表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/201

第108話 軍曹が勝負を仕掛けてきた

「ダービー様、申し上げます! 里の入り口にサージェスの軍勢が現れました!」


 飛び込んで来た若いケンタウロスの発した言葉に老人は血相を変えて外へ視線を向けた。

 彼の名はどうやらダービーというらしいが、今はそれを気にしている時ではないだろう。

 どうやら、相当によくない事が起こっているらしい。


「サージェス?」

「この亜人の里を纏めている蟲人じゃ。気持ちの悪い蜘蛛の亜人じゃよ」


 気持ちの悪い蜘蛛の亜人、と聞いて瀬衣達が真っ先に思い浮かべたのはドラウプニルで遭遇した蜘蛛男だ。

 あの実力から考えてそれなりの地位にいるのは間違いないだろうから、軍勢を引き連れていても不思議はない。

 外に出ようとする瀬衣達を手で制し、ダービーはまず自分が出ると告げた。


「単なる見回りかもしれん。お前さん達はここにおれ」


 瀬衣達を小屋に残し、ダービーは若いケンタウロス数人を連れて入り口へと向かう。

 そして、そこに立っている蟲人の軍勢と正面から相対した。

 相手側は蜘蛛男を筆頭にラミア、ドリアード、魚人が並び、後ろには多種多様な蟲人が武器を携えて待機している。

 対してケンタウロスは僅かに数人。もし戦いとなれば勝負にもならないだろう。


「何の用じゃ?」

「里に人間達が入り込んだ。ここにいるはずだ……出してもらうぞ」

「知らん。そんな連中はここに来ておらん」

「奴等は亜人の姿に変装している。覚えはないか?」

「亜人なんぞ多すぎていちいち覚えてられんわ。失せるがよい」


 威圧的に話す蜘蛛男に、ダービーも負けじと啖呵を切る。

 両者の空気はまさに一触即発で、いつ戦いが始まってもおかしくない。

 蜘蛛男の後ろのドライアドは頬を膨らませて不機嫌そうにケンタウロス達を睨んだ。


「生意気ー! アタシ達に逆らっていいと思ってるの!?」

「儂等に手を出すか? おお、いいじゃろう、やるがいい。

そうすればサジタリウス様は自由になれるわ」

「むっかー!」


 わざわざ擬音を口に出し、ドライアドが植物の根を動かす。

 しかしそれを蜘蛛男が手で制し、冷たい声で告げた。


「下らん挑発は止せ。この里には子供達もいるだろう。

お前達が子供を見捨てる事が出来ないという事など分かっている。

でなくばとっくに決起しているはずだ」

「……っ!」


 蜘蛛男のあくまで冷静な言葉にダービーが反論に詰まった。

 それはつまり事実であり図星であるという事。

 悔しそうに歯を食いしばるダービーを見て、ふとドライアドが何かを思い付いたように笑みを浮かべた。


「ねえ軍曹、いい事思い付いちゃった。一人くらいさあ、見せしめで殺っちゃうっていうのはどう? どう?」

「……人質は生きているからこそ意味がある。無暗に減らすのは愚策だ」

「そんな事言って。本当は軍曹がやりたくないだけじゃなあい?

アタシ代わりにやったげるわよ」


 ドライアドは軽い調子で言い、枝を伸ばす。

 その枝が捕らえたのは後ろの方で様子を見ていた幼いケンタウロスの少年だ。

 他のケンタウロスが止める間もなく子供を捕らえたドライアドは枝の長さを戻して抱き着くように少年を拘束した。


「つーかまーえたっ!」

「ひいっ!」

「何をする! 子供に手を出すな!」

「安心して頂戴。手を出すのは今回だけよ……貴方達が素直になればね」

「……下種が!」


 若いケンタウロスの何人かが激昂してドライアドへと走る。

 だがドライアドの腕が鞭のようにしなり、ケンタウロス達を弾いてしまった。


「ま、今回は自業自得ってことでえ。次回からの教訓にしてねえ」


 ドライアドが風の魔法を手の中に作り、幼いケンタウロスを切り裂こうとする。

 だがその手を蜘蛛男が掴み、寸での所で凶行を止めさせた。


「……ちょっと、何するのよ?」

「お前は結論を急ぎ過ぎだ。ケンタウロス達は、確かに今は脅して言う事を聞かせているだけだがそれでも同じ亜人……そしてサジタリウス様さえ心から協力に賛同してくれれば同士となる。

無暗に殺して禍根を残すのは賛同出来ん」

「……軍曹ってさあ、本当甘いよねえ」


 ドライアドと蜘蛛男が睨み合い、ピリピリとした空気が蔓延する。

 しかしやがてドライアドが折れたらしく、溜息を吐いて目を逸らした。

 それを見て蜘蛛男も緊張を解く。


「仕方ないわね。ま、アタシだって軍曹と喧嘩する気はないしい。

今回は多目に見てあげるわよ」


 そう言い、ドライアドはケンタウロスの子供を枝で掴み、ケンタウロス達の所まで伸ばす。

 どうやら彼等へと帰す気のようだ。

 それを見て全員が安堵し、しかし気が緩んだ次の瞬間にドライアドの枝は子供を掴んだまま空高く振り上げられた。


「う、うわああああああああ!?」

「なんて、ね! 人質がこんなにいるんだから一人くらい潰しちゃった方がいいのよ!

軍曹のやり方は甘すぎて反吐が出るわ!」


 ドライアドは残酷に笑い、子供を空から思い切り地面へと振り下ろした。

 このまま地面にぶつけて潰してしまう気だろう。

 咄嗟の事に誰も反応出来ず、次に起こるだろう惨劇の予感に顔を青く染める。

 瀬衣達も咄嗟に飛び出すが、到底間に合うものではない。

 だが次の瞬間、一筋の剣閃が煌きドライアドの枝を切断した。

 それと同時に黒い影が飛び出し、ケンタウロスの少年を受け止める。

 それはまさに狙いすましたようなタイミングで登場した救世主であり、英雄。

 ドライアドは自分の邪魔をした者を睨み、ケンタウロス達は感謝を込めて救い主を見る。

 そして同時に叫んだ。


「うわあ化物!?」


 ――そこにいたのは、何だかよくわからない生命体であった。

 虎の獣人としての上半身に下半身は馬、頭からは角。背中からは蛾の翼。

 一体どういう交配を行えばこんなクリーチャーが完成するのかと正気を疑いたくなる姿となってしまった剣聖フリードリヒ。

 そして少年を受け止めたのは上半身がゴリラ――によく似た女騎士。

 下半身が蜘蛛の、これまた常軌を逸したクリーチャーだ。

 助けられた少年はその姿に白目を剥き、気絶してしまっている。


「ちょっ、何あれ!? 何あれ!?

キモいキモい超キモい! 何なのあの変なの!?」


 二人の姿にドン引きしているドライアドへと、女騎士が飛びかかった。

 騎士の誇りである剣を手に、無数の蜘蛛の足がワサワサと蠢く。


「いやあああああ!?」


 ドライアドが半泣きで後退するが女騎士は止まらない。

 民に言う事を聞かせる為にまず弱い幼子を狙うという騎士道に悖る行為。それは断じて許せるものではない。

 憤怒の表情で鼻息荒く剣を振り回し、逃げるドライアドを追い詰める。

 ドライアドが半狂乱を起こしながら蔓を伸ばすも、その全てを切り裂いた。

 そして跳躍。樹から樹へと俊敏に取り移り、ドライアドへと接近する。


「グルゥオオオオオ!」


 女騎士の活躍に呼応するように虎が吠え、蜘蛛男へと斬りかかった。

 それを蜘蛛男が腕で防ぎ、力比べの態勢に入る。

 しかしやはり地の戦闘力はドライアドと蜘蛛男が勝る。

 今は突然の登場とその姿に驚いているが、それも長くは続かないだろう。

 ならば瀬衣達に出来る事は一つ。ここであの蜘蛛男達を倒し、ケンタウロス達を解放するしかない。


「こうなったら仕方ない! 皆、行くぞ!」

「応!」

「上等! ニック達の借りをここで返すぜ!」

「守護竜様の痛みもだ!」


 瀬衣が掛け声を発し、ガンツとジャン、カイネコが同時に駆ける。

 その後ろでウィルゴが剣から光の斬撃を飛ばし、クルスが遅れて魔力弾を撃ち出した。

 二つの攻撃はそれぞれ待機していたラミアと魚人へ飛来し、回避こそされたものの敵を分断する事に成功する。

 それと同時にウィルゴが飛翔し、ラミアへと突撃を仕掛けた。

 咄嗟に援護しようとする魚人だが、しかしその前にカストールが立ち塞がる。


「悪いが、君達は全員私が相手だ。纏めてかかって来るがいい」

「お、お前むかつくんだな。少しくらい顔がいいからって生意気なんだな」

「いや、それはまあ種族の違いというか……君だって魚人の中では案外それなりに……」

「こ、この前人間顔の美形の方がいいって、片思いしていた人魚の子に振られたんだな!」

「……」


 魚人が何やら悲しい事を口にしながら斬りかかって来るのを、カストールは黙って受け止めた。

 時には何を言っても相手の傷口を広げてしまう事もある。今がそれだ。

 だからこういう時は黙って相手をしてあげるのが精一杯の優しさなのである。

 無言で薙ぎ払われた錨が魚人を始めとして蟲人の軍勢を蹴散らし、余裕をもって次々と戦闘不能へ追い込んでいく。

 そのすぐ横をウィルゴが翔け抜け、数発の魔力弾が通り過ぎた。


「また会ったねえお嬢ちゃん! あの時の続きをやりに来たのかい?」

「どうして貴女達はこんな事を!」

「アンタにゃあ分からないさ。魔物扱いされるアタシ達の気持ちなんかね!」


 ラミアが魔法を連射してウィルゴを追い詰めるが、以前と違い今度は一対一だ。

 縦横無尽に空を翔け、魔法を避けて反撃の光刃を飛ばす。

 しかしラミアもそれを素早く回避し、互いに距離を取っての撃ち合いとなった。

 ウィルゴは空中を飛び回り、ラミアはまさしく蛇のような動きで地を這い回る。

 両者の戦いは現状、全くの互角であった。


「君は確かドラウプニルで会った……そうか、私達亜人を討ちに来たのか」

「本当は違うんだけど……まあ、否定も出来ないか」


 蜘蛛男には瀬衣、ガンツ、ジャン、カイネコの四人がかりでようやく何とか戦えている状態であった。

 数の利とコンビネーションを活かして果敢に多方向から攻めるも、全てその手によって防がれてしまう。

 そればかりか反撃すら浴び、ジャンが木に打ち付けられてしまう。


「おい蜘蛛野郎! お前さんはどうも他の連中と違うようだから一応忠告してやる!

レオンに付くなんて馬鹿な真似はやめろ! これじゃ亜人全員共倒れするぞ!」

「何を言うかと思えば。こうする以外に我等の道はなかった!」

「そうかい。大将を間違えたな!」


 ガンツの戦斧と蜘蛛男の腕が衝突し、火花を散らす。

 それにしてもレベル差というのは本当に厄介だ。

 いかに蟲の特性を持つとはいえ、斧と素手の戦いだというのに押されているのだから。


「グルゥゥオオオオ!」

「はいやあああッ!」

「何でアタシだけこんな化物の相手なのよお!?」


 そしてフリードリヒと女騎士の相手になってしまったドライアドは必死の表情で逃げ回っていた。

 戦力を言えば彼女の方が勝っているのだが、騎士二人のあまりに酷い外見に完全に戦意喪失してしまっている。

 しかも後方から魔法が飛んでくるから誰かと思えば、何故かバッタ怪人が魔法を行使している。

 それを見てドライアドはますます涙目になった。


「いいやあああああ!?」


 涙目で逃げるドライアド。

 その後を追いかける虎ケンタウロス蛾とゴリラアラクネ、そしてバッタ怪人。

 これではどちらが勇者一行なのか分かったものではない。

 横目でその光景を見る瀬衣達の頬を汗が伝っているのはきっと気のせいではないだろう。


「と、ともかく! 俺達はあんたを止める!」

「やってみるがよい! 人の子よ!」


 瀬衣が気を取り直して刀を構え、蜘蛛男が迎え撃つ。

 そして、刀と蜘蛛の腕が正面から衝突した。


【亜人達のレベルについて】

・サージェス レベル160

・ラミア レベル150

・ドライアド レベル140

・魚人 レベル145

大体このくらいの強さ。戦えない強さではないけど、瀬衣達と比べるとかなり格上。

全員レベル三桁で人類最強の虎さんを上回っております。何て恐ろしい敵達なんだ……。


※尚、この数分後

ベネト「いくぞマファール!」 レベル1500

ルファス「こい、ベネト!」 レベル3000


亜人達「」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ