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第155話 ルファスのねこにこばん

物理法則さん「ヒャッハー! ついに俺様の時代がきたぜー!」

ファンタジー法則「やあ」

物理法則さん「なん……だと……」

ファンタジー法則「ルファス達と一緒についてきました。なのでルファス達は今まで通りミズガルズの法則で動けるYO」

物理法則「」

※ナイトウィザードの月衣のような状態。自分達の世界の法則を他所の世界にまで持ち込んでいる。


Q、じゃあマッハで動いても大丈夫なんですね?

A、ルファスやベネトは平気だけど本人達以外には物理法則適用されるから大惨事になります

「……どうやら、詰みのようだな。少しばかり気付くのが遅すぎたか」


 マファール塔の頂上、その玉座の間で一人の女性が疲れたように呟いた。

 その眼に輝きはなく、かつて冒険者として世界を巡った時の明るい少女の面影はない。

 敵を殺して、殺して、殺し尽くせば平和が訪れると信じていた。

 その為ならば何でもやったし、悪魔や人でなしと罵られる事にも、もう慣れた。

 だが、どうやら己は余りに仲間達を蔑ろにし過ぎたらしい。

 前を見る事に熱中する余り、自分の後ろに従う者達の不平不満に気付けなかった。

 そこを女神に付け込まれ、そして彼等は取り返しがつかぬ程に己を憎悪するまでになってしまった。

 変わらぬのは吸血姫くらいか。その鋼の精神は心底敬意を感じるが、他の六人は彼女ほど強くなかったという事だろう。

 それに気付いてやれなかったのもまた、己の過ちであった。

 信頼という都合のいい言葉を隠れ蓑に、考える事を放棄した結果がこれだ。

 友と信じていた者達の瞳は憎悪で陰り、もはや説得も意味を為さないだろう。

 今はまだ表面上従っているが、その裏で謀反の準備を着々と進めている事を彼女は知っていた。

 そして、己の抱える総軍の半数以上がそれに同意して反旗を翻している事もまた、既に突き止めていた。


「まだ勝負は付いていません。貴方ならば全てを返り討ちにして再出発する事も出来るでしょう」

「ああ、出来るだろうな。だがなオフューカスよ……仮に勝ったとして、それでどうなる。

友や仲間を殺し尽くした王に、一体誰が従いたいと思うのだ?

部下の半数以上を殺めた王など、もはやただの暴君だ。誰も認めまいよ。

それにな。多くの仲間や部下を殺めては、勝利しても余の手元には何も残らん。

……勝とうが負けようが全てを失うのだ。この状況になった時点で余の負けだ」


 黒い翼の王は自嘲し、嗤った。

 己自身の不甲斐なさを自分で嘲笑したのだ。

 世界の平和の為ならば悪しき王となっても構わないと思っていた。

 敵にとっては恐ろしい殺戮者でいいと思った。

 だが味方にまで恐れられ、王に相応しくないと言われてしまえば、もうそれは王ではない。

 王を気取った、ただの勘違いした馬鹿者だ。


「少なくとも十二星は残ります。そして私も」

「そうだな。それだけが救いか」


 黒翼の王は小さく笑い、こんな状況になってもまだ自分に付いてきてくれる愛おしい従者達の存在をこの上なく有り難く思った。

そしてだからこそ、この先の戦いを行うべきではないと考えた。

 本気でやれば勝てない戦いではない。その気になれば全てを捻じ伏せて殺す事も出来る。

 しかし女神の後押しを受けた英雄達とてただでは負けてくれまい。威圧で全てを捻じ伏せる事が出来れば楽なのだが、向こうだってそれを脅威に思っているのだから確実に対策くらいはする。

 威圧を無効化するスキルや術がないわけではないのだ。威圧は決して無敵のスキルではない。

 そして女神の加護を受けた英雄達が攻めて来ても自分は負ける事はない。だが十二星からは……確実に死者が出てしまう。

 そうならない為にも、一番いいのは自分がさっさと退場してしまう事だ。

 十二星がやられるよりも速くアリオト達を皆殺しにしてしまえばそれで済むのだろうが……きっと、それは自分には出来ない。

 出来てしまえば、それはもう自分ではなく完全に情を捨てた抜け殻となる。


「……『負け方』を考えるしかあるまいな」

「負け方、ですか?」

「ああ。余が王から退く事をこんなにも皆が求めるならば、それに応えてやろう。

そうして負けを装い、このような事態を起こした者の事を探る」

「それは……」

「其方にとっては辛い道になるだろう。余から離反するならば今のうちだぞ」


 離れても咎めはしない。

 そう付け加える王に、しかしオフューカスと呼ばれた少女は気丈に微笑んだ。


「いいえ、ルファス様。私はもう人形に戻る気はありません。

私は貴方に出会うまで、自らの意思を持たない人形だった……貴方が私を『私』にしてくれた。

ならば私は、女神様すらも欺いてみせましょう」


 そう言い――青い髪の少女は変わらぬ忠誠を示した。


*


 世界を超える一瞬、妙な記憶が俺の頭を過ぎった。

 今会話していたのは俺と……もう一人は誰だったのだろう。

 まるで夢でも見たように顔が霞がかって、判別がつかない。

 ただあの青い髪は、今追っている彼女の事を連想させられる。

 ともかく、どうやら無事に世界を超える事に成功したようだ。もう魔力も天力も感じる事が出来ない。

 ここにあるのはどこまでも物理法則と科学のみが支配する幻想無き世界。

 しかし幻想に満ちたミズガルズよりも遥かに発展し、多くの高層ビルが建ち並ぶ、ある意味ではミズガルズ以上に幻想的な世界。

 即ち――地球。その日本の大地に俺とベネトは降り立っていた。


「……ここが異世界か」


 ベネトが辺りを見回しながら呟く。

 さしもの彼女も初見でのこの光景には流石に驚愕するしかないらしい。

 道路を鉄の箱が走り、並ぶ建物の殆どが高く聳え立つ。

 公園では魔物の脅威など感じずに子供達が遊び、後ついでに空気がやたら汚い。

 不思議なものだ。錬金術や魔法といった便利な力が存在しているミズガルズは未だ中世の域を出ていないのに、そんな物が一切存在しないこの世界はこんなにも発展しているのだから。

 道行く人々は足を止めて俺達の方を振り返り、なにやらヒソヒソと話している。

 流石にこの髪の色は目立つか。まあ俺達、どう見ても日本人じゃないしな。

 まあいい。とりあえず現在地を確認するか。

 適当に道路沿いにブラついていれば、そのうち案内標識が見付かるだろうから、それで判別出来るだろう。

 交番は……どうしようかな。口調がこの王様口調固定でなければ選択肢に入れてもよかったんだが。

 流石にこの日本の世界で一人称『余』で偉そうに喋る金髪女とか不審過ぎる。

 それに今、俺達身分証明とか出来ないから最悪不法滞在の外国人と思われて捕まってしまうかもしれん。

 やはり交番で道を聞くというのは避けるべきだろう。


「とりあえずまずは道路沿いに歩こう。案内標識があるはずだ」

「よくわからんが任せるぞ」


 歩きながら俺は適当に石を拾い、握り潰してみた。

 握力は変化なし。向こうの世界での身体能力のままだ。

 もしかしたら世界の違いなどで身体能力に変化が生じるかもと思っていたのだが、どうやらそんな事はないらしい。

 つまり俺はこの世界でも音より早く動けるし、光速のパンチも打てる。

 跳躍一つで月まで行くことも可能だろう。

 ただし、この世界でそれをやると地球にとんでもない被害が出てしまうので絶対にやってはいけない。

 一応腕輪で能力を大幅制限しているが、それでも全力疾走で都市を壊滅させるくらいの事は容易いはずだ。気を付けないとな。

 とか考えているそばからベネトが信号を無視して道路のど真ん中を横切り出した。

 当然のように走行中のトラックがクラクションを鳴らしながら接近するが、それを見てもベネトは退避する様子を見せない。

 それどころか拳を軽く握り……。


「やめんか」


 俺は咄嗟にベネトの襟首を掴み、引き寄せた。

 速度はかなり抑えたので、周囲に被害も出ていない。

 しかしそれでも、偶然近くで俺の動きを見ていた学生数人が呆然としている。


「おい、今の見たか? 俺の見間違いじゃないよな?」

「あ、ああ。あの金髪の外人さん、今とんでもない速度で動いたぞ……」

「てかありえないくらい美人じゃね? アイドル?」


 どうやら今の速度でもまだやりすぎだったようだ。

 まあ、放置してもいいだろう。

 あの程度の数ならば、今日見た不思議な出来事程度で終わる。

 もしかしたらネットに投稿とかして、笑い話にされるかもしれないが信じる奴はいまい。

 俺はベネトを掴んだままその場を離れた。


「何をする、貴様」

「それはこちらの台詞だ。何をする気だった?」

「あのゴーレムらしき物体が唸り声を発しながら突撃してきたから身の程を教えようとしただけだ」

「あれはゴーレムではない、乗り物だ。それと信号が赤の時に渡る方が悪い。

この世界の道は人と乗り物のどちらが通るかを厳密に決めているのだ」

「シンゴウ?」

「あれだ。あの三色に光っているやつ」


 俺はその後、信号や道路、車についてベネトに説明したが半分も理解して貰えているかは疑問だ。

 途中で青信号をベネトが「あれは青ではなく緑だろう」と言った時は言葉に詰まってしまったが……何であれ、青信号っていうんだろうな。

 確か昔の日本は青、赤、白、黒の四色だけで全色を表現してて、その名残とかだったかな。

 ともかくベネトから目を離しちゃいかんな。マジで何するか分からん。

 そうして歩いてしばらくすると、予想通りに案内標識が見付かった。

 現在地は……東京か。『俺』の住んでいた場所は新潟だから案外近いな。

 確か東京から見て北側だったかな。つまりそっちに向かって移動すればいいわけだ。

 しかし問題は移動手段で、俺はこちらの世界の金を持っていない。

 宝石やら黄金やらはあるので換金するという手もあるが、ああいうのって確か身分証明必要なんだよな。

 どうするかな。いっそビルの上をジャンプしながら移動しちまおうか?

 多分そうそう目撃なんかされないだろうし。

 だがそうでなくとも金はとりあえず得ておくべきだろう。こっちの世界の食べ物とか持ち帰りたいし。

 ……久しぶりに使うか、あのゴミスキル。


 ――スキル『マネーゲッター』。


 このスキルはレンジャースキルの一つで、その効果は戦闘中に金を探して拾うという何の役にも立たないスキルだ。

 これで得られる金は雀の涙であり、しかも戦闘中に無防備を晒すのでしょっちゅう殴られて中断される。勿論中断されれば効果も消える。

 本当に一銭もないという時くらいしか使い道はないが、そういう時は手持ちのアイテムを売ればいいだけの話なのでやはり出番はない。

 俺も習得した直後に数回だけ使ってみたが、あまりの使えなさに速攻で見切りを付けてしまった過去がある。

 掲示板などで使えないスキルは何かという話題になれば必ずどこかで名前が挙がるのがこのスキルだ。

 しかしそんなのでも、身分証なし有り金ゼロの状態ならば役に立つらしい。

 俺は地面に落ちていた500円玉を念力で浮かし、キャッチした。

 ネコババではあるが、気にしてはいけない。どうせこのくらいなら拾っても交番に届ける人間なんか殆どいないのだ。

 しかし無論500円などはすぐに消えてしまう。なのでこれを元手に増やす必要がある。

 幸いにしてすぐ近くにはスロット店もある。

 ぶっちゃけあんま知らないのだが、まあ何とかなるだろう。

 普段役に立たない幸運数値9280の力を見せてやる。

 一時的に腕輪を外し、いざ入店。

 ベネトが店の空気の汚さと煩さに顔をしかめているが、とりあえず暴れる様子はない。

 まあ店の煩さという点では向こうにもギャンブルを扱う店くらいあるし、似たようなものだからな。

 

 結果はボロ勝ち。

 途中からベネトにもコインを分けて二人で幸運値の高さを悪用して当たりを出しまくってやった。

 スロットに出てくるアニメキャラに対してベネトが「こいつ目でかすぎないか?」とか「こいつの顔でかすぎないか?」とか一々突っ込みを入れていたのが印象的だった。

 とりあえずこれで手持ちは10万を超えたので、こちらの世界で適当に買い物をするくらいなら十分だろう。

 腕輪も戻し、さて行くかという所で遠くから悲鳴が響いた。

 振り返れば、少し離れた位置にある交差点で小さな子供に向けてトラックが突き進んでいる。

 横断歩道の信号は青。つまりトラック側が信号を無視している事になる。

 はいはいお約束お約束っと。

 俺は軽く地を蹴って交差点へ踏み込み、子供に迫っていたトラックを殴り飛ばした。

 まあ飛ばしたって言ってもちょっと浮かせただけだ。流石に遠くまで吹き飛ばすような迷惑な真似はしていない。

 数秒ほど空中遊泳をしたトラックも無事着地し、中のドライバーが気絶してはいるが生きている事も確認した。

 その手にはスマホが握られており……危ないな。余所見運転かよ、この野郎。

 もう少し強く殴っておくべきだったか。

 周囲を見ると人々がざわめいており、スマホをこちらに向けている輩すらいる。

 やっべ、流石にやりすぎた。

 俺はその場から音を超えない程度の速度でゆっくりと立ち去り――といっても、人々には超高速に見えるだろうが――ベネトを連れてその場から跳躍した。


「おい、騒ぎは起こさないんじゃなかったのか?」

「すまん、返す言葉もない」

 

 俺はそのまま逃げるように、というか実際逃げているのだが……ビル群の上を跳躍しながら走り去っていった。

【マネーゲッター】

ゴミスキル。

道に落ちている金を探して拾うだけ。

しかしそうそう金など落ちているはずはないのだが、それでも拾う。

もしかしたら『誰の手にも所有権がない』状態の金を付近にテレポートさせるスキルなのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 500円以下なら交番届ける必要がないって重ちーが言ってたような
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