第109話 おや? 鈴木の様子が……
カストールが愛用の武器であるアンカーランスを振るうたびに亜人が蹴散らされる。
彼は覇道十二星の戦闘要員として考えるならば決してそこまで強い存在ではない。
単純な戦力ではアリエスにも劣り、これといった強力なスキルもない。
しかしそれでも覇道十二星の戦闘要員の一角。パルテノスや双子の片割れである妖精姫といった非戦闘要員ですら並外れた力を持つ十二の星の中にあって、まがりなりにも戦闘員である彼の力は文字通りの一騎当千に値する。
数の上では亜人は数百。相対するカストールは僅かに一人。
だがこの戦いにおいて圧倒的に不利なのは亜人達の方だ。
何故ならカストールの戦力は前述の通り数千人分を上回る。
ならばこの戦いは数千と数百の戦いであり、戦う前から既に勝敗が決している消化試合に他ならない。
それでもかろうじて戦いになっているのは彼が十二星随一の人格者であり、亜人全てを殺さぬように加減しているからだ。
もしもここにいるのがリーブラやアイゴケロス、スコルピウスといった面々ならば敵対した亜人の身など一切案じる事なく、僅か十数秒で全ての敵を屍へと変えた事だろう。
「ストームサークル!」
カストールを中心に風が放射状に広がり、全方位に向けて放たれる。
それだけで前の方にいた亜人達は戦闘不能となり、後続の戦士達は怖気づいた。
もしもカストールが本気ならば後続ごと倒す事も可能だったのだが、そこまで風の力を強めてしまうと前の方にいる亜人に死者が出たかもしれない。
亜人達もその事を理解し、自分達の勝ち目がない事を悟った。
「な、何をしてるんだな! 早くあのイケメン野郎をボコボコにするんだな!」
「し、しかし」
「い、行かないならオラがお前達を殺すんだな! 死にたくなければ行くんだな!」
「う……うあああああ!」
指揮官である魚人に脅され、先頭にいたアラクネが叫びをあげながら突撃した。
アラクネは上半身だけを見れば人間の女性とまるで変わりなく、まだ年若い彼女は上半身のみを見れば愛らしく見えない事もない。
だが下半身は醜悪な蜘蛛のそれであり、そのミスマッチぶりが余計におぞましさを引き立ててすらいた。
カストールは向かってくる少女アラクネの突き出した槍をヒョイと奪い、あっさりと無力化してしまう。
アラクネの少女は武器を奪われた事で己の死を覚悟し、固く目を瞑る。
しかしカストールはそんな怯える彼女の頭をポン、と優しく叩いた。
不思議そうに眼を開いたアラクネに、カストールはキラキラと輝くようなイケメンスマイルを向ける。
「止めておきたまえ。君のような可憐な子に武器は似合わない」
「あ……は、はい……」
安心させるように微笑み、最後に白い歯がキラリと光った。
するとアラクネの少女の頬は赤く染まり、動かなくなる。
もしもこれが漫画ならば今頃目がハートマークにでもなっている事だろう。
そのキザっぷりに魚人が分かりやすく顔を怒りに歪め、歯ぎしりをした。
もしもここにルファスがいればきっと彼の気持ちを理解し、「今時ニコポ&ナデポかよ!」とカストールをディスった事だろう。
もしかしたらイケメン爆発しろと魚人の味方になってしまったかもしれない。
目の前でイケメンパワーの差を見せ付けられた魚人は憤慨し、ますますカストールへの憎悪を募らせる。
一方アラクネ少女は完全に堕ちており、祈るように掌を組んでカストールを見上げていた。
「君は少しレディの扱いが分かっていないな。男たるものレディはもっと優しく扱わなければならん。戦場に引きずり出すなどもっての外だ」
どうでもいい事だが、彼の主はバリバリ戦場の最前線に出て音よりも速く駆け回り次々と敵を血祭りにあげる世界最強の女である。
その事を指摘してやれば、あるいは彼の言葉を止める事が出来たのかもしれない。
しかし魚人はそこまで頭が回らないらしく、更にカストールは言葉を続ける。
「君は片思いの異性がいるようだが、このような事をすれば振り向いて貰えないのは当たり前だ。
いいか、一つ真理を教えてやろう――男は顔じゃない! 中身だ!」
「お前が言うなァァァァ!!」
魚人は、キレた。
怒りのあまり顔は真っ赤になり、銛を握りしめて突撃する。
その後に続いたのは蟻顔の兵士にカマキリ顔の戦士。その他大勢の顔に恵まれない男兵士達であった。
亜人の悲劇の一つに、美的感覚がある。
彼等は魚や蛇、蟲などの特徴を持つが亜人の名が示すように人間の要素も持っているのだ。
それが何を意味するか分かるだろうか?
これこそまさに悲劇。そして喜劇。
彼等の美的感覚は一部、人間のそれを引き継いでしまっている。
勿論同種族の美醜感覚も持っているが、それと同時に人間基準での美的感覚もまた併せ持ってしまっていた。
例えばトンボ顔の蟲人がいるとしよう。他の種族からは化物染みた顔にしか見えない彼等も同種族同士ならば美形とそうでない物の差がハッキリと認識出来るし、傍から見て区別が付かなくともトンボ顔の中でイケメンならば同じトンボの蟲人にはモテる。これは性別が逆でも同じ事が言えるだろう。
だが同時に彼等は人間基準でも顔を判別出来る。例えば人間の美女がいたとして、それを『トンボ顔じゃないから不細工だ』などとは思わない。人間同様に『美人だ』と認識してしまうのである。
しかしここで悲しいすれ違いが起こる。仮にトンボ顔の中では絶世の美男子でも人間から見ればただの化物。トンボ男が気に入った人間の美女に告白しても逃げられてしまうだけだ。
つまり――カストールは彼等から見てもむかつくイケメン野郎なのだ!
自分達では絶対に振り向いて貰えない人間顔の美人も射止める事が出来るし、亜人の女から見てもやはり彼は美形だ。
一体どういう不条理だろう。何という不公平だろう。
しかしこれは大本を辿ればある意味当然の事なのだ。
何故ならこの世界の頂点に立つのは『美と愛の女神』と言われるアロヴィナスであり、仮にも美の女神と呼ばれながら人間以外から見て不細工では話にならない。
つまりアロヴィナスはどの種族、どんな生き物から見ても美しく見える。そういう美醜感覚が全ての生物に生まれながらに植え付けられている。この世界の美の基準はアロヴィナスを中心にして成り立っているのだ。
そして人間はアロヴィナスに近い外見をしており、そのまま全ての生物共通の美的感覚の中心に立ってしまう。
だからどれだけ顔が異なろうと、人間顔の美形とはどの生物から見ても美形に見えてしまうのだ。
「死ねえええええええ!」
今、彼等の心は一つだった。これまでにない一体感があった。
雄叫びはモテない男達の悲しき哀歌となり、カストールへ突撃する僅かな間に悲しい半生が脳裏を過ぎる。
いつも森に薬草を取りに来る村の娘が可愛いと思った。
彼女が道に迷っていたから助けようとしたら化物と叫ばれ逃げられた。
森の中で落とし物をした女の子に荷物を渡そうとしたら怖がられた。
仕方ないので元あった場所に戻したら熊の獣人が拾って届け、何故かそこでスキップしながら二人で踊り始めた。挙句花咲く森の道熊さんに出会ったとかほざきながら結婚までしてしまい、今や彼女はドラウプニルの第四王妃だ畜生。
おのれ獣人、人間から見て可愛いと思える顔立ちだからって調子に乗りやがって。
嫉妬と嘆きと憎悪に身を任せ、彼等は己の限界すらも超えた。
過去最高の練度を発揮し、一つの悪意となってカストールへと立ち向かったのだ。
それに対し、カストールは男達に背を向けて拳を振り上げた。
「ジェミニ流星拳!」
拳は天を貫き、立ち向かった男達が纏めて流星となった。
何の事はない、ただのアッパーカットである。
風の魔法を付与して大勢を一気に吹き飛ばしただけであり、先に言ってしまうと『ジェミニ流星拳』などというスキルは存在しない。
一撃で下された男達は地面へ墜落し、一人残らず戦闘不能へと追い込まれた。
気絶する瞬間、彼等は思う。
イケメン、滅ぶべし……と。
*
ウィルゴとラミアの戦いは互いに距離を取っての撃ち合いとなってた。
別に意図してそのような構図になったわけではない。だが気付けばそうなっていた。
ウィルゴは空を翔け、ラミアはその高度に到達出来ない。
ラミアは木々の間を縫うように移動し、ウィルゴは木が邪魔で上手く近付けない。
結果として遠距離からの攻撃しか有効打が存在せず、互いに同じ攻撃ばかりを繰り返しては避ける千日手となってしまっていた。
あるいは、ウィルゴがもう少し経験を積んでいればこうはならなかったのかもしれない。
レベル差に物を言わせ、多少の魔法など気にせず突っ切りラミアの首にその白刃を突き立てる事も出来たかもしれない。
だがウィルゴにそれは出来ない。斬りかかる瞬間にどうしても一瞬硬直し、躊躇が隙を生んでしまう。
遠距離からの斬撃ばかり繰り返すのは何も戦術的な面だけでの話ではない。
他ならぬウィルゴ自身が相手を斬るという直接的な行為を無意識のうちに避け、遠距離戦を選択してしまっているのだ。
「はあッ!」
「ウォータースピア!」
ラピュセルから光の刃が放たれ、ラミアの発射した水の槍と衝突する。
相殺、ではない。光の刃は一方的に水の槍を切断して直進するがラミアはこれをスルリと文字通り蛇のような動きで回避した。
決してラミアのレベルがウィルゴに勝っているわけではない。
それどころかラミアのレベルは僅かに150。ウィルゴとの間には倍の開きが存在する。
確かにウィルゴは支援型で、決して直接戦闘に向いたステータスではない。
だがそれでもレベルに倍の開きがあれば、それはもう絶対の差と呼んでいい。
ならばウィルゴはとうに勝利しているべきであり、しかしそれが出来ていない。勝てて当然の格下に苦戦している。
それは経験とモチベーションの差。
ウィルゴには経験が絶対的に足らず、加えて亜人を何が何でも排除したいという強い敵意もない。
一方のラミアは崖っぷち。何が何でも負けるわけにはいかない。
その戦いにおける意思の差がそのまま、本来ならば埋まらないはずのレベル差を埋めてしまっているのだ。
(何とか……動きを止めれば! あの技で!)
ウィルゴの目つきが鋭くなり、ラミアの全身を重圧が襲った。
天翼族の持つ固有スキル『威圧』だ。
その効果はレベルに倍以上の開きがある相手を屈服させ、無血で行動を封じる王者の業。
戦うまでもない相手を、戦う事なく制圧する。
そしてラミアとウィルゴのレベル差を考えれば、このスキルでラミアの動きは縛られるはずであった。
「……っ、なめんじゃないよ!」
しかしラミアは裂帛の叫びをあげて威圧を振り切り、再び戦闘を再開した。
その事に驚くウィルゴに水の弾丸が掠り、僅かに高度が落ちる。
「そんな?!」
「温いよ、お嬢ちゃん。なるほど、確かにアンタのレベルは私より上だろうさ。本来ならば今の威圧一発で終わってたんだろうねえ。けどアンタには中身がない。
何が何でも相手を屈服させてやろうって意思もない。
空っぽなんだよ……聞くもんかい、そんなハリボテの威圧なんかさ」
ウィルゴは控え目で、優しい性格だ。
だが実の所、それは本当に優しいだけであろうか。
自分に自信がないだけで、自主性がなくて、前に出る事が出来ない。
常に流されているだけで確たる芯を持ち合わせていない。
だから威圧にもさしたる力が籠らない。本来ならば一発で終わるはずの戦いも終わらない。
その意思の無さを看破され、ウィルゴに動揺が走る。
「その綺麗すぎるくらいに真っ白な翼……大方、天翼族の王族かそれに連なる者なんだろうが、その程度の威圧で私等をどうにか出来ると思わない事だ。
アンタと私とじゃ、戦いにかける想いが違うんだよ!」
ラミアが吠え、ウィルゴに魔法が直撃した。
レベル差がある以上、その程度で致命傷には勿論ならない。ただの軽傷だ。
だが軽傷も重なればいずれは重症となる。
戦いの天秤が徐々にラミアへと傾き、ウィルゴが追い詰められる。
その様子を見ながら瀬衣の心にもまた、焦りが生じていた。
(まずい、ウィルゴが!)
ウィルゴの窮地にすぐに駆け付けたい気持ちになるが、瀬衣にそれは出来なかった。
何故なら手が離せない。今、目の前にいる敵に背など向けようものならすぐに殺されてしまう。
蜘蛛男――サージェスの機動力は瀬衣達にとってまさに脅威であった。
素早く地を走り、木から木へと俊敏に飛び移る。
そして隙を見せた者から順に奇襲し、ダメージを増やしていくのだ。
瀬衣達はこれに対し円陣を組む事でかろうじて対処しているが、所詮は受け身の戦闘。
現状は圧倒的に不利であると言えた。
「ちい、不味いぜ……あの蜘蛛野郎、マジに速え」
「目で追うのがやっとか。厄介だな」
ジャンとガンツが愚痴を零しながらサージェスの動きを凝視する。
しかし視界に映ったと思った次の瞬間には既に移動しており、位置を掴むことすら困難だ。
これは組み合わせを間違えたか、と内心ガンツは考える。
彼等の中で高機動戦闘が可能なのはウィルゴだけだ。
彼女だけが飛行能力を有し、サージェスのあの立体的な動きに付いていける。
しかしウィルゴは現在ラミアを相手に苦戦しており、とても援軍は望めそうにない。
そのような事を考えていると後ろで金属音が響き、カイネコの苦悶の声が聞こえた。
どうやらサージェスの攻撃をかろうじて防いだらしい。獣人ならではの見事な動体視力だ。
しかしそれも長く続くものではない。
一体どうすれば……瀬衣は足りない実力でどうにか勝利を手にする方法を模索する。
己の持つスキル、仲間の能力。それらを考えて、しかし尚サージェスを討つ決定打が見付からない。
そうしている間にサージェスの糸が瀬衣の剣に絡みつき、更に状況が悪化した。
不味い……何かないのか? 何か……!
だが不意に、視界の端をウィルゴが飛んだ時に彼の脳裏に一つの案が浮かんだ。
――そうだ、一つだけあった。この状況を打開出来る方法が。
「ウィルゴ! 俺の言葉が聞こえているか!?
もし聞こえているなら、これから俺が言う台詞を叫んで欲しい!」
「えっ?!」
「叫ぶ内容は……」
言いかけて、そして一旦瀬衣は口を紡ぐ。
正直これはどうなのだろうと思う。
それにもしかすると、これを言わせた結果自分は本当に殺されてしまうかもしれない。
だがこのままではジリ貧だ。とにかく後で誤解を頑張って解くしかない。
「……『この人痴漢です、誰か助けて』……だ!」
「……え?」
「い、いいから早く叫んで! そうすれば意味が分かる!」
瀬衣の口から出た、意味の解らない台詞の要求。
いや、台詞の意味は分かる。チカンという言葉に聞き覚えはないが、とりあえず誰かに助けを求める台詞だろう。
だが誰に助けを求めるのだ? 一体どこに?
ウィルゴは目を丸くし、話を聞いていたサージェスやラミア、ガンツ達も「こいつ大丈夫か?」という顔をした。
しかし瀬衣は確信している。これこそが逆転の呪文だと。
ウィルゴがそれを言う事で、必ず『アレ』が乱入してくると。
「え、ええと……じゃあ言うね?
こ、この人チカンです! 誰か助けて!」
ウィルゴが瀬衣の意図も分からないままに、とりあえず叫ぶ。
変化は……ない。
いや、ないと思われていた。
だが実際はそうではない。ウィルゴのその叫びを聞き届けた存在が、凄まじい速度で不届き者を抹殺すべく走り出していたのだ。
『彼』の製作者は彼に命じた。もしもウィルゴに手を出す不届き者が現れたならば――死なない程度にアタックせよと!
『YES、BOSS!!』
故に彼は――鈴木は走った。
アクセルを全開にし、最高速度で亜人の里へと突撃。
走りながらその形状は変わり、ガチャガチャと硬質な音を立てながら素早く己の身体を組み替えていた。
いくつかのパーツを組み替えてドアは鋼の腕へと。
下部からは鋼の足が生え、車としての姿を捨てて鋼の巨人へと変貌する。
何処かのロボットアニメのパチモノ臭い頭部の目の部分はバイザー。その奥でツインアイがギラリと赤く輝き、まるでマラソンランナーのような見事なフォームで巨人は走った。
ルファスより与えられし最終にして最優先指令。それを実行する為に与えられた突撃形態!
右手にはリーブラの『左の天秤』をモデルに劣化複製されたマナ・サーベル。
左手には銃口から実弾ではなく圧縮したマナを発射するマナ・ライフル。
後に、製作者である黒翼の覇王はこう語る。『正直やりすぎた』。
里の入り口にいた蜂の亜人を跳ね飛ばし、邪魔な木々をへし折りながら駆ける、駆ける。
そして見付けた! 守るべき対象であるウィルゴの姿を。
瀬衣はその姿を見て、思わず一瞬硬直してしまったが果たして一体誰が彼を責められよう。
いや、彼だけではない。その場にいる全員が突然の乱入者を前に呆気に取られていたが、中でもやはり瀬衣の驚きは群を抜いていただろう。
――おい……何でロボットになってるんだよ……。
思わず遠い目をし、現実から逃避しそうになるが瀬衣は慌てて首を振って目的を思い出す。
そしてすぐに、鈴木へ向かって叫んだ。
「来たか! 痴漢は俺だ、来い!」
自分で言っていてとても情けない上に恰好悪い台詞である。父が聞いたらきっと泣くだろう。
鈴木を煽り、剣をしっかりと握る。
現在瀬衣の剣にはサージェスの糸が絡みつき、互いに繋がっている状態だ。
そして糸の出元を辿る事でサージェスの位置も把握している。
現在の位置関係は……直進する鈴木と瀬衣の間にサージェスが挟まれる形!
鈴木は不届き者の姿を認識すると、彼を敵と定めて猛スピードで体当たりを敢行する。
その突進はサージェスの乗っていた木をへし折り、彼を地面へと叩き落す。
それと同時に瀬衣は素早くダッシュし、鈴木の体当たりを回避して地面に倒れているサージェスを羽交い絞めにした。
「な、何を……!?」
「悪いな……一緒に大怪我してもらうぜ」
轟音を立てて向かってくる鉄の巨人。
大丈夫、きっと大丈夫だと瀬衣は自分に言い聞かせる。
だってルファスは確かに、あの車に『死なない程度に体当たりしろ』と命じていた。
ならばきっと殺される事だけはないはずだ。
というかあれ体当たりか? サイズ的にどう考えてもサッカーボールキックにならないか?
『Go to hell!』
「う、うおおおおおお!?」
巻き込まれてしまった哀れなサージェスは叫びをあげ、直後、瀬衣と一緒に鈴木に蹴り飛ばされた。
やっぱ体当たりじゃなくて蹴りじゃねえか。そう内心で突っ込みを入れる辺り瀬衣は結構これで几帳面なのかもしれない。
黒翼の覇王が造ったゴーレムの一撃がサージェスの外皮を砕き、甚大なダメージを与える。
そして地面に墜落した時、彼はもう自力では立てなくなっていた。
一方瀬衣は咄嗟にウィルゴが張ってくれたシールドにより大怪我を免れている。
加えてウィルゴが慌てて鈴木の前に飛び出した事で鈴木の突進も止まり、かろうじて命拾いをする事が出来た。
というか今こいつ、こっちにライフル向けてなかったか? 引き金に指をかけてなかったか?
危ない綱渡りだった。危なすぎる綱渡りであった。
だがどうやら自分の策が成功したらしいと悟った瀬衣は、少しは役に立てたかな、と考えながら意識を手放した。