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第3話 エルフとの出会い



 陸斗が目を覚ますと、まず目に張って来たのは沢山の木だった。そして次に石で出来た巨大な建造物。視線を下に移すと、そこには僅かに光る何かしらの文様が刻まれている。

 そして最大の極め付けは、空にあった。


(空に太陽と…月が五つか…。そんなもん地球には有り得ない。…つまりここは…異世界ってことか?)


 その答えを瞬時に導き出した陸斗は、周りを見渡す。周りには、雨花学園の生徒がいる。恐らく全員だろう。

 しかし、他の乗客が乗っていない事を見ると、異世界に来たのは雨花学園の生徒だけという事になる。

 陸斗が施行に耽っている間、他の生徒たちはいきなり見知らぬ場所に送られた事に気づき、混乱している。


「皆!落ち着いてくれ!!」


 そんな中、大きな声を出したのは学園のスターである一条空だ。

 そして、スターである空の一言で、周りの生徒はシンと静かになる。流石の影響力である。


「僕の考えによると、ここは…異世界だ」


 空の天才な頭脳は冷静に周りを分析し、異世界に来るというとんでもない答えを何の疑いもなく導き出した。

 しかし、異世界に来るなど、普通の人間なら信じられるはずもなく、他の生徒は更なる混乱に包まれる。


(まあ、普通に考えてすぎに受け入れるなんて出来る訳ないよな)


 そんな時、遥が陸斗の近くにやってきた。

 その表情は、飛行機の時と同様、混乱と恐怖に染められている。


「ね、ねえ陸斗…。貴方もここが異世界だと思っているのかしら?」


「ん?ああ、まあそうだな」


「そうなの…。たしかに太陽と月が一緒に存在していて、しかも月…のようなものが五つもあると…そう思わざるを得ないわね」


「流石優等生。状況の呑み込みが早いな」


「バカにしているのかしら?」


 遥はジト目で陸斗を睨む。

 状況の呑み込みや、環境の適応能力等は、陸斗の方が圧倒的に優れていると遥は思っている。そんな陸斗にそれ関連で褒められても嫌味にしか聞こえない。


「ちゃんと褒めてんだよ。流石我らが出雲遥だってな」


 と、陸斗は適当に褒めたのだが、遥は顔を真っ赤にして、クネクネと気持ち悪く動く。


「えへへ~。そんなに褒めるもんじゃないわよ?」


「めっちゃ喜んでなお前…」


 想像を超える喜びように、若干引き気味な陸斗。そんな事を気にもせず、遥はひたすら喜んでいる。

 そんな、異世界に来たのに全く緊張感を抱いていない二人。

 その時、奥の方から複数の人がやって来た。

 ぞろぞろとやって来たのは、民族衣装のようなものに身を包んだ耳が尖がった人達。


(おい…アレってもしかして…)


「ね、ねえ陸斗?あれってもしかしてエルフとか呼ばれる人たちじゃないかしら?」


 陸斗同様、遥もそう感じたのか、言葉に出して疑問をぶつけてきた。


「まあ、現代人知識ではエルフか、妖精ってのが普通だな」


「そうよね…。…ああ、もう何がなんだか分からないわ…」


 遥は、天才児だが、そんな遥にも唯一の欠点がある。それが、予想外の事態に対する適応力が無いという所である。

 そんな遥を適当にあしらいながら、陸斗は現れた耳尖がり族を見る。

 他の生徒も、いきなり現れた人達に、皆口を閉ざし、黙り込んでいる。

 そうしていると、耳尖がり族の中から一人の美少女が出てきた。というか、出てきた美少女はとんでもない美少女だったのだ。金髪碧眼で、人形のような完璧さを誇る顔。華やかさに関しては、学年一…いや、学園一の美少女と称される遥すら抜いている。しかもスタイルも抜群という凄まじさ。

 そんな少女の美しさに、男子は勿論、女子も圧倒されていた。

 美少女は、ある程度まで陸斗達に近づくと、片膝を付き、頭を垂れた。それは、敬うというよりも、申し訳なさに彩られていたが。


「お初にお目にかかります。わたくしはエルフ族の姫であるミレーユ=プランタードです。以後お見知りおきを」


 形式的な印象を抱かされる挨拶を済ませた美少女…ミレーユは、立ち上がり、その綺麗な瞳で雨花学園の一年生を見た。


「この度、わたくし達があなた方をこの世界、ヴァルートに召喚しました」


 どよめきが起こる。

 異世界召喚というおおよそマンガやアニメの中だけと思っていた出来事が事実だと知り、生徒たちは再び混乱する。中には泣き叫ぶ者も出てきている。

 そんな姿を見て、ミレーユは悲しそうに瞳を伏せる。

 それは罪悪感に押し潰されようとしている一人の少女の姿であった。


「―――ッ」


 唐突に陸斗の脳裏に、初恋の女の子が泣いているあの映像がフラッシュバックした。見た目は全然違う。そもそも髪の色からして正反対なのだ。だが、重なってしまった以上、陸斗にこの場を傍観するという選択肢は無い。

 陸斗は一歩、前に出た。


「姫様。話の途中ですがいくつか質問よろしいですか?」


 普段から敬語を使うという習慣が無い陸斗にとって、丁寧な言葉を使うというのはかなりの不快感を伴うが、礼儀知らずと思われマイナスの印象を植え付けるのは得策ではないと自分に言い聞かせる。

 いきなり、いつも根暗な逢坂陸斗が言葉を発したので、他の生徒たちは面食らう。それは一条空も、出雲遥も例外ではなかった。

 それらを無視して、陸斗はミレーユの返答を待つ。


「あ、はい。何でも聞いてください。わたくしに応えられる範囲であれば何でも答えますから」


「ありがとうございます」


 陸斗はそう言って、一条空に視線をやった。これは、「ここから先はお前がやれ」という意味を込めている。

 これ以上丁寧な言葉を使いたくはなかったし、あまり調子に乗った事をしたくないというのが本音だった。

 そんな意図を知ってか知らずか、空はわかったと言いたげに頷き前にでた。

 それだけで、生徒たちには安心という波が広がっていく。学園のスターは伊達ではない。


「申し訳ありません姫様。これからは私が質問をさせて頂きます」


 そう言って、空は小さく微笑んだ。


「あ、は、はい…。わかりま…した」


 ミレーユは、そんな空の微笑に、顔を真っ赤にさせながら頷く。


「では初めに、何故僕たちを召喚したんですか?」


「それはですね、この召喚術式は、死ぬ直前の人間を召喚するよう設定されています。それも単なる自然死ではなく、理不尽な死に直面し、どうしようもなくなった人間を召喚するように。そしてそれとは別にもう一つ、この召喚は、20歳未満の少年少女しか召喚出来ないようになっているのです」


 つまり、寿命ではなく、事故に等によって、理不尽な死を迎えようとしていた人間だけを召喚するようになっているという事だ。


「成る程…。ではもう一つ。僕たちは一体何をすればいいのですか?」


 その質問に、ミレーユは少しだけ目を見開く。まさか核心を突く質問を向こうから言ってくるとは思ってなかったのだろう。

 だが、別段それは凄いことではない。

 この世界の住人(エルフ族と言っている事から複数の種族は存在しているだろうが)が、わざわざ異世界の人間を召喚するという事は、何かのっぴきならない事情があるに違いないからだ。


「それは…。あなた方には…天使と…戦って貰いたのです」


「て、天使と…戦う?」


 空は驚き、聞き返す。

 陸斗も、その話しを聞いて驚いていた。

 普通は天使と聞けば、人の味方というイメージがあるからだ。そんな天使を戦えというのは、流石に驚いた。


「はい。正式には〈対ヴァルート殲滅システム〉ですが」


「それって、この世界の破壊を目的にしてるって事ですか!?」


「はい…。少なくとも、ヴァルートに存在する全ての生命を皆殺しにすようとしているのは事実です」


「そ、そんな奴等がいるのか…」


 空は驚愕に言葉がないようだ。

 陸斗も、流石に驚いていた。


(魔王だって世界征服が精々だろうが。なんだよ世界の破壊って。どんだけクレイジーな奴等なんだよ…)


 そしてそれ以上の問題がある。


「すいません。ここにいる者達、全員戦闘なんてしたことはありませんよ?少なくとも世界の破壊を目論んでいる奴等に対抗出来るとは思えませんが…」


 そうなのだ。

 仮によくある話として、異世界人がこの世界ではとんでもパワーを持っている存在だっとしても、一切の訓練無しに、「ハイ、じゃあ殺し合ってね」と言われても出来る筈がない。実力以前に心が持たない。


「それは理解しています。…ですから皆様にはこれから二年間このエルフの里で訓練を受けて頂きたいのです。来たるべき天使との戦いに備えて。元々異世界人は、この世界では物凄い力を秘めているのです。それも一人の例外なくです」


 とは言っても、それで「はいそうですか」と言う筈がない。

 どれだけ凄い力を持っていても所詮はぬるま湯な人生を送ってきた高校生一年生だ。価値観そのものが違う。死ぬを分かっている事にわざわざ向かうなどするわけがない。

 そう思いながら、陸斗は感心もしていた。


(元々死ぬ運命だった人間を戦士として有効活用か…。道徳観や倫理観をシカトすれば結構合理的だな。俺達はまだ人生を謳歌出来るし、向こうは念願の異世界人という戦力が手に入る。一石二鳥っつーわけか)


 誰も名乗りでようとしない中、ミレーユは再び口を開く。


「あなた方を無理矢理召喚した事は謝ります。それにもちろん強制はしません。わたくし達が身勝手だというのは重々承知の上です。だから出来ればで構いません。どうかわたくし達の世界の為に戦っては頂けないでしょうかっ!!」


 そう言って姫は頭を目一杯下げる。

 その下の地面には、小さな雫がぽつぽつと落ちる。


「こんなん見せられてやらない訳にはいかないか…」


 陸斗はボソッと呟くと、一人魔法陣が描かれている祭壇から降りて行く。

 そしてミレーユの前に立つと、その頭にポンっと手を置いた。


「あんたみたいないい女に頭下げられて断れる男なんていねーよ。ま、心配すんな。俺達が一匹残らず天使共をぶっ飛ばしてやるからよ」


 そんな陸斗の言葉に、ミレーユは頭を下げたまま、溢れ出る涙を止める事は出来なかった。


「あはは。君はやっぱりかっこいいね陸斗」


 そう嬉しそうに呟きながら、空も祭壇から降りる。そして、陸斗の横に並ぶ。


「僕も全力で頑張りますよ」


 そこからは早かった。

 空が動いた事により、残りの男子は口々に「ま、あんなキレーな子のお願いだしなー」とか、「カワイイは正義」だとか、「ここで引いたら男じゃねー」とか、それぞれ思いつく限りのカッコつけたセリフを呟きながら祭壇を降りる。

 残ったのは女子だけ。

 そんな中、真っ先に祭壇を降りたのは遥だった。


「男子がやって女子がしないというのも可笑しな話でしょう?」


 そう魅惑的に笑う彼女は、やはり学園一の才女を形容するに相応しいオーラを放っていた。そして、女子ヒエラルキーの頂点に間違いなく君臨する彼女が動いたのだから、他の女子も動かざるを得ない。

 こうして、覚悟や思いに程度の違いはあるものの、雨花学園高等学校一年生の全員が、天使と戦う事を決意したのだった。


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