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第12話 野生の魔物達が飛び出してきた

 この世界の生き物は大雑把に、かつ適当に大別するならば凡そ4つに分ける事が出来る。

 その分類は人類、魔物、魔神族、そしてそれ以外だ。

 まず人類は人間、天翼族、ドワーフ、エルフ、小人族、吸血鬼、獣人の主要7人族で人類と称される。

 その条件は……まあ、主観だな。

 二足歩行という点を取ればオークやゴブリンも入るはずなのに、あいつら話が通じないって理由で魔物扱いだし。

 いや、一応会話するだけの知能はあるんだが会話がイマイチ成立しないんだ。

 価値観というのが違うんだろうな、多分。


 次に魔物。

 これはマナによって変質進化した人類以外の特殊な生き物全てを指す。

 この世界の魔物とは、魔王が生み出したわけでもなければ何処かから湧いて出てきたわけでもない。

 元々は全てこの世界で生きていた普通の生き物だと言われている。

 そしてそれが変質してしまったのが魔物という生物である。

 実はエルフやドワーフ、小人族、獣人なんかもマナの影響で変質した人間が祖先らしいのだが、彼等は魔物と呼ばれない。

 この辺、かなり曖昧でいい加減である。

 

 魔神族は……実はよく分かっていない。

 ゲーム中でも設定が明らかになっていないのだ。

 有力な説としてはマナによって変質した8番目の人類種、て所だろうか。

 多分吸血鬼とかとそう差はないんじゃないだろうか。

 尚、同じ『魔』を冠してはいるが別に魔物とお仲間ってわけじゃない。

 勿論魔物を引き連れている魔神族はいるが、それはぶっちゃけモンスターテイマーのスキルを使っているだけで、こっちも同じ事が出来る。

 ただあいつ等、ゲーム上の演出とはいえ、こっちには出来ないモンスター同時使用とかズルい事出来るんだよな……。

 どう見てもモンスター100体以上の大軍なのに、システム上はそれ全部ひっくるめて1体のモンスター扱いとかちょっとズルすぎませんかね。

 何だよ、モンスター名『ゴブリン×100』って。1体なのか100体なのかハッキリしろよ。

 それがありならこっちだってモンスター名『12星天』で全員出すぞちくしょう。

 ……あ、駄目だ。一体ゴーレム混ざってたわ12星天。


 最後にそれ以外の生き物。

 これについては、まあそのまんまだ。

 上記3つに属さない、それ以外の普通の生き物を指す。

 獣とか魚とか虫とかな。

 雑すぎる気がしないでもないが、ゲーム上そこまで重要でもなかったのでこんな分け方となってしまった。

 だがこれについては特に説明する事が全くないのも事実。

 多少地球の生き物と形状が違ったりするが、まあ多すぎていちいち説明してられない。

 そもそもこいつら、ただの背景賑やかし要員だしな。


 さて、アリエスはこのうち魔物に属している。

 まあ、モンスターテイマーのスキルで味方に引き込んだんだから魔物に決まっているんだが、実はこのモンスターテイマーのスキルが結構いい加減だ。

 ぶっちゃけ敵としてポップするなら、それが見た目人間だろうと……例えば吸血鬼やダークエルフなんかでも魔物扱いで味方に出来たりする。

 酷い奴に至っては、盗賊や野盗、山賊や海賊ばかりを捕獲してモンスターテイマーならぬヒューマンテイマーを名乗っていたりもした。

 まあ、それを思えばアリエスは実に魔物らしい魔物だ。

 迫力には欠けるが虹色の羊という分かり易い姿をしているし、見れば一目で分かる。


 見た目は分かり易い。

 場所も分かっている。

 ならばこれは、俺が堂々と迎えに行ってやるべきなのだろう。

 俺は読み終えた本を本棚に戻し、ディーナを見る。

 彼女は既に小説8冊目に突入しており、面白そうに読みふけっていた。

 というか読むの早いなおい。


「あれ? もう調べ物はいいんですか?」

「ああ、知りたい情報はあらかた得た。行くぞ」

「行くって……どこに?」

「アリエスの奴がいる城だ。案内せよ、ディーナ」


 ディーナと俺は席を立ち、図書館を後にする。

 次の目的地はズバリ、この付近に建てられているというアリエスの居城だ。

 最初はメグレズを優先する気だったが、現状貴族区に入る方法が思い付かない。

 入ろうと思えばいくらでも方法があるが、平和的な手段がないのだ。

 ならば今はアリエスを止める事を優先し、それから改めて手段を探すほうが効率的だろう。


「ええ。アリエスさんのお城は国を出てから――」


 俺に促され、ディーナが説明をしようとする。

 だがその言葉は唐突に途切れた。

 地面が唐突に揺れ、ディーナが体勢を崩したからだ。


「おっと」


 俺はディーナを受け止め、それからすぐに手を離して翼をマントの中に引っ込める。

 一瞬の事だったから誰も見ておらず、何よりそれどころでないのが助かった。

 地面が大きく揺れている。

 地球の日本ほど耐震性がないと分かる建築物は目に見えて軋み、人々が悲鳴をあげていた。

 地震か……? 結構大きいな。

 震度4か、5はありそうだ。


「ふむ、縦揺れか」

「ルファス様、なんだか落ち着いてますね」

「地震には慣れている」


 このくらいの地震ならば日本人なら日常茶飯事だ。

 しかしこの世界の人々はそうではないらしく、明らかに怯えを見せている。

 まるで日本に遊びに来て地震にビビるアメリカ人のような反応だ。

 俺はそれを見て、もしやという疑惑を感じた。


「ディーナ、この国の地震頻度はどうなっているか分かるか?」

「滅多に起こりませんよ」

「……ふむ」


 滅多に地震が起きない、か。となると、この地震にも疑問が残る。

 勿論、滅多に起きない地震が偶然起こったと考える事も可能だ。

 しかしもう一つ、俺には心当たりがあった。


 地震を意図的に起こすスキルを、アリエスが持っているのだ。

 いや、俺が覚えさせたというべきか。


 以前語ったようにテイマーの操るモンスターはバランス的にプレイヤー本人を越えないように調整されている。(ただしドーピングで強引に超えさせる事は不可能ではない)

 それはレベルもあるし、そしてもう一つ厄介なのがスキルの管理だ。

 プレイヤーキャラはスキルを無限に習得出来るが、テイマーの操る魔物はその数が制限されている。

 スキル数にしてレベル÷50。これがテイマーの使う魔物に許されたスキルの数だ。

 そして魔物のスキルはレベルアップによる自動習得と、アイテムを使用して覚えさせるタイプの二種類に大別される。

 そしてアリエスは元々戦闘向けの魔物ではない。つまり戦闘向けのスキルは全て俺が与えてやる必要があった。

 それだけにアリエスのスキル構成は俺が誰よりも知っている。

 アリエスのスキル構成のテーマ……それはズバリ『妨害』+『割合ダメージ』だ。

 元々ステータスの高くないアリエスを十全に活用するべく俺が考えたのは、ステータスに依存しない妨害能力を多数与える事であった。

 そしてそのスキルの中で最もアリエスに多用させたのが『アースクエイク』。

 意図的に地震を引き起こしてその場のキャラ全員のAGIを下げ、一定確率でスタンさせるという嫌がらせのような能力だ。

 俺自身は天翼族で飛べるので地上判定のこのスキルの影響を受けないし、極めて相性のいいスキルだったのだ。


「偶然かもしれん……しかし偶然でないとすればアリエスの奴が来ているな」

「ルファス様、恐らくそれは正しいです。

あちらの方……商業区でマナが乱れているのを感じます」

「ガンツがいる場所か」


 マナの乱れまで感知出来るか。

 全くもって多芸な部下の頼もしさに俺は口の端を歪め、そして商業区を見る。

 あそこにはガンツのおっさんがいるはずだ。

 過ごした時間はほんの十数分だが、彼は気のいいおっさんだった。

 これは少し急いで向かってやった方がよさそうだ。


「ルファス様、すぐにモノレールに乗って商業区へ向かいましょう」

「否、それでは遅い。それに運行停止の恐れもある」

「では?」

「少し荒っぽい手段で移動する」


 今はまだマントを脱ぐ事が出来ない。

 しかしそれでは飛んで行く事が出来ない。

 ならばどうすればいいか?

 簡単だ。翼の代わりになるものを用意してしまえばいい。


「材料は……ふむ、アレでいいか」


 視界の端に倒壊した建物が映る。

 よほど耐震性がなかったのか、あれだけの地震で脆く崩れてしまった建物に意識を飛ばし、俺は『練成』を試みた。

 泥棒のような気がしないでもないが、瓦礫の撤去みたいなものと思えば、そう悪い事はしていまい。

 かくして完成したのは俺とディーナを載せる為の簡単な乗り物。

 言ってしまえばそれはただの、でかい三角の土台。これだけではとても乗り物として成立などしない、チャチな代物だ。


「乗れ。これで飛ぶぞ」

「あの、落ちそうなんですけど」

「ならば余の背中にでも抱き付いていろ」


 俺はさっさと土台の上に乗り、続けてディーナが乗って俺の背中にしがみ付く。

 それを確認してから念力を発動。

 俺達が乗っている土台を対象にサイコスルー!

 乗っている俺達ごと武器として空へ射出し、一気に飛んで行く!



 さて、間に合ってくれよ……。



*




 大地が揺れる。

 マナが乱れる。

 ――来る! 何かとんでもないものが。

 恐ろしい者がこちらに来ている!

 その事をこれまでの戦いで培った経験によりガンツは理屈ではなく本能で理解していた。


「伝令! 待機中の傭兵は至急武装して国境前へ集結せよ!

繰り返す! 傭兵は全員、至急国境前へ集結せよ!」


 伝令の兵士が大声をあげて走り回り、商業区が騒然とする。

 この商業区は地理の関係上、最も攻撃を受け易い位置だ。

 必然、そこに傭兵や兵士は常に配置され、魔物の襲撃を食い止めてきた。

 だが非番の者まで呼ぶとなると只事ではない。

 慌しく傭兵達が集まり、門番隊が国境前で陣を整える。

 ガンツもまたその流れに乗り、装備を整えて商業区入り口まで走った。


「ガンツの大将! こりゃあ一体何事でえ!?」

「俺が知るか!」


 同じ傭兵仲間の一人であるジョニーと道すがら合流し、走りながら何事かを聞かれるがガンツにだって詳しい事は分からない。

 しかし戦士の勘が告げている。

 今日始まるのだ……今までにない戦いが。

 この国を守る戦いが!


「だがこの空気……お前にもわかるだろう? ビリビリきやがるぜ……!

『来た』んだよ……! 『いつか』来ると言われていた決戦の時が!」

「するってえと……アリエスの総攻撃か!」


 『いつか』。

 いつかはこの時が来ると誰もが予想していた。

 膠着状態に陥ったアリエスとの戦争だが、それがずっと続くなどありえない。

 きっといつかは、勝負をかけた大攻勢を仕掛けてくる。

 それは皆が分かっていた事であり、そして恐れていた事だ。

 その恐れていた『いつか』が今、やってきたのだ!


「隊長!」

「おお、きたかガンツ!」


 国境へ向かうと、そこには既に国境警備隊が陣を敷いて整列を終えていた。

 ガンツは隊長を務める、一際大きな男を見付けるとそこに駆け寄る。

 国に仕える兵士と金で雇われた傭兵、という立場の違いこそあれど共に国を守る同志。

 二人は互いを認め合い、信頼していた。


「敵の規模は!?」


 ガンツの問いに隊長は無言で双眼鏡を渡す。

 言葉で言うより見た方が早いという事だろう。

 渡されたそれに目を合わせてみれば、出来れば見たくはなかった悪夢が視界を埋める。

 国境へ近付き進軍する魔物、魔物、魔物の雪崩。

 一体何体いるのかも分からない大軍勢が無秩序にこちらに押し寄せている。


「……こりゃ、敵さんも今日はマジみたいだな」

「ああ。問題は何故『今』なのか……何か切っ掛けがあったのか、単に気が向いたのか」

「知らねえよそんなの。あの数を揃えるのに今日までかかったとか、そんなんだろう。

それよりどうするよ? 本隊が城から来るまでアレ、俺達で抑えろってか?」


 ガンツは愛用の斧を肩にかけ、皮肉気に言う。

 今ここにいる門番隊の数は総勢500名。雇われの傭兵200名で合計700名となる。

 不足……と言うにも程がある。

 本隊が合流すればまだ何とかなる可能性もあるが、それまでにこちらが全滅する可能性の方が高い。


「無茶だがそれしかあるまいよ。

せっかく挨拶までして、こちらに構える暇をくれたんだ。

ならばそれに応えてやらねばな」

「さっきの地震はやっぱ宣戦布告みたいなもんかい。余裕こいてくれるぜ」


 攻める前にわざわざ地震で襲撃を教える必要などない。

 あれを最も効果的に使うならば攻め込む直前、こちらの出鼻を挫く為に使うのが正しい。

 しかしアリエスは逆に先んじて地震を起こし、こちらに構える時間を与えてしまった。

 わざわざ『今から攻めますよ』とメッセージを送ってきたのだ。

 侵略はするが宣戦布告なしの騙し討ちはしない……確かこれは、今は亡きルファス・マファールが自らに課したルールだったか。

 変な所だけ主の真似をしやがって、とガンツは唾を吐き捨てる。


「だがおかげである程度の準備は出来た。

魔法使い、全員前へ! 奴等が近付いてくる前に一匹でも多く減らすぞ!」


 隊長の言葉に従い、ローブを着込んだ魔法使い達が前へ出る。

 ここは魔法使いと学問の国スヴェル。

 国が所有する魔法使いの数もまた世界一だ。

 この魔法使いが達が放つ魔法の弾幕、そう簡単に潜り抜けはさせない。


「撃ーーーっ!!!」



 号令と同時に放たれる数多の魔法。

 それがスヴェル国最大の決戦、その開幕の合図となった。


アリエス「ムシャムシャムシャムシャ」

オーク「」


オークはたべられてしまった。

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