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第124話 死亡フラグはデブリに絡みついた

死亡フラグ「あら、あの子イケメンじゃないの! 絡みついちゃお!」

デブリ「!?」

 その日、武闘会には多くの人々が集まり熱気に満ちていた。

 その視線の中心にあるのは丸いリングだ。

 そこで二人の出場選手が剣を交わし、火花を散らしている。

 だがその戦いは一方的なもので、茶髪の美男子が重鎧の戦士を一方的に攻め立てているという内容であった。

 やがて膝をついた戦士は恨みがましい声で呟く。


「おのれ……この卑怯者めが」

「一体何の事かな? 自分の実力が足りないのを僕のせいにしないで欲しいな」

「よくもぬけぬけと……! 貴様、一服盛っただろうが!」

「さあ、僕は知らないよ? もしかしたら僕の事を慕う部下がやったかもしれないけど、それは僕には関係ないよねえ?」


 二人の会話は観客の喧騒に包まれ、人々には聞こえない。

 ただ敗者が遠吠えをしているようにしか見えない。


「まあ、仮に君の言う通りだったとしてもさ。君みたいな品性のない平民と僕のような貴き者ならば、どちらが勇者の名を背負うに相応しいか、子供でも分かる事だろう。観客だって君の勝利なんて望んじゃいない。僕が華麗に君を倒して這い蹲らせる姿を見に来てるのさ」

「てめえ!」


 戦士が拳を繰り出すが、上手く当たらない。

 控室で出された飲み物を口に入れてからというもの、力が満足に入らず本来の力の半分も発揮出来ていないのだ。

 そんな彼をデブリは嘲笑いながら剣を振るう。

 すると戦士の肘から先が落ち、激痛に叫んだ。

 しかしそれを咎める者などいない。何故ならこれは武器有の真剣勝負であり、殺さずに勝つのが一番いい事だと言われているが、それでも相手を死なせるのは決して反則でも何でもない。

 殺傷も競技中の事故としか見なされないのだ。


「がっあ……! ま、参っ……」


 戦士が降参しようとするも、それを許さずにデブリが剣で喉を串刺しにした。

 降参した相手への攻撃は無論、問うまでもなく反則である。

 ただしそれは、審判がそれを聞いていればの話だ。


「…………」


 審判は、聞いていない。

 耳には届いているのだろう。降参しようとした声は鼓膜を通し脳に入ったのだろう。

 だが聞いていない。聞かなかった事にしている。

 ここでデブリの反則を咎めてスペス家の不興を買っても損しかしないからだ。

 だから彼は、戦士の死を『意地を張って降参しなかった』として処理する事にした。


「そこまで! この勝負、デブリ選手の勝ちです!」


 審判の宣言にデブリは両手をあげてアピールし、観客が沸き立つ。

 これが彼の手口であった。

 試合前に裏から手を回して対戦選手の飲み物に一服盛り、審判を買収し、勝てて当たり前の試合に勝利する。

 相手が気に入らなければ降参など無視して殺してしまえばいいし、玩具になりそうな女ならば治療と称して連れて行けばいい。観客はきっと紳士的だと思ってくれるだろう。

 そういえばこの前手に入った玩具はなかなか面白かった。

 確か騎士の女で、そこそこ整った顔をしていたから殴り甲斐があった。

 そういえば遊んでいる最中、何度か男の名を呼んでいた。

 もしその男の前に今のあの女を見せてやればどんな反応をするだろう?

 平民は彼にとって見下す対象でしかないが、しかし一つだけ存在意義があった。

 ――玩具にして遊ぶと楽しいのだ。

 だが、遊び過ぎた玩具はいずれは壊れるもの。

 あの女も、そろそろ捨てる頃だろう。最近は反応すら示さなくなった。

 だからこそ、あの女の友人だというメイジの小娘――アルフィとかいう奴を新しい玩具に任命してやったのに、それを栄誉に思うどころか逃げるなどとんでもない無礼者だ。

 更にそれを邪魔したセイとかいう、王が任命した程度でいい気になっている自称勇者はもっと気に入らない。

 平民が僕に歯向かうな、逆らうな。お前等は全員僕の玩具で、それ以上の存在意義などないのだから。

 だから、そう。壊してやろうと思ったのだ。

 あの勇者が大事に思うもの全てを。

 さしあたっては、奴の仲間か。今頃はあいつと一緒に都に来たという連中が泊まっている宿にデブリの配下が向かい、襲撃をかけている頃だ。

 見眼麗しい女が何人もいたというから、捕まえて新しい玩具にするのもいいだろう。


 彼は気付かない。まだ気づかない。

 ソレが美しい女の姿をしただけの災害であると、まだ気付いていなかった。


*


 レーギャルンに宿は数多く存在する。

 この都には流れの傭兵や冒険者、腕試しの剣士などが多く訪れる為、必然的にそうした施設の需要が強くなるからだ。

 そんな中にあって都一の宿は何処かと問われれば、この都を知る人々は口を揃えて『ラトネの宿』であると答える。

 この宿は、元々はどこにでもいるような青年が、片思いの相手との接点を求めて始めたものらしい。

 片思いの相手は騎士の家系に連なる少女で、普通ならば住む世界が違う。

 だが青年は少女に焦がれ、恋し、駄目元で始めた宿は、やがて店主の料理の腕前から評判となった。

 最初は『一度でも訪れてくれればいい』と思っていたそこはやがて騎士の少女が好んで訪れる場所となり、彼女に喜んで欲しい一心で店主は更に料理の腕を上げた。

 やがて二人は何度も顔を合わすようになり、店主はいつしか少女にとっての帰るべき場所になっていた。

 気付けば互いに惹かれており、二人はいつしか恋人同士となっていたという。


 ――という、ラブロマンスをディーナが昼食の席でベラベラと俺達に語って聞かせた。店主が近くにいるのにだ。

 おいやめろ、馬鹿。そういうのは噂になってるとしても黙っててやるのが優しさだぞ。

 俺はパンを齧りながら非難するようにディーナを見るが、彼女は気にしていない。

 熱々ですねー、などとほざきながら話を続けている。

 女ってのは、どうしてこう他人の恋話が好きなのかね。正直理解に苦しむ。

 他人の幸せな恋愛話なんか聞かされても腹が立つだけだろうに。爆発してしまえ。

 しかしその噂話の元である店主はやけに暗い顔をしており、ディーナの噂話にも何のリアクションも返さない。

 何か嫌な事でもあったのかね。それとも振られたか?

 そう思いながらスープを口にし…………甘!? このスープ甘いぞおい!?


「おい店主。このスープ、塩と砂糖を間違えてはいないか?」

「えっ!? も、申し訳ありません。すぐにお取替えをします!」


 塩と砂糖と間違えるとか、定番過ぎて最近はラノベでもやらんというのに。ちゃんと味見してるのかと心配になる。

 この宿の売りは料理の美味さだと聞いていたのに、正直な所少しガッカリだ。

 どの料理も何というか一つ足りていない。

 心ここに在らず……とでも言えばいいのだろうか?

 不味くはないのだが、何処か気の抜けた味というか手を抜いているような感じがするのだ。

 『料理は心』とはよく聞くが、それは実際正しい。

 別に心やら愛情やらが本当に調味料と化して物理的に味を深めるわけではない。

 だが料理とは正確な計算と面倒な手間暇によって成立する。つまり美味い料理を作るにはそれだけ時間と神経を擦り減らす必要があるわけで、ましてやここは日本ではない。

 鍋に入れて三分待てば誰でも美味しい料理がはい完成、なんて便利な物はないのだ。

 つまり心の籠ってない料理というのはその手間を惜しんで手抜きをするわけだ。だから味も一段落ちる。

 今の店主は何というか、それがどうも抜け落ちてるというか別の事を考えながら料理をしてるように思えてならん。

 ……ま、俺はそこまで料理に詳しいわけじゃないし単なる気のせいかもしれないがな。

 少なくとも料理漫画の審査員のように一口食べただけで『この料理には○○を想う愛が詰まっている! キリッ!』などと見抜けるような便利な舌など持ち合わせていない。

 そんな事を考えていると、店主はおずおずと俺達に話しかけてきた。


「あの……一つお尋ねしますが、もしかして冒険者の方ですか?」

「冒険者? ふむ、確かに一応冒険者ではあるな」


 俺が冒険者なのか、と言われれば確かに是と言えるだろう。

 この世界に来た当初に一応登録はしておいたし、冒険者としての依頼を受ける事も出来る。

 もっとも最初に旅の金を稼ぐためにちょっと依頼を受けただけで、それ以降は特に何も冒険者としての仕事などしていないから、ニートになりつつあるけどな。

 それはそれとして、ここでそれを聞いてきたという事は、だ。


「店主よ。心配事か?」

「……はい」


 そう、冒険者に依頼したい程の厄介事を抱えているという事に他ならない。

 それも雰囲気から察するに結構重いやつだ。

 単に貴重な料理の材料が手に入らないとか、魔物の肉を調達したい、とかならこんな悲壮な空気を漂わせはしないだろう。


「依頼を、受けて頂く事は出来ますか? 報酬は……50万エルまでならばお支払い出来ます」

「それは出し過ぎだ。内容にもよるが冒険者への依頼など、その一割でも多すぎるくらいだぞ」

「いえ、このくらいは出さねばならぬ事なのです。何故なら最悪の場合、貴族様と揉める事になってしまうのですから」


 店主の口から出た言葉に俺は手に持ったスプーンを止めた。

 なるほど、貴族か。これまた厄ネタの気配がしてきたな。

 ま、とりあえず話だけでも聞いてみるか。

 ……無粋な、邪魔者を全て片付けてからな。


「リーブラ」

「はい」


 俺は後ろに佇むリーブラへと声をかけ、彼女もまた指示を待っていたかのように応えた。

 宿の店主は理解していないようだが、現在この宿は囲まれている。

 殺意、とかいうと厨二臭くなってしまうが、どうもそれは俺達に向けられているらしい。

 ゲームで言うなら、タゲ取ってる感じか。何となくそれが分かる。

 宿を囲んでいる気配は……十二人。リーブラ一人で全く問題ないな。

 とはいえ、こいつに全部任せると皆殺しにしてしまうだろうから、加減を命じる必要がある。

 俺達を狙う理由くらいは聞き出さないとな。


「全員捕らえて情報を聞き出してくれ」

「分かりました。やり方はどうしますか?」

「ん? あー……普通で」

「任務了解しました。実行に移ります」


 俺が命じると同時にリーブラが自然体で外へと出て行った。

 それと同時に外から聞こえる、男の悲鳴、悲鳴、悲鳴。

 どこの誰かは知らんが、とりあえず同情だけはしておいてやろう。

 やがて悲鳴は聞こえなくなり、再び入り口が開いた時そこにあったのは返り血の一つも浴びていないリーブラと、縛られて彼女に引きずられる十二人の男であった。

 その腕や足は例外なく全てが逆方向に曲げられており、口には布を噛まされ、目を塞がれ、完全に無力化されてしまっている。


「捕らえて参りました。これより尋問に移りますが、アイゴケロスをお借りしてもよろしいでしょうか?」

「うむ」

「ちょっと待ちなさいよおリーブラ。尋問なら妾の毒の方が有効じゃなあい?」

「いえ、別に貴女の協力がなくとも聞き出す事は出来ます」

「ぐぬぬ……」


 リーブラはそのままアイゴケロスを連れて階段を登っていく。

 途中、引きずられている男達がガンガンと階段にぶつかっているが、大丈夫なんだろうかあれ。

 何はともあれ、あんまり部屋は汚すなよ。あくまで泊まらせて貰ってるだけなんだから。


「サジタリウス」

「はっ」

「リーブラが情報を聞き出したら、アレらを差し向けて来た奴について探って来てくれ」

「畏まりました」


 パンを千切りながらサジタリウスへ命令を下し、スープにパンを漬ける。

 直後、俺達が借りている部屋から響いたのはこの世の終わりのような男達の絶叫だ。

 中で一体何をしてるのやら……あまり想像はしたくないな。

 しかしまあ、どこの誰かは知らんが敵対するという以上はあまり容赦はしてやれない。

 仕掛けてくるというなら受けるし、後に禍根を残しても面倒だから潰さねばならない手合いならばそうさせてもらう。

 時期が悪かったな、としか言いようがない。

 この世界に来た当初の俺ならば、まだそこまで冷たくはなかっただろう。温情もかけただろう。

 なあなあで済ませるという選択もあったはずだ。だが……。


 ……悪いな。今の俺は、もうそんなに優しくないんだ。


折角今回は本当にルファスは動いてなかったのに……。

デブリェ。

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― 新着の感想 ―
[一言] うんまぁ…。デブリは運がね?運が良ければもっと調子に乗れてたんじゃない?
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