虚像―帰宅―
「朱、小山先生も言ってたよ!」
「何が?」
真っ赤な絵の具を撒き散らしたらような空に見下されながら、並んで歩く俺と美桜。
端から見れば恋人同士に見えるだろうが、
俺と美桜はそんな関係じゃない。
少なくとも今の美桜は……。
「もう、“バスケ部に入部してくれ”って」
「あー。」
そんな事も言われてたっけ?
「先生、部活動見学の時の朱の3Pが忘れられないんだって。」
是非とも忘れてくれ。
「もー!またそんな事言う!」
頬に空気を入れて口を尖らせる。
「ごめんごめん。」
そう言い、まるで小さな子供をあやすように美桜の頭に手を置き撫でる。
次の瞬間、
「朱ぅー!」
美桜の瞳の色が生気の抜けた色へと変わり、
凜とした声が麻薬の如く、甘く幼い声に変わる。
「朱!朱ぅー!」
美桜はお気に入りの人形に飛び付くように俺の首に抱きつく。
「っと!」
突然の行動に、よろけるが何とか体勢を持ち直す。
「朱、好き!」
そう言いそのまま、俺の唇に自らの唇を重ねる美桜。
美桜の舌は俺の口内に侵入し、好き勝手に蹂躙した後に俺の舌を捉え濃密に絡ませる。
「ンッ、しゅーう」
俺は無理矢理、舌を抜き口を離す。
すると美桜は不満そうな瞳を此方に向ける。
「朱は、美桜のことキライなの?」
「そんなわけないじゃん、――好きだよ。」
俺は身を屈め、美桜の耳元で囁く。
すると、美桜は目を輝かせ
「美桜も朱の事、好きぃぃ!」
俺の肩に顔を埋める。
はぁ…………
「みーおーう?」
「なぁに?」
「今日、塾でしょ?」
すると美桜はちょっと不機嫌になる。
「ふーんだ。今日は朱といる!」
「だーめ。行かなきゃ【美桜】が困るだろ?」
そう言うと美桜は笑顔になり、
「分かった!美桜は【美桜】だもんね!」
そして、俺から離れると手を振りながら塾へと向かっていった
これが、彼女の抱えるもの。
いわゆる
【多重人格者】