表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/201

第146話 とくせい:せいぎのこころ

 それは不思議な感覚であった。

 自分自身が劇的に何か変化したという自覚はない。

 気分が高揚するわけでもなく、いつもと何ら変わっていないのではないかという考えすら浮かんでしまう。

 だが……見える。

 先程までは目で追う事すら困難だったテラの動きが。カストールの戦いが。

 三翼騎士が殴られ、空中で体勢を立て直す姿までもがハッキリと目で捉えられる。

 そして、前衛を突破してパルテノスへ止めを刺そうと飛んでくるソルの姿をも、今のウィルゴは完全に視界に捉えていた。


「やらせない!」


 翼をはためかせて間に割って入り、ラピュセルでソルの拳を受け止めた。

 強い衝撃を感じ、だがそれは予想していたようなものではない。

 きっと自分では止められない、容易く弾き飛ばされる。

 そう思っていたはずなのだが、後ろへ押されながらもウィルゴは確かにソルの拳を止める事に成功していたのだ。


「な、に?」


 ソルの顔が驚愕に染まり、まさかの事態に一瞬力が緩んだ。

 その瞬間にテラが横から飛び込み、剣の一撃でソルの片腕を半ばまで断ち切った。

 しかしソルはすぐに傷を修復し、テラへと反撃する。

 だが二人の間に出現した光の壁がそれを阻み、拳を跳ね返した。

 その光景にソルは勿論として、テラも驚きを見せる。

 いかにレベル1000といえど、いかに不意を突いたといえど、ソルの攻撃を完全に遮断するシールドなどそう容易く張れるものではない。

 少なくとも普通のレベル1000では不可能だ。

 こんな芸当を可能にする者となれば、それはルファスかメグレズ、メラクといったレベル1000の領域すら半ば逸脱している者達だろう。

 つまりレベル1000で満足せず、そこから更に限界以上に強さを極めた者達の領域であり、今力を継承したばかりのウィルゴがそこにいるわけがない。

 そもそも力を与えたパルテノスがそうではなかったのだ。なのに何故?


「やあああああっ!」

「こいつ……一体!?」


 飛躍――まさにそうとしか言いようがない。

 まるで今まで抑制されていた潜在能力でも発揮したかのように、ウィルゴの振るう剣がソルを追い詰めていた。

 いや、それでもまだソルの方が実力は上だっただろう。近接しての戦闘となれば尚更だ。

 ウィルゴは確かに強くなった。だが戦闘経験まで積んだわけではない。

 いかにレベルで前任を上回ろうと練度が違う。パルテノスのように反則染みた速度で術を連続行使出来るわけではない。

 パルテノスのように瞬時に最適の術を選択出来るわけではない。

 だがこの場にはテラがいる。カストールや三翼騎士もいる。

 ウィルゴへの力の継承に、それに伴う不可思議な覚醒。そして数の差。

 それはいかにソルといえど一筋縄でいくものではなく、しかしソルは尚も不敵に笑った。

 これだ……これこそ私が望んでいた戦いだ。手応えのある闘争だ。これを私は欲していた。

 戦況はこれでようやく五分。ここまでやってようやく互角だ。

 それほどまでにソルの力は凄まじく、ルファスすら彷彿とさせる。

 その事実にテラが険しい顔を見せ、ソルが楽しそうに笑う。

 ソルの手刀とテラの刃が衝突して火花を散らし、二人の姿が同時に消えた。

 ――上! ルーナが視線を動かした時は既にそこでソルとテラが刃と拳を交差させており、すぐに消える。

 右に現れたかと思えば今度は左。余波で木が倒れ、一瞬砂塵を巻き上げてテラが着地したかと思えば今度はソルが岩に叩き付けられている。

 ルーナでは残像を追うのがやっとのその戦闘に、しかし三翼騎士やカストールや勿論としてウィルゴもかろうじて喰らい付いていた。


「魔神裂斬!」

 

 テラが魔神斬の上位スキルである魔神裂斬を放ち、蒼い剣圧がソルへと飛んだ。

 直撃すれば山すら切断する斬撃を前に、しかしソルは拳を合わせた。


「疾っ!」


 グラップラースキルの一つである『スマッシュ』は命中時に必ずクリティカルヒットするという単純にして強力なスキルだ。

 剣圧で僅かに拳が裂け、だがそれ以上の拳圧が蒼い斬撃をかき消して相殺した。

 しかしその瞬間にテラは剣を両手持ちへと変え、上段から渾身の力を込めて振り下ろした。

 二十四時間に一度のみしか撃てないソードマスターのスキルの中でも最大の威力を誇る『メテオスラッシュ』がその名の通り、地上を滅ぼす隕石の如き威圧感を伴って放たれる。

 それと同時にソルは拳を握って天を衝くように振り上げた。

 こちらも二十四時間に一度のみの使用回数制限スキルで、名を『バスターインパクト』という。

 その性能は似通っており、言ってしまえばグラップラー版のメテオスラッシュだ。

 カンストダメージが当たり前になってしまう高レベルにおいて有難みは薄れるし、むしろ高レベルになってからは単純に火力が高いだけのスキルよりも多少威力が下がろうと連続でダメージを発生させる事が出来る連撃系スキルの方が重宝されてしまう傾向にあるが、これらのスキルは習得したばかりのレベル100の使い手ですら上手くいけばダメージ値五桁を叩き出せる程に強力なスキルである。その破壊力は計り知れない。

 爆音が響き、アルフヘイムを中心として衝撃波が大陸中に拡散した。

 突然の衝撃波に比較的近くの町や村では老朽化した建築物が倒壊するという惨事が発生し、遠く離れた地の者ですら余りの風に転倒する者が続出した。

 その渦中にあった二人は同時に吹き飛ばされるも、ソルは地面にぶつかって跳ね上がると同時に回転し、着地を決める。

 テラもまた吹き飛ばされながらも地面に剣を突き立て、真一文字の傷を地面に描きつつも何とか身体を止めた。


「やるな、月龍の子よ。これほどに楽しめるとは思わなかったぞ。

そこまでの力を発揮出来るのは、やはりお前を欺いていた私への怒り故か?」

「否。欺かれていたのは俺の未熟が招いた事だ。己の不甲斐なさを恥じこそすれ、お前を恨む心などはない」


 距離が開き、互いに睨み合いの姿勢へと戻った。

 呼吸を整えながらソルが話を振り、それにテラも律儀に答える。

 しかし、そうしながらも互いに対する警戒は一切怠らず、隙を見せてはいない。


「俺が戦う理由は守るべき民の為。彼等の変わらぬ明日を守るために俺の剣はある」

「なるほど、騎士の模範的な回答だ。しかしお忘れかな? お前の守ろうとしている民の正体を。

全ては所詮夢幻……女神の魔法に過ぎぬ、人の形を模した人形共よ。

そんな奴等の明日になど、価値はあるのか? むしろ役目に準じて消える事こそが世界の為とは思わんか?」


 ソルが嘲るようにテラを揺さぶる。その戦う理由の正義を問う。

 だがテラは揺らがない。

 彼の剣はその程度の言葉で揺れるようなものではない。


「お前の言う通りだ。だが魔神族(おれたち)だって人と同じように笑う事が出来る。泣く事が出来る。

喜びを分かち合い、他者を愛する事も出来る。

創られた魔法だからとて、一方的に消されていいはずがない」

「しかし君達は人類にとっての侵略者だ。過去に犯した罪を忘れてはいまい?」

「覚えているさ。そして永劫忘れる事はない。

俺は俺の民を守るために多くの人々を殺めた。確かに俺は人類から見れば罪人だろう。

だが、戦いの場にすら出なかった魔神族(ひとびと)は罪人なのか? そうせねば生きられなかったが故に手を汚してしまった者達は悪なのか? ――そうしろと貴様等が望み、そうせざるを得なかった者達すらも、裁かれねばならないのか?」


 テラは話ながら、これまでに自らが斬って来た者達を思い出していた。

 勇敢に自分へ挑んで来た人類の戦士達を斬り、その命を奪ってきた過去は決して消せるものではない。

 どう取り繕おうと自分は自分の民を守るために『敵』と断じて人類を斬ってきたのだ。

 戦争だったから、などと言い訳は出来ない。

 紛れもなく己は罪人であるし、自らの意思で戦場に立って自らの意思で殺めてきた。

 だからそれを罪というならば認めよう。

 もしも……もしも魔神族が生まれ変わる方法を見付けたとして、この世界の人類と共に笑い合える、そんな未来がきたならば……その時、人々がこの身を裁く事を求めたならば……その時は、最後の呪われた魔神族として悪の名を背負って処刑台へと立とう。

 剣を手にした時からその覚悟は出来ていた。初めて戦場で人を斬った時から、いつか自分は惨めに死ぬだろうと思っていた。

 だがそれは全て、明日への道を切り開いてからの事だ。

 例えその明日の世界に自分がいなくとも――彼女が生きていてくれれば、それでいい。


「ならば俺は、この剣でその呪われた宿命を断ち切ろう。

こんな呪われた道を歩む魔神族は俺達で最後だ。

殺し合うのではなく、共に生きる為に。民の明日の為に……俺は戦う!」


 その剣に曇りはなく、瞳には迷いがない。

 天から降り注ぐ陽光を鎧が反射し、マントをはためかせるその姿は何処までも高潔な剣士の体現者であった。

 複雑なのは、ちょっと前まで魔神族と敵対関係にあった十二星だ。いや、今でも敵対は続いている。

 テラの言葉を侵略者の都合のいい言葉、などと思う事は出来なかった。

 何故なら彼の在り方は十二星の主であるルファスと同じだったからだ。

 彼女もまた、平和を作る為に敵を悉く殺めていた。無慈悲に消していた。

 敵を全て殺して殺し尽くせば平和が訪れる。そんな茨の道を裸足で、返り血と己自身の血で真っ赤に染まりながら走破していた。

 ああ、何て皮肉。蓋を開けてみれば平和を求める者同士が殺し合っていたのだ。

 故にこそ、これは喜ぶべきなのだろう。

 ただ、やはり何というか複雑ではあった。


「……ねえ兄さん、あの子ってもしかして次の勇者か何か?」

「いや、勇者は別にいるはずだ。ニホンという世界から来たセイという者が今の勇者だ」

「それって、あの虎と猫とゴリラの獣人を連れてた頼りなさそうな子よね?」

「うむ、虎と猫とゴリラの獣人を連れていたあの頼りなさそうな少年だ」

「……勇者?」

「勇者らしい」


 勇者とは一体……。

 そう思いながら黄昏る妖精兄妹の前でソルとテラの戦いは激しさを増していく。

 勝負は互角。しかしそれは数の差があってこそのもので、いつ均衡が崩れてもおかしくはない。

 ソルはその苦戦すらも楽しみ、この上ない手応えに表情を歓喜に染める。

 だが……どうやら、ソルの裏に居る者はソルほどこの状況を楽しんではいなかったらしい。

 『彼女』は確実な勝利を物にすべく、ソルへと助力する事を決めてしまい――無粋な第三者の介入が入った。


「これは……いかん!」


 ソルの身体から神聖な力が迸り、感じられる圧力が強まる。

 間違いない、女神が手を出したのだ。

 その感覚にカストールと、そしてソル自身が同時に叫んだ。

 不味い、これは不味いのだ。

 カストールは単純にソルの力が強まる事に危機感を抱いたが、それよりも更に危機感を感じたのは他ならぬソル本人であった。

 これはやってはならぬ一手なのだ!


「女神よ、止めろ! これは……」

「――もう遅いわ。勝負を焦ったわね」


 ソルが焦るのとは対照的に、ポルクスが静かな声で告げた。

 そしてその指に付けられた封印の指輪をパルテノスが外す。

 女神の助力大いに結構。それは裏を返せば女神の意識が向こうに行っているという事を意味している。

 つまり今ならば、危惧していたポルクスへの憑依がないと自ら暴露しているに等しい……愚かな一手だ。


「集いなさい、愛し子達……来たれ、英霊達の帰還(アルゴナウタイ)!」


 ポルクスの身体から光の柱が立ち昇り、空を貫いた。

 天が裂け、光が降り注ぐ。

 そして雲の隙間から次々と降臨するのはかつてこの世を去った英雄達だ。

 妖精姫の呼び声に応じ、次々と馳せ参じて武器を構える。

 ここに勝敗は決した。妖精兄妹が揃った状態で英霊を一斉召喚してしまえば、それに勝てる戦力などミズガルズでも僅かしか存在しない。

 ソルは舌打ちをし、この楽しい時間が終わった事を理解するしかなかった。

 このまま留まっても、先にあるのは死のみだ。


「ここまでか。流石に古き英雄がこうも集っては私に勝ち目はあるまい。

……まあいい、それならば先に現代の英雄を始末するだけだ。

それに目的は達したしな」


 ソルは不穏な発言を残し、そして素早く身を翻すと素早くその場から離脱した。

 カストールは咄嗟に何人かの英霊に指示を出して追走させるが、本気で逃げに徹されては追いつくのは困難だろう。

 その見事な逃走にポルクスは内心舌を巻き、ソルへの評価を上方修正した。

 強いだけではない、判断力もある。

 あれはかなり厄介な相手だ。


「勝てないと見るや、退路を塞がれる前に速やかに撤退、か……手強いわね」

「うむ、引き際を弁えた奴というのが一番面倒じゃ。厄介な奴が出てきおったの」


 ポルクスとパルテノスは素直にソルの厄介さを認め、彼を称賛した。

 今の勝利とて先走った女神が勝手に隙を見せたに過ぎず、そうでなければ勝つにせよ負けるにせよこちらから確実に死者が出ていただろう。

 それにしても気になるのは最後の台詞だが……ブラフだろうか?

 龍は依然として動く気配はない。今もまだ眠っている。

 それと今の英雄というのは恐らく七英雄の事だろうが、あれは恐らく罠だろう。

 こちらが七英雄の護衛に動き、手勢を薄める事を狙ってのものである可能性が高い。


 ポルクスは気付かない。

 地中奥深くに眠る木龍が一度、その瞼を開き――すぐに閉ざした事など。


*


 海。それは命を育む母にして、神秘と謎に包まれた世界だ。

 その海の中で地上の人類とは異なる文明を築く者達がいる。

 名を人魚。あるいは魚人といい、高い知性と戦闘力を有する海の民だ。

 女性は上半身が人で下半身が魚。男性はその逆という風貌をしており、今の世界においては亜人に分類される。

 また魚人は大きく二種類に分かれ、地上に出て人類と同じく人として扱われる事を求める者達と、完全に地上を見放して海の楽園で暮らす者とに分かれていた。

 前者はレオンに従っていた者達であり、そして後者が暮らす場所こそが海の王国『スキーズブラズニル』だ。

 透き通った水の中を美しい女人魚達が泳ぎ、銛を手にした男人魚が狩りに出かける。

 建築物はその大半が塔だ。

 窓に当たる部分が大きく開放され、人魚達はそこを通って出入りを行っている。

 塔ではあるが階段などは一切ない。互いの階層を繋ぐ穴があるだけで、自在に上下左右に移動出来る人魚達にはそれだけで事足りる。

 地上の人間には出来ない、三次元的な機動を前提とした造りだ。

 人魚達が移動の際に乗り物代わりに使っているのは、鯱から変異した魔物である『オルヴァール』。

 子供でも全長10mに達し、巨大な個体ならば最大で30mにも及ぶとされるその魔物は非常に高い戦闘力と知性を持ち、それでありながら人に懐きやすく飼育し易い事で知られていた。

 また、オルヴァールと同じだけ生活に密着している生き物としては『ドーフィン』という小型の生き物が存在する。

 これは元々イルカだったものを家畜化し、長年人魚達と暮らした結果、小型化して今では完全に愛玩動物となってしまった種だ。

 品種改良も進み、様々な色のドーフィンがいるが、一方で飼育に飽きた心無い飼い主に捨てられてしまう捨てドーフィンもまた社会問題となっていた。

 その海の都の中に、一際大きな建物がある。

 純金とクリスタルで飾り立てられた巨大な宮殿で、これこそは海の都を治める人魚達の王が住まう場所だ。

 宮殿の中で働くのは全て美しい女人魚だ。男人魚は一人もいない。

 また、人魚達は全員が金髪か、あるいは朱色の髪色であり、その髪型もロングヘアーで統一されている。

 宮殿の奥――最も煌びやかで趣味の悪い、クリスタルでこれでもかと飾られた部屋にいるのはこの宮殿唯一の男だ。

 一見すると大きな貝殻にも見える玉座に座り、周囲には美女人魚を侍らせている。

 不思議な事に、この海の都にあってその男だけは他の人魚と違い、完全な人間体であった。

 上半身も下半身も人間そのものであり、そしてヒラヒラとした羽衣のような衣装をはだけさせている。

 オールバックにした金髪と、傲岸不遜な性格を現した様な切れ目の青い瞳。

 額の中央には黒子があり、その顔立ちは十分に秀麗と呼べるものであった。

 外見年齢は二十歳前半といったところだろうか。細身ではあるが鍛えられた身体を惜しげもなく晒し、女達に奉仕させていた。

 この男こそが海の王だ。この広大な海を支配している、ある意味ミズガルズ最大の支配圏を確立させているこの世界の裏の支配者であった。

 そこに、伝令と思わしき少女人魚が訪れて頭を下げた。


「王よ、申し上げます。地上に出た者達の子孫が先日行方を晦ませたそうです」

「ああ、レオンに付いた馬鹿共か。間抜けな奴等だ……大人しく余の庇護下で生きていればよいものを。

地上などという狭い世界で満足している連中に対等に扱われたいなどと、何故思うのか。

下等種にどう思われようが知った事ではあるまいに」


 侮蔑を隠さず、王は嘲笑した。

 七人類など彼にしてみれば下らぬ劣等種でしかなかった。

 否、人類だけではない。この世に生きる全てが彼にとっては下等生物。神の模倣品でしかない。

 真に貴きはこの世に僅か二人。一人は言うまでもなく完全なる存在にして美の頂点である、神の子たる己自身。

 そしてもう一人は、下等生物の出でありながらその枠を超えて世界唯一の種族となった愛しき女。

 そこから一ランク落ち、龍だの妖精姫だの、魔神王だのがまあギリギリで認めてもいい圏内か。

 彼は伝令の少女を見やり、好色さを隠さずに舐めるようにその肢体を眺めた。


「他には?」

「は、はい。王に用があるという者達が宮殿の入り口で喚いております」

「余に用だと? どこの不敬者だそれは」

「わ、分かりません。見た事もない者達です。

女性型のゴーレムと、片目にモノクルを付けた人間らしきご老人で……」

「……女性型ゴーレムにモノクルの老人、だと?」


 少女の報告を聞き、王の脳裏に浮かんだのは余り好きではない二人の姿だ。

 造形は悪くないが所詮は造り物の美に過ぎない殺戮メイドゴーレムと、トチ狂った山羊の悪魔。それがどうしても思い起こされる。

 あまりいい印象はない。奴等は何度言っても自分を、あの忌まわしき名で呼ぶのだから。


「そうか。ところでお前は見ぬ顔だな?」

「つい先日から見習として働かせて頂いております、スィラ・ティガスと申します。

此度は伝令の方が調子が悪いとの事で代理を務めさせて頂きました」

「ふむ……」


 自分の知らない新人がいるというのは、別に珍しい事ではない。

 言い方は悪いが所詮は下っ端に過ぎない、それも見習など一々王に報告する方が不敬なのだ。

 紹介するならば研修を終え、一人前にした後でなくてはならない。

 ……まあ、それを言うならば研修用の施設は別にあって、そこで一人前と認められた者しかここには来れぬはずなのだが、しかし王はそれを追求する事はなかった。


(ふむ……顔立ちはやや幼いが髪の色が同じか)


 その少女の髪色は金髪であり、更に毛の先端へ向かうにつれて朱色へと変色している。

 これは彼が唯一己と対等と認め、惚れ込んでいる女性と同じ特徴だ。

 実のところ、この宮殿で奉仕している女達というのは全員が何かしら『彼女』と共通する面があるものばかりだ。

 何の事はない。要するに片思いの相手に似ている女ばかりを集めてハーレムを作っているのである、この男は。

 そしてその彼にとって、髪色が完全に一致するというのは見逃せない要素であった。


「とりあえずその喚いている馬鹿は追い出させよう。それとスィラといったな?

決めたぞ、今宵の相手はお前にしてやる。光栄に思え」


 降って沸いた予期せぬ夜伽の相手に王の顔が嫌らしく歪み、指名された少女は顔を赤らめて俯いた。

 実に初々しい反応だ。

 手慣れた女ばかりを相手にしていたが、偶には経験のない処女というのも楽しめそうだ。

 そんな下卑た事を考えていた王だが、次の瞬間その思考は吹き飛ぶ事となった。

 ――入り口が、ひしゃげて吹き飛び彼に直撃したからだ。


「ダイナミックお邪魔致します。変態ナルシストのエロスはご在宅でしょうか?」

「女ばかりの宮殿でお山の大将か。相変わらず趣味の悪い男だな」


 そう言いながら入って来たのは鋼鉄のメイドゴーレムと、見た目だけはインテリに見えるものの実はバリバリの過激派である老紳士の二人であった。

 あまりに酷い、何の敬意も見せない登場に周囲の女性人魚が唖然とする。

 それもそうだろう。何故なら彼は王で、その彼に扉をぶつける者など前代未聞だからだ。


「エロスではない! ピスケスだ、馬鹿者!」


 そんな二人へ叫びながら王――覇道十二星『魚』のピスケス、本名エロスは苛立ちを隠さずに壊れた扉を跳ね除けて立ち上がった。

テラ「明日を切り開く為に俺は戦う!」

瀬衣(勇者オーラパネェ……)


勇者とは一体……。


女神「(´・ω・`) ?」

ソル「ぽんこつ……圧倒的ぽんこつ……っ!」

ディーナ「駄目だこの本体……早く何とかしないと……」


黒幕とは一体……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 駄女神さんマジでアホヴィナスに改名したほうがいいのでは?w
[一言] 今日も今日とて平和です
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ