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第5話 エルフの里のすっごい水晶



「今日から君達は実践的な訓練に移ってもらう」


 翌日の早朝、昨日のランニングでトップを独走していた10人が集められ、そう告げられた。


「実践的な訓練って何をするのかしら?」


 遥がそう尋ねる。

 その顔には、面白そうな笑みが浮かんでいる。流石召喚される前、護身術と称して様々な武術を嗜んでいただけの事はある。


「えー、汗かくのはもう勘弁ー」


 と、本気で嫌そうな顔をしているのは金本莉子だ。髪を金髪に染め、耳には大量のピアスをしているギャルだ。喋り方も、ギャルっぽい喋り方をする。

 だが、テストではいつも上位者に名を連ねており、しかも美少女という事もあり、男子人気は結構高い。


「っち、一々うるせえ女だなてめえは。じゃあ帰って男相手に股でも開いてろ!」


 そう吐き捨てたのは、学園唯一の女ヤンキーである鬼塚凛である。髪を真っ赤に染めており、莉子同様耳には大量のピアスを空けている。鋭い眼に、獣のようにギラギラした瞳が印象的。

 かなりの美少女ではあるが、噂や、その見た目、そして学園唯一の女ヤンキーという肩書から、男子人気は極めて低い。


「はあ!?ちょっと莉子をビッチ扱いするのやめてくれない!?大体あんたの方が男経験豊富そうじゃんっ!!」


「ざっけんな!このクソ女!!アタシは自分が認めた男以外にしか身体は許さねえんだよ!!てめえと一緒にすんな!!」


 と、いきなり喧嘩を始める美少女二人。しかし、誰も関わりたくないのか、止める気配は一切無い。

 中には心底ウザそうにしている者もいる。

 こういう時に率先して動く空も、今回は静観を決め込んでいる。

 というのも、この二人は珍しく一条空に対して、他の者達のような尊敬や、それに準ずる感情を抱いていないのだ。昔、この二人に空が説教染みた事をした時、普通の人間なら空に従うのだが、二人は思いっきりブチ切れた。

 凛に至っては空に殴りかかったくらいだ。「ウゼえ!死ね!」と言いながら。


(ま、そんな事言ったらここにいる連中の全員が一条派じゃねえけどな…)


 陸斗は内心でそう呟く。

 陸斗の言う通り、この場に集まった者全員が空をそこまで好いていないのである。

 昔陸斗が遥に、「何で一条空と仲良くしないんだ?」と聞いた時、遥は、「嫌いだからに決まっているでしょう」とそっけなく答えたのを覚えている。他の者も、空と仲良くしている所を陸斗は見た事がない。


(まあ、一条空大好き人間共がいないとウザく無くて良いからむしろ万々歳なんだけどな…)


 心の内で呟きながら、こっそりと笑う陸斗だった。


「さて!ここでお前たちにはある事をしてもらう!―――エルゼ!!」


 ジンに呼ばれ出てきたのは、綺麗な蒼い髪にきつめの真紅の眼が印象的な美少女だった。歳は陸斗達よりも少しだけ上だろうか。


「一々デカい声で呼ぶなジジイ」


 見た目の印象と左程変わらず、性格もかなりキツイようではある。

 そんなエルゼは、腰に持っていた水晶を地面に放り投げた。


「コラ!!何をするエルゼ!!それはエルフの宝物であるぞッ!!」


 ジンがエルゼの行動に、驚き、そして怒鳴る。

 しかし、エルゼは全く気にした様子はない。それどころか、怒るジンを見て、薄い笑みすら携えている。


(中々にぶっ飛んでいる奴が出てきたな。何食ったらあそこまで捻くれられるんだ…?)


 そう思っていると、ジンが一度場を整える為に咳払いをし、エルゼが放り投げた水晶に視線を映した。


(拾わねえのかよ…)


 陸斗の内心の突っ込みなど知る由もないジンは、水晶についての説明を始める。


「この水晶は、お前らに最も適正のある武器を示してくれるものだ!!」


 ジンは出会ってから、一番良い顔をして言い放った。余程エルフの宝物に自信と誇りを感じているらしい。

 しかし、陸斗を含めた者達は―――。


 ―――シーン……―――。


 正に完全に拍子抜けしていた。


「ちょ、ちょお待てや。なんやその適正のある武器が分かるっちゅう使えへん力は」


 この中で最も身長の高い茶髪のイケメンピアスである瀬野宮蓮は、似非関西弁と共にズッコケながらそう言った。

 蓮は、陸斗とは中学からの同級生だ。中学二年生の時に、お笑い芸人に憧れて関西弁を真似し始めたという話を陸斗は風の噂で聞いた。その時はどうでもいい噂だな、と思っていたが、こういう奴が一人いると場が和むので、今は、陸斗としてはありがたい存在なのだ。


「つ、使えんとはなんだ!?個人の適性を見通すなど素晴らしい力ではないかっ!?」


「確かに凄い力っちゅうのは認めるけどな、もっと凄い力を俺としては期待しとったというか…」


「くっ…、なんで言いぐさをするのだお前は…。―――ええい!ごちゃごちゃ言わずにさっさと触れんかッ!!」


 最終的にジンは大きな声を上げる。

 その声に従い、全員が水晶に手を振れる。


「お!俺のこれは斧か?」


 蓮が振れると、水晶の中に斧に酷似した文様が浮かび上がる。


「そうだ。そのように、お前らに最も適正のある武器が浮かび上がる。とは言っても大雑把にしか浮かび上がらんがな…」


 つまりどういう事かというと、例えば今蓮が触れた時に斧の文様が浮かび上がったが、当然斧には様々な種類がある。その種類によって戦い方は大きく変わってくるのだ。この水晶はその細かい部分までは分からないのである。


「なんや、ますます使えへんやない―――ってウソやウソ!!ジンのオッサンそないな怖い顔で睨まんといてな!ションベンチビってまう!!」


 学習というものをしない蓮は、同じような事を言いそうになり、ジンに睨まれ、涙目になりながら後ろに下がる。

 その後も続々と水晶に触れる。


「どうやら私は剣のようね…」


 遥が水晶に触れながらそう呟く。

 少しだけ不満そうだ。その事に陸斗は少しだけ不思議に思いながらも、意識を次の人に移した。


「次は僕の番だね」


 相変わらず見る者を引き付けるような笑みを浮かべながら、一条空は水晶に向かって歩いて行く。

 周りの人間はそれを見つめる。そこには憧れや尊敬の眼差しなど籠ってはいない。ただ、あの天才がどのような武器を引き当てるのか、それだけが気になっている眼である。

 陸斗自身も、空の事を嫌っていながら、興味はあった。


「じゃあ、いきます」


 一切の気負いがない声でそう言い放ち、空は水晶に触れる。

 そして暫くたち、空はその顔に疑問を浮かべる。


「すいません。何も浮かばないんですが…」


「なんだとッ!!?」


 空のその言葉に、ジンは驚愕を顔に浮かべる。陸斗はその中に僅かな歓喜と畏怖を見出した。


「水晶に何も映らないという事は、お前は全ての武器に対する適正を持っている事になる」


 全員が驚く。

 陸斗ですら例外ではない。

 しかし、その中で一番驚いていたのはジンであった。


 ―――全ての武器に適正がある。


 正直に言えば、それは別段珍しい事ではない。いや、珍しいか珍しくないかで言えば珍しいのではあるが、それでも前例はいくつも存在する。

 しかし、それは一条空の場合によっては大きく色合いを変えてくる。


(一条空は間違いなく天才だ。それも今まで見た事がないレベルでの。そんな人間が全ての武器に適正があるか。凄まじいな…)


 ジンは空という少年の底力に僅かながらの恐怖を抱く。

 それと同時に、この少年こそが我らエルフを…この世界を救う救世主であると確信するのであった。


「最後は俺か…」


 面倒臭そうに陸斗は前に出る。

 先程までは自分にどんな武器の適性があるか少しだけ楽しみだった陸斗だったが、空の全武器に適正があるのを見て、若干やる気を無くしているのであった。

 しかも、周りの者達も、既に陸斗から視線を外している者が大半だ。

 ふと、陸斗はミレーユと視線が合う。


「………ッ!!」


 しかし、合った瞬間即座に視線を逸らされる。

 その事に陸斗は苦笑せざるを得ない。


(大分嫌われたな…)


 陸斗の本音で言えば、ミレーユがここまで自分を嫌うとは思わなかった。

 まあ、人が人を嫌う理由なんて想像する事なんて出来ないが。

 更にやる気…というかテンションが下がった陸斗はおざなりに水晶に手を触れる。


「これは…籠手…か?」


「どうやらお前は素手での戦闘に適正があるようだな」


 先程の驚愕の反動か、どこか適当な感じがする。


「素手ね…。まあ、予想通りか…」


(まあ、俺は素手以外の戦いは無理だからな)


 そう内心で呟きながら、陸斗は過去に思いを馳せる。

 思い出すのは十歳の時に出会った一人の初恋の少女。未だ色あせない想いに浸りながら、陸斗は確信している。


(――――――この世界にアゼレアはいる)


 それは根拠のない確信だった。

 しかしそれでも陸斗はそう信じて疑っていない。それは契約を交わした事による副次的な力なのかもしれないし、唯の勘かもしれない。どちらにせよ、陸斗はこの確信は絶対的に正しいものであると胸を張って言い切れる。


 だから―――。


(絶対お前を見つけ出す―――!!)


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