつ、錬金術で島を再構築。

 地形を覚えていなかったので微妙に形が変わってしまった孤島の上で既に瀕死のオルムを手放した。


「やはり最初に少し慣らしてから戦うべきだったか。急に全盛期の力が戻ると加減が効かん」


 私もまだまだ精進が足りん。

 そんな事を考えながらルファスは上を見る。

 すると、そこには二人の戦いを感知してここまで駆け付けたのであろうアルゴー船の姿があった。

 船の手すりの上にはベネトナシュも腰かけており、不機嫌そうに腕を組んでいる。

 随分と速い到着だ、とルファスは笑いそうになった。

 まだオルムとの戦闘が始まってから、ほんの二十秒も経過していないというのに。

 会話にかけた無駄な時間を除けば二秒すら経過しているかどうか。

 ……そう、この戦いは始まってからここまで、一秒程度しか使っていない。

 両者が数段上の時間軸へ移行し、体感時間を加速させて戦う以上、現実でかかる時間などほんの一瞬だ。

 光すらも超えて戦うならばそれは、時間を停止させたまま戦っているに等しい。

 むしろよくぞこれだけオルムは戦ったものだと褒めるべきだろう。

 少なくともルファスの当初の見立ててでは、一秒の半分あればオルムは倒せるはずだったのだから。

 船から十二星が飛び出し、ルファスへと駆け寄る。

 それと同時にテラも走り出し、オルムとルファスの間へ割って入った。


「ルファス様、大丈夫ですか?」

「問題ない。それより魔神王を治療してやれ」


 そう言ってルファスは周囲を見渡し……そこにウィルゴがいない事に気が付いた。


*


 どうにか心残りだった魔神王との戦いも無事に終わり、私は内心で軽い安堵を覚えていた。

 ここまで打ちのめしておいて無事と呼ぶのは一般の定義からはずれているかもしれんが、一応殺してはいないので勘弁して欲しい。

 しかし……うむ、魔神王は予想以上に手強かった。

 嫌味などではない、本心からの感想だ。

 自分で言ってしまうと自惚れのようになってしまうが、ハッキリ言って一対一で私に勝てる生物などこのミズガルズには存在しないし、それは龍とて例外ではない。

 その私に全力とは言わないまでも、七割強の力を使わせたのだ。これは誇っていい戦果だろう。

 全力の私を100として、寝惚けていた時の……つまりこの世界に戻って来たばかりの時の私が大体24。アルカイドを使っても36が精々だ。

 そして、最弱状態の私の強さがレオンと同じくらいだ。

 こう言えば私の七割がどれだけのものか少しは分かるだろうか?

 魔神王はそれを引きずり出したのだ。戦いこそ私の圧勝だったが、この上ない敢闘だったと言えるだろう。

 

「父を殺さぬのか?」

「昔の私ならそうしただろうな。だが今の私は昔程余裕がないわけではない。敗者に鞭は打たんよ」


 テラの問いに私が答えると、十二星全員がきょとんとした顔になった。

 そんな中、アリエスが全員を代表するように問いを発する。


「あの、ルファス様……何か一人称が……」

「ああ、昔に戻した。変か?」

「あ、いえ、そんな事ないです! ただ、凄く懐かしくて……」


 冒険者時代の私を知るアリエスにしてみれば、この一人称は別に違和感のないものなのだろう。

 少し驚きながらも、懐かしそうに私を見ている。

 逆に困惑しているのは、覇王時代の私しか知らないメンバーか。

 具体的に言うとスコルピウス、アイゴケロス、ポルクス、カストール……まあ、カルキノス以外の全員だな。

 そもそも私の冒険者時代を知るのは十二星だとアリエス、タウルス、カルキノスだけだ。

 今となっては懐かしいが、カルキノスなど元々は捕獲する気もなかったのに別の魔物を捕獲しようとした際に、偶然間に入って来ただけのあいつを誤って捕獲してしまったのが始まりだったからな……。


「ところで、ウィルゴはどうした?」

「彼女は……その、今はパルテノスと一緒にメラクと話してます」

「メラクと?」


 ウィルゴとメラク……まあ分からない組み合わせでもない。

 お互い天翼族だし、特にウィルゴは自分以外の天翼族とちゃんと話す機会が今までなかった。

 ドラウプニルでは参加者の中に一応天翼族はいたものの、遠目で見かけたくらいだ。

 私は私で、天翼族というかそこから派生したバグ種族みたいなものだしな。

 格好付けて名乗るなら、そうだな、黒翼族ってとこか。

 一人一種族というと格好いい気がしないでもないが、何の事はないただのぼっちである。


「とりあえずまずは互いの情報交換といこうか。私がいない間の事を知りたい」


 私の提案にポルクスが頷いたのを確認し、それから私は倒れているオルムへと向かった。

 ウィルゴがいないなら仕方ない。十二星で回復の術を得意としているのはウィルゴの他にはディーナがいるが、今はその両方が抜けている。

 ピスケスやサジタリウス、カストールも一応使えない事はないが、応急処置レベルだ。

 ならば私がやるしかないだろう。そう考えたのだが、テラがオルムを守るように立ち塞がった。

 いや、別に止めを刺そうとしているわけではないのだが……。

 まあ二百年前の私がアレだったからな。警戒するのも無理はないか。

 客観的な視点を得たから分かるが、昔の私は本当に酷かった。

 視界の端に一人でも魔神族が映ったらダッシュで追いかけて仕留めに行ってたからな。

 とりあえず、まずはテラをどかすべきだろう。

 そう思い行動しようとした私だが、瀕死のオルムが立ち上がって私とテラの間に入ったのを見て動きを止めてしまった。

 こいつ……もう意識などないはずなのに。


「……テラに、手を、出すな……」


 ブツブツと、まるで呟くようにオルムが口にしたのは紛れもない息子への愛であった。

 それを聞いて私は納得する。やはりそういう事か。

 オルムが女神を裏切った理由がこれでようやく分かった。

 何の事はない。こいつもまた、一人の父親だったのだ。

 息子を守りたい。ただそれだけの理由で女神に反旗を翻しただけの、どこにでもいるような父親だった。

 私の愚父とはえらい違いだ。正直、テラが羨ましくすらなるよ。

 テラもまた、オルムの口から出た言葉を信じられないような顔で聞いていた。


「テラよ、どうやらこれが答えのようだな。

こいつが女神のシナリオに反したのは全て其方の為だったらしい」

「父……上……」

「さ、そこを退け。手遅れになる前にな」


 私はテラを手でやんわりと退け、オルムへ手を翳す。

 そして回復の天法を施しながら、彼へ話しかけた。

 こいつなら、これで意識も戻るはずだ。


「オルムよ、其方が私に挑んだ理由は分かっている。

其方は龍だ。女神に挑もうにも、その身体は決して女神に歯向かえん。

女神本人はおろか、その眷属にさえな。

だから女神と戦う為の剣として私を欲したのだろう?」


 オルムが私に挑んだ理由。そしてわざわざ、私の力が戻るのを待った理由。

 それは私という戦力を欲したからに他ならない。

 オルムは決して女神と戦えない。これは彼の強さ云々の話ではなく龍としての本能だ。

 だから彼には女神に対抗出来る剣が必要だった。

 しかしその剣は戻って来てみれば錆び付いてしまっており、そこらのナマクラよりは使えるものの女神にはとても挑めるものではない。

 だから剣が元の姿に戻るのを待ち、全霊を賭して挑んだ……そんな所か。

 勇気……というよりは無謀だな。

 私の本来の力を知っているならば、龍単騎の力では勝てない事くらい分かっていただろうに、それでもこいつは私に挑んで来た。

 それほどに息子が生きる未来が欲しかったのだろう。


「私も同じ理由で此度の戦いに応じた。

私の剣となれ、魔神王オルム。女神と戦う為に私は其方という戦力が欲しい」


 オルムを女神の呪縛から解き放つ術はない。

 だが呪縛の上から更に別の呪縛を被せる事で相殺する事ならば可能だ。

 私の支配力がオルムの本能を上回れば、女神やその手先と戦う事も不可能ではないだろう。


「……君の剣となれば、私も戦えるのかね?」

「確約は出来ん。だが可能性はゼロではない。

少なくとも、其方が私に勝つよりは余程現実的な案だ」

「……そうか。ならばやってくれ」


 オルムは淡い笑みを見せ、抵抗の素振りもなく目を閉じた。

 終わってみれば単純な戦いだった。

 この戦いは要するに勝者が敗者を部下にするという、それだけの戦闘だったのだ。

 どのみち手を組んで女神に喧嘩を売る事は変わらない。

 ただ、どちらが上かを決めるだけの子供染みた喧嘩。それが星々まで砕いたあの戦いの真相だ。

 まあ、オルムの方には私が上になったら魔神族を皆殺しにされてしまうかもしれない、という懸念もあったのだろうがな。

 とはいえ、勝ちは勝ちだ。勝者の権利として遠慮なくスキルを行使させてもらう。


「キャプチャー!」


 モンスターテイマーのスキルを発動し、オルムを『捕獲』する。

 恐らくこれしかオルムが女神に挑む方法はない。

 女神の呪縛の上から、私が呪縛をかけて支配する。

 こうなれば後は『女神と戦うな』という奴の本能と、『女神と戦え』という私の命令の鬩ぎあいとなり、私の支配力が上回ればオルムの本能を帳消しに出来るはずだ。

 言うまでもないが、これはかなり無茶な方法だ。

 例えるならばそうだな……眠くて眠くて仕方ない人間がいたとして、そこに上司がやって来て、寝るなと一喝して頭を鷲掴みにし、無理矢理立たせる。私がやろうとしているのはそれに近い。

 とはいえ、もし負けた場合は私が捕獲されていただろうから文句は言わせない。


「かつて蛇遣い座は蛇座と一つだったという。

十三星に空席はないが、蛇遣いの一部として其方を迎え入れよう。

名付けよう。其方の星は……サーペンス。

覇道十三星、『蛇遣い』の片割れ、『蛇』のサーペンスだ」


 オルムに役職名を与え、無理矢理覇道十三星にねじ込んだ。

 別に、他に適当な名を与えてもよかったんだが、十三星より強い他の星とか何か恰好つかない。

 それよりは多少無理矢理でも十三星に入れてしまった方がいいだろう。

 これで十三星なのに人数が十五人になってしまったが……まあ別にいいや。

 私は基本的に適当なのである。

     炎 ∩

    (´∀`)/

   _| つ/ヽー、_

  / ヽ_(____/

   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

コミカライズ企画、順調に進行中。

詳しい情報は宣伝用イラストと一緒に活動報告にも載せておきます。

絵師様やコミカライズチーム、担当様が頑張ってくれている中、

私も布団でゴロゴロしてポケモンをやりながら頑張っております。

……ちゃうねん。絵の事となるとマジで私、やる事ないねん……。

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