第145話 ルーナの黒い霧
感想欄「女神人望なさすぎワロタwww」
女神「( ノД`)」
いっそ、これをネタにして『野生のラスボス』が終わった後はスピンオフでアロヴィ主人公にして『駄女神様は人望とカリスマが欲しい』とかやってみましょうかね。
『木龍の枝』。それは呼んで字の如し、木龍の枝の中から最も小さくてかろうじて人の手でも持てるサイズの物を切り出した物である。
言ってしまえばそれはただの木の枝。武器への加工も何もしていない素材そのままで武器と呼べる物ではない。
だがそんな物ですら元が木龍の一部ならば振り回すだけでそこらの伝説の武器が泣いて自信喪失する程に強力な装備へと変わる。
パルテノスはこれを最も好み、愛用している数少ない一人だ。
加工など邪道。自然そのままの形で使うのが最もこれを活かせると彼女は考えているのだ。
だが、たかが枝といえどそれは木龍の一部。地面に埋まっている全長も含めればこのミズガルズを一周してしまうとまで謳われる最長の木にして最大の生物の一部。数字にして5万㎞を上回る馬鹿げたサイズの木だ。
その枝ともなれば、先端から枝分かれした最も細い枝ですら地球の高層ビルを上回る長さと太さを持っている。
そこからほんの僅かに切り出した物こそがパルテノスの持つ丸太であり、そしてアルゴー船の材料になったものだ。
無論、その程度を削った所で龍が起きる事はない。人間でいえばそれは、髪の毛の先端のほんの一部分だけを削られたようなものなのだから。
「そうらっ!」
パルテノスが自身よりも巨大な丸太を振るい、ソルを殴り飛ばした。
飛んでいく彼へ更に追撃。掌を翳して光の魔法を連発する。
空が一瞬で光で満たされ、連鎖爆発がソルを飲み込んだ。
しかし相手も天龍のアバター。しかもポルクスやカストールのように能力を二分したわけでもなければ寝惚けているわけでもない。
ポルクスのような反則級の特殊能力こそ有さぬが、その代わり彼女が特殊能力に回している分の素質を全て戦闘力へと回しているが故の絶大なスピードとパワーがある。
爆煙の中から平然と飛び出した彼へ、マントを翻してテラが斬りかかった。
空中でソルの手刀とテラの剣が衝突し、火花を散らす。
「魔神斬!」
テラの刃が蒼く輝き、マナを集約した刃を飛ばす。
ソードマスタースキルの一つ『魔神斬』は剣士系スキルの中では数少ない遠距離攻撃手段だ。
その一撃が確かにソルの腕を捉え、血が噴き出した。
だがソルは笑みを崩さずに腕に力を込める。
すると腕が一瞬で再結合し、何事もなかったかのようにテラへ拳打を叩き込む。
「っ!」
吹き飛ぶテラを追い、ソルが急降下する。
だがテラは空中で一回転して地面に着地し、次の瞬間にはソルの背後へと回り込んでいた。
ソルも素早く反応し、振り返り様応戦する。
ウィルゴの目には互いに一発ずつ攻撃を出したようにしか見えず、しかし実際には目にも止まらぬ速度での攻防が繰り広げられていた。
数にして百を超える刃と拳の応酬。
音が後から響き、二人を中心に嵐が巻き起こる。
ウィルゴでは到底立ち入れない強者同士の戦いだが、しかしその戦いに踏み込める者はこの場に数人いた。
覇道十二星のカストールに、回復した三翼騎士、前衛ともその気になれば戦えるパルテノスの五人だ。
カストールが跳躍して錨を振り下ろし、防御の上から強引にダメージを通す。
地面へと落とされたソルを待ち受けていたパルテノスが丸太で殴り飛ばし、そこに三翼騎士が同時に剣を振り下ろすも、ソルは素早くその場から消えて回避した。
「な、何が起こっているか全然分からない……あ、テラさんが斬って……あれ? もうあっちにいる?」
「テラの姿が見えてるの? 凄いわね。私には凄い速度で影が飛び回っているようにしか見えないわ」
全く視認出来ない速度の戦闘にウィルゴが必死に視線を動かすが、残像を追うので精一杯だ。
しかし残像を追えるだけでも大した物なのだろう。少なくともポルクスはそれすら出来ていない。
ポルクスがカストールのように英霊を指揮出来ない理由の一つがこれだ。
単純に戦いの速度に思考と動体視力が追いつかないのである。
何が起こっているか把握すら出来ないのだから指示など出せるはずもない。
特殊能力極振り故の悲しい現実がそこにあった。
そんなポルクスの自嘲をかき消すように轟音が連続して響く。
テラを中心とした即興の連携で戦う六人と、単騎で互角に渡り合うソルの戦いは激しさを増していった。
テラが『クイックレイド』のスキルを発動し、蒼い剣風となって果敢に攻める。
だがソルも負けてはいない。迫りくる雷速の乱撃を悉く避け、腕を捩じって竜巻の如き拳を放った。
直撃、貫通――したと思ったのはほんの一瞬。次の瞬間にはテラは幻影となって消え去り、ソルの肩を横から切り裂いていた。
残像を一定時間残しつつ攻撃を行う『ファントムソード』。これもソードマスターのスキルだ。
ルファスがここにいれば『対人戦だと強いんだけどCPU相手にやると全然惑わされてくれない死にスキルだ。こんなの使う奴いたのか。せめて当たり判定用意しろ運営』と酷評した事だろう。
「ストームハープーン!」
カストールが錨を振り下ろし、風の刃が発生する。
ソルの頭に直撃するも、軽い流血を齎しただけだ。
しかし体勢が崩れた所に三翼騎士が同時に斬りかかり、激しい攻防が始まった。
三位一体の剣撃を前に、しかしソルも負けじと応ずる。
剣対徒手。三対一。普通に考えれば前者が有利だ。
しかし結果として戦闘は互角であり、ソルに致命の一撃を加える事が出来ていない。
否、互角ではない。少しずつ三翼騎士が押されていた。
パルテノスの支援は確かに効いている。実力差を埋めるどころかひっくり返したはずだ。
しかし今、再びその差は戻りつつある。
その理由は……ソル自身もまた、天法を使えるという事実にあった。
(いかん! 奴め、自身を補佐しながら戦っておる!
ルファス様と同じタイプか!)
パルテノスの内心の焦燥に返事をするようにソルが笑う。
そう、相手が強化の天法をかけて強くなっているならばこちらも同じ事をすればいい道理。
パルテノス程の速度で術を行使する事は出来ないが、それでも戦いながら一つずつ発動する事は可能だ。
そして術が一つ完成する毎に差は縮まり、本来の戦力差へと回帰しようとしている。
そうなってしまえば圧倒的に不利!
この状況で最も有効なのはやはり天法の無効化、解除だろう。
だがそれを最も得意とするのは月属性だ。
日属性はサポートの術が豊富な代わりにそうしたディスペル系の術は殆ど覚えない。
ならばポルクスにそうした英霊を呼んで貰いたい所だが、今ポルクスが自らのスキル封印を解けばそれを好機とした女神に憑依される恐れがある。
他にはタウルスのスキルであるアルデバランやルファスの武器リーヴスラシルなども有効だが、どちらもこの場にはない。
しかし援護は意外な所から飛んできた。
「ルナ・ディスペル!」
月属性魔法の黒い輝きが迸り、ソルにかかった補助天法の一つを解除した。
その出所は、空に指先を向けたルーナだ。
ディスペルに互いの力量差は関係ない。命中さえすればそれで解除は成立する。
流石にルーナの事は完全に戦力外と見なし、眼中にも入れていなかったのだろう。
だからこそ不意打ちでソルはルーナの一発を受けてしまい、術を一つ外された。
だが一発だけだ。続くルーナの術を今度は余裕をもって回避し、一瞬で彼女の目の前へと着地する。
有無を言わさず振り下ろされる手刀を、パルテノスが横から割り込んで防ぐ。
だがソルの狙いは最初からパルテノスであった。
獲物が自ら飛び込んで来た隙を狙い、手刀の軌道を変える。
「――!」
丸太と拳が交差し、腕が宙を舞った。
それと同時に丸太がソルの顔面にめり込み、力の限り吹き飛ばす。
だが直後にパルテノスはバランスを崩し、膝を付いた。
その身体に、右肩から先はもう存在しない。
切断された腕は淡い光の粒子となって消失し、ウィルゴが顔を青褪めさせた。
「お婆ちゃん!」
「狼狽えるでない。所詮この身は幻……既に死した身よ。
仮初の身体から腕の一つが失われたくらいで惜しみはせんわ」
強がりを口にし、しかしパルテノスは自分達の不利を冷静に分析していた。
このまま戦闘が続けば苦しいのはこちらだ。
支援速度の差こそあれど、戦闘が続けばいずれは追いつかれる。覆される。
ルーナのディスペルが上手く当たればまだいけるが、レベル差を考えればそれは厳しいだろう。まず次からは当たるまい。
それに己の迂闊さが招いたとはいえ、片腕の喪失は割と痛い。
腕とは魔法使いや天法使いにとっては発射口だ。腕が一つ減るのはガンナー等が銃口を潰される事に等しい。
ポルクスは既に決意を固めたような表情で空を見ている。
一か八か……指輪をカストールに外して貰ってスキルを解放し、アルゴナウタイの物量で押し潰す気だろう。
確かにそれが上手くいけばソルなど一たまりもない。しかし女神がその瞬間に憑依すれば詰みだ。
(……ここまで、じゃな)
レベル800とレベル1000。この差は余りにも大きい。
死しても自分は覇道十二星の一員であり、ルファスに捕獲された身だ。
ならばアルゴナウタイとなってもその制約は続き、レベルは800で止まってしまう。
これは彼女に限らずフェニックスやハイドラスにも共通する弱点だ。
ならば必要なのはルファスに捕獲などされていない後衛。レベル1000の次世代の『乙女』の星だ。
本来ならば自分が死ぬ前に済ませておくべきだった世代交代の時がやってきたのだ。
「ウィルゴ。儂の近くに来い」
これを行えば自分は戦う力を失うだろう。
アルゴナウタイとして呼ばれても、もう何も出来なくなる。
あのアイネイアースですらそうだったのだ。自分がそうならないという理屈はない。
だが不安はなかった。孫は自分などとは違って生まれながらに高い素質を持ち、ルファスに会うまで世間知らずで何も知らなかった自分とは違う。
世界を巡り、見識も得たはずだ。
ならばこそ、後は託そう。
この愛しい、血の繋がらぬ孫娘へと。本当の意味での十二星の名と共に。
聖域の守護者の力は、一子相伝。
次代に役目を託したその時にレベルとスキルの全てを譲渡する。
正確に言うならば『聖域の守護者』という役割に内包されたスキルを全てを渡す、というべきだろうか。
だからこの使命を帯びる前に、あるいは後に自力で習得したスキルだけは手元に残る。
これは相続を繰り返す事で強くなり過ぎる事を避ける為のセーフティ機能でもあった。
だが要するにこれは、歴代の守護者全員がこの使命で受け継いだ力を除けば大した者達ではなかったという事の証明に他ならない。
強かったのは『聖域の守護者』であってアイネイアースやパルテノスが強いわけではなかったのだ。
要は一種の装備品のようなものだ。聖域の守護者という役割そのものに力が備わっている。
それを手放す事はつまり、パルテノスの戦力外化を意味していた。
だがそれでいい、と彼女は思った。
女神から与えられたこの役目はもう要らない。そしてきっと、これが歴史で最後の相続となる。
女神の脚本を主が破り捨てるならばもう、聖域を守る守護者など必要ない。
パルテノスは指先に力を集め、ありったけを注ぎ込んでいく。
その力を、未だ事態を飲み込めていないウィルゴの胸元へと解き放った。
放たれた光はウィルゴの胸の内へと吸い込まれ、彼女の身体が輝き出す。
「え? ちょ、え? お婆ちゃん、これなに!?」
「儂が今まで持っていた守護者の力をお前に託しただけじゃ。そう騒ぐな」
「ふええ!?」
これで継承は終了。承諾すら得ずの一方的な受け渡しだが事態が事態だ。説明している間すら惜しかった。
本来ならばこれを受け渡す際には力の使い方がウンタラカンタラ、使命がうんぬんかんぬんと説明せねばならないのだが、そもそも使命を放り出してルファス側に付いた自分が語る事などない。
それ以前に守護者の使命など今となっては下らないとしか思えず、それを孫に預ける気もなかった。
渡すのはただ、理不尽に抗う力のみ。未来を切り開く自由を惜しみなく託した。
自分が後から得たスキルや経験すらも孫へ預けた。
それをどう使うかなど、ウィルゴ次第だ。
「儂の力の全て、お前に託したぞ。その力でやりたい事をやるといい」
「私の……やりたい事……?」
「ああ。儂の戦闘経験、力、スキル、魔法、天法。全てがお前と共にある。
そしてこの丸太もお前に継承しよう!」
「あの……御免なさい。それは要らないです」
「……」
「重くて持ちにくそうだし、ルファス様から貰った剣もあるし……。
というか加工も何もしていない丸太は武器じゃないと思うんだけど……」
パルテノスは全てを孫へと継承した。
しかし、丸太だけはどうやら受け取って貰えないようだ。
丸太を拒否するだと……!? 丸太を受け取らねェからチクショウ! ハァハァ
Q、この強さで速攻戦線離脱とか……。
A、むしろすぐに離脱するゲスト参戦だからこんなアホみたいな性能にしたんやで。
こんなのが常にいたら逆に作者である私が困ります。こんなのとルファスorベネトが組んだら魔神王さんが死んでしまう。
とりあえず今後はウィルゴの専属コーチになります。
フーゴ「強すぎて作者から退場喰らうとかアホじゃね、あいつ」
重ちー「物語に残り続けたらそれだけで敵が超不利とか、そりゃ退場喰らうど」
ノヴ「強すぎる能力持ってるくせにアホみたいな理由で退場とか凄いアホみたいですね」
キャンチョメ「扱いに困って退場させるくらいなら最初からそんなチートにしなきゃいいのにね」
遊戯王禁止カードズ「登場して即禁止とか存在意義を疑うわ」




