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第112話 アリエスのオーバーヒート

ボス戦が佳境に入ってるのにまだ到着しない主人公がいるらしい。

「ストームハープーン!」


 カストールが愛用の錨を振り下ろすと同時に風が見えざる重圧となってレオンの頭部に叩き込まれた。

 行使するものこそただの魔法なれど、彼が使うそれは大地に数百メートルに渡る亀裂を刻み込む程に強烈だ。

 しかしそれすらもレオンにとっては何か軽い物で殴られたな、程度の衝撃。

 僅かに注意を逸らす以上の効果は見込めない。

 だがそれで充分。注意を逸らす事が出来れば上出来だ。


「ルナ・テンタクル」


 アイゴケロスがそれに続くように闇の触手群を呼び出してレオンへ殺到させた。

 巨大獅子の触手プレイとか誰が得するんだとか言ってはいけない。本人は真面目にやっているのだ。

 だが拘束が続くのはほんの一瞬。次の瞬間にはいとも容易く引き千切られ、レオンが目障りなアイゴケロスを蹴散らすべく突進した。

 だがその突進はアイゴケロスに届かない。その間に割り込んだカルキノスに阻まれ、巨大な蟹と獅子が正面からぶつかり合ったからだ。

 二体が激突した余波で木々がへし折れ、大地が地震の如くに揺れる。

 反撃のアクベンスがレオンを殴り飛ばし、だがその直後にカルキノスもまた地面に崩れ落ちた。

 レオンの攻撃を防ぎ続ける事に限界が来てしまったのだ。

 彼の防御力は十二星で最も高く、平常時であればレベル1000のレオンすら上回る。

 更に、そこに防御上昇のスキル『テグミン』を合わせた実質数値は二万を超え、ほとんどの攻撃は彼を前に通用しない。

 しかし今のレオンは異常だ。そのカルキノスの防御すらも力だけで強引に叩き伏せ、本来ならば耐久勝負に優れているはずのカルキノスを逆に倒してしまう。

 それで尚、彼は未だ暴れ続けているのだから全く狂っているという他ない。


「グラフィアス!」


 スコルピウスが猛毒のブレスを叩き込む。

 彼女の放つ毒は通常の毒と違い、重複効果がある。

 ルファスも以前語ったように、毒の上から更に毒を流し込んでくるのがこの蠍の厄介な点だ。

 一秒に1ダメージを受ける毒を受けたらそれで終わり、というのが通常の毒だ。

 だが彼女は違う。もう一度毒を流し込む事で一秒に受けるダメージは2にも3にも4にも10にも上昇し続ける。

 だがそれすらもレオンの莫大な生命力からすれば僅かに削られているに過ぎない。

 消えぬ毒は対象をいずれ必ず殺すが、そのいずれが訪れるのは遥か先の事。

 少なくともこの戦闘中ではない。


「しゃらくせえッ!」


 レオンが跳躍し、スコルピウスの巨体にのしかかった。

 カルキノスという盾が崩れた今、レオンの攻撃を止める術はない。

 たったの一撃でスコルピウスが倒れ、更に追い打ちの踏みつけで外殻を砕く。

 後ろからアイゴケロスが飛び込むが、レオンは振り返る事なく尾の一撃でアイゴケロスの巨大幻像を霧散させた。


「このっ……!」

「止めなさいアリエス! 無暗に飛び込んでは……」


 アリエスがレオンの死角から飛び込み、蹴りを放つ。

 だがレオンはそれを読んでいたように顔を動かして蹴りを回避し、その場で回転したと思えば次の瞬間には尾によってアリエスが囚われていた。


「がっ……あ!」

「やっと捕まえたぜ……さっきからウロチョロしやがって……。

テメェみたいな雑魚にいつまでも好き勝手やられたんじゃあいい加減プライドが傷付くってもんだ。

いい加減、雑魚は雑魚らしく大人しくしろや」


 苛立ったように言い、レオンが尾に力を込める。

 するとアリエスの身体から骨が軋む不吉な音が響き、その顔が苦悶に歪んだ。

 リーブラとサジタリウスが咄嗟に射撃を行うも、レオンはその巨体で軽々と跳躍して射撃を回避してしまう。

 大きさに反して何たる身軽さだろうか。


「テメェ等は後で始末してやる……順番だ、そこで黙って待ってろ」


 レオンはリーブラ達を見もせずに言うと、更に尾の力を増した。

 このままアリエスを圧殺してしまう気だろうか。

 否、そんな生易しいものではない。

 アリエスの身体を自分の口の前に運ぶと、牙を剥いたのだ。


「テメェらしい最期をくれてやる。食い殺してやるよ、雑魚モンスターが」


 アリエスにはもうその言葉すら聞こえているか定かではない。

 目は虚ろになり、意識を手放しかけているからだ。

 結局の所、これが実力差。

 割合ダメージだの何だのと持っていようが圧倒的なステータス差があれば強い方が勝つに決まっている。

 レオンは勝利を確信して大口を開き――。


「――三重に偉大なヘルメス」


 空中に声が響き、マナが集約される。

 直後、レオンの巨躯を覆うように三方向に同時に魔法陣が出現し、洪水の如き水の濁流を浴びせかけた。

 放たれた水圧は深海にも匹敵し、それはやがてその場で固定された三角錐へと変化する。

 膨大な水を凝縮して圧縮して固定した今、その圧は数万トンをも軽く上回るだろう。

 その突然の攻撃にレオンはアリエスを取りこぼしてしまい、だがまだ乱入者の攻撃は終わらない。


「エクスゲート」

 

 時空が歪む。

 レオンの周囲全てが何もない真黒の空間へと変わり、水の三角錐に閉じ込められた獅子王の前に青い髪の少女一人だけが現れた。

 他には何もない。森もケンタウロスの集落も、何もここには存在していない。

 唯一、アリエスやカストール、瀬衣といった生物は残っているが、リーブラを含めた非生物がどこにもいないのだ。

 少女はレオンを見下し、嘲笑するかのように微笑むと虚空に数百の魔法陣を同時多重展開した。


「明けの明星!」


 宣言。

 それと同時に虚空より流星の嵐が降り注ぐ。

 地上でそのまま使えば大惨事を免れないこの魔法を発動する為にディーナが打った手は至極単純。

 その場の全て――半径数キロに渡りエクスゲートに巻き込んだのだ。

 結果、世界を構成するありとあらゆる要素はエクスゲートが生み出した亜空間へ一時的に放逐され、後にはエクスゲートに同意しない生物のみが残される。

 彼女はエクスゲートでレオンを連れてきたのではない。

 エクスゲートで、生物以外の全てを放逐して何をしても被害の出ない特異点をこの場に生み出したのだ。

 黄金に輝く流星が三角錐の上からレオンに次々と直撃し、連鎖爆発を起こす。

 そうしてレオンの動きを封じながら、しかし彼女は同時にシールドで他の者達に余波が届かないようにもしていた。

 そればかりか、気絶しているアリエスへ指を向けると彼に治療天法までも施し、ダメージを完治させてしまう。

 魔法の二重行使に天法の二重使用、そしてエクスゲートの併用。

 その常軌を逸した超人的技巧にクルスは顎が外れんばかりに驚愕し、ありえないと呟いている。

 そして魔法が終わり、再び世界が元の姿を取り戻す。

 ディーナは奇襲が上手くいった事を確認し、それからリーブラが厳しい視線で己を凝視している事に気付いた。

 その事に汗をかきながら、少し尻尾を出し過ぎましたかね、と反省しつつ空間の亀裂へと逃げ込んだ。


「後は貴方次第ですよアリエス様。大丈夫……貴方は勝てます」


 最後にそう言い残し、嵐は去った。

 後に残されたアリエスは目を開いて何が起こったかも分からず呆然とし、レオンは立ち上がって乱入者を探すがもう見当たらない。

 ディーナは己の限界を知っている。弱さも自覚している。

 故にいつまでも戦場に残る愚は犯さない。逃げ足だけはこの世界の誰よりも速いのだから。


「くそっ、今の奴は一体何なんだ!? 出て来い、食い殺してやる!」


 怒り狂うレオンを見ながら、アリエスはぼんやりと誰かに助けられた事だけは理解していた。

 状況から見て恐らくはディーナだろう。ダメージも完治しているし、これだけ鮮やかに奇襲と回復をこなせる人物などそうはいない。

 しかしそれなら服も一緒に直してくれればよかったのに、と少し思わないでもない。

 アリエスの服は相変わらずボロボロで、かなり際どい事になっている。

 ディーナがそれを眼福などと思いわざと直さなかった事などアリエスは知る由もなく、溜息を吐いた。

 これで状況は再び戻り、しかし今の奇襲すらレオンには大してダメージになっていない。

 いや、数値にすればかなりの打撃なのだろうがレオンの膨大な生命力を前にしてはアリエスの拳一発にも及ばないのだ。

 ならばこの場におけるアタッカーはアリエスしかおらず、しかし実力差は知っての通り。

 このままでは先程の焼き直しになるだけだ。

 だがその事を不安に思うアリエスの頭に誰かの手が乗せられた……気がした。

 咄嗟に振り返れば、一瞬視界に映ったのは主であるルファスの姿。

 だがその表情は在りし日の、かつて覇王と呼ばれ恐れられていた頃の彼女のものであり、己への自信に漲っている。


『何を恐れているアリエス。其方は余が認めた十二の星の一つ。何も奴に劣ってなどおらん。

自信を持て――其方は強い。

あの大馬鹿者に教えてやるといい。奴が雑魚と呼んだ者の強さをな』


 ルファスはそう言って不適に笑うと陽炎のように消え去った。

 その直後、アリエスの身体に力が沸き上がる。

 それは支援天法などのような上乗せではなく、基礎ステータスそのものが跳ねあがったかのような感覚だ。

 見ればリーブラ以外の全員、カストールやアイゴケロスも己の身体を見て驚いたような反応を見せている。

 これはまさか、と思いアリエスは全員へ確認を取る事にした。


「あの、何かいきなりレベルが上がったみたいなんだけど……」

「うむ、我もだ」


 異変が起きたのはリーブラとレオン以外の十二星全員であり、それが意味すると所は一つしかない。


「あー、こりゃルファス様本気出しちゃったわね。お疲れさま、吸血鬼のおチビちゃん」


 スコルピウスが愉快そうに言い、それがそのままこの異変への答えであった。

 彼等十二星のレベルはミザールが制作したリーブラを例外とし、800で止まっている。

 それは主であるルファスのモンスターテイマーとしての技量限界であり、彼女の総合レベルが1000、クラスレベルが100である限り絶対に変化しない。

 だがそれが変化してしまったならば答えは一つ――ルファスのレベルが変化したという事だ。

 レベルの限界値は1000。それが女神の設けた天井であり、この世界の常識である。

 だがルファスはそんな壁などとうに超えており、本気を出せば最大でレベル4000以上にまで跳ね上がる事を十二星は知っている。

 そしてルファスが本気を出したときのみ、十二星もまた本来の力を完全に発揮する事が出来るのだ。


「勝ちましたね」


 リーブラが確信を込めた口調で言い、全員が同意を示す。

 どうやらベネトナシュはかなりの善戦をしたらしい。あの主が本気を出す程度にはやりすぎてしまった。

 だがもう終わりだ。この瞬間に決着は付いている。

 本気を出したルファス・マファールに勝てる者などこの世に存在しない。

 自分に勝ちたければせめて『龍』の一体か二体は連れて来い、とはかつて彼女がパルテノスに言った事だがこれは別にハッタリでも何でもなく、事実としてそれだけの圧倒的な戦力をルファスは有しているのだ。


「こ、これでミーにも活躍の場が……」


 倒れたまま何か寝言を呟くカルキノスに、全員がそれはない、と声を揃えた。

 ディーナもわざわざ空間の隙間からひょっこり顔を出して「タンクのレベルが上がっても特にやる事は増えません」と追い打ちをかける。

 ガックリと項垂れるカルキノスを放置し、アリエス達はレオンを見上げて構えを取った。


「分かっているなアリエス。我等の力は今、最大まで高まっているがこれは長くは続かん」

「うん。ルファス様が本気になった以上、戦いは長引かない……一秒後には全て終わっていても何も不思議じゃない」


 ルファスの本気の戦いは常人の理解を超えた、体感時間を限界まで圧縮した超高速域にて行われる。

 世界の何もかもを置き去りにした数段上の時間軸へとシフトし、刹那の間に数十手の攻防を行う事すら不可能ではない。

 つまり、ルファスが本気を出した一秒後に敵が全滅して、本気を解除していても何もおかしくはないのだ。

 それだけ彼女は強く、そして速い。

 戦いという言葉すらが本来は成立せず、かろうじてそれを可能とする数少ない存在がベネトナシュだ。

 だがそのベネトナシュですら残念ながら敵ではないだろう。

 別にベネトナシュが弱いわけではない。単純にルファスが強過ぎるのだ。


「ならば行け、アリエス! 奴にお前の全力を叩き込んでやれ!」


 サジタリウスが矢を放ち、アリエスがそれを掴む。

 直後、アリエスがレオンの真上へと転移して拳に炎を収束させた。

 アイゴケロスとカストールが魔法でレオンの動きを阻害し、リーブラが援護射撃でレオンの目を晦ませる。

 スコルピウスも尾でレオンの足を絡め取り、やる事がないと思われていた蟹さんは何かをひらめいて咄嗟にスキルを発動した。


「受け取ってくださいアリエス! 『アルタルフ』!」


 戦闘不能になった時に一度だけ発動出来る、カウンターというよりは最後っ屁にも近いカルキノスの微妙スキル。それがアルタルフだ。

 その効果は一度きり。次に行われる攻撃のダメージを倍化し、その一撃に限り世界が設けた限界ダメージである99999の壁を突破させる。

 炎の化身と化したアリエスが叫び、虹色の流星となってレオンの頭部へと堕ちた。

 もしもこの時ルファスがいたならば、きっと観察眼で見えていた事だろう。


 残り80万以上はあったはずのレオンのHPが、ただの一撃で残量1にまで激減した、その恐るべき光景を。


「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいるLSメンバーのために俺はのんびり歩きながら普通ならとっくに着いてる時間できょうきょ参戦すると

「今更ついたのか!」「おそい!」「きた!主役きた!」「メインキャラきた!」「でももう勝ってる!」と大ブーイング状態だったカルキノスはアワレにも盾の役目を果たせず死んでいた

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