第113話 野生の牡牛が現れた
※レオンを倒したスキルをメサルティムだと思っている方が多くいるようですが、書き方が紛らわしくて申し訳ない。レオンを倒したのはメサルティムではありません。
もっとやばいスキルを隠し持っていただけなのです。
ミズガルズに存在するいくつかのスキルには『制限』が存在する。
それは例えば撃てる回数。余りに強力過ぎるスキルは二十四時間に一度しか放てない。
それは例えば種族。特定の種族でなければ習得すら出来ないスキル、習得出来ない魔法がある。
それは例えば組み合わせ。特定のクラスを組み合わせて初めて成立する特殊スキルが存在する。
そして、それは例えばレベル。一定以上の総合レベルでなければ、習得していても発動が出来ないというもの。
アリエスが持つ攻撃スキル『ハマル』もその一つだ。
それはアリエスが持つ中で最大の威力を誇る攻撃スキルであり、発動さえしてしまえば戦局をひっくり返す切り札と成り得る。
しかしその使用には制限があり、普段の彼では使用したくとも使用出来ない。
その条件とはレベルが1000である事。つまりレベル制限のかかったスキルなのだ。
加えてその使用は二十四時間に一度だけ。
だが使用条件が困難な分、威力は絶大だ。
一度放てば相手の最大HPの半分のダメージを、残りHP残量に関わらず叩き込むことが出来る。
もっとも、ルファスに聞けばこのスキルよりもブラキウムの方が遥かに強力だと答えるだろう。
何故ならダメージの上限がある。相手のHPが20万だろうが1億だろうが与えるダメージは99999で止まる。それ以上にはならない。
そして、相手のHPがそもそも20万を超えていなければ99999にすら届かない。
それならば最初から『必ず99999ダメージを出す』ブラキウムの方が遥かに分かり易くて強力だ。
しかしそれはあくまでアリエス一人の場合。カルキノスと組む事でこのスキルはブラキウムすら遥かに凌駕するポテンシャルを発揮する。
カルキノスの『アルタルフ』と組み合わせた時のこのスキルはまさに無双。神すらも屠る炎となる。
即ち、アリエスのレベルが1000に達しており、かつカルキノスが戦闘不能時だけという酷く限定した状況下でのみアリエスは十二星最大の攻撃力を発揮することが出来るのだ。
最大HPの半分のダメージを倍化し、限界を突破する――即ち、相手のHPがどれだけ高かろうと一撃で下す文字通りの一撃必殺の完成である。
とはいえ、割合ダメージは割合ダメージ。どれだけ削ろうと仕留めるには至らず、必ず敵のHPが1は残るという弱点も内包している。
しかしそれが今は好都合。レオンを殺さずに止めるという目的を考えるならば、まさにうってつけの一手だ。
かくしてここに決着は成り、獅子は牡羊の前に倒れ伏した。
いくらその事を屈辱に思おうが結果は変わらない。
勝敗は完全に決したのだ。
「お見事。やりましたねアリエス」
「Excellent! 流石アリエスです!」
「アリエスさん、すごい……」
レオンの前に着地したアリエスへ、リーブラ、カルキノス、ウィルゴが称賛の言葉を贈る。
アイゴケロスやスコルピウスもまた人間体に戻ってアリエスの肩を叩いて彼の健闘を称え、カルキノスも慌てて人間体へと戻った。
一方瀬衣達は次元の違いすぎる戦いに未だ呆然としており、亜人達は無敵と信じていた自分達の指導者が敗れた事に唖然としている。
しかし、そんな彼等の前へとスコルピウスが歩み出した事でその表情は絶望へと変わった。
「さあて。それじゃ後はレオンに従っていたお馬鹿さん達を掃除すれば終わりってわけねえ。
レオンを倒したアリエスに比べるとショッボイ戦果になっちゃうけど、こんな雑魚でもルファス様の敵は一応仕留めておかないとねえ」
スコルピウスが冷酷に告げ、束ねた髪が尾のように唸った。
まず狙うはリーダー格と思われる蜘蛛の蟲人。
しかしそこに咄嗟に瀬衣が割り込み、刀で尾を受け止めた。
その結果、刀は真っ二つにへし折れてしまい、瀬衣も地面に転がる。
しかし思わぬ妨害によりスコルピウスの一撃も狙いを外し、蜘蛛男の隣にあった木に突き刺さるだけに終わってしまった。
これは別に瀬衣の実力が凄いとかそういうわけではなく、単にスコルピウスの攻撃が片手間も同然の手抜きの一撃だったからこうなったに過ぎない。
もしも彼女が本気であれば……いや、本気どころか二割の力も出していたならば今頃は瀬衣など刀ごと貫かれ、後ろにいた蜘蛛男も絶命していた事だろう。
「せ、瀬衣君!?」
「……ちょっとお、何してるのよ坊や」
地面に倒れた瀬衣に慌ててウィルゴが駆け寄り、スコルピウスが呆れたような視線を向ける。
しかし瀬衣は何とか起き上がると、スコルピウスを真っすぐに見た。
「何してるはこっちの台詞だ。いきなり何やってんだ、あんたは」
「そりゃあ決まってるでしょう。殺すのよ」
「だ、だが彼等はもう動けない。それに戦意も喪失している。
これ以上はただの過剰……」
「どうでもいいわあ」
「……え?」
「そいつらの事情なんて妾にはどうでもいい。
そいつ等はルファス様に敵対した馬鹿の配下。つまりは敵。
妾にはそれだけで十分だし、それ以外知ろうとも思わない。
敵の事情だの信念だの、お涙頂戴の過去だの、そんなのは全部どうでもいいわあ」
瀬衣は、一つの間違いを犯していた。
いや、間違いというよりは考え違いだろうか。
同じ十二星でもウィルゴは心優しい子だったから。カストールはどこか抜けているが頼り甲斐のある好青年だったから。
ルファス・マファールは話が通じる相手だったから。
だから十二星もそこまで怖い存在じゃないのかもしれないと楽観視した。
きっと女神の影響で皆が過剰に恐れているだけで話せば分かる相手なんだと、そう希望的な観測を抱いてしまった。
だが違う、それは違うのだ。
十二星とは元々魔物の集団。アリエスやカルキノスなどはまだ会話も成立するしこちらの事情も汲んでくれるが、アイゴケロスやスコルピウス相手ならばそうはいかない。
魔物としての残忍性、残虐性をそのままに無理矢理人の姿にしたのがこの二名だ。
結論から言えば思考回路そのものが違うし、説得など何の意味もない。
飼いならされた猛獣は主人には懐くかもしれない。だが主人以外に対しては依然、猛獣のままなのだ。
「さあ、退きなさあい。一緒に殺されたくはないでしょお?」
スコルピウスが優しい声色で告げるが、そこに情など一切ない。
瀬衣が退こうと退かなかろうと、数秒後にはスコルピウスの尾が無情に亜人達を皆殺しにするだろう。
――そう、なるはずだった。
「オ、オ、オオオオオオオオオオ!!」
レオンさえ、起き上がらなければ。
「そんな!? まだ……?」
全員が一斉に警戒態勢へ入り、レオンへと視線を向ける。
スコルピウスも亜人の事など忘れたように構え、レオンの次の攻撃に備えた。
「待ってください。様子がおかしい」
レオンが白目を剥き、涎を垂らしながら咆哮する。
もう戦える身体ではない。いくら獅子王といえどダメージが大きすぎる。
驚愕する皆とは別にリーブラは冷静に、そして冷たく状況を分析する。
「これは……なるほど。女神に魂を売り渡した末路、というわけですか」
レオンはもう戦えない。
だが今の彼は女神の操り人形。
本人が戦えずとも関係ない。女神が『戦え』と命じたならば意思など無視して死ぬまで戦闘を続行させられる。
これをどうにかしない限り場は収まらないし、レオンは死ぬまで暴れ続けるだろう。
女神による強制的な回復とスコルピウスの毒によるダメージが鬩ぎ合い、幾度となく生と死の境を往復する苦痛にレオンは泡を吹き、目は血走っている。
リーブラが『観察』したところ、レオンのHPは先程からずっと1と0を往復し続けており、まさに生かさず殺さずの状態だ。
「なるほどねえ。妾もこうだったのかしらあ?
……で、これどうにか出来る?」
スコルピウスは過去の己の愚行を思い返しながら、空間の隙間から上半身だけ出しているディーナへと訊ねた。
彼女は相変わらずいつでも逃げられる準備をしながら、レオンを見上げて首を振る。
「いえ、ここまで完全に女神様に魂を売り渡してしまっているとちょっと……もうこれ、思考誘導ってレベルじゃないですし」
「なるほど、打つ手なしね。自業自得とはいえ、こうなると惨めなもんだわあ」
スコルピウスは溜息を吐き、マナで創り出した鋏をガチリと鳴らした。
それに合わせてアイゴケロスは両手に黒いマナの塊を生み出し、リーブラは砲門を構える。
その三人の反応に驚いたアリエスが咄嗟にレオンを庇うように前に出た。
「ま、待って! どうする気!?」
「こうなっては最早殺す以外に方法はありません。十二星最大戦力の喪失は手痛いですが、これ以上被害を出す事を思えばここはレオン一人の死で終わらせるのが最善です」
「アンタと気が合うのは癪だけど、同意してやるわあ。こいつはここで殺すしかない」
「そういう事だ。どけ、アリエス。汝まで巻き添えを食うぞ」
瀕死までHPを削ってもまだ動く。ディーナでも治せない。
ならば方法は一つ――殺傷しての無力化しかない。
ルファス配下である十二星の、それも最大戦力を勝手に削る事は許されざる事だろうが、それでもこれしか無いのだから仕方がない。きっと主も理解してくれるだろう。
その判断の下、三人は同時に、そして躊躇なくレオンへ止めを刺す事を決定したのだ。
「それしか、無いの?」
「無い」
アリエスの問いにアイゴケロスが無情に答える。
これを放置すればレオンは死ぬまで暴れ続け、ケンタウロスの里を破壊し尽してしまうだろうし力尽きるまでの間にどれだけの破壊をまき散らすか分からない。
忘れてはならない。いかにその思想思考が子供染みていようと稚拙だろうと、それでも彼の戦力は十二星最大なのだと。
どうせ救えないのなら、被害を広げる前に仕留める他ない。
リーブラ達に遅れてサジタリウスとカストールも同じ結論へ達し、同時に武器を構えた。
アリエスは何も出来ない自分の無力さに唇を噛み、しかし何も言う事は出来ない。
分かっている。リーブラ達が正しい。
今ここにいる自分達の誰も、この状況を覆す方法など持ってはいないのだから。
――否。“そのはず”だった。
「……そこを退け」
重厚な、まるで地の底から響くような声がアリエスの耳に響いた。
彼は最初、それは自分に向けられたものだと錯覚する。
アイゴケロス達と同じように、自分に退けと勧告する声だと考えたのだ。
しかしおかしい。今の声はここにいる誰のものでもなく、だが不思議と聞き慣れた声だ。
だからこそアリエスは最初に聞いて『誰の声だろう』という感想を抱かなかった。それは以前にもよく聞いていた声だからだ。
しかしやはりおかしい。何故ならその声の主とはまだ合流していない。ここにいるはずがないのだ。
「聞こえなかったか……退けと言った」
再び声が響く。
二度目の退避勧告。だがそれはアリエスへ告げられたものではない。
アイゴケロス達も一斉に振り返り、そして自分達へ向けられた声の主を見る。
そう、声の主が退けと言ったのはアリエスではない。その場にいる全員に対してだ。
地を踏みしめる足は鋼鉄のブーツに覆われ、肘から先を覆うのは鋼鉄のガントレット。
そして黒のトレンチコートを着こなし、片手に斧を携えている。
その顔は鋼鉄の面に隠れて見えず、表情を窺い知る事は出来ない。
だがその姿を、アリエス達はよく知っていた。
「君は……」
「貴方は……『牡牛』のタウルス。何故ここに……」
覇道十二星、『牡牛』のタウルス。
それは本来、『土龍』の封印を担当して今は地下世界ヘルヘイムにいるはずの男の名だ。
彼は己の名を呼んだリーブラの横を素通りし、アリエスの横を通り、何ら臆す事なくレオンの前へと立った。
暴れ狂う獅子王を見上げ、男は抑揚のない声色で呟く。
「随分と妙な事になっているが……大方女神に唆されでもしたのだろう。貴様らしいと言えばそれまでだが、見るに耐えん。
故、その下らん力を破壊させてもらうぞ。
こんな場所で女神の力などを振るわれては封印に影響が出かねん」
鋼鉄の腕を握りしめ、ギシリと鉄が軋む音が響いた。
その姿を見てレオンも、理性なきままに脅威だと判断したのだろう。
狂ったような叫びを上げながら巨大な獅子が男へと躍りかかる。
しかし男には微塵の動揺もなく、仮面の奥に隠れた冷たい瞳で獅子を見据えるだけだ。
「――アルデバラン」
スキル名を宣言し、左拳を獅子王の鼻面へ叩き込んだ。
一瞬、静寂が流れる。
それはまるで時が停まったかのようで、酷く静かで場にそぐわない。
だがそれは嵐の前の静けさであり、次の瞬間には何かが起こるとその場の誰もが予感していた。
――ピシリ。
何かが罅割れたような音が響き、空間に亀裂が走る。
音は一度で終わらず、幾度も響き間隔が狭く、それでいて音は不吉に大きくなる。
空間の亀裂は広がり、まるで蜘蛛の巣のようだ。
――決壊。
硬質な何かを、更に硬いハンマーか何かで無理矢理砕いたような爆音が響き渡った。
レオンの巨体は拳の一撃で弾き飛ばされ、森の外へと放逐される。
斜線上の木々は悉く根こそぎへし折れ、今の一撃がどれだけの破壊力を有していたかを物語っている。
「ま、待って! そんな強く攻撃したらレオンが死んじゃう! 今、レオンのHPは1なんだよ!?」
「……問題はない。俺のアルデバランが砕くのは物体ではなくそこにある『力』そのもの。
故、俺の一撃で死ぬことはない。二百年で忘れたか?」
「あ、そっか」
――あ、そっか。じゃねえ!
タウルスの言葉に何故か納得してしまったアリエスに、瀬衣が思わず内心で突っ込みを入れた。
突っ込み不在の恐怖とはこの事か。
何が『俺の一撃で死ぬことはない』だ! あんな派手に殴り飛ばされたら普通に死ぬわ!
しかし誰もその事に突っ込みを入れず納得してしまっている。
俺がおかしいのか!? 俺、もしかして場違いな事を考えているのか!?
そう思い、瀬衣は無性に泣きたくなった。
アホ犬だけが彼を慰めるように彼の足元に顔を摺り寄せる。
あ、違う。これじゃれてるだけだ。ズボンにしがみついてきた。
「そ、それで、レオンは?」
「……今、奴を取り巻いていた女神の力を砕いた。また誘いに乗るような馬鹿ならば知らんが、当面は問題ないだろう。
……ところで、ルファスはいないのか?」
「あ、うん。今は別行動中だよ」
「そうか」
拳を下ろし、タウルスと呼ばれた男はもうここに用はないとばかりに背を向けて歩き始めた。
その歩みには淀みがなく、本当にこのまま帰ってしまう気だと嫌でも分かる。
だがそこに、スコルピウスがヒステリックな叫びを浴びせた。
「待ちなさいよおコラァ! アンタいきなり出てきて何の状況説明もなしに帰る気!?
そんなのが許されると思ってるの!?」
「……お前達が封印の近くで暴れ、あまつさえ女神の力などを振りまいているから黙らせに来た。
それが終わったから帰る……そこに何の問題がある?」
「大アリよ! アンタ、二百年振りに再会する同胞がいるってのに、久しぶりだなの一言もないの!?」
「なるほど、それもそうだ……確かにお前の言う通りかもしれん」
スコルピウスの言葉に、タウルスは意外にも素直に非を認めた。
それに対しスコルピウスは少し満足したのか、「そうでしょそうでしょ」と頷いている。
「久しぶりだな」
タウルスは一言、そっけなく全員にそう告げる。
そして、そのまま再び背を向けて歩き始めてしまった。
これにはスコルピウスも思わずずっこけ、それからすぐに立ち上がると怒りの叫びをあげた。
「コラァァァァァ!!」
「……まだ何か?」
「それだけ!? アンタそれだけなの!?」
「……お前が久しぶりだなの一言もないのかと俺に言った。だから俺はお前の要求に応えた。
それに何の問題がある?」
「大アリよこのコミュ障! それにアンタ、昔から言いたかったんだけどね、ルファス様を呼び捨てってどういう事よお? アンタ本当にルファス様に忠誠を誓ってんのお?」
「…………」
スコルピウスの言葉にタウルスが沈黙する。
だが仮面の奥の瞳が少しばかり鋭くなった事を何となくスコルピウスは悟った。
「あいつは俺にとっての戦友であり、恩人であり、そして俺の全てを預けるに足ると認めた主だ。
この答えでは不服か?」
その声は先程までと変わらぬ抑揚のないもので。
しかし確かな真剣さを感じさせるものであり、スコルピウスすら一瞬気圧されてしまう。
実の所、タウルスの忠誠など今更誰も疑っていない。スコルピウスも口ではああ言ったが、本当は分かっているのだ。この男の忠誠が紛れもない真実のものであり、そして決して揺らがぬ鋼の忠道である事を……嫉妬心を抱かずにはいられない程に。
タウルスとルファスの付き合いは十二星の中でもアリエスに次いで長く、彼はルファスが二番目に捕獲した魔物だ。
そしてアイゴケロスやパルテノスとの違いは、彼を捕獲した当時はまだルファスも今ほどの絶対的強者ではなかったという事。
アイゴケロス達はルファスと出会い、その力の前に平伏して忠誠を誓った。つまりは最初から主と僕という関係にあった。
だがタウルスと出会った当時はルファスもそれほどの化物ではなく、彼とルファスの関係は主と僕のそれではなく、同じ方向を向いて共に歩む戦友同士のものであった。
故に彼に対するルファスの信頼は厚く、十二の星の中にあって唯一彼だけは部下ではなく友として扱われる。
それがまた、スコルピウスにとっては殺したくなるほどに妬ましいのだ。
いつだってそうだった。ルファスは己の前の敵を蹴散らす為に十二星を前に出す事は幾度となくあったが――己の後ろに立たせるのは、いつだってタウルスだった。
「そ、そういえばさ。二百年前は女神の力を壊すなんて事出来なかったよね?
一体どうやったの?」
加速度的に不機嫌さを増すスコルピウスに気付いたアリエスが、慌てて話題を逸らす。
タウルスは必死に場を収めようとしている健気な羊を見下ろし、それからあえて彼の言葉に乗る事にした。
別にスコルピウスの不機嫌など知った事ではないのだが、アリエスの顔に免じたのだ。
「どう……と言われても説明出来るものではない。お前達とてスキルの仕組みなど説明出来んだろう。
ただそうしたいと思った……二百年前は俺が奴の力を砕けず、あの結末を招いた。
故、同じ結末を繰り返さぬよう女神だろうと砕きたいと思い、二百年研磨し続けた。それだけだ」
「あの……スキルってそんなので進化するの?」
「さあな。小難しい理屈など俺は知らん。
そういうものは、そこに隠れている奴の方が詳しいだろう」
「え?」
タウルスは言うだけ言うと拳を握り、再び拳が軋む音が響く。
そして再度放たれる、スキル破壊の一撃。
それは何もない空間に空しく突き出され、だが何かに当たったかのように破壊音が鳴り響いた。
壊されたのは――空間。
何もない空間が砕け散り、中からディーナが放り出されて地面に落ちる。
「わひゃああああ!?」
「やはり居たな。女神の力を『二つ』感じるから妙だとは思っていたが……随分とおかしな奴が紛れ込んでいたものだ」
突然引っ張り出された事に目を白黒させているディーナの前に立ち、タウルスが鋼の意思を携えて自称参謀を見下ろす。
ディーナもようやく現状を把握したのか、タウルスを見上げたまま硬直していた。
慌てて目を合わせて精神操作を試みるも……全くタウルスに変化はない。
まるでゴーレムか何かを相手にしているかのように、微塵も精神が揺らがないのだ。
足元にアホ犬が来てじゃれついても揺らがない。
「無駄だ、俺にまやかしは通じん……俺の心を動かせるのはこの世に一人だけだ。
故、心して答えろ――お前は何者だ?」
……あれ? これもしかして私やばい?
かつてないピンチ?
そのような事を思いながら、ディーナはダラダラと冷や汗を流して引き攣った笑みから表情を変える事も出来ぬまま、呆然とタウルスを見上げていた。
・やせいのタウルスがあらわれた!
ニア にげる
たたかう
しょうじきにはなす
うそをつく
ニア にgΣ○=
・アルデバラン! にげるコマンドははかいされた!
ニア
たたかう
しょうじきにはなす
うそをつく
たたかう
しょうじきにはなす
ニア うそをつく
ニア うsΣ○=
・アルデバラン! うそをつくコマンドははかいされた!
たたかう
しょうじきにはなす
ニア
ディーナ「」
天 敵 出 現




