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第107話 ケンタウロスのみやぶる

ルファス「ドラウプニルの時といい、最近どうも余の出番が少ない気がする」

ディーナ「(・∀・)」

ルファス「……何だ、その仲間を見るような目は」

「見えて来たぞ。あれがケンタウロスの里に間違いあるまい」


 変化薬の効果により単なる猫と化してしまったカイネコが先頭を歩きながら言う。

 その視線の先には開けた空間があり、確かに下半身が馬の亜人達が暮らしているのが見えた。

 あれから数十分。瀬衣達はようやく目的の地に辿り着く事が出来たわけだが、その足取りには疲労が見える。

 それもそのはずで、最初はカストールが先導していたのが、道を間違える事数回。違う里に入ってしまう事更に数回。

 その回数が二桁に達したところでとうとう全員が『こいつに任せたら夜になっても着かない』と悟り、カストールを先頭から外して代わりにカイネコが先導したというわけだ。


「おお、あれが森の賢者ケンタウロスですか」


 瀬衣の隣を歩いていたバッタ怪人ことクルスが歓声をあげ、身を乗り出す。

 エルフだけは人類の中でもケンタウロスに友好的であり、彼等へ敬意を払っているという。

 だが悲しいかな、今の彼はバッタ怪人。瀬衣の目にはケンタウロスの里へ侵入しようとしている魔物にしか見えなかった。


「グルルル」

「では行きましょう」

「あ、ごめんなさい。二人はここで待っていて下さい。いやマジで」


 フリードリヒと女騎士のWクリーチャーが進もうとするが、こちらはバッタ怪人どころではなく完全に魔物だ。

 こんなのが接近しては無駄に怖がらせてしまうだけだろう。

 その為、二人をクルスが止めて待機してくれるよう願う。

 それからケンタウロスに変化しているジャンが一番前へ出て里へと近付いた。

 するとケンタウロス達の顔が一斉に瀬衣達へ向かい、あまり友好的とは言い視線に晒される。

 やはりケンタウロス以外が入るのは不味いのだろうか?

 困惑する瀬衣達の前に一人の、老人のケンタウロスが近付き口を開く。


「レオンの手の者か。何用じゃ?」


 その言葉に、大きな違和感を一行は感じた。

 どうやら彼はこちらをレオンの配下の亜人と勘違いしているようだが、しかしならば何故こうまで敵意に満ちているのだろうか。

 レオンとサジタリウスは同盟関係にあり、彼等ケンタウロスもまたレオンの傘下に加わっているはずだ。

 とはいえこのような敵意を向けられては話もし難い。

 とりあえずまずは誤解を解くべきだろう。


「待てよ。俺達は人間の差別から逃げるために今日ここに来たばかりなんだ。

いきなりレオンの配下だの言われても意味がわからないぜ」

 

 あらかじめ用意していた筋書きをジャンが語ると、老人の顔つきが目に見えて穏やかなものへと変わった。

 それと同時に周囲のケンタウロスの視線からも敵意が消え、代わりにこちらを観察するような視線へと変わる。

 それはそれで居心地のいいものではないが、とりあえず睨まれているよりはマシだろう。


「そ、そうじゃったか。それはすまんかった。

最近は少しピリピリしておってのう」

「一体何があったんだよ? そもそも亜人はレオン傘下と聞いたぜ。

だったら俺達がそうでも別に問題ないはずじゃないのか? まあ違うんだけどよ」


 態度を軟化させた老人へとジャンが遠慮なく質問を飛ばす。

 こういう、普通ならば戸惑うなりする所で気にせず踏み込めるのは彼の強みだろう。

 ジャンの当然の質問に老人は唸り、しかし最初に威嚇してしまった負い目から強く言い返す事は出来ない。


「あー、うむ。外ではそう伝わっているのか。

確かに現状、儂らケンタウロスは奴の傘下に加わっていると言えるのかもしれん」

「微妙な言い方だな」

「まあのう」


 老人は困ったように頬をかき、それから話すべきか話さざるべきかを思案する。

 しかし話しても問題ないと考えたのだろう。

 あるいはそれは、ジャンが同じケンタウロスの姿をしているが故の警戒心の薄れだったのかもしれない。

 そういう意味ではこの変装はまさに大成功だったと呼べるだろう。


「儂らは……というよりは儂らの長であるサジタリウス様は元々レオンと手を組む事を良しとは考えておられなかった。奴からの誘いを断っていたんじゃ」


 サジタリウスの名が出た事で全員が反応を示し、しかしすぐに表情を戻した。

 今回ここに来た目的がそもそもサジタリウスが何故レオンに協力しているかの調査なのだが、まさかそれがいきなり聞けるとは運がいい。


「しかしレオンの奴は従わねばこの里を滅ぼすとサジタリウス様に脅しをかけたんじゃ。

全く口惜しい……そして自分の無力さが憎いわい。サジタリウス様だけならば、あんな馬鹿者の誘いなど受ける事はなかったろうに、儂らのせいで望まぬ協力を強いられる事になってしまったんじゃ」

「なあ、それならさっさとここを捨てて逃げちまえばいいんじゃねえのか?」


 心底忌々しそうに老人は拳を握る。

 しかしそこに疑問を抱いたのはガンツだ。

 自分達が人質になっていると分かっていて、レオンが嫌いならば逃げてしまえばいいのに何故ここにいるのだろうか。

 そうすればサジタリウスも自由になれるだろう。

 しかしその言葉に老人は首を横に振った。


「出来るならそうしとる。じゃがな。それをさせない為にこの森には監視役がいるんじゃ」

「監視役?」

「うむ、そして奴等はレオンの命令があれば儂らを殺す処刑人にもなる。憎き奴等よ」


 老人はそこまで言い、周囲を見る。

 そして誰も見ていないのを確認してから、瀬衣達へ視線を戻した。


「ともかく、まずは儂の家へ案内しよう。

こんな入り口で話すのもあれじゃしな」


 老人はそう言って里の中へと入り、瀬衣達も後に続いた。

 だがフリードリヒと女騎士のクリーチャーコンビはお留守番だ。

 あんなのを入れては余計な騒ぎになってしまう。

 里に入り、まず全員が思ったのは質素だという事だろう。

 ケンタウロスの里は簡素な木造の家が並び、あまり必要な物以外は建てていないように見える。

 その家にしても、何だか妙に通気性が良すぎる気がしないでもない。

 あれではまるで馬小屋だ。それでいいのか森の賢者。

 ケンタウロス達は皆がこちらを興味深そうに見ているが、近付いてくる者はほとんどいない。

 それどころか目が合うと逸らされてしまう始末だ。

 それを不思議に思った瀬衣は隣のバッタ怪人へと小声で話しかける。


「クルスさん、ケンタウロスってもしかして……」

「ええ。彼等はとても臆病……もとい、警戒心が強いのです。

別に私達を特別嫌っているわけではないと思いますが、しばらくはああして遠巻きに観察されるでしょう」


 どうやら個体ごとの差はあれど、種族による性格というのはある程度決まっているようだ。

 しかしそうなると、彼等の目にジャンはさぞ変わり者のケンタウロスに見えてしまうのではないだろうか。

 何せジャンときたら臆病の対極に位置するような男で、勇敢というよりは無謀を地で行っている。

 最近まで何故か忘れていたらしいが、黒翼の王墓に行ったときにはレベル100オーバーのゴーレムにも挑んでアリエスに助けられていたというのだから、相当だ。

 これ、ケンタウロスじゃないってバレるんじゃないかな?

 そう思い、今更ながらケンタウロス役はジャン以外にするべきだったんじゃないか、と考えてしまった。


「さ、入るといい」


 やがて到着した老人の家は何というか、やはり馬小屋であった。

 部屋は簡単な仕切りで区切られ、中には藁のようなものが積み重なっている。

 一体これでどうやって生活しているのか気になるところだが、よく見れば小屋の隅には申し訳程度に家具やら何やらが置かれているのが見えた。

 どうやら完全に馬、というわけでもないらしい。


「さて……まず最初に聞きたいんじゃが、お前さんら見た目通りの種族じゃないじゃろう?」


 小屋に入っての老人の第一声はいきなり核心を突く鋭いものであった。

 それに全員がぎょっとし、それから互いの顔を見る。

 誰か、バレるようなおかしい動きをしてしまったのだろうか?

 そう思う瀬衣達に、老人は更に言葉を続ける。


「儂がまず怪しいと思ったのはそこの人じゃ。動きは確かに儂らケンタウロスのものなんじゃが、何というか警戒心がまるで感じられん。」


 老人が指さしたのは案の定、ジャンであった。

 瀬衣の危惧はまさに的中しており、やはり彼はケンタウロスらしくなかったのだ。

 しかしそれだけでは決定打になどなるまい。


「おかしいと思ってよく聞いてみれば動きと足音がどうにも合わん。まるで二本足の生き物の足音のようでな。

そこで儂は思ったのじゃ。恐らく魔法か何かで姿を偽っているだけなのだろうと」


 なるほど、足音か。

 そう瀬衣は納得し、そして同時に感心した。

 確かに足音で区別は出来るかもしれないが、しかしジャンが歩くときは自分達も一緒に歩いていたのだ。

 つまり彼は複数人の足音が同時に響く中でジャンの足音を聞きわけていた事になる。

 これは、結構凄い事なのではないだろうか。

 ケンタウロスとはどうやら、かなり耳もいいらしい。

 となると、あまり小声で話したりしても意味はなさそうだ。

 そう思えば、先程のクルスとの会話も不味かったかもしれない。

 あれでは『仲間にケンタウロスがいるのにケンタウロスの事を知りません』と教えているようなものだ。

 そう思い老人を見れば、彼は小さく微笑んだ。

 あ、これ完全にバレてたな。瀬衣はそう確信して項垂れた。


「で、そうだったらどうするんだい? 報告でもするか?」

「いや、それなら入り口でとっくにやっとるよ。」


 ジャンの問いに老人は朗らかに笑いながら返す。

 確かにこんな、わざわざ自分から逃げ場のない場所に誘うくらいならば入り口で大声の一つもあげたようがいいだろう。

 それをしなかった時点で彼はこちらと敵対する気も、他の亜人に引き渡す気もないという事になる。


「ここからは儂の予想じゃが、お前さん等、恐らく人類じゃろ?

目的は……これから戦争になるかもしれん亜人の戦力調査辺りか?」

「これは驚いた。流石は森の賢者……そこまでバレてしまっているならば言ってしまいますが確かに私達は人類です。しかしここに来た目的は違いますが」

「儂等を森の賢者と呼ぶ人類……お前さん、もしやエルフか?

随分けったいな姿をしておるのう」


 パーティーの頭脳担当であるクルスは、こういう場面での交渉役の面も持つ。

 しかし外見がバッタ怪人の今は、その外見に合わぬ知的な口調はさぞ違和感を感じさせるだろう。

 実際瀬衣も違和感しか感じない。

 彼のような外見ならば、むしろ何も考えずに『おのれ悪の組織め! ゆるさん!』とでも言っている方が余程似合っている。


「私達の目的は、何故サジタリウスがレオンに協力しているかを調査する事です。

その理由がこの里にあると判断し、こうして変装までして来たのです」


 クルスが語るその目的は、実の所もう既にほぼ終わってしまっている。

 入り口で老人が語った事がそのまま彼等の探している情報そのものだったのだ。

 サジタリウスはケンタウロスの里を人質にされているせいでレオンに従っている。

 そしてその里を監視している連中がおり、つまりはそれを倒すなりしてしまえば後はケンタウロス達も逃げる事が出来るのでサジタリウスも自由に動けるようになるだろう。

 ならばここで考えるのは一度ルファス達と合流するか、それとも自分達だけでケンタウロスの解放を行ってしまうかだ。

 普段ならばとても出来る事ではない。

 しかし今、こちらには覇道十二星の一人であるカストールがいる。彼には及ばないがウィルゴもいる。

 そして人類最強の剣聖であるフリードリヒもいる。

 つまり戦力は十分すぎるほどに集まっているのだ。


「なんと! そうであったか」

「はい。そして目的は達成されました。

後は何とかして貴方達をここから解放するだけです」


 クルスがそう言うと、ケンタウロスの老人は彼の手を握った。


「ならば是非儂等にも協力させてくれ。

いつまでも儂等のせいでサジタリウス様を縛り続けるわけにはゆかんのじゃ」

「勿論です」


 予想以上にスムーズに事が運び、クルスの顔が綻ぶ。

 しかし彼とは裏腹に瀬衣の表情はどこか優れない。

 確かに上手くいっている。行き過ぎている。

 だが彼の経験則上、いい事があればその後には何らかの反動があるものだ。

 勿論何か根拠があってこんな事を考えているわけではない。

 ただの下らないジンクス……何となく嫌な予感がするという程度のものだ。

 だが困った事に、こういう時の嫌な予感というのは当たるのだ。


 それを裏付けるように小屋の中に若いケンタウロスが駆け込んできたのを見て瀬衣は確信する。

 ああ、やっぱり何か嫌な事が起こったか、と。


ケンタウロス「申し上げます! 伝説の超ヤサイ人があらわれましたァ!」

瀬衣「!?」



【かつての四強の人格の悪さ】

1位・竜王

外道オブ外道。生贄を要求しておいて村を焼き滅ぼしてみたり、自分を討伐に来たPTの中にカップルがいたら男の目の前で女を八つ裂きにしてあえて男だけ生かしてみたり、その男が立ち直って家族を得て幸せになった瞬間を狙って潰しに来たりとやりたい放題。

弱者が苦しむ姿が三度の飯より大好き。

尚、最期には自分がその弱者側に回る羽目になり、鱗や牙、爪、血の一滴に至るまで錬金術の貴重な最高級の素材として剥ぎ取られて殺された。

アムリタの材料。


2位・獅子王

欲望に忠実な獣。俺様が一番偉くて他は雑魚という思考の持ち主。

向かってくる弱者を捻じ伏せて悦に浸る事もあるが、自分が強い事を確認して満足しているだけであり、竜王ほど積極的に外道行為に及ぶわけではない。

自分を崇める者には手を出さずに傘下に入れる一面もあり、竜王と比べれば危険度と外道度は格段に下がる。

とはいえ、散歩の邪魔だからという理由で村を潰したりもするので、やはり危険。

竜王ほどドSではないので一瞬で消してくれるのがせめてもの救いか。


3位・吸血姫

強敵を求めて全方位に喧嘩を仕掛けて回る危険人物。

北に強い魔物がいると聞いては仕掛け、東に危険な魔物がいると聞いては狩りに行き、とうとう一つの大陸から魔物と魔神族を根絶させてしまった過去を持つ。

人類は基本的に弱いので彼女の興味の対象にはならない。

逆に言えば人類にとっては勝手に魔物や魔神族を減らしてくれる有り難い存在であり、彼女の住居の付近に暮らしているだけで生存確率は格段に上昇する。

ルファスに負けてからはルファスしか見えなくなった。


4位・魔神王

人類の天敵ではあるが、別に外道ではないし戯れに村を消したりもしない。

魔神族のトップではあるが、実は人類との戦いはほとんど部下がやっており、彼自身は城から出る事すら滅多にない。

決して善人ではないが、他三人と比べると会話が成立する部類。

竜王、獅子王、吸血姫を黒翼の覇王が蹴散らした時は、次は自分かと割と本気で恐れていたらしい。

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[一言] ルファスが来るかと思って本気でビビっちゃう魔神王さんかわいい
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