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第121話 ここはレーギャルン なつかしい テンプレのかおりがする まち

 亜人の里を出て一日。

 俺達は次なる目的地アルフヘイムとの間にある武の都レーギャルンに到着していた。


「ほう、これは」

「いかにもRPGって感じの街並みですね」


 レーギャルンに到着した俺は今、ちょっとした感動を感じていた。

 視界に映る街並みたるや、まさに王道RPGの街並みそのものだ。

 石畳の路地の両側に立つ数々の建物の屋根は赤で統一され、壁の色は主に黄色か白。

 窓際には花が飾られ、武の都という厳つい名とは裏腹に華やかさすら感じさせる。

 でかい湖に囲まれているわけでもなく、山に引っ付いているわけでもない。

 常に夜でもないし、王都自体が動くゴーレムだったりもしない。草原に並んだテントでもない。

 これぞファンタジーの街並みだって感じの風景だ。

 大通りには馬車が通り、多くの人々が行き交う。

 その服装もまた実にRPGチックだ。作業着を来た同じ顔のおっさんや外套を羽織った天使モドキでもない。

 女性はブラウスとスカートの上からエプロンを着たような、ドイツのディアンドルに近いデザインで、男の方は革製のズボンにサスペンダーが付いた、ドイツのレーダーホーゼンに似た服装が多い。

 これは重労働を意識しての耐久性と汚れにくさを重視してのものだろう。

 文化が地球と比べて未発達なこの世界ならば、デスクワークなどよりも重労働が仕事の大半を占めるのは別に不思議な事ではない。

 また、中には冒険者や傭兵といった明らかに一般人ではない奴も混じっており、帯剣したまま普通に往来を歩いている。

 うん、いいなこういうの。ファンタジーって感じが凄いする。


「さて。送るのはここまででいいかな?」

「おう、感謝するぜルファス」


 俺の問いにガンツが陽気に答えた。

 彼は俺の正体を知った後も態度が変化せずに以前のまま接してくれる。

 相変わらず気のいいおっさんである。

 一方、虎とエルフの兄さんは相変わらず俺を見てビクビクしており、可愛そうになって来る。

 勇者一行の俺に対する反応は主に三つ。友好的か怯えているか、あるいは無関心かのどれかだ。

 瀬衣、ガンツ、ジャンは前者。クルス、虎、猫は後者だ。

 ゴリラは多分無関心。特にビビってもいないが友好的でもない。

 ……あ。訂正が一つあった。

 俺にビビってるのは三人だけじゃない。

 鈴木から降りてくる、つい先日に勇者一行に加入した奴を入れて四人だ。


「凄いものだな、ゴーレムとは。こんなにも早く国境を越えてしまうとは」


 降りて来たのは白いゆったりとした服で全身を隠し、頭にはターバンを付け、更に顔すらも布で覆った不審な男だ。

 勿論俺達はこいつが何故そんな恰好をしているのかを知っている。

 何とこいつの正体はレオンに従っていた亜人幹部の一人である、あの蜘蛛男なのだ。

 俺は詳しい経緯を知らないが、何でもスコルピウスが彼を殺そうとした際に瀬衣少年が庇う事で命拾いしたらしい。

 で、義理堅いこの蜘蛛男はそれを恩に感じたらしく、旅への同行を申し出て来たのだ。

 これは瀬衣少年の人徳の為せる業だろう。

 ……それにしても。


「其方等、全く勇者一行らしくないな」

「……自覚はしています」


 俺の言葉に瀬衣少年が肩を落としたが、それも無理のない事だろう。

 傭兵に荒くれ冒険者に虎にゴリラに猫に犬に蜘蛛って、何だこのカオスな面子。

 マトモなのが瀬衣少年とクルスくらいしかいないじゃないか。


「ルファスさん達はこれからどうするんだい?」

「軽くこの街を観光でもして、それからアルフヘイムに向かおうと考えている」


 本当はすぐにアルフヘイムに行く予定だったのだが、少しだけ予定変更だ。

 ちょっとだけこの街を軽く散策してみるとしよう。

 この世界に来てから一番RPGらしい街だし、何もせずに立ち去るのは勿体無い。

 今の所は急ぎの用事もないし、仲間同士の交流も兼ねて一日くらい遊ぶのも悪くない。サジタリウスの気晴らしにもなるかもしれないしな。


「リーブラ。この街で一番いい宿を探してきてくれ」

「畏まりました」


 金は実の所、かなり余っている。

 ディーナ経由で最初に仕留め過ぎたオーク肉や、俺が適当に造った(それでも今の時代基準なら業物扱いらしい)剣や槍を売りさばいているので、かなり稼いでしまっているのだ。

 それでいて旅は田中に乗っての移動だから馬車代などは全くかからない。

 これでは溜まる一方だ。


「それから瀬衣よ。其方に渡す物がある」


 俺はそう言うと、指を鳴らした。

 するとそれを待っていたかのようにアイゴケロスが俺の横に立ち、包みを渡してくる。

 まあ、実の所こんな勿体ぶるような代物ではないし、むしろ旅の途中に片手間で造った工作みたいな物なんだが、それでも一般に流通しているものよりはかなり上のはずだ。

 包みを解いて出て来たのは一振りの刀。

 瀬衣少年が使っていたという刀はスコルピウスがへし折ってしまったらしいので、まあその弁償みたいなものだな。

 材料はミザール鋼と、アリエスが何処からか拾ってきたマナ水晶を使っている。

 これによりそこそこの攻撃力と、無いよりはマシ程度の魔法補助機能を搭載する事に成功した。

 更に水晶に軽く俺のマナも入れておいたので日属性のみみっちい下級魔法くらいなら消費なしで発動する事も出来る。ま、こう言っちゃあれだが器用貧乏ソードだな。

 ま、低レベルならこのくらいで丁度いいだろう。


「スコルピウスに折られた刀の代わりだ。餞別と思って持っていけ」

「え? い、いいんですか? 新しい武器を買うお金くらいならこっちにもありますけど……」

「構わん、折ったのは余の部下だ。責任くらいは取らせろ」


 刀を瀬衣少年に手渡し、それから俺は剣に何の名前も付けていない事に気が付いた。

 別に無銘でもいいんだが、やっぱ名前があった方が恰好はつくよな……。


「名は……刀だから和名の方がいいか。

よし、この刀の名は紅炎としよう」


 紅炎――太陽のガスが吹き上げる現象で、プロミネンスとも言われている。

 ちょいと名前負けしてるが、武器の名前なんて少し大げさな方が恰好も付くのだ。

 それに勇者の武器なわけだからな。ちょっとくらい派手な名前の方がいい。

 刀を恐る恐るといった感じで受け取った瀬衣少年に、ガンツが「得をしたな」と笑った。


「よかったなセイ。ルファス・マファール製の武器なんて普通は何百万するか分からねえぞ」

「へっ、まあ俺のルシファーブレードエクセリオンΩには及ばねえだろうがな」


 ――ルシファーブレードエクセリオンΩ……だと……!?

 ちょ、それ、俺が遊びで造った超名前負け武器じゃねえか。

 その装備効果は驚きの攻撃力+150で付与効果も何もない。

 そんなのまで王墓に残ってて、しかもジャンはそれを本当に強い剣だと勘違いして使ってるとか……すまんジャン。それ、滅茶苦茶弱いんだ。


「さ、さて。我等はもう行こうか」


 俺は何となく居た堪れない気持ちになり、早足でその場から離れた。

 何と説明すればいいのだろう……例えるならばお土産売り場で、剣のキーホルダーを買って年甲斐もなくはしゃいでいる大人を見てしまった気分だろうか。

 しかもそのキーホルダーは俺製である。

 後から付いてくる仲間達の足音を聞きながら、俺は今度ジャンにも何か造ってやろうと考えていた。


*


 ルファス一行が遠ざかっていく、その背中を見ながら瀬衣は軽く息を吐いていた。

 ルファスとわざわざ会った目的は己の向かうべき道と選択を決める為であり、彼女の人と成りを知るという目的は果たした。

 途中で亜人の件が絡んで複雑化してしまったものの、何とかこうして無事に終わった以上、後はメグレズから受け取ったゴーレムに手紙を渡して離せばいい。

 だがどうにも自分の中でまだ答えが出ない。

 ルファスは決して悪人ではないという結論は既に出ている。決して世の中で言われているような危険人物ではない。

 だから手を取り合うべきだ、と一時は結論も固まりかけた。

 だが彼女の部下は違う。スコルピウスやアイゴケロスはルファスが制御しているからいいものの、そうでない時には本当に人類に牙を剥く可能性を秘めている。

 そう、昔の人々が恐れたのは何もルファス本人だけではない。

 彼女の気まぐれ一つで悪魔になる覇道十二星もまた恐怖していたのだ。

 だから思う。迷う。

 これで本当に正しいのかと。今自分が選ぼうとしている道は間違えていないのかと。

 もし……もしも選んだ結果が間違いだったのなら……。

 ――瞬間、脳裏を過ぎったのはソーラーフレアを放つルファスの姿。

 彼女が人類に向けてその力を行使し、ミズガルズを滅ぼす姿を幻視してしまう。

 強大過ぎる力というのは、それだけで恐怖だ。


「? セイ、どうしました? 顔色が悪いですよ?」

「あ、ああ、いえ、大丈夫です」


 昔の人の気持ちが痛い程に分かる。あれは確かに怖い、怖すぎる。

 当初この世界に来て魔神王やルファスの話を聞いた時は、よくあるファンタジーの展開くらいにしか思わなかったし、その強さもRPGの魔王とかと同じくらいなのだろうと勝手にイメージしていた。

 だが違う。あれはそんな次元ではない。

 その気になれば彼女はいつでもこの世界を滅ぼせてしまうのだ。

 一人の個人が過剰すぎる力を有し、更に覇道十二星という組織まで配下に治めている。

 だからもし、ルファスに対する見立てが間違いだった場合……自分は最悪、この世界の滅びに加担する事になるだろう。

 それが何よりも怖かった。


「と、とりあえずまずは宿を取りませんか? ここのところ色々ありましたし、今日くらいはゆっくり過ごした方がいいと思うんですけど」

「そうですね。確かに私達も疲労が溜まっています。

ここは無理せず休息を取りましょう」


 クルスと今日の宿について話し、それからふと瀬衣は違和感に気付いた。

 彼等の旅は、彼等のみならず陰で支えてくれるレンジャー部隊の協力もあって成り立っている。

 例えば食料の調達だとか街の情報収集だとか、そういうのは彼等がやってくれていたのだ。

 そしてその仕事の中には宿の手配なども含まれている。

 普段であれば街に着いてしばらくすればレンジャー部隊の誰かが来て今日の宿を教えてくれるはずなのだが、今日はそれがない。


「……あの、クルスさん。もしかして、なんですけど……レンジャー部隊の皆ってドラウプニルに置き去りになってるんじゃ……」

「…………」


 瀬衣に言われ、クルスも気付いたようだ。

 顔色を青くし、近くにレンジャー部隊の誰かがいないかを確認しているが当然いるはずもない。

 何せ瀬衣達はルファスと会ってからは鈴木に乗って移動していたのだ。

 その移動速度は時速60㎞以上。人間が走って追いつける速度ではない。

 いや、この世界の人間なら案外レベルさえあれば追いつけるかもしれないが、少なくともレンジャー部隊は無理だ。瞬間的な速度ならばともかく、ドラウプニルからここまでの長距離を鈴木と同じ速度で移動出来るはずがない。

 彼等は凄腕ではあるが、決して人外ではないのだ。


「と、とりあえず宿を取りましょう。案外少し待てば追いついてくるかもしれませんし」


 クルスは遠い目をしながら、とりあえず今日の宿を優先した。

 決して現実から目を逸らしたわけではない。

 やっちまった、とか内心凄く動揺しているわけでは断じてない。

 活気溢れる人通りを通過し、目についた宿へと向かった。

 外装は悪くない。それに場所も大通りに面していて清潔感もある。

 その分当然値段は張るだろうが、そこは国王のお墨付きの勇者一行。金くらい普通に所持しているし、ドラウプニルでのエリクサー入手の功績もあって、むしろ余っているくらいだ。

 ここで下手にケチって安い宿に泊まり、それでチンピラなどに目を付けられて荷物を盗まれては話にならない。

 宿の値段とは何も単純に設備の良し悪しだけではなく、安全を買うという意味でも安宿は避けるべきなのだ。

 安い宿というのは、当然その程度の宿にしか泊まれぬような連中ばかりがたむろしているだろうし、そういう連中は他の客の荷物を盗むくらいは普通にやってのける。

 下手をすると店主が客の荷物を狙うというケースすら考えられるのだ。

 瀬衣達は宿のカウンターで金を払って鍵を受け取り、指定された部屋へと向かう。

 とりあえず今日はもう疲れた。ゆっくり休もう。

 そう考えて部屋の鍵を開けた時、隣の部屋のドアが開いた。


「ん?」

「あ」


 そして、そこから出て来たルファスとばったり遭遇してしまった。

レンジャー部隊「これは『試練』だ。何があっても着いてこいという『試練』と俺は受け取った」


※置いて行かれたレンジャー部隊は必死にドラウプニルからレーギャルンまでの道を走っています。

彼等は国王が認めるほどのプロ集団なので数日あれば到着するでしょう。


【紅炎】

そこそこの攻撃力(STR+400)

無いよりはマシ程度の魔法補助(INT+200)

属性攻撃:日

下級魔法『ソルブレット』をノーリスクで使用可能


ルファス評価:つくってあそぼ

一般評価:国宝級

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― 新着の感想 ―
[一言] え、お前もそう思うだろ鈴木ジョジョ風
[一言] え、お前もそう思うだろ鈴木
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