第153話 ぶつりほうそくはちからをためている
トラップサーチLv0:初期習得。比較的弱いトラップを判別出来る。SP消費超低
トラップサーチLv1:レベル5で習得可能。即死トラップ“だけ”を高い精度で判別出来る。SP消費低。序盤で覚える癖に序盤では出番がない。
トラップサーチLv2:ようやく登場した実用的なスキル。レベル15で習得可能。術者の能力値に依存し、殆どのトラップを判別出来るが精度はやや甘い。とりあえずレンジャーはこれを覚えていないと話にならない。SP消費低。
トラップサーチLv3:Lv2の上位互換。精度が上昇した。レベル30以上で習得可能。SP消費中。
トラップサーチLv4:Lv3の上位互換。精度が上昇した。レベル50以上で習得可能。SP消費高。ルファスやフェクダ級の能力値ならばこれで十分。見破れない可能性もない事はないが宝くじの1等に当たるよりも可能性は低い。
トラップサーチLv5:Lv4の上位互換。精度が上昇した。レベル100以上で習得可能。SP消費高。相当能力値が低くないとまず罠を見破れないという事にはならない。
トラップマスター:全てのトラップを判別する。能力値に関係なく絶対成功。SP消費が高すぎて廃人じゃないと全然使えないし、そもそも廃人レベルならサーチLv4か5で十分。罠を見破れない事がまずない。
レベル200で習得可能。産廃スキル。
フェクダ「トラップマスター発動! 俺のこのスキルでどんな罠も見破るぜ!
おっと、そこに毒矢の罠がある。解除するまで待ってくr」
ルファス「めんどい」ズカズカズカ
罠発動→装備で毒無効、1ダメージ
ルファス「さあ行くぞ」
フェクダ「」
土の七曜とやらに案内され、俺達が着いたのは百人は入れそうな程に広い一室であった。
入り口から見て突き当りには玉座があり、そこに魔神王が以前見た時と何も変わらぬ姿で腰かけている。
彼は俺達の来訪に顔をあげ、そしてサートゥルヌスとかいう女に声をかけた。
「ご苦労だった。下がれ」
「はっ」
魔神王に言われ、そそくさとサートゥルヌスが退場する。
護衛の一人も付けないとは大した自信だ。
まあそもそも護衛なんかいても意味がないと分かっているだけかもしれんが、どちらにせよ一人で俺達二人と相対する以上、相応の自信があると見ていいだろう。
魔神王は俺達を見て小さく笑うと、ゆっくりと立ち上がる。
そして部屋の隅にあったテーブルを中央まで運んで、椅子に腰かけた。
「玉座は使わんのか」
「あれは部下が来た時に威厳を示す為に座っているだけだ。普段から私室で玉座に座っているわけがないだろう」
ごもっとも。
でもそれなら謁見の間とかに玉座を置けよ。何で自室に置いてるんだよ。
とりあえず俺とベネトも椅子に座り、魔神王と向き合う。
ラスボスの自室で玉座を無視して即席の椅子に座って向き合うとかシュールだな、おい。
「君達が来た理由は分かっているつもりだ。ディーナを追っているのだろう?」
「その名を知っているという事はやはり……」
「ああ、私は彼女の正体を最初から知っていた。その目的も含めてな」
サラッととんでもない事を言っているが、これは少し考えれば予想出来た事だ。
そもそも魔神王の目と鼻の先であんだけ暗躍してれば気付かれないはずがない。
なのに一切お咎めを受けていなかったという事はまあ、つまりこいつも共犯だったという事だ。
勿論、単に魔神王の目が節穴だったという線もあったのだが今ので無事、それは消えた。
「なるほど。では彼女が女神のアバターという事も知っていたわけか」
「うむ」
「ならば其方は女神側か?」
かつてこの世界で幾度となく行われた英雄譚、という名の茶番劇。
それを盛り上げて来たのはいつだって、こいつとポルクスだったという。
ポルクスが正義側に立って勇者を導き、こいつが悪役側で勇者と戦う。
そして倒された振りをして勇者に致命の一撃を入れて、さも勇者の高潔な犠牲で世界が救われたように演出して、皆が忘れた事に素知らぬ顔で別名を名乗ってまた世界を襲う。
なるほど、茶番だ。出来の悪い子供の演劇である。
しかしそれを行っていた片割れは、この茶番劇に心底嫌気が差して女神から離反した。
ではこいつはどうか? まだ女神の側なのか、それともポルクス同様に嫌気が差したのか。
……ま、考えるまでもないか。
「そう思うかね?」
「いいや、全く」
魔神王の問いに俺は素直に思っている事を話した。
そう、こいつは女神からとっくに離反している。
でなければ、女神にとってああまで不利益な情報を俺に垂れ流すものか。
分からないのは何故女神のアバターであるディーナを放置していたかだ。
あの時……こいつが俺に情報を伝えようとしていた時、それを妨害したのはディーナだった。
ならばディーナはやはり女神側だと考えるのが自然で、しかしこいつはそれすらも咎めない。
あの後もそのままウェヌスを自陣に置いていた。
この辺りがどうにも解せないのだ。
それにこいつの目的も未だ不鮮明なままだ。
「聞いてもよいか? 其方が女神から離れた理由を」
「別にそう特別な理由などないさ。単に飽きただけだ」
魔神王は頬杖を突いて笑い、目を細める。
「世界を支配するに足る力がありながら予定調和に従ってわざと負ける事にいい加減飽いたのだ。
たまにはシナリオを自分で動かしてみたいと考えるのは自然だろう?
下らぬ支配欲が優先した……それだけさ」
「……本当にそうか?」
「そうさ。他には何もない」
不敵に笑い、己の欲望を剥き出しにするその姿はまさに人類の敵である魔の王そのものだった。
だが何故だろうな、どうも俺にはこれが本心とは思えない。
むしろ本心を隠す為に道化を演じているように見えてしまう。
その本心が何なのかまでは分からないが……こいつは何かを守ろうとしている。そんな気がする。
こいつが守ろうとするもの……女神に歯向かってまで、予定調和の敗北を跳ね除けた理由。
それはあるいは……。
「ところで、あのテラという者はよく出来た息子だな?」
「魔神族にあるまじき愚息だよ。恥ずかしい限りだ」
試しにテラの話を振ってみるが、魔神王の表情に変化はない。
少なくとも、この程度では揺さぶれないか。
彼は俺の方をじっと眺め、面白そうに話した。
「以前会った時よりもいい眼になっているな。随分と自分を取り戻してきたようではないか」
「おかげさまでな。こいつに小突かれて少しばかり目が覚めたよ」
「だが完全ではない」
「その通りだ」
俺が自分を俺と認識している事。
それがある限り本当の意味でのルファス・マファールの復活はない。
俺は未だ、全盛期の力の半分すらも発揮出来ていないのだ。
もっとも、それでも大抵の相手には負ける気がしないがな。
現時点でも俺が負ける可能性のある相手など、ベネトと五龍、女神、それから目の前の魔神王くらいだろう。
「いずれ戦う時を楽しみにしているぞ」
「戦う必要があるのか?」
「無論だ。言っておくが敵の敵は味方などとは思わぬ事だ。
私は確かに女神から離反したが、君に下ったわけではない。
……世界の支配者は二人要らぬ。私も君も、同じく覇を謳う以上、いずれは世界の覇権を賭けて戦う宿命にある」
世界の覇権、ね。
その割には随分と温い侵攻ばかりをしているもんだ。
こいつがその気になっていれば今頃はもっと支配圏は大きくなっていただろうし、場合によっては既にベネトとの直接対決に入ってこいつかベネトのどちらかが死んでいたはずだ。
そうなっていないという事は要するに本気ではなかったという事であり、どうも他に目的があるように思えてならない。
まるで長引かせる事そのものが目的のような……そんな風に思えてしまうのだ。
「ならば今ここで決着を着けてしまえばよかろう。
何なら、私が相手になってやろうか?」
これまで会話に参加せずに静観を決め込んでいたベネトが言葉を発した。
それと同時に室内の空気が張り詰め、窓ガラスに亀裂が走る。
魔神王はそれに姿勢こそ変えないものの、ベネトに呼応して戦意を高めているのが見えた。
常人ならここにいるだけで呼吸困難に陥るな。
「ディーナから伝言を預かっている」
その張り詰めた空気の中、魔神王がわざとらしく話題を逸らした。
今はまだやる気はない、という事だろう。
実際、今戦えば俺とベネトの二人がかりになってしまうので向こうの勝ち目は殆どない。
戦いを避けようとするのは賢明といえた。
ベネトもまた二人がかりでの勝利など望むはずもない。魔神王が挑発に乗らなかった事をつまらなそうにしながら敵意を緩めた。
「『貴女の記憶の中にある、私達が最初に会った場所でお待ちしております』……と言っていた」
「最初に会った場所だと?」
俺はその伝言に思わず聞き返してしまった。
最初に会った場所は覚えている。マファール塔だ。
俺はそこでディーナと出会い、そして全てが始まった。
だがマファール塔はもう調べた後だし、そこにディーナはいなかった。
ならばどこだ? 一体ディーナはどこの事を言っている?
俺はそれが分からず、ただ沈黙するしかなかった。
「……そうか。邪魔をしたな」
どうやらディーナはここにはいないらしい。
だがヒントは確かに受け取った。
俺の記憶の中にあるディーナと初めて出会った場所、か。
皆目見当もつかないが、それはこれから考察すればいいだろう。
そしてこの件では他者の知恵を借りる事は出来ない。
答えは俺の記憶の中にしかないのだろうから。
「行くのか?」
「ああ。どうやら、ヒントなどを残しているのを見るに奴は意外と寂しがり屋のようだからな」
これはディーナからのメッセージだ。自分で隠れているくせに早く見付けてくれと言っているのである。
まるでかくれんぼで隠れるのが上手い癖に本当は早く見付けて欲しいと思っている子供のようだ。
そう思うと、何だか妙に可笑しくなった。
振り回されてはいるが、やはり俺はあいつを憎めない性分らしい。
「そうか。次に会う時は全てを解き明かした後だろう」
「だろうな」
魔神王は挑むように笑い、俺もまたそれに合わせて笑みを浮かべてみせた。
次に会う時はきっと、こんなに温い事にはならないだろう。
きっと次に会えば、それは戦いとなる。
俺も魔神王もそれを理解し、しかしだからこそ今だけは笑うのだ。
「では、またな。オルム」
「ああ、また。ルファス」
俺は椅子から立ち上がり、それにベネトも続いた。
彼女は随分退屈していたようで、ようやく終わったのかという顔をしている。
俺達が城の出口へ向かうと警備の兵士達が怯えたように道を開け、来た時と同じように扉を開けて外へと出た。
「それで心当たりはあるのか?」
「とりあえずもう一度マファール塔に行ってみるか。何か見落としているかもしれん」
ベネトの問いに、まあこれは外れだろうと予感しつつも既に一度調べた場所の名を挙げた。
実際ここ以外にディーナと初めて会った場所なんて思い浮かばないんだよな。
俺がこの世界に来た時に最初に見たのはレーヴァティンの玉座の間だったが、そこにディーナはいなかった。
そして初めて空を飛んで塔に行き、そこで奴に会ったのだ。
うん、やっぱいくら思い直してもマファール塔が最初の出会いになる。他にない。
ここに何かヒントの一つでも落ちていればいいんだが……。
俺はアルゴー船の進路をマファール塔とし、再び人類生存圏へと戻った。
*
「今頃マファール塔を探しているんでしょうねえ、ルファス様は」
青い髪を揺らしながら少女――ディーナは微笑みながら一人呟いた。
彼女が歩くたびに周囲の人々は足を止め、思わず振り返って二度目する。
それは少女の美貌もさることながら、最大の問題はその髪の色にあった。
道行く人々の髪の色はその九割が黒。時折染めて茶や金になっているものもいるが、結局のところそれは地毛が黒であるという事しかなく、ディーナのように自然に青色の髪をしている人間など一人もいない。
そもそも青い髪というのは遺伝上有り得ないものであり、コスプレでもないのに青い髪などは常識に照らし合わせれば存在しないのだ。
そんな人々の視線を物ともせずに彼女は歩き、二百年前へと思いを馳せる。
あの時まで自分は人形だった。自分というものを持たず、己が女神の分身で地上における女神の仮の姿であると信じていた。
ディーナとはいうのは所詮、アバターを創る際に『使用した』両親が付けた名であり、あくまで本当の名はアロヴィナスなのだと。
実際彼女は女神のアバターであったし、記憶も人格も引き継いでいた。
ならばそれは間違いではなく、故に彼女は自分を自分と認識していなかった。
それが崩れたのが二百年前。正確には二百年と一年前。
あの七英雄の裏切りより一年遡った過去。その時こそが彼女が自分を認識した瞬間であり、本当にこの世に生まれた時であった。
そして今、彼女は紛れもなく己の意思で動いていた。
女神のシナリオを自らの意思で逸れ、しかし決して女神本人には気付かれない程度に。
それが一体何を目指し、誰の為のものなのかは彼女以外誰にも分からない。
これがルファスの為なのか、女神の為なのか、それともどちらとも違う自分の為なのか。それもやはり誰にも分からない。
整備された道路には鉄の箱が走り、様々な看板を掲げた店が密集している。
天へ届けとばかりに立ち並ぶのは高層ビル。
仕事へ向かうサラリーマンや学生で溢れる日本の街並みを少女は歩き――やがて雑踏に紛れてその姿は消えた。
地球「やめてクレメンス……俺、ミズガルズと違って物理法則が仕事してるんだから……
お前等が走るだけで滅びるんだからマジやめて……」
物理法則「――出番!?」




