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プロローグ―【もう一人の彼女】―
「ねぇ……朱ぅ……。」
静寂が満たす室内に響くお菓子よりも、甘ったるい声。
「なぁに。……美桜?」
俺は彼女の、艶やかな長い黒髪に指を絡ませる。
「んぅ……朱…。」
その白魚のような白さを持つ、手足を俺の首に巻き付け、甘える。
俺は美桜のぷっくりと膨らんだ唇に指先を置く。すると、美桜はそれを受け入れるかのように口を開き、俺の指を迎え入れる。
「ふぅ………朱ぅ!」
俺の指先が美桜の舌と唾液と絡まり、透明な糸を引く。
カーテンすらも、閉じられ光を拒んだ部屋には俺と美桜の二人。
美桜の瞳は俺しか映していなく、甘くトロンとしていて何処か危なさと脆さを含んでいる。
こんな、嘘と歪んだ愛情の境界線で俺と美桜のかんけはもう、15年間も続いている。