参 動き出した組織
シルテアは僅かな荷物を背負い蒼緋を腰に挿し少し幸せな気持ちで山の中を歩いていた。
フジの一言がシルテアの気持ちを明るくしていた。
そんなシルテアを見張る者達がいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「頭ぁ。極上な女がシマに入ってきやした」
古びた屋敷に男が飛込んだ。
その中は薄暗い。しかし中に数名の男がいる事は分かる。一人はイスに座っている。
「ふーん。じゃっ行くか」
一番背の高い男は腰に剣を挿し立ち上がり言った。
「さぁ野郎共。久方ぶりの仕事だしっかり行くぞ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
シルテアが異変を感じたのはフジの小屋を出て2時間程たち今にも山から出ようという時だった。
「いるのは分かってるわ。出てきなさい」
シルテアは左側の茂みに声をかけた。しかし反応は無い。シルテアは黙って足のポケットから果物ナイフを取り出すと投げつけた。カツンと音をたてナイフは木に刺さった。
「次は当てるわよ」
静かなな殺気を纏いながらシルテアは言った。ガサガサと音を起てて覆面を被った男が現れた。
「私に何か用?」
「俺に付いて来てもらおうか」
覆面男は突然言った。
「知らない人には付いて行っちゃいけないて良く言うよね」
シルテアは不敵に笑い蒼緋を抜いた。右手に緋を左手に蒼を持ちダラリと腕を下げた。
「クッ」
男は一歩しりぞく。(なんなんだコイツの殺気は、まるで猛獣みたいだ)
「どうしたの?」
「クソッ。俺にも面子ってもんがあるんだ。女、一人に逃げ帰るなんてできっかよ」
覆面男は叫んで短剣を構えるとシルテアに突っ込んだ。
覆面男の渾身の一撃をシルテアはスッと横にかわした。
覆面男は攻撃をかわされフラつく。
「くそー」
再び突っ込もうとした男をある声が止めた。
「止めろジン」
シルテアと覆面男、ジンは声のした方を見る。そこには背が高く、金髪の髪を伸ばし、バンダナをつけた男がいた。
「か、頭ぁ」
ジンが情けない声を出す。
「お前じゃアイツにゃかてねぇよ」
そう言って長身の男がジンの肩を叩いた。
「下がってな。ああ、後ジン。お前これから一ヶ月トイレ掃除な」
長身の男はシルテアに歩み寄る。
「俺はリュウ・カント。お嬢さん、話し合いをしないか?」
「どうも話し合いをする雰囲気では無いのだけど?」 シルテアは左右の茂みに目を配る。
「へぇ 気付いたのか。おい、出てこい」
感心したようにリュウは言った。その言葉により10人ほど男達が茂みから現れた。
「で私をどうしたいの?」
「ん、まぁ最初は取っ捕まえて人買いにでも売っちまおうと思ってたんだが。その強さ、気に入った。どうだ、俺の妻にならないか?」
リュウが真顔で問う。
「なっ」
シルテアの顔が赤くなる。
「ははは、冗談だっつーの」
「殺す」
シルテアは蒼緋を構えリュウに振りあげる。
「うお、やべっ」
それを見てリュウは急いで飛び退いた。その目の前を蒼い軌跡が描かれる。
「ちょっと落ち着け」
ジンは慌てて言う。がシルテアは聞かずに蒼い刀でリュウの首筋に突きを放つ。
「くっ」
リュウはその突きを腰の刀で払う。
その後、2合、3合と斬り結ぶがシルテアにリュウの守りを崩す事ができずにいた。
「いい加減にしなさい」
攻撃の当てることの出来ないシルテアはいらつきながら刀を振るう。
「もう諦めろ。確かにお前は強いが俺にはとどかねぇよ。お前の技はカウンターに特化しすぎてんだよ。左手の刀で防ぎ、その隙に右手の刀で仕留める。
確かに効果的だ。だが自分から攻めるにゃ向いてねぇ、防御に回れば怖くない」
リュウはシルテアの刀を弾くと距離をとった。
「だが、こちらからから攻められもしないからな。今日はここらで退かせてもらうぜ。ジン!!」
ジンはリュウに声をかけられた瞬間、手に持っていた小さな玉の様な物を地面に叩き付けた。瞬間、辺りを煙が満ちた。
「じゃあな。刀使いの穣ちゃん」
煙が収まった時、山賊達は消えていた。なのでシルテアが蒼緋を強く握り締めた事は誰も知る事が無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ。おっかない女だったぜ」
リュウはアジトの自室のイスに座り込みながら言った。
「全く、貴方は何をしているんですか?」 そんなリュウの誰もいない筈の隣から手下の物とも違う声がした。
「おっヌルじゃないか久しぶりだな」
慌てずさも当然かの様にリュウは言った。
「久しぶり、じゃないでしょう。ボスにこんな山賊まがいの事をしてるなんて知られたら嫌味じゃすみませんよ」
灰色の髪をした若い男、ヌルはため息を着きながら言った。
「まぁそう言うな。長い付き合いだろ」
「こういうのを腐れ縁ていうんですかね……」
「ところで何の用だ?」
「本部に帰って来ない貴方に任務を届けるように命令されたんですよ」
少し怒りをこめてヌルは言った。
「そーか。悪かったな。で、任務ってのは?」
「ある人物の捕獲です」
「ある人物?」
「私達の同類に関わらず組織を裏切った堕天使十一番目です」
そう言ってヌルはは写真をリュウに投げて寄越した。
それを見たリュウは少し驚いた顔をした後ニヤリと笑った。
「この任務、確かに引き受けた」
「頼みましたよ八番目」
「ああ。じゃあな零番目」
次の瞬間、二人は消える様にいなくなった。その場に残されたのは全身黒い少女を写した写真だけだった。