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第143話 ソルの挑発

【前回のあらすじ】


     ∧_∧

 ;;;、(・ω(:;(⊂=⊂≡

    (っΣ⊂≡⊂=

    /   ) ババババ

    ( / ̄∪


ルファス「レォォォォォォン!!?」

 魔神族七曜。

 それは人類制圧の為に組織された七人の魔神族の精鋭――という名目の弱兵の寄せ集め。

 今の人類から見れば強敵である事に違いはなく、騎士団が束になっても太刀打ち出来ない怪物ではあるが、それでも真の怪物には遠く及ばない。

 仮にこの場にマルス、メルクリウス、ユピテル、サートゥルヌスを呼んでルーナを加えた五人で戦ったとしてもその戦力はカストール一人にすら太刀打ち出来ないだろう。

 だから、そう。七曜の長だろうが何だろうが今更出てきても何ら脅威ではなく、登場する時期を完全に間違えた小物が出てきたに過ぎない……はずだ。

 だがカストールは無意識のうちに武器を手に、構えを取っていた。

 否、彼だけではない。テラや、ポルクスの後ろの英霊達も同様に構えを取り、警戒を露わにしている。

 そんな彼等を前に白い男……ソルは二ィ、と口角を釣り上げた。


「まずは自己紹介といこうか。

私の名は七曜が一人、『天』のソル。司る力は日属性。

お目にかかれて光栄だ、我が従兄妹よ」


 低く、渋みのある声でソルが従兄妹、と呼んだのはポルクスとカストールの双子であった。

 勿論彼女達に心当たりなどない。

 そもそも龍のアバターである彼女達に親戚などいるはずもなく、ましてや魔神族との繋がりなどない。

 だが何故だろう。心のどこかでその言葉を正しいと感じてしまうのは。

 この男から、自分達と同じ物を感じるのは一体どうしてなのだろうか。


「そしてテラ。君もまた私の従兄弟に当たる。

私達は極めて近しい存在であると言っていい」

「何を言っているのか分からないな……一体何をしに来たのだ、ソルよ」


 テラにとってソルとは己の部下に当たる男であり、そして現状では信ずるべきではない相手でもあった。

 何故ならあの裏切り者、ウェヌスを連れてきたのは他ならぬこのソルであり、故にテラは彼をウェヌス……ディーナの操り人形であると考えたからだ。

 恐らくは記憶操作か思考誘導。そのどちらかを受けたのだろうと、そう考えた。

 だが今、テラはその己の考えが根本から間違っていたのではないかと思いつつあった。

 そう思わせるのは、自分の下で働いていた時のソルにはなかったこの圧倒的な存在感、そして不気味さだ。


「龍を叩き起こしに来た。と言ったらどうする?」

「なっ!?」

「まあ、先にバラしてしまうとだ。私は魔神王側ではなく女神側の存在だ。

騙していて済まなかったとは思うが、これも仕事だ。悪く思わんでくれ」


 ソルは余裕の笑みを浮かべたまま、至極あっさりと己の目的を語った。

 それは、話した所でどうせ防げないだろうという絶対の自信の表れであり、テラはこの瞬間、自分の部下だった男を今の今まで見誤っていた事を理解させられた。


「このまま目的を果たしてしまってもいいのだが、それでは諸君も何が起こったか理解が追いつかんだろう。もしよろしければ説明する時間を頂けるかな?」

「……親切だな」

「ふふ、私はこれでも優しいのだ。そしてその返事、肯定と取らせてもらおう」


 白々しい事を口にし、それからソルは全員を一瞥する。

 この場に集まった面子の中で高いレベルを持つ戦闘員は五人。

 カストールとテラ。そして三人の天翼族の英霊。要するにポルクスとウィルゴを除く全員だ。

 だがそれを前にしてもソルの余裕はまるで揺らぐことはない。


「ああ、勿論……いつでも説明の最中に不意打ちを仕掛けて来て構わんぞ。

もしかしたら私の虚を突けるかもしれん」


 ソルがそう言いながら見たのは、後ろに控えていた『風鳥』のアプスだ。

 彼は後ろ手に小刀を掴んでいたのだが、それを容易く看破されてしまった。

 その事に顔色が変わり、動きが止まる。


「何だ、来ないのか? ひょっとして緊張させてしまったかな?」

「勿体ぶるな。さっさと話せ」

「ああ、これは失礼した。ではそうだな……まずは事の始まりから話そう」


 テラから急かされたソルは腕を組み、思い出すように目を閉じる。

 何とも隙だらけな姿だが、そこに仕掛ける者は誰もいなかった。

 あえて隙を見せて誘っているのだと分かり切っているからだ。

 やがて彼は目を開き、己の事を話し始めた。


「魔神族七曜……月のルーナ、火のマルス、水のメルクリウス、木のユピテル、金のウェヌス、土のサートゥルヌス、そして私……天のソル。もうお察しだろうが、このうちの二人……ウェヌスと私は普通の魔神族とは少し違う。ウェヌスに至っては魔神族ですらないハーフエルフだ。

ああ、先に言っておくがサートゥルヌスはれっきとした魔神族だし私達とは何の関係もない。彼女を疑わないでやってくれ。

そして別に隠す事でもないので言ってしまうが、私の正体は天龍のアバターだ。

こちらも正しい名は『日龍』なのだが火龍と被ってしまうので親しみを込めて『天龍』と呼んで欲しい」

「な……ん、だと?」


 ソルの口からあっさりと語られた正体に全員が息を呑んだ。

 女神の代行者たる五体の神獣。その龍のうちの一角である天龍の分身体が目の前にいるのだ。驚かぬはずがない。

 そして同時に理解出来たのは、先程の従兄弟という言葉の意味。

 そう、彼はポルクスやカストールと同じなのだ。

 龍から生み出されたアバターであり、そして龍からは独立した自我を確立してしまっている。

 唯一つ違うのは、彼はポルクスと違って本体である龍の意思に沿っているという事だろう。


分身体(アバター)ではあるが自我に目覚めた今の私達は龍の子、という方が相応しいだろう。

そういう意味ではテラ、君もまた私と同じ存在になるわけだ」

「……俺はずっと欺かれていたわけか。嫌になるな、己の無能さが」

「そう卑下する事もあるまい。むしろウェヌスの思考誘導がある中で私とウェヌスを疑う事が出来ただけでも上々というべきだろう。

それに私は創り手こそ違うが紛れもなく魔神族だ。私の正体を看破するのは難しかろう」


 ソルは静かに話しながら、ルーナを見やった。

 それに対しルーナは警戒したように睨み付けるが、無論効果など全くない。


「……父は、この事を知っているのか?」

「さて、どうだろうな。何せ油断ならん男だ。

あるいは私の正体にとっくに気付いていながらあえて泳がされたのかもしれん」

「七曜に潜り込んだ目的は?」

「ウェヌスは内側からの魔神族の操作。私は魔神王の監視だ。

魔神族七曜というのはな……私達二人がその身を隠す為の隠れ蓑だったわけだ。

これを実際に組織したのは君だが、しかし、そうするようにこちらで誘導させてもらった」


 テラは険しい顔をしながら、七曜を結成した時の事を思い出していた。

 あの時は……そう、思い返せばあの時はどこか呆けていた気がする。

 まるで酒を飲んで酔ったような気分だった。

 思えばあの時既にウェヌスの術中に嵌っていたのだろう。

 ソルがどこからか連れて来た、どう見ても魔神族には見えない女を疑いすらしなかった。

 前知識のない状態から放たれる思考誘導ほど恐ろしいものはない。

 そして……そう。当時、まだ魔神族としては下っ端に過ぎなかったルーナと王子であるテラとの間には埋めがたい身分差があった。

 いかにテラがルーナを側に置きたいと考えようと。ルーナがテラの側にいたいと願おうと。それは二人の間の立場の差が許してくれない。

 だがあの時は魔神族の強者がルファスによって殆ど命を散らしており、ルーナを幹部の椅子に座らせるまたとない機会だった。

 ――そこを突かれた。

 何の事はない。要するに自分の色ボケがこの事態を招いていたのだ。


「そうしてウェヌスは内側から魔神族を誘導し、私は目立たない男を演じつつ七曜という道化に成り切った」

「何故父を監視しようとした?」

「いい質問だ。それはなテラよ。君の父が女神の脚本を無視してしまったからだ」


 その言葉にテラの眉が上がる。

 何も言わないが、微かな動揺が顔に現れていた。


「二百年前のあの時……本当ならばあそこで物語は一度終わるはずだった。

魔神族は七英雄が命と引き換えに倒し、魔神族もまた滅び去る運命にあったはずなのだ」

「なっ!?」


 今度は、声を抑えられなかった。

 それは完全な予想外であり、予期せぬ答えだったからだ。

 ポルクスもまた険しい顔をしており、彼女の考えともズレが生じているらしい。


「……人類を追い詰めるのは女神様のシナリオではなかったの?」

「無論、そうだ。しかし実はそれも一度小休止を挿む予定だった。

かつて繰り返してきた事と同じように、一度魔神王という悪は舞台から降りるはずだったのだ。

配下の魔神族全てを道連れにね。

しかしそうはならなかった。死ぬはずの七英雄は存命し、魔神族は退場しなかった。

終わるはずの茶番劇を続行させてしまったのだ」


 ポルクスはそこまで聞き、顎に手を当てて考え込む。

 オルムは……あの男は一体何を考えている?

 終わるはずだった茶番を引き延ばすなど、今までに一度だって無かったことだ。

 引き延ばす事に一体どんな得があるというのだ?

 女神の不興を買い、一体あの男は何をしたい? 何を見据えている?

 ……そうする事で得られる魔神王のメリットが、まるで見当たらない。


「無論女神は問うた。これは何の真似だと。

それに対し奴はこう答えた。『七英雄や英傑達を相手に演じる余裕がなく、つい全力でやってしまった』とな。

何せ本来は数千、数万年に一人、女神が選んだ勇者だけが到達するはずのレベル1000の頂がかつてない数で攻め込んで来たのだから、確かにその通りかもしれん。

しかし女神はこの時、一抹の不安を抱いた。そこで私を監視として派遣する事を思い付いたのだ」


 語りながらソルは腕組みを解いた。

 それに応じて咄嗟にテラ達が身構えるが、仕掛けてくる気配はまだない。


「その後奴は、しばらくは女神に従順だった。

人類を滅ぼしてしまわない程度の力加減で、かつ追い詰めるように人々の恐怖心を高めた。

だがやはり女神の不安は正しかった。決定的なのは先日の戦いだ。

奴は復活したルファス・マファールにあろう事か脚本の事を暴露したのだ」

「オルムは一体何を考えているの?」

「それは私にも分からん。分かるのは、奴が完全に女神から離反したという事だけだ。

ルファス・マファールを討てる駒はなく、オルムまでもが反逆……ポルクスや十二星を動かすも悉くルファス側の戦力を増強するだけに終わり、ここに来て女神は遂に最大戦力を動かす事を決めたわけだ」


 ソルはそう語り、マナを高めた。

 話は終わり。そういう事なのだろう。

 すぐに仕掛ければいいものを、あからさまなまでに『これから仕掛ける』という合図を送るのは彼が堂々とした戦いを望むが故なのか、それとも単にこちらを舐めているのか。

 どちらにせよやる事は変わらない。

 テラは剣を抜き、それと同時にカストール達も前へと歩み出た。


「さて、理解は済んだかな? ならばそろそろ始めたいのだが……何かまだあるならば先にやっておくといい。補助天法なども使うまで待ってやるぞ」

「舐めるな!」


 挑発するように言うソルへ、勇ましく叫んだのは後ろにいた英霊達であった。

 彼等は跳躍してテラの前に着地し、三人同時に剣を構える。


「我等、ルファス様に忠誠を近いし三翼騎士! 『孔雀』のパーヴォ!」

「同じく『風鳥』のアプス!」

「同じく『鴉』のコルブス! お前などカストール様が出るまでもない!

ゆくぞ、フォーメーションAだ!」

「待て、ここはBだ!」

「ねえよそんなもん!」

「ならばCだ!」

「応!」

 

 三人の天翼族が飛翔し、ソルへと猛然と斬りかかった。

 ソルはそれに対し、苦笑しながら空へと飛ぶ。

 それを追って三人が左右正面から同時に攻撃を仕掛けるも、ソルは両腕と膝で三人の攻撃を防いでしまった。

 そればかりか自身を中心としてマナを発し、その衝撃波で三翼騎士を弾き飛ばす。

 更にそのまま正面へ突撃。体勢を立て直せていないコルブスの顎を蹴り上げ、追撃の踵落としで地面へと叩き込んだ。

 背後から二人が同時に剣を振り下ろすも、すぐに振り返って指先で刃を掴む。


「……っ!」

「ぐ、この……」

「どうした? 弱めに摘まんでいるだけだぞ」


 指先の力だけで刃ごと二人を投げ、瞬時に移動してアプスを蹴り落す。

 そのまま流れるような動作で掌をパーヴォへと向け、直後に爆炎が巻き起った。

 その戦闘時間は僅か数秒。否、会話に交わした時間を除いた純粋な攻防だけを見れば一秒にすら満たない間の事であり、ウィルゴやポルクスから見ればまさしく一瞬の出来事だっただろう。

 瞬く間に地面に落とされてしまった三翼騎士を見ながら、テラは強く実感する。

 この男……口先だけではなく、本当に強い。と。


「さあ、次は誰かな」


 地面に倒れた三翼騎士にウィルゴが回復術を施すのをあえて見逃しながらソルは余裕綽々にテラ達を見た。

 三翼騎士は決して弱くはない。

 確かにその能力値はルファスや七英雄のようなレベル1000の域を逸脱したものではない通常のレベル1000だが、そのレベル自体が既に強さにおける一つの頂点であり、単独で人類文明を滅ぼしてしまえるほどの怪物なのだ。その気になれば数日でミズガルズを生物が住めない荒廃し切った惑星にする事だって出来る。

 そしてその戦力はテラとて手こずる猛者達であり、それを同時に三人相手にしてあしらうというのは並大抵の事ではない。

 少なく見積もっても通常時のルファスやレオンに匹敵する実力者と見て間違いないだろう。

 対してこの場の最大戦力であるテラの強さは三翼騎士の一人とそう大差があるわけでもなく、三人どころか二人を同時に相手にするだけで危うい。

 これでテラが互角に戦おうとするならば相応に強力なバフ、あるいはデバフが必須だ。

 しかしそんな術を使いこなせる者はここにはおらず、ウィルゴでは不足だ。

 ポルクスならばアルゴナウタイでの圧殺が可能だが……指輪を外した瞬間に女神が憑依する可能性がある以上、その手は打てない。

 今ここでポルクスが女神に操られるような事があれば全滅は必至だ。

 故にあらかじめ、憑依されてもすぐに取り押さえてくれるルファスがいる時に召喚しておいた英霊で戦うしかなく……。


 幸運な事に、この状況を打開出来る英霊は既に喚んでいた。


「――次は儂じゃ」


 ズン、と地面に何か重い物を打ち付ける音が響く。

 それと同時に響いたのは幼い少女の声色。

 しかしその口調は声とは似合わぬ老練した老婆のそれであり、全員が振り返ればそこにいたのは緑色の髪の少女であった。

 手には木龍の枝から削り出した丸太を持ち、口元は弧を描いている。

 その姿をウィルゴはよく知っていた。

 一度見ただけだが忘れるはずもない。尊敬する祖母の若かりし頃の姿であり、今はもういないはずの人物なのだから。


「……お婆、ちゃん?」


 その名を覇道十二星。先代『乙女』――パルテノスといった。

_人人人人人人人人人人人人人人人_

> 皆丸太は持ったな! 行くぞォ!<

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

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[一言]  _人人人人人人人人人人人人人人人人_  > 皆丸太は持ったな! 行くぞォ! <   ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
[一言] 分かってしまったかも知れないディーナとルファス(プレイアーの正体
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