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第161話 えいゆうははりきっている

 アルゴー船の上、今そこにはレオンとタウルスを除く十二星全員とテラ、ルーナが揃っていた。

 新たに加わったアクアリウスとピスケスは久しぶりの再会を皆と喜び合い、ついでにエロスと連呼されて涙目になり、二百年経っても変わらぬノリに内心安堵していた。

 もっとも、パルテノスが既に故人で今はポルクスのスキルで顕現していると聞いた時は流石に驚いたようだが。

 何はともあれ彼等は現在、ルファスの帰りを待ちながらポルクスを中心として次の行動を話し合っていた。

 具体的には、ソルと名乗った男へどう対処するか、である。


「あの男は今の英雄を狙うと言っていたわ。つまり次に狙われるとすればメグレズかメラク、ベネトナシュの誰かという事になる」

「ベネトナシュは除外していいでしょう。マスターと行動を共にしていますし、仮に単独で動いていたとしても話に聞いた分ではソルという男が挑んでも返り討ちにされるだけです」


 ソルの言葉が事実だとするならば次に狙われるのは生き残った七英雄のいずれか……即ちメグレズ、メラク、ベネトナシュとなる。

 だがリーブラはその中から早々にベネトナシュを外してしまった。

 ソルという男は、いかに補助があったとはいえテラや三翼騎士、カストールでも戦える程度だったという。

 それでは恐らくベネトナシュには及ばないだろう。放置してもベネトナシュがやられる事はまずない。

 ならば残る候補はメグレズかメラクのどちらかだ。


「放っておいていいんじゃなあい? あいつ等がどうなろうと知った事じゃないわよお。

むしろ殺す手間が省けるわあ」

「我も同意だ。七英雄などを我等が気にかけてやる義理はない。殺されてしまえ」


 これに辛辣な意見を述べたのはスコルピウスとアイゴケロスの過激派二人である。

 執念深いこの二人は今でも七英雄の裏切りを許す気など全くない。

 殺されてしまうというなら大いに結構。敵同士が勝手に潰し合てくれて手間が省ける、くらいにしか感じないのだ。

 そしてそれは、口にこそ出さないが十二星の殆どのメンバーに共通する考えであった。


「てーかよお、今の弱体化した英雄なんか狙って向こうに旨味はあるのか?

そいつ魔神族の味方ですらないんだろ?」

「確かに意味が分からんな。余がそのソルという者ならばまず、龍を目覚めさせることに全力を費やすが」


 水瓶から上半身だけを乗り出したアクアリウスが疑問を口にし、それにピスケスも同意した。

 そう、ソルは女神側の存在だ。それはいいとして……彼の立場で見ると今更七英雄を攻撃する理由がどこにもないのだ。


「それより折角アクアリウスもいるのだ。

ネクタール作らせて戦力の底上げを行うべきではないか?」

「悪い、材料ねーわ。それにお前等のステータスは上がりすぎててネクタールじゃ効果殆どねえぞ」


 ピスケスの提案にアクアリウスは無理である事を示すように手をヒラヒラと振った。

 ネクタール……彼女自身が建国した国の名前にもなっているそれは彼女のみが生み出す事を可能とする神の飲み物の名だ。

 元々彼女の正体である『神器・海の女王』はそれを生み出す為のアイテムと言っても過言ではない。

 それを飲めばステータスが上昇するという夢の飲み物なのだが、その効果は対象者が強くなるほどに効果が薄まり、より高価な材料を要求される。

 例えば弱かった頃のアリエスなどは安価な材料から量産されたネクタールをガブ飲みしてステータスを上げた過去があるが、今のアリエスが同じ物を飲んでも効果は全く出ないだろう。

 ルファスに至っては、ステータスを僅か1伸ばすだけで数百億単位の金が消えるだろう。殆ど使用不可能と言っていい。

 ここにいる面子もルファス程ではないが、やはり極まっている。

 ステータスを1伸ばすだけで数千万の金が消えると考えるべきで、やはり効率が酷く悪い。

 残念ながらネクタールは所詮、弱者救済用のアイテムだ。

 アクアリウスがそこまで語り、再び話はソルへの対処に戻る。

 そしてパルテノスが腕を組み、とりあえず思い付いた事を述べた。


「話を戻すが、ソルの狙いは英雄と儂等が手を組まれては厄介と判断し、今のうちに始末しようという事ではないか?

あるいは七英雄を殺害してそれをルファス様の犯行に見せかけ、儂等と人類をぶつける策かもしれん」

「なくはないですが……正直、今の弱体化した人類が敵になってもミー達にはさほど脅威ではないでしょうね」


 パルテノスの言った事は決して有り得ない事ではない。実際二百年前はルファスへの恐怖心を高める事で人類VSルファスの構図を作り出し、彼女を失脚させたのだ。

 しかしあの時と今では状況が違う。あの時は皮肉にもルファス自身が鍛えてしまった英傑達がいた。人類の戦力が歴史上最も高まっていた時期だったからルファスとも戦えたのだ。

 だが今や人類は剣聖フリードリヒが最強と言われるまでに弱くなり……いや、正確にはルファス登場以前まで戻り、これでは十二星のうちの誰か一人が出るだけで滅亡まで追い込む事が出来てしまう。

 そう、敵として成立しないのだ。

 カルキノスがそう語ると、誰も反論は出来ずにしばしの沈黙が場を支配した。


「やはり私達の戦力を分断する罠と見るべきでしょう。

ここは放置してタウルスとの合流を優先すべきだと私は考えます」


 リーブラが無情に、しかしこの場における解答の一つを提示した。

 七英雄を殺す旨味など向こうにはないし、仮にあってもこちらにとっては左程問題ではない。

 それより怖いのが、これを真に受けて戦力を分断して七英雄の護りへ入り、その間に好き勝手に動かれたり各個撃破される事だ。

 仮に本当にメグレズやメラクが殺されてしまうとしても、こちらにダメージなどないのだ。

 ならば無視してしまえばいい。それがリーブラの出した結論であった。

 そう、勘違いしてはいけない。自分達は人類の味方などではない――ルファスのみに従う第三勢力なのだから。


「…………もしかしたら、七英雄殺害は目的ではなく手段かもしれないわね」


 しかし纏まりかけたその場にポルクスが言葉を挿んだ。

 現代の英雄を消される事は痛手ではない。少なくともポルクス個人の感傷はどうあれ、勢力としてみればこちらに痛手はないのだ。

 だがそれを起点に起こり得る事は、こちらにとってもダメージとなる。

 彼女はそう考えた。


「どういう事?」

「アリエス……確か、勇者一行はメグレズの所に行ったのよね?」

「うん、何か話す事があるんだってさ」

「じゃあ、勇者君の目の前でメグレズが殺されてしまったら彼はどう思うかしら?」

「それは……まあ、怒ると思うけど」

「そうね。じゃあそれをやったソルが魔神族を名乗れば?」

「魔神族を恨むんじゃない?」


 ポルクスの質問に、何を当たり前の事を、という顔でアリエスが答えていく。

 しかしポルクスはその解答に何か思う所があるのか、険しい顔をしていた。


「そう、恐らく彼は魔神族を恨むわ。でも力が足りなくて仇が討てない……。

これって、いつものワンパターンの絶好の機会よね?」

「あっ」

「多分、これが狙いなんじゃないかしら? 現代の英雄を始末して次代の英雄を誕生させる事。

オルムも今となっては女神様の敵なわけで……それを倒す英雄が女神様は欲しいわけじゃない?

それに、七英雄が死ねば人類は当然大きな怒りを抱くわ。……全員の憎しみや怒りを集めて力に変換する……そんなスキルがもしかしたら、勇者にはあるのかもしれない」


 ポルクスの言葉は憶測だ。だが状況を考えると、確かにそうなる可能性が高いものではあるのだ。

 レベル1000の勇者が誕生し、更にそこに女神の補正が乗れば、あるいはベネトナシュとすらも互角以上に渡り合える勇者が誕生するかもしれない。

 その勇者が人類全体を纏め、思念を集め、そして龍と共闘して向かってくる事があれば……。

 万一が起こるかもしれない。あの二百年前の再現が。


「わかりました。そこまで言うならばメグレズとメラクの所にそれぞれ戦力を向かわせましょう。

ただし罠である可能性を踏まえ、罠ごと踏み潰せるだけの戦力を連れて行くべきだと判断します。

タウルスの所へは私一人で向かい、残りのメンバー全員でソルを待ち伏せして下さい」

「貴女一人で?」

「タウルスと戦闘になる事は考えられません。ただ合流するだけならば私一人で事足ります。

……ああ、一応タウルスの代わりになるアルゴナウタイも必要ですね」


 リーブラの出した案は、罠である可能性を警戒しての全戦力投入であった。

 ソルが何を企てていようと関係ないほどの大戦力で一気に叩き潰してしまえばいい。

 単純ではあるが、実際変に考えて複雑な手を打つよりもこういう力押しの方が効果を発揮する事は往々にしてある。

 むしろ裏の裏を読む策略家気取りの相手にこそ、こういうゴリ押しが最も効いてしまうのだ。

 ポルクスはしばらく考え、やがて考えを纏めて頷いた。


「そうね。確かにその方がいいかもしれない。

でも私達を誘い出してタウルスの方に行く可能性もあるわ。

そもそも、あの場でわざわざ次の目的地を口にした事自体が怪しいわけだしね。

貴女も十分に警戒だけはしておいて」

「仮にこちらに来ても問題はありません。返り討ちにしてみせましょう」

「……」


 リーブラの頼もしい発言にポルクスは無言で彼女を見た。

 流石、というべきなのだろう。自分が負ける事など微塵も考えていない。

 実際、タウルスの所にソルが向かったが最後リーブラとタウルスの二人を相手にする事になってしまう。

 そしてタウルスの前では女神補正は意味を為さず、ブラキウムを初手で打ち込まれて瀕死にされた挙句タウルスに殴られて終わるだろう。

 同行させるアルゴナウタイも決して弱くはない。

 負ける要素は見当たらなかった。


「それじゃ、行動開始するわよ」


 ルファスは今もディーナを探しているのだろう。

 ならば主不在の今は、こちらに残る問題を自分達が可能な限り片付けておくべきだ。

 その決意の元、十二星はそれぞれの行動を開始した。


*


「よく来たね。歓迎するよ」


 メグレズの自宅。

 そこは現在、勇者一行と更に二人の来客を迎えていた。

 その来客というのがまた豪華だ。余りに豪華すぎてクルスなど卒倒しかけている。

 メグレズの隣に座るのは片翼の男であり、反対側にはドワーフの姿を模したゴーレムが座っている。

 天空王メラク。そして今は亡き鍛冶王ミザール――の人格が遠隔で操作しているゴーレムだ。

 即ち、七英雄のうちの三人がここに集っていたのである。これには瀬衣も度肝を抜かれた。


「なるほど、彼が『勇者』か。いい眼をしているな」

「そうかあ? 儂にはただの若造にしか見えんがなあ」


 メラクとミザールのゴーレム……面倒なのであえてミザールと呼ぼう。

 二人は値踏みするように瀬衣を観察しており、実に居心地が悪い。

 瀬衣としては先日話した末の自分の結論を伝えるべくここを訪れただけなのだが、まさか英雄の数が増えているとはとんだサプライズだ。


「ええと、メグレズ様。これは一体……」

「なに、大したことじゃない。私も君の姿に少しばかり刺激を受けてね。

何もせずに隠居をしているのでは若い世代に笑われてしまうと今更ながらに気付いたのさ」

「それに、ルファスにもな」

「全くだ。二百年間……私達は一体何をしていたのだろうな」


 メグレズとメラクがまるで自嘲するように笑い合う。

 何をしていたのか……それは自分達が一番よく分かっている。

 ――何もしていなかった。

 二百年前のあの時からずっと自分達の時は止まっていた。

 ああしなければよかった。こうしなければよかった。

 ああ、自分達は何て愚かで間違えていたんだと悔やみ続けて、そこで止まってしまっていた。

 間違えたならば償えばいい。愚かだったならばその過ちを少しでも正せばいい。

 だがそれすらせず、過去ばかりを見て二百年の時間を無駄に生きていた。

 少し魔神王と戦って傷を負って呪いを受けて、それだけの事でまるで十分な罰を受けたかのように振る舞って何もしなかった。

 だがこの若い少年はどうだ? 異世界から呼ばれたこの少年は、本来自分とは関係のないこの世界の為に走り回っている。

 弱くとも、実力など足りずとも、ルファスのように天地を割る力などなくとも、それでも出来る事はあるのだと必死に生きている。

 それと比べて、自分達の何と恥ずかしい事か。


「以前話して、私は思ったよ。

君は確かに力はない。ルファスどころか、今の私と比べてもね」

「は、はい」

「だがその代わり、君は戦う力よりも大事なものを持っている。どんな時でも腐らずに前に進もうとする意志。

己の正義を信じ、百人が口を揃えても尚考え、そして正解へと向かう力……正しい道を選べる力。きっと、それこそが君の持つ何にも勝る武器だ」


 メグレズ達は、かつてそれを選べなかった。

 女神の力に負け、間違えた道を歩んでしまった。

 そして今も尚、人類は何も変わっていない。相変わらずルファスを恐れ、怯え、同じ事を繰り返そうとしている。

 だがこの少年はそんな中にあって、正しい道を探していた。

 たった一人で、和平の道を必死に探し続けていた。

 そして今、完全ではないにしてもルファス達との共闘関係を得てここにいる。

 これを聞いた者は、あるいはこう言うだろう、『そんな事は誰でも出来る』。

 なるほど、その通りだ。実際誰でも出来る。力は必要ない。

 ただ勇者として召喚されたにも関わらず、味方からルファスがどんなに恐ろしいかを説明されたにも関わらず、それでも自分の意思で判断してルファスという化け物に接触して会話して、そして見極めて仲良くなるだけだ。そこに武力の類は一切必要ない。

 惑星を破壊する事は誰でも出来る事ではない。ルファスやベネトナシュにしか出来ない。

 だが、その惑星を破壊出来る者と会話するくらいならば誰でも出来るのだ。

 だが、そう主張する者がいたならばメグレズはこう答えるだろう。『ならばお前がやってみせろ』と。

 ……そう、誰でも出来るのに誰もやれなかった。だから二百年前の戦いがあったのだ。

 誰にも……自分にもメラクにもミザールにも、アリオトやフェクダやドゥーベにだって出来なかった。

 敵と味方に別れて殺し合ってしまった。

 故にメグレズは南十字瀬衣という少年を尊敬する。自分の一割も生きておらず、一割の力も持たないこの弱く小さい少年こそを尊敬する。

 そして考えたのだ。

 自分達も、いい加減時を動かすべきなのだ、と。

 異世界の少年ばかりに頼っていて何が英雄か。何が賢王か。

 本当に悔いているならば今こそ――この少年を全力で支えるべきなのではないか。

 そう考えたメグレズは、瀬衣と別れてからすぐに残りの英雄達へと接触を試みた。

 ベネトナシュは相変わらず無視していたようだが、どうやらメラクとミザールもルファスと再会して何かの答えを得ていたらしい。

 ならば目的は一つ。今こそ、過去の過ちを償う時だ。


「君に協力させてくれ、勇者よ。私達は君の指示で動こう」


 非力な少年の勇気が、三人の英雄を動かした。

【ネクタール】

アクアリウスが生成する事が出来るステータス上昇用アイテム。

以前ルファスが語った『ステータス上昇ドリンク』はこれの事。

能力値が低いうちは安価でガンガンステータスを上げてくれるが、対象者が強くなり過ぎると法外な額を要求される。

これはアクアリウスが意地悪をしているわけではなく、対象者の中にネクタールへの抗体が出来てしまう為、より強力で高価な素材が必要となるから。


その点オークは凄い。誰が食べてもHPが上昇する。

女神戦前に狩り尽くさなきゃ(使命感)

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次回!オーク滅亡!デュエル(蹂躙)スタンバイ!
[一言] オークの者たちが犠牲になれと言うのか!?
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