筆者の本当にあったシュールな話~父がアーチャーのクラスを持つ英霊だった~
これは、筆者が本当に体験した恐ろしい話。
ある日、実家に帰ると父(56)がアニメを見ていた。
私の父はアニメの新番組を全て3話までは録画して見る、いわゆるアニオタだ。
なので、それ自体はおかしなところはない。
見ているアニメは『Fate/stay night Unlimited Blade Works』という有名なものだ。
私も原作をやっていたので内容は知っている。
アニメはちょうどアインツベルン城でアーチャーとシロウが戦っているところだった。
いやー、前にやったFateと比べてクオリティすごいあがったなーなんて思いながら居間に腰を下ろす。
その時だった。
「……俺、アーチャーかもしれない」
私は耳を疑った。
え?『俺、アーチャーかもしれない』?
この時の私の衝撃を理解できる人間が、いったいどれだけいるだろうか。
父が元弓道部員とかアーチェリー経験者とか、元傭兵で銃の扱いはお手の元なんだ、とか。
そんな情報は生まれてこの方聞いたこともない。
つまり、アーチャーとはテレビで戦っているあのアーチャーなのだろう。
きっと、実の父親から『俺、アーチャーかもしれない』なんて驚きの告白をされた人類は、歴史が始まって数千年、今現在約60億人いる人間種の中でも私が初めてだろうと思う。
「アーチャーと俺……そっくりだわ」
私は二度目の衝撃を受けた。
え、どの辺が? 髪の色は白じゃないし、身長だって187cmもないよね?
これで父の外見がデブのブサメンだったらウチ秘蔵の錆びた日本刀を倉庫から持ち出して斬りかかっていたところだ。
しかし、我が父は年齢にしては若々しくかっこいい。
昔の写真を見た時なんて『なんで俺にこのイケメン遺伝子が引き継がれなかったの?』とマジで母親に聞いたくらいだ。
「アーチャーが言ってることは正しいよ。だって、俺も昔から同じこと考えてたもん」
なぜ『俺が昔から考えていた』から『アーチャーは正しい』となるのだろうか。
どうやったらその答えにたどり着くのか計算式が知りたい。
父はもしかして、遠い昔に神様でも経験したことがあるのだろうか。
そして父は私に向かってひたすら『我が正義論』を話し続ける。
私はウンウンと相槌を打ちながらテレビを見続ける。
もちろん話の内容は聞いていない。
私の父は事あるごとに正義を語りたがる。
前にガンダム00を見ている時も真面目な顔つきで『やっぱり悪にはさらに強い悪で対抗するしかないよな。わかるわ』と言っていた。
その時はまだ『理解できる』で留まっていた。
しかし、今回は『俺、アーチャーかもしれない』だ。危険だ。
仕事が大変なのだろうか。昔より笑顔が見られるのだが。
それとも最近父が17時前には帰ってきてアニメを見ることが日課になっていたことがいけないのだろうか。
ちなみに、まだ正義論を語っているが、現時点ではまだシラフである。
そしてアニメが終わった。
テレビにはEDが流れている。
ふぅ、久しぶりにFateを見たが、やっぱり面白いな。
このクオリティならBDBOXを買ってもいいかもしれない。
そんなことを思いながらお茶を口に含む。
すると、EDを見ながら父がぼそっと言った。
「あいつは、俺なのかもしれないな……」
ついに我慢できなくなった私は父に不審に思われないようにゆっくりと、しかし速やかに自室に戻った。
自室のベッドに転がった私は、その後数分に渡り震え続けたのだった。
最期に。
私、家族のこと大好きです。