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花火の夜に

作者: ちくたくま

今作は「花火、結婚、ガム」の三題噺です。極掌編となっているので、四コマ漫画でも読む気持ちで読んでみてください。

 


 ガムを噛みながらの作業は捗るものだ。点と点を結ぶ単調な作業にも飽きることなく続けられ、噛むことによって眠気や疲労も幾分か和らぐ。しかし、噛み始めた頃にはあったグレープの香りも作業を続けているうちに味気ないものに変わり、今となってはガムというよりただの無機物を噛んでいる気分になった。それでも、何も口に含まないよりはましだと思い、結局はずっと噛んでいるのである。

 今見ている資料は三枚目。作業開始からおよそ三時間が経過した。

 A4の紙資料いっぱいに白いドレスが描かれている。花弁のようにふわふわとした布地がスカートの裾に縁どられ、所々に白銀の刺繍。結婚式に使われるその衣装は、ウェディングドレスだ。花嫁が着る幸せの衣装は花のようだ、とその資料を手に持つ人物は恍惚した。

 彼女の部屋はとても暗かった。

 唯一の光源がノートパソコンのモニター部にある。今は白い衣服を映した画面になっているせいか、無駄に物がなく広い部屋に反射していた。彼女の背後の壁には、彼女をきり絵とした影が映し出され、まるでその部屋に別の巨人がもう一人居座っているかのようだ。

 今回依頼されたデザインは、ビスチェと呼ばれるショルダーストラップが無いタイプのものだ。ドレスの種類としてはトップスに辺り、全体のシルエットとしてのデザインはこの間、依頼者との相談で決定したばかりで、まだ頭の中でのイメージははっきりと決まったものではないが、何しろ花嫁の門出を祝う大切な衣装だ。慎重で丁寧なデザインをしていきたいと彼女は、肩を解きほぐしモニターに向かった。

 その時、外で大きな音がした。

 集中しなければならなかっただけに、その音を聞いたときは心臓が出るかと驚いた。音の元凶を確かめようと締め切ったカーテンを勢いよく開き、窓を全開にする。

「何ごとかぁー!」

 窓を開くと、目の前には広大な川面があった。下には延々と遊歩道が続いており、何人かの通行人が、声の主を確かめようと、突然開け放たれた窓を見た。

「い、いえ……」

 恥ずかしくなり、すごすごと窓の後ろに後退してしまう。赤面し、人の視線に耐えられなくなった彼女は窓を閉めようと思ったが、またしての大音量にその手を止めた。

 夜の空には、太陽が咲いていた。

 小さな太陽から大きな太陽まで、まるで家族のように咲いている。「花火だ……」と口にし、閉めようとしていた窓は、無意識のうちに徐々に開けていた。

 しばらく、ボウと眺めていると背後の扉が開く音がした。

「下まで見に行かないか、花火」

 そこには、夫がいた。同じくデザインを職としている彼女の頼もしい夫。一人しかいない大切な夫。彼の考える車のデザインはまだ、企業に採用される程ではないが、インテリアとしては他の企業に高く評価されている。それは彼自身、本望に叶うこと無くて残念だと言っていたが、それでも彼女にとって頼れる夫に違いがなかった。

「うん、いこっか」

 そういえば、自分たちも結婚しようと決めた時は、こうして花火を見たなーと感慨深くなり、自然と笑みがこぼれた。最近膨れてきた腹部に手を持っていき、二人で今日も空を見た。


さんだいばなし、はじめました。


今回、初投稿となります。ちくたくまです。

花火、結婚、ガムという限られたお題は、部屋を見回して思いついて書いた物です。

特に理由はなかったです。ただ何か書きたいと思って、書いたものです。もちろん、読者がいると想定して書きました。

これからも三題噺の投稿を続けようかと思いますが、四コマ漫画を読むくらいの気持ちで読んでくれたらいいなと思っています。


最後に、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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