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第二夜 夢と現の境目

サブタイトル:勇者に襲われました。

美少女登場!!でも変態。ダブル変態。

でも今回ユエは控えめなのです……。というか彼女が強い!

てなわけで。

「ってあれ?」

予兆もなく変わった視界。落ちる感覚。一瞬の浮遊感。次の瞬間、足には地面の感触がちゃんとあった。というか衝撃を受けた。

(これって落とし穴か何かか?)

「はあああああああ――――!!!」

「はぁ?」

気合の入った声が後ろから聞え、振り返る。

(っとぉおおおお!?)

 身体は状況の認識できない頭を置いて防御動作を行う。到底、それだけでは防ぎきれるような斬戟ではなかったが、腕を顔と胴の間の高さに掲げ、衝撃に対応するように腰を低く下げた。

「っっっっ!!!!」

吹っ飛ばされる感覚。身体が後ろへ、重力へ引かれるように、けれど横からの力は圧倒的な暴力でしかなかった。


「ぐがぁっ はっ……!!!」

背後の木にぶつかり、折れる。ぶつかり、折れる。その繰り返し。


「すいませーん。大丈夫っすかぁー?」

のんきな声。野球のボールが金網を越えて飛んできてしまった時やサッカーボールがコントロールを外れて転がってきてしまった時のような具合だ。部活、遊び。そんな程度で済まされるはずもないのに。彼女はそんな調子でやってきた。

(これが大丈夫に見えるかってんだっ!!!)

てか俺、何で無事なの?

木が何本も折れる衝撃にぶつかって、それでも生きてる。俺、生きてる!!軽く感動。

(神様サイコーとか言わないですから。めちゃくちゃ俺チートじゃね?これって超人級……)

 つまり、俺最強。

 で、暢気に明るい声は女の子のものだ。つまり攻撃を放った本人強っ!でも俺の方が強くね?ろくに防御もせずに防備はピラピラの普通制服で受けきったぜ?

 ……いや、制服すげー。防御力強いじゃん。まったく切れてなーい。うちの学校、特殊繊維で編みこんでる制服支給してるとか、そんな系ですか。どこの傭兵学校だよ、軍事施設だよ、的な服だなぁ、おい。

「すいませーん、聞いてるっすか?おにーさぁん」

 おにいさん呼びに胸キュン。そんな軽い症状でもないんだけど、俺。だって手足痺れて、足腰立たない。その様子に、木の根元に瀬を預けてへたり込む標葉へ前屈み、手を差し出した。

(おおぅ……)

標葉は視界の暴力を受けた。特殊攻撃に精神的ダメージ100、攻撃力が40上がった。体力が20上がった。やべぇ、これ夢!?現実ならこれがリア充かっ!

まぁ、胸の谷間がこんにちわしてたんだけどね。昨日まったく同じ始まりの夢を見たばかりだった。昨日は頭暴走し気持ち悪いのと美人だけど関わるのは遠慮したい感じの人に会うグロテスクな夢を見たが今日は違う意味で暴走だ。

都合がいい。これは完璧なフラグだ。回収せねばなるまい。中学生ぐらいの年の少女だがその谷間は深い。一房落ちた長い髪が余計に大きさを強調している。何気にポニテなのが男心を擽る。ああ鼻血は出さないようにしなきゃ。でもさ、まず言わなきゃいけないことがあるよ。

「パンツ見えてるよ?」

きょとん。ハテナを浮かべられた。いやいやいや、俺こそハテナだよ。何だよその反応。

「隠すとか、ないの?」

取り敢えず聞いてみた。

「いいっすよー別に。勝負パンツなんで」

ほら、とスカートを上げて主張された。

(……なんだ痴女か)

またもや俺は夢の旅で変態を見つけてしまったらしい。

いやしかし、見事なものだ。すらりとした足が白くもち肌、肌理細やかで、黒の総レースなパンツを穿いてる。ぶっちゃけ色気むんむんだった。ヤバイてんしょん上がる!

「戦闘時に気にしてらんないっすよ。いつでも勝負パンツっす」

言ってスカートが下ろされる。残念だった。手を取って立ち上がっとく。

「ちなみに赤か黒っす」

(まじ……?)

沈み掛けたテンションが急上昇した。

「明日は真っ赤な紐パンっす」

うわっまじ見てぇ!

(……あれ、なんで俺明日の下着予告されてんの)

美少女は変態でも強かった。女性は強かだ。他にも「透け透けなのは好きじゃないっすー。あの、下着という隠す意味を真逆から否定した感がどうしてもダメっす。」なんて言ってくれる。恥ずかしい、という理由でないところが痴女らしい。俺個人では子供っぽいイチゴパンツがいいと思うんだが…定番過ぎるか?

 とりあえず、場を繕う。コホンという堰はたたせず、話を逸らした。

「いきなり攻撃とか、なくない?てか心配それだけかよ」

 いつものツンデレで対応。心理は早鐘打ってますけどね。だって美少女なんだもん。少女に覗き込まれる。距離が近い。息がかかるほどだ、後3cmもない。

「お兄さんが急に目の前に出てくるから悪いんすよ?」

 初対面で責任転換された!!……ちょっとびっくりだ。

しかし、年下らしき女の子に助け起こされる俺って……。と思うが彼女、見た目によらず力が強い。攻撃も強いし。

てか何あの攻撃。刃が直接当たったわけでもないのに攻撃来たよ。衝撃波?視覚化されてたし、周囲も風が巻き起こって嵐の後みたいな風景になってんですけど。地形変えるか、ふつー。

「てか運わるいっすねー。超タイミング悪いっす」

 やばい、ふつうーじゃないんだった、ここ。女の子も常識無い。

 可愛くとも痴女の変態だった。頭のねじも随分緩んでいる。死ぬかと思った体験だったぞ、あれは。それをタイミング悪いだけですませるなよ。溜息つきたくなるわ。

「何、初対面でそんな言う人初めてなんだけど。失礼じゃね?」

てか、俺が常識無いのか?これ俺の夢だし。やっぱし森だし夜だし。

「うちはいっつもこの時間、ここで素振りしてるんすよー?最後だけ魔力込めてるから、他の時は大丈夫だったのにぃ」

「魔力?」

 電波の森か、ここは。今度は魔力と来たか……。しかし、この少女の力は一概に否定できるものではなかった。俺が受け止められた、ということだけでスケールを小さくすることはできない。何故ならその影響は列記とした残痕として周囲に散らばっている。風圧になぎ倒された木々、抉れた地面。形のない斬撃は俺にぶつかって尚、威力を失わず体を吹っ飛ばした。普通じゃないかもしれないがの少女には出来ない力技だ。あの細腕からは想像もできない。

「このブレスレットで制御してましてー。てかお兄さん、ほんと何でこんなとこにいるんすか。振って沸いたような感じでしたけど」

「こんなとこって……」

改めて見ればそこは森だった。いや、確認する前から分かってたけど。

 そんな疑問をされても分からない。ここがどこだかもわからないのに俺は答えを持ち得ない。分かるのは今までいた場所と違うということ。俺は何故こんなところにいるか、それは俺が聞きたい。深刻に冷静に現実に、そしてとても真摯に――疑問だ。懐疑する、己を。

夢だし。いや、本当に夢か?現実なんてこんなもんだとでもいうのだろうか。それとも南下の影響で異世界?いやいやいや、だって今まで通りの現実世界を俺は生活している。

「答えにしちゃー……容赦しないから」

 口調の変わった彼女に眉を寄せれば、後ろに引かれる感覚。抱き寄せられた。

「だめだよ。俺がゆるさないから、あっち行って」

 聞き覚えがある。前、夢の中に出てきた吸血鬼がこんな声だった。

 ああ、やっぱし昨日のアレとこれは変わることもなく同じ法則の同じモノなのだ。変態という共通点でなく、超次元という部分で納得する。

「お兄さんの何?あんた」

「標葉は契約者。餌。恋人。そして主かな」

 大丈夫?と笑いかけられる。見覚えのある人物、自称吸血鬼。美人な電波さん。嘘つきで変態な麗人。強いのベクトルが人間の域を越えて振られた超人。俺の、契約者。

「勝手に名を呼ぶな、変態」

 勝手に詰めていた息が正常に戻ってくる。平常に日常に、感覚が慣れていく気がした。こんな非日常が日常へと変わっていく。これが、世界。もう一つの、俺の現実(リアル)

 いきなり雰囲気の変わった少女に緊張して、でも知っている者の声を聞き、体温を感じて、鼓動が脈打っている。変だ、吸血鬼なのに、心臓が動いてる。それに俺も変だ。吸血鬼なんかに、変態に、昨日あったばかりの人物に、安心した気がした。

(ユエ――名前を、つけたから?それとも記憶がないというのを信じて?)

 自分への疑問が浮んでもその答えを何一つ持たない。

「そうっすかー契約してんなら危険はないっすねー」

「おい、お前も早々に諦めてんじゃねぇ」

 置いていかれる会話、突っ込みを入れることで早くも馴染み始めた自分を自覚する。けれど、確実に違う。俺が俺でない世界。

 溺愛気味の超人家族がいて、学校に通って、二人と会話して、恋を応援して、何故か周囲に遠巻きにされてて、冷静で無関心な奴だと勘違いされていて、……そんな日常平常。

 けれどここはそうではない。自分が壊されて、でも新しく生まれた。

「お前じゃないっすよ。カレルっす。勇者ですよー。これ名刺っす。以後よろしくー」

「勇者って……」

 どこのRPG?ていうか吸血鬼に勇者に魔力って。

(疲れてるんだなー俺。絶対そうだよ、10月終わりの暑さにバテバテだし)

 そんな信じたくないと思う常識に存在する自分と、これが夢だとは到底思えない自分。痛みを感じ、会ったことのない人物に会って……これは新しい何かだ。命。生きている。鼓動が刻まれている。決してニセモノなんかじゃない。夢であっても、異世界であっても、命は命でしかないに決まってる。尊く、儚く、強くて弱い、大切なもの。

「俺は俺はー?」

「暑苦しい」

 ここがどこか、どんな世界か。それはまだ答えはない、けれど

(男が抱きついてくるのはキモイし暑い。暑苦しい。それは世界共通だ!)

「構ってよ。俺、せっかく駆けつけたのにー」

「間に合ってねぇよ。攻撃受けたんだけど」

 ぜんっぜん、間に合ってない。いや、得点映像は見たが、いやしかし、うーん。

「いいじゃん、身体強化の影響でダメージゼロでしょ?」

「ゼロじゃねぇよ。全くもって」

(超いた……くはなかった。うん、衝撃波あったけど)

アレ。あれれれれ?本当に人間超えた?

 ちなみに吸血鬼は痛みがあるようで(自称)、血が流れていたんだ、あの時は。森の中での一撃。傍から見れば吸血鬼は即死状態。それは不死身ということだろうか。

不死身でも痛みはある。それは他の人が一度だけですむ瀕死・必死の痛みを何度も受けられることに変わりない。痛みが身体に走っても、生きてしまう。地獄の連鎖を続けてしまう。内側から腐る。精神から病む。心が、死ぬ。けれど身体は。死にたくなっても死ねない。生き続けなければならない。死に続けなければならない。

RPGだけど。ファンタジーだけど。小説だけど。仮想だけど。ニセモノだけど。夢だけど。……それでも、そんな裏側がある。辛い事情がある。

 いや、こいつにはないだろ。そんな暗くて闇っぽいの。だって変態だし。

「お兄さんたち仲良しっすねー。妬いちゃいそうっすー」

「仲良くねえだろ、完全に」

 ツッコミを入れた。というか何、その口調だけのテンション。ローなんだけど。全然羨ましがって見えないんだけど。

「イチャラブしたいから君あっち行ってよー。標葉が照れるじゃん」

 それもかわいいけどー。とか言い始めたユエを蹴りつける。軽いなコイツ。そして俺はユエ(男)とイチャラブなんぞしたくない。何、そのバカップル発言。いつどうやってそうなったの。俺は可愛い女の子と仲良くしたいぞ。例えそれが痴女でも、ただの変態男よりいい。……ユエの容姿はいいけど、男だし、うん、迷ったりなんかしないから、全く。

「まず、自己紹介だけでもしようよ、俺ら」

 そうして俺は美少女の名前をゲットした。カレルちゃん。


「近くの町まで案内よろしく頼める?」

 自分の意思でここにいるカレルならば大丈夫だろう、と当たりをつけたのかユエが聞く。

「いいっすよー。宿割り勘でいいんならいいっすよー」

「えー?俺持ってないし」

 当然だった。この世界の通貨はなんだかすら知らない。というか夢だと思ってたし、二度目だよ?知るわけないじゃん。ここの住人であるユエだって何百年も眠っていて知識なんて吹っ飛んでるか古いかで使えない。つまり、詳しいのはこのパーティーではカレルだけだ。

 知り合ってまだ数十分の彼女にたかるのは申し訳ないんだが、いいだろ、別に。カレルだし。勇者らしいし。金はなさそうに見える。

「それは俺が持ってるからだいじょーぶ。旅の資金ぐらいは用意してたから~」

どうやら偶然できたパートナーは優秀らしい。

「旅?お二人は旅してるんすか?」

「まぁ……そうなる、かな」

 曖昧に答えてあはは、と枯れ気味に笑う。カレルはそれを気にとめた様子もなく、「そうっすかー」と納得してしまった。「旅は長いんすか?」「どこから来たんだすか?」「何か面白いこととかあったっすか?」などと矢継ぎ早に質問される。それには俺ばかりでなくユエも苦笑した。

「話は歩きながらにしよう」


「じゃあ、れっつごーっす!」

「う、うわぁ……っ!ひ、引っ張るなっ!」

 おー!と拳を突き上げるカレル。もう一方の手では標葉の腕を掴んで、ずんずんと歩き出した。山を下るのだ。

(ま、ましゅまろ……)

「マシュマロ?標葉は好き何すか?」

どうやら口に出してしまっていたらしい。その意味までは読み取られていないようで安心した。

 標葉が動揺しドモリまでしたのにはわけがある。それはカレルがやっぱり乙女としての恥じらいを持っていたら気付いただろうに、やはり彼女は変態だった。

「白くて柔らかいお菓子っすよねー。うちも甘くて大好きっすよー。」

 ヨダレがでるっすー。とか言いながら身体を寄せてくるカレル。

ぎゅうぎゅうと腕に押し付けられている感触は消えない。

(う、うれしいが隣からの視線が痛い、ような気がする)

ちら、と見上げれば不機嫌な顔をしているユエ。美形からの睨みは怖い。しかし、それが向けられているのは俺ではない。それには良かった、と思いもするが、状況は果てしなく標葉を困らせたいらしい。ユエは行動に移った。

(ってアレ、気付いたわけじゃ、ないんだ)

 俺がカレルにしがみつく様に密着されて鼻の下をだらしなく伸ばしている、ということに対して機嫌を斜めにしていたわけではないらしい。いや、それもあるかと思われるが、ユエは標葉のもう一方の手を掴み、繋いだ。それで落ち着いた。俺も、ユエの身体から(何故か)する薔薇の香りに心落ち着いた。

単に手を繋ぎたかったらしい。単なる嫉妬。侮蔑の視線が向けられたわけじゃないことに安堵。……両手に華?うん、それは認める。だって傍から見れば美女と美少女に引っ張られている。皆に殺気の視線を向けられる前に「ユエはなー、男なんだよ」と、誰かに主張したい。けれど未だ現在地は山中。他に人もいない。誰にも言えなかった。くすん。

ていうかさ、絶対カレルの感覚が可笑しい。だって、勇者って言うわりに警戒心薄いし、服も薄い(軽装備)。

「なあ、カレルってその格好趣味?」

「ん?なんか変っすか?うちは気に入ってるんすけど」

「戦いに向かない、よな」

改めてみるカレルの格好はひだの付いた短いスカートに袖のない上着。靴下は絶対領域というものを狙っているだろう長さ。それだけなら軽装ながらシンプルで動きやすいと納得できるがフリルやリボンがふんだんに使われた装飾。それはゴスロリとか言われる服装だった。

ご丁寧に髪を結わくリボンまでもフリルが使われており、赤と黒の色彩に白い甲冑など所々にあり、似合っているといえば似合っているのだが。

「標葉は女心がわかってないっすねー。うちは勇者である前に女の子っすよ?オシャレぐらいするっす!」

(オシャレ……)

それでいいのか、勇者。防御や攻撃重視しないで、戦闘のスペシャリストって言えるのか?言えるだろう。声に出す前に自分で納得してしまった。

いやだって、防御中心にしたらどうしたって素早さが下がるし。ポ○モン(ゲーム)で素早さは戦闘の順番の他、大きく関わることはないが実際の戦闘において俊敏さは一番重要となってくる。敵の攻撃が当たらない速度で回避すれば、決して負けない。いくら防御力や攻撃力に欠けていても勝負は決する。速度は大きく天秤を傾ける要素だ。

カレルがそれに当てはまるかどうかは知らないが。少なくとも、攻撃力は異常なものだった。剣を一回振るのみで。それにこの世界では魔力も大きく戦闘に関わるものだ。そして勇者であるからには何かに優れているだろう、カレルは多分魔力が大きいのだろう。魔力制御をブレスレットに頼るぐらいだから。小説なんかでは魔力は濃度とかあったりして高密度になれば視覚化できるとか、物理攻撃に対しても壁になるとか。……うん?防御力要らないんじゃないか、魔力あれば。魔力の応用はいくらでもできると見た!魔法とかあんのかな?それとも魔術?

 柔らかな感触に意識を向けないよう、無心に、いや考え事に集中していればどうやら町に着いた。取り敢えず、夜も更けているので宿屋に行く。

 気前のいい宿のおっちゃんはこんな時間でも怪しげな三人に部屋を貸してくれるようだ。ちなみに、言葉を繰り返したり何かのイベントに関わったりするようなゲームキャラでもない実在の人物だった。

「じゃ、うちは明日発ちますけど、標葉たちはどうするんすか?」

「特に決めてないからなー」

 何泊、というところには空欄を埋めといた。何も埋まってないんだけどさ。明かりのともった暗くもない廊下を歩く。本当は人が眠ってるかもしれないから余り会話はしないほうがいいと思っていたんだが、……おっちゃんはただの商売魂だった。「最近はどこも商売上がったりだよ」が口癖だということを早くも発見してしまった。それはアピールか?

「うーん。……ねぇ、勇者だしカレルちゃんも旅してるんしょ?」

 標葉はまたもや会話に置いてきぼりにされた。というか、俺って旅してたっけ?してないよな、昨日来て、帰って、今日も似たようなところに来て、……発生って感じが正しかった。あれ、また朝になったら俺帰るんじゃね?

「そうっすよー?次は西のおっきな街に行きたいっすけど。うち、行ったとこない場所は基本、迷子っす」

 迷子!?危ない奴だな、コイツ。それでどうして旅が出来ているんだろう。

「じゃあ、ちょうどいいんじゃないかな?一ヶ月程掛かるだろうし」

 急に振られた。えっと……余り詳しく聞いてなかったというか、サラリと耳を通っていったというか、それよりもこの現状がどうなっているのかの究明が先なんじゃないか?とか……。

「そうだな。カレル、次の街には一緒に行かないか?用心棒お願いするよ」

 標葉は言った。当たり障りのない言葉で、ユエの言いたかったことを。けれど、

(スイマセン。何にも分からないまま相槌打ちました)

 何の疑問も挟めずに疑問は疑問のままにしてしまった。

「?いいっすけど……」

「吸血鬼は満月の日以外はただの強弱体質だから」

 えへへー。とユエは笑う。

(こいつ、言い切った。言い切りやがった!)

 臆面もなく、「頼りにしてますよー勇者さん」とか自分を討伐しようとした相手に弱点暴露してやがる。あーこいつらの感覚に俺はついていけない。


そしてこの日、眠りにつく。

そして次の日、目が覚めた。


「あれ、宿じゃん」

 わけのわからない世界。夢なのか現実なのか異世界なのか。

 疑問は尽きないまま、標葉は帰れなくなったとさ。


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