虚像―call―
昼間、家政婦の手によって磨かれた廊下を通り自室へ入る俺。
古い小説などが大量に鎮座する棚2つに、簡素なパイプベッドが一つ。
という、我ながら生活みの欠けた部屋に鞄を放り投げ、パイプベッドに身を沈める。
ギシィィと小さく悲鳴をあげるベッド。
俺ってそんなに重い?
まぁ、思春期だからだろう。
すいません、嘘。
けれども、そんな事気にするだけ無駄だ。
俺は体勢を変え、真っ白な天井と対峙する。
17年間も過ごした部屋だと言うのに、何故だがこの天井は自分の知らない天井だと思ってしまう。
俺はゆっくりと身をお越し、ゆらゆらと歩いて、部屋と外を繋ぐ襖を開く。
瞬間、もう春だというのに何処か冷たさを含んだ風が頬を薙ぐ。
そして、目の前に荘厳に佇むソレは俺の左目に鮮明に映し出される。
今でも、見る度に菫色の浴衣を着た母さんが首を吊る姿がくっきりと現実味を帯びて再生される。
「母さん………。」
ボソリと呟く。
その時
「朱。」
低く威厳のある声がこの場を満たしていた静けさを切り裂く。
俺は声のした方を振り向くと、そこにはまるで、軍人のような顔つきをした、俺のじいさん
空閑 壮大が立っていた。
「どうかしましたか?」
「帰っていたのなら、声くらいかけんか。」
かけったつーの。
老化現象でとうとう、耳までいかれたか?
まぁ、言っといてこう言うのも何だが少し言い過ぎたのでほんの少し訂正しておこう。
「すいません、今日は少々疲れていたもので。」
うわー、猫かぶってる時の俺ってすげーキモいわwww
まぁ、女性には人気ですが。
「それで、ご用件は?」
俺はニッコリと微笑む。
けれどもじじいはその顔に眉一つ動かさない。
いや、動いても気持ち悪いんだが。
「来月、村山さまがお前の舞いを見たいと仰ってな。」
「分かりました。取り合えず村山さまのお好きな【紅姫】でも練習しておきますね。」
しないけど。
じじい。はその解答が聞きたかったらしく、すんなりと帰っていった。
村山、さまねぇ。
舞いが好きって言うより、俺が好きなだけの変態ホモじじいだろ。
昔、ちょっとからかったら本気になってきた奴だっけ?
まぁ、いいか。
その時、
ズボンに入れた携帯がなる。
電話相手を示すところには
【美桜】
と表示されている。
俺は通話ボタンを押し電話に出る。
「もしもし?」
返事がない。
周りの、多分塾の奴等の声しか聞こえない。
「美桜ー?」
『助けて、朱………。』
電話口から聞こえる美桜の震えた声。
気づいたら俺は走り出していた。