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第114話 リーブラのおいうち

今更到着した主人公がいるらしい。

 ベネトナシュとの戦いを終えた俺が意気消沈しながらもティルウィングへ到着すると、そこには何故か誰も居なかった。

 いや、亜人とかはいるんだが肝心の十二星とレオンがどこにもいないのだ。

 至る箇所に破壊跡があり、戦った痕跡が残っている。だが本人の姿が見当たらない。

 全員いたのは間違いないと確信出来るのだが、恐らく途中で戦場を他の場所に移してしまったのだろう。

 あの面子ならばいかにレオン相手でも負ける事はないと思いたいが、何せ相手が相手だ。

 出来るならば俺も早めに加勢してやりたい。

 何か手がかりがないかとしばらく破壊跡のある場所を中心にうろついていると、砕けた城壁に何やら文字が書かれているのを発見した。


『皆さんは現在、亜人の里で戦っています』


 一言の簡潔なメッセージ。その下には地図が描かれ、分かりやすく彼女達の現在地を俺に伝えてくれる。

 恐らくこれはディーナがやったのだろう。流石というべきかな。

 距離もそれほど遠くないし、俺ならすぐに着くだろう。

 俺は翼を広げると方角を確認し、一度身を屈める。

 そして一気に跳躍し、その勢いを乗せたまま飛翔した。

 ジャンプした際にでかいクレーターが出来てしまったが……すまん、付近の住民達よ。

 この身体はちょっと本気を出すだけで周囲の何かしらが壊れるんだ。許してくれ。

 景色が高速で後ろに流れ、音が聞こえなくなる。

 別に難聴になったわけじゃない。音が俺に付いてこれないだけだ。

 少し飛ぶと、下に森らしきものを発見し、そこに急降下して着地。

 この間、時間にして……まあ五秒は経ってないだろう。

 俺の体感時間と現実の時間のズレは結構大きいので、たまに俺自身もどれだけの時間が経過しているか分からなくなったりする。

 思えば最初にレーヴァティンからマファール塔に飛んだ時、俺は数分で到着したと認識していたがあれも本当は数分ではなかったんだろうな。現実時間だと多分数秒の出来事だったのだろう。

 そして到着したその場所では、何故かディーナがへたり込み、その前に仮面の男が佇んでいた。

 ……あいつは……。

 ……あれは、そうだ。あいつはタウロスか。……いや、タウルスだったか? どっちだっけ?

 以前までと違い、今ではもう顔を見れば(仮面で顔が見えないが)すぐに思い出せるようにまでなっている。これを喜ぶべきかは微妙なところではあるけどな。

 今はヘルヘイムで『龍』を封印しているとパルテノスが言っていたが、何でそいつがここにいて、しかもディーナを追い詰めているんだ。

 ともかく何か不味そうな状況なので、止めた方がよさそうだな。

 場の全員も俺の到着に気付いてこちらを向いており、タウロス(仮)もこちらを凝視している。


「……ルファスか」


 そしてこの呼び捨てである。

 なるほど、どうやらこいつは他の連中と違ってあまり俺を敬ってはいないタイプらしい。

 しかしそれが妙にしっくりくるというか、懐かしさを感じる。

 とりあえずグループ分けするとすれば、スコルピウスやアイゴケロス等の狂信組、アリエスやウィルゴ、パルテノス、リーブラ等の普通組、ディーナやカルキノスなどの変人組ときて、さしずめレオンとこいつは反骨組といったところだろうか。

 変人集団である事に違いはないのだが、ルファスは随分と色々なタイプを集めたものだ。


「タウロスか。久しいな」

「ああ……そうだな。本当に久しい。それと俺の名はタウルスだ」


 あ、タウルスの方が正解だったか。名前ややこいしいなこいつ。

 でもパルテノスもこいつの事タウロスって呼んでた気がするし、俺以外にも結構間違えて覚えられてそうだぞ。

 しかし困ったな、会話が続かない。

 俺の言葉にタウルスが答えたのを最後に、そこから全く次の話題に入れず沈黙が流れる。

 うん、なんだ。これは今までありそうで無かったパターンだな。

 アリエスやアイゴケロスは良いにしろ悪いにしろ、俺と出会えば何かしらのリアクションを起こしていた。

 それはリーブラすら例外ではなく、少なくとも会話に困るという事にはならなかったはずだ。

 しかしタウルスは何のリアクションもなく、本当に久しいな、だけで終わってしまっている。

 ともかく幸いにして俺への敵意は見られない。ディーナをさっさと助けてやるとするか。


「ああ、とりあえずだ。あまりそいつを苛めんでやってくれ。

新顔ではあるが、中々役に立つ奴なのだ」

「…………」


 え? 二百年前からいる参謀設定どこいったって?

 いや、それはもういいかな。どうせ嘘って事はいい加減全員分かってる事だし。

 タウルスは仮面に隠れて表情がさっぱり読めず、不気味な沈黙が場を支配する。

 うーむ……スコルピウスとは違う意味で重いな、こいつ。

 何というか常に威圧感を発しているような感じだ。

 『威圧』は俺側のスキルなんだけどな。


「……お前がそう言うのならば手を引く事もやぶさかではない。

お前自身の意思で言っているのならば、だが」

「……どういう意味だ?」

「さてな。実の所俺も判断が出来ずにいる。

妙だとは感じているが、この状況をかつて予期したのは他ならぬお前自身でもある。

ならば今のお前の状態をも含め、お前の意思かもしれんし……そうであるならば俺が言う事は何もない」


 ――!

 こいつ……まさか一目で見抜いたのか? 俺がルファスの中に入り込んでいる別の誰かだという事を。

 だから、もしもこれがルファスの意思に反した別の誰かの言葉ならば聞くつもりはない。

 しかしルファスの中に俺がいる事はかつてルファス自身が予期した事だという事は、俺も薄々気付いてはいたし、何よりあのベネトナシュとの戦いだ。

 つまりこいつは今、見定めようとしている。

 俺を含めルファスの意思なのか、それとも異なるのかを。


「……まあ、いい……どうやらそちらの状況も込み入っているようだ。

ならばまずはそちらを全て片付けるといい。

俺はいつでもヘルヘイムにいる……お前が来るのを待っている」


 どうやら彼は、この場は俺の言う事に従ってディーナから退いてくれるようだ。

 タウルスが離れると同時にディーナは四つん這いで俺の所まで走り、素早く俺の背に隠れた。

 こいつがここまで苦手意識を見せるのも珍しいな。

 とりあえず、一応タウルスのステータスでも確認しておこうか。



 【12星天タウルス】

 レベル 800

 種族:ミノタウロス

 属性:土


 HP 230000

 SP 2000

 STR(攻撃力) 50000

 DEX(器用度) 3695

 VIT(生命力) 500

 INT(知力) 100

 AGI(素早さ) 100

 MND(精神力) 500

 LUK(幸運) 10


 装備

 頭 ミノス王の鉄仮面(効果なし)

 右腕 異端殺しの斧(STR二倍 敵からダメージを受ける際に防御0として計算)

 左腕 ――

 体 ヘルヘイムのコート(マナのある場所で常時HP回復)

 足 鈍重のブーツ(敵の攻撃命中率常時100% 攻撃時に命中率二倍)

 その他 ――



 ――馬鹿じゃねえの?

 俺は思わず口から出そうになった言葉を必死に飲み込んだ。

 判明したタウルスのステータスは完全な攻撃とHP特化であり、要するに高いHPで耐えて一発ブン殴るというタイプだ。

 HPさえ高ければこの世界のシステム上、どんな攻撃であろうと耐える事が出来るのでつまりこいつはたとえ誰が相手でも二回までなら攻撃を耐えきる事が可能という事になる。

 というかまあ、そもそも99999ダメージ自体相手側の能力やスキルが相当壊れていないと出ないので防御こそ薄いが見た目以上に耐えるって事だ。

 それはいい。問題はステータスが俺の知るものから更に頭の悪いものになっている事だ。

 ゲームの頃は装備なんてなかったわけで、こいつの攻撃力は25000だった。

 それが何か、おかしな装備を勝手に付けて変な事になっている。

 だから魔物が装備付けるなって。それゲームバランス崩壊するから。

 まあ、なんだ。これだけのアホみたいな数値なら大抵の相手はこいつのHPを削り切る事が出来ずに、逆に一発殴られて飛んでしまうだろう。

 だがまあ、特化型の悲しさかな。相性はハッキリしている。

 例えば相手がベネトナシュならば、それが例えレベル1000の彼女だったとしても触れる事すら出来ずに一方的にボコボコにされて負けるだけだろう。

 残念だが、こんな鈍間な攻撃では何万回繰り返そうがベネトナシュには掠りもしない。

 というかこいつ、多分十二星の中でもタイマン勝負すれば結構下に行くと思う。

 まずそもそも攻撃する前にタコ殴りにされてしまうから、リーブラは勿論アリエスにすら勝てるか怪しい。

 この高HPじゃアリエスのいいカモだろうしな。


 しかしそれはあくまで単騎の時の話。

 他の誰かと連携すれば一気に手に負えなくなる。

 例えばアリエスやアイゴケロスが敵の動きを封じている隙に殴れば、それだけで絶大な戦果となるだろうし、カルキノスのスキルでダメージ限界突破させた日には馬鹿みたいな数値を出す。

 野生の魔物の頃から攻撃特化だったこいつだが、それを捕獲後に面白いからと更に攻撃一転特化で鍛えた結果がこれだ。

 見ての通り桁違いの攻撃力を誇り、一撃の重さだけならばレオンの上を往く。

 まあ、言っちゃ悪いが最初から連携する事込みのステータスだな。

 ゲームの頃は俺がスキルで敵の動きを封じて殴らせていた。

 まあ、こいつの真骨頂は攻撃力じゃなくて、反則的な効果を持つ固有スキルの方なんだが……その説明はまた今度でいいだろう。

 遠ざかっていくタウルスの背を見送り、それから俺はアリエス達へ視線を向ける。

 そしてまず目についたのは、結構やばい事になっているアリエスの恰好だった。

 服があちこち破れてほとんど半裸と呼んでいい惨状だ。かろうじて布が残っているのと、そもそもこいつは男なのでそこまで気にする事でもないのかもしれないが、瀬衣少年などは目のやり場に困って他所を向いていた。

 そういやアリエスが男って事教えてねーや。

 ともかく、このままは不味い。男と分かっていても変な気を起こす奴が出かねない。

 俺は指を鳴らし、錬金術でアリエスの服を修復してやった。

 今度、何か頑丈な布を素材にして破れにくい装備でも作ってやろうか。

 ……あ、布系素材の最上位、こいつ自身の毛だったわ。


「で、ディーナ。其方はいつまで余の背中に引っ付いているのだ」

「だ、だって! 本当にあの人怖かったんですよ!?

何なんですかあれ! 何で殴って空間に穴開けてるんですか!?」


 ディーナが珍しく本気で取り乱しながら涙目で喚く。

 どうやら今回は結構マジにやばかったらしい。

 飄々としていて底の知れない奴だと思っていたが、ちゃんと天敵はいたようだ。

 まあ、こいつはこいつでいつもコソコソと何か悪巧みをしているっぽいし、今回の件はいい薬だろう。


「さて……まずは状況を知りたい。何が起こったかを説明してくれぬか?」

「畏まりました。ではまず、私達がティルウィングに着いた所から――」


 俺が説明を求めると素早く応じてくれたのはリーブラだ。

 彼女の説明によるとティルウィングに着いて早々にレオンと戦闘になり、一度は追い詰めたらしい。

 しかしレオンは毎度お馴染みの女神の補正を受けてパワーアップ。逆転を許して一転窮地に陥ったという。


「また女神か。ワンパターンな奴だな」

「物語なんてそんなものですよ。怒りで急に強くなるとか潜在能力を引き出して超パワーアップとか、仲間との絆がどうとか、俺がみんなを守るんだーとか言って何の説明もなく互角になって挙句追い越したりとか、そういうのって結局全部、主人公を勝たせて物語を進めたい神様(さくしゃ)の都合と補正じゃないですか。

神様にとっては一番お手軽で簡単な介入の仕方です。主人公なんて神様のお人形ですよ」

「それはまあ……仕方ないのではないか? そうでもしないと悪役が勝ってしまうだろう」

「ええ、そうですね。女神様もルファス様という悪役に勝ってほしくないから色々やってるんだと思います」


 タウルスが完全にいなくなった事でいつもの調子に戻ったディーナが俺の皮肉に、それ以上の皮肉で答えた。

 しかし未だ俺の背に引っ付いたままであり、タウルスのショックから完全には復帰出来ていないらしい。


「ルファス様が悪役なんてとんでもない! ルファス様こそ正義! この世で唯一絶対の法ですわあ!」

「然り然り!」

「話が拗れるから、其方等はとりあえず静かにしていてくれ」


 いつも通りの妄信っぷりを発揮するスコルピウスとアイゴケロスに静かにしてくれるよう頼むと、二人は何かショックを受けたような顔になりその場に崩れ落ちた。

 んな大げさな……。


「すまんな、話の腰を折ってしまった。続きを頼む」

「この場合は蠍ざまあと言うべきでしょうか?」

「言わんでいい」


 さらっと無表情でスコルピウスに追い打ちをかけようとしたリーブラを窘め、続きを促す。

 全く。どうしてこう、纏まりってのが無いのか。


「蠍ざまあ」


 だから言わんでいいっての。


やめて! スコルピウスの毒でダメージを与えられたら、残りHP1のレオンの命まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないでレオン(社長ボイス)

ここを耐えれば、ルファスに勝てるんだから(社長ボイス)


次回「レオ之内死す」。デュゥエルスタンバイ!(社長ボイス)


【タウルスさんの悩み】

名前をよく間違えられる。ルファスもよく間違える。パルテノスも間違える。作者も間違える。

タウルス「タウルスだ……俺の名はタウルス。タウロスでもタウリスでもない……二度と間違えるな」

ルファス「おお、すまんなタウラス」


○タウルス

×タウロス


どっちでもいいな(暴論)

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