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第五夜(前) 静かなる夜に不整脈

魔王登場!

サブタイトル:魔王さん訪問

ライバル登場?ユエ!頑張ってっ

エロになりきれているかどうか分からないエロが入ります。

「やあ!よく来てくれたねっ歓迎するよ!」

「――っ!?」

「いやぁーテンちゃんがいてくれてラッキーっす!これでいつでも標葉を確保できるっすよ」

「便利」

「うーん。座標が5ミリほどずれたぁ……」

「標葉だ!標葉の匂いだ!標葉の感触っ!」


 なに、これ。ギャグ?

 ――このタイミングで?呼び戻された?誰に?

 ……そんなの決まってる。そんなことが出来るのは、

「神」

「うんうん、信じてくれたんだね!」

「マジ、ふざけんな?」

 ちょっと怒りマークの標葉くんです。

 あの声は聞こえなかった。つまり、死神が関与しているわけではない。

 思わず溜息をつきたくなる。しかし、それは自らを痛めつけるかのような行為だ。幸せを半減させる。気を滅入らせる。更に気分が悪くなる。……そうとわかっているのにつきたくなるのが溜息というものだ。

「はぁ……」

 あの場所に今すぐ戻れるのならば溜息ぐらいいくらでも吐こう。あのタイミングはない。絶対、狙っているとしか思えない。


「標葉!この城に留まらない?僕の恋人としてっ」

「なーに、こいつ。トチ来るってんね、標葉に馴れ馴れしい」

 声の低いユエに顔を向ければ思った以上に至近距離で胸がどっきんこしたが、表には出さずに素直な心情を吐き出す。

「……お前も十分、初対面から馴れ馴れしかったぞ」

 初対面からセクハラよりかは一目ぼれで告白の方が遥かにマシだと思われる。おちらにしろ、同性から受けるものではないと思うが、そんなことは向こうで慣れっこだ。香寿がすぐそばにいたからか、免疫がついた。己に降りかかることはなかったにしても、何故か俺を通して告白をしてくる奴が多かったのだ。勿論、そんな輩には丁寧に本人に言え、と送り返させていただきましたが。……体育館裏や放課後の空き教室に呼び出すなんてベタな例を見た。皆、考える事は一緒なんだ、と思わず関心。

 ああ、いやしかし。ここにいるものたちならば常識なんてものはどこかに置き忘れた以上に「え、常識?なにそれ、食べ物?」という感じに行動はド直球に授業中の教室で「ねえ!いまから気持ちイイコトしようよ!」ぐらい言ってしまうかもしれない。いや、変態ならば「授業中に隠れて、ってシチュも萌えるよね」とか言って悪戯を仕掛けてきそうな気がする。

 ……うわっ!本当にありえそうで怖い。


 背筋が寒くなって咄嗟に自らの身体を抱きしめるようにした。

 そもそもなんで変態についての考察を述べているのだろう。そんなことの前にまず背中に張り付く物体をどうにかすることの方が先決だろう、己が思考回路よ。

 しかし元気だ。ユエはつい先ほどまでいなかった標葉を捜すという作業を止めたのだろうか。あっちに居る時にはいつもアンテナを張っている、とかそういう記憶は間違いか?それとも向こうにいる時間が少なかったため?

……止みあがりだしなぁ。


 ――しかし、不自然なほどに向こうにいる時間が少なかった。

 三時間もいただろうか。そもそもが可笑しい。コチラから向こうへ行く時に血を媒介に移動させられたというのに今のはまるで媒介がなかった。雨は降らず、血は茹らず、水溜りもなかった。あったのは、地面と空と友人と、話と、涙。……涙?

「『……涙なんて少量で媒介になるのか?そもそも俺は接触してもいなかったし』」

 神が真似る。標葉の心を読むようにして、口に出した。


「神さまだからね!どんなに少量でも問題はないよ。ただ必要なのは“映す”ことだから。必要なのは水でも液体でもない。例を挙げれば鏡。――瞳」

 ファンタジーやホラー小説によくある話だ。“異界”へと通じるには森と、水と、鏡というのが通じやすい。日本でも昔は水や鏡を神聖なものとして考えてきた。“そういう”もの。

「“異界”やどうたらでなく“移動”のための認識として送受信両側が見える場所でないといけない、ってことだけどね」

 召喚の場に“何か”があったら、危険ということか。同じ場所に二つのものが同時には存在できない。だから、何もない場所と何もない場所でなくてはいけない。でないと身体の損失を招きかねない。身体から何かが突き出てたり部分的に身体が消去してたり、地面がなかったり。

 ……うわぁこわい。


 ところで、標葉に無視されっぱなしの男はしょげていた。初対面の癖にスルーしてシカトして、存在無視な標葉も悪いが、初対面からあんなんことを言う不審者も悪いと思われる。

 黒髪黒目。……標葉には馴染みがあるものだ。ユエやカレルなんかより、よっぽど。

けれど、その美形さは類を見ない。一瞬だけしかみなかった、その顔がとんでもなく美しいくものだということは分かった。けれど皆に批判されシカトされたためか、ウジウジとしょげ返って俯き、のの字を書いている。とんでもなく残念な人だ。標葉の周りにはとても残念な人が多いが、その中でも一番に上がるほどの残念な人だ。何故って、変態やなんかよりも、とっても“ウザイ”から。

「うわー辛口っすね」

「口に出てるよ、標葉」

 あれ?……そうか。でも、まあ、いいか。別に親しい人でもない。他人だ。

“日本人”というわけでもなさそうな不審者に、親切にするほど標葉は優しくなかった。

「勇者御一行、話を進めませんか?魔王様も公務があることですし、お仕事しましょう?」

 従者にあやされる“魔王様”。

彼は慣れているのだろう、焦る感じがない。どちらかと言えば、手馴れた、日常的な瑣末の事象のようにさっさと促す。

「コホンッ!――では、気を取り直して僕は魔王のベルファグラクト・リーナス・ブライ「長い」――リベルでいいよ」

(従者に突っ込まれたぞ!!魔王!)

 通称を口にする魔王は立場が低い。いや、頭が上がらないのか?迷惑かけているから。

 上下関係を無視していいのか、以前に名前の否定って酷くないか?俺たちが言うなら未だしも、自分の部下に言われるなんて。少なくとも、標葉は最後まで聞こうと思っていた。覚えられずとも、聞くだけ聞いとけばコレ誰だっけ。なんてことにはならないはずだ。しかし、他の皆はそうでもないらしい。元々が同族で、部下であるサキは知っているはずなので除外する。

 しかしユエは自分のところの王様だろうに、聞いてない。標葉にへばりつき、匂いを嗅ぎ、頬をなすりつけ、腕で拘束してくる。……記憶がないので、加えてずっと寝ていたということで今代の魔王の名前を知っているわけないのに、だ。

 カレルは聞き流していた。親善大使の癖に、勇者の癖に。ライバルの名乗りを互いに聞いてから切りかかるところだぞ?そして最後に「久しぶりに強い者が来た。覚えといてやろう。……違った形で会えたなら、よき友となっただろう」みたいなのが定番じゃないか?やられキャラは「俺は○○だ、次会う時まで覚えてろー!」「ふっ……もう忘れたさ」みたいなやり取りだろうが、どちらにしろカレルには当てはまらないようだ。

「この人が標葉で、ユエさんの契約者っす。サキの契約者でもあるっすよー」

 なんて、簡単な紹介。

 ……俺だけか?俺だけの紹介なのか?

 そもそも、魔王のいる場所に呼び出されたという事はそれ以前に彼らが自己紹介済みということもありえる。つまり、俺のためだけに紹介していたのか。

(正直に言おう。可哀想だ)

 紹介が始まる前から無視していた俺へと自己紹介。しかも、名前は途中で打ち切られる。哀れだ……。頬に唇を近づけてくるユエに対して手を間に入れて防ぐ。頭をそのまま押さえつけて近づけない。そんな片手間に同情100%で自分から紹介をする。本当は関わり合いになりたくないのだが、まあ、しかたがないだろう。

「あー標葉です。魔王さん?ハジメマシテ」

 力強く手を押し返し、どころか掌に口付けようとしたユエの頭をグキッ!と横へ方向転換。

「はじめまして。それでね?カレルちゃんとの話し合いは決定までに日数が掛かりそうなので、滞在してもらうことになったんだ。僕はこれから公務だから案内できないけれど、アルファルトをつけるから、城も街も自由に見ていいから、ゆっくりしていってね」

「あ、はい。なんかありがとうございます」

 アルファルトさんとはあの従者らしい。魔王が向ける先へ視線をやれば目が合った。一瞬後に目礼される。驚いているように見えるのは気のせいか。……なんだろう、この感じ。

 ――変な気分だ。久しく感じていなかった、嫌な視線。

 驚かれる。遠巻きにされる。嫌われる。……そんな方程式がいつの間にか、標葉の中には出来ていた。二年前にはそれが決定的になって、けれどそれ以前から感じていたものだ。あの輝くような家族のうちに生れて、ずっと身近だった。

「標葉――また、嬉しい。こんなにすぐ会えるなんて」

 満面の笑み。

 天使の微笑みと言った方が近いかもしれないそれを間近に見たからか、呆けたような気分になってぼんやりとその美貌を見た。きっと、標葉の気持ちが沈んだことを機敏に察知したのだろう。この存在は契約しているから、以上に標葉に心が繋がっているような気がする。何故だろう、いつもタイミングがいい言葉を吐く。心の隙間に入り込んでくるようだ。精一杯、心を砕いてくれているのがわかる。

 いつのまにかユエの顔が困ったような顔になっている。ずっとその顔を見ていたからだろうか、いつもならば目が合った瞬間にセクハラ発言盛りだくさんのはずなのに。

こんな時のユエは、いつものように変態じゃないし、優しく、暖かくて、落ち着く。コレが本当のユエなのか。人は二面性がある。けれど、それは魔物にも適応されること?ユエも、心のそこでは何か別のことを――俺なんかと契約したことを後悔したり、しているのか……?

「アルファルト、標葉のベッドは僕と一緒ね」

 魔王の、リベルの言葉が耳に入り視線をズラした。黒髪の至上なる存在は周囲に華を撒くような微笑を浮べている。美形だ。ユエのような美女の雰囲気を持つ美形ではない。しかし、美人だ。ユエと並ぶと絵になる。

「ふふ。疲れてるだろうし、僕を待たずに寝ててもいいよ?」

「ずうずうしい。なに、こいつキモイ。標葉は俺と一緒なんだけど」

 不機嫌な声とともに酷評と自分勝手な主張(決定事項)が上から降ってくる。頭の上に乗せられた。顎が動く振動が直に届いてなんだか変な気分だ。首は痛くないのだろうか、さきほどものすごい音が立ってしまったので心配したのだが、それも必要なかったみたいだ。

「いや、俺一人で寝れるし。お前らこそなんだよ。子ども扱い?男と床を一緒にする趣味なんて持ち合わせてないけど」


「二人、険悪。標葉、取り合ってる」

「標葉くんモテモテっすねー。うちも便乗するっす」

「つまんないなー!もっとドロドロがいいよねー」

 サキが珍しく饒舌に、カレルと神はノリノリで、三人に言葉を下す。

「とりあえず、この後どうする?」

 夕方が夕闇へと移り変わるように陽の色は混ざり合う。

 窓から見える町は美しい様相を見せていた。標葉はもう血の様な赤に囚われることなく、そのグラデーションにただ美しいという感想を得る。

 忌まわしい記憶も、香寿たちのことも忘れて、ただ現状に染まるのが精一杯だというように、それだけしか考えなかった。


「家族サービスならぬ契約者サービスっすよ」

 こそっと耳元で囁くカレルを追い払った。

 あの後、アルファルトに各自部屋を案内されたのだが、何故だか女子組は標葉の部屋に集まった。我が物顔で部屋を物色する神にベッドに横たわって猫のように丸まって寝転ぶサキ。そしてやたらとデカイ貸し与えられた自室にショックを受けながらソファに座り、考える人よろしく頭を深く垂れたのであった。

 と、そんな標葉にカレルは近づき、言った。

「思うに深夜は触れ合いが足りないっす。愛がたりないっす!」

 拳を握って力説するカレル。いつの間にか他に命の視線も釘付けだ。

 しかし、あの状態のどこが触れ合いが足りないと見えるのだろう。四六時中、へばりついて。

 ……確かに、今はいないのだけれどもさ。風呂だ風呂。

 長湯が好きだというユエは一人、露天へと走った。標葉を置いていくほどなのだから、それは相当な風呂好きなのだろう。標葉も誘われたのだが、女子たちに連れられ部屋へ連行。さすがのユエも反論できず、「待ってる」とだけ残して消えた。

 ……どれだけ待つつもりだろう。女子の話は長い。

「――このままじゃユエさん可愛そうっす」

 いつの間にか話は進んでいたようだ。しかし、漢字がひどくサディスティックに感じるのはなんでだ。女子の変態さには加虐嗜好があるのかもしれない。サキもテン(神に名前がないと聞いてカレルが名付けたらしい)もいつのまにかカレルの意見に頷いている。

 いやしかし、考えてみればそうかもしれない。ユエは最初の印象こそ強かったが、以後はおとなしい。他の奴らのキャラが立ちすぎてて薄いぐらいだ。見た目は派手なのに、精神的には案外大人なのかもしれない。記憶喪失のせいで時々不安になったりしている部分が感情を抑えない変態な行動へとなっているのだろう。

(寂しがり。セクハラは保護者に触れていたい甘え?“独占欲”か?)

「大丈夫っす、うちが完璧な計画を立てるっす!」

 標葉が思考する様を同意と考え先に進めるカレル。サキも無表情ながら瞳をキラキラと輝かせ、いつもより感情のこもった声で主張する。

「雰囲気、重要」

「服は私が見繕ってあげるっ」

 いつになく張り切る女性陣。たまにはいいか、と標葉は止めもせずに風呂の準備をしてさっさと部屋を出て行く。

 その背後で怪しく笑う三人から寒い電波を受け取って標葉はタオルをギュッと抱えなおした。

「さっさと風呂言って温まろ」

 背筋の凍る寒さに背を丸めて足早にユエの待つ露天へと向かった。


「魔王、明日公務。チャンス……」

 部屋の中では本人もいないまま未だに会話が続けられている。

「ナイス案っす!」

「可愛く仕立ててあげるよっ」

「足が綺麗なんで出すっす!セクシー路線っす!」

 決行は翌日。着々と案を練り上げていく。



「標葉?」

「ッ!!」

 一瞬、声をかけてきたのがユエだと分からなかった。

 銀髪の長い髪は濡れ、白く艶かしい首筋に滴を落としながら髪留めで結い上げられていた。細い身体は最初、後ろを向いていて、だから肩越しに振り返られて、外の空気が冷たいせいで余計に湯気が立ち上るその場で、ユエを女性と間違えた。

 身体を向けようとしたその人物に対してクルリ、と後ろを向いてしまったのも当たり前だと思う。“不可抗力だ”とか頭の中で呟き視界を閉じてしまったのも極自然だろう。

 そんな標葉の反応をわからなかったのはユエだけだと思う。湯船の中から立ち上がる音も、ヒタヒタと詰めたい石の上を歩く音が耳に大きい。標葉の顔は次第に赤くなる。

「標葉、どうしたの?」

 声はユエと同じだったのでその人物がユエ本人だということもこの時には既にわかっていた。それでも、近づく気配に顔が赤くなる。羞恥と、もう一つの思いで。

「標葉?」

「い、いま近づくな!」

 慌て気味に叫ぶ。すぐ真後ろで聞こえた声に思わずしゃがむ。

 美人なのだ。それはもう、この世のものとは思えないほど、絶世の美女、傾国と呼んでいいほどの。そんな人物が、風呂場で、無防備に自分に近づく。

(猥褻物陳列罪――!!)

 心の中で叫ぶ。裸なんて見れない。特定の部位を見たわけでもないのにこう思ってしまうのは必然だと思う。同性であるにしても、目の毒だ。男だと分かっているのに、それでもヤバイ。

(危険人物だ!!)

 誰がって、ユエもそうだが、自分もだ。

 普段から人に変態だ、セクハラだ、と訴えながらも今の自分はどうかしてると冷静な面で見るように、胸が忙しく動きまくっている。なんということなのだろう。ゆっくり風呂なんて浸かれない。静か過ぎる空間と雰囲気を作り出すこの場の問題もある。

「……標葉。その格好(ポーズ)、すごくそそる」

 やっぱりユエは変態(ユエ)だった。


(一気に頭冷えた)

 何をそんなに焦っていたんだろう、と思うぐらいに冷静を通り越して心は冷え冷えと極寒大陸となった。素早く、立ち上がる。その瞬間、声が掛かると共に全身に感触が伝わる。

「しーんや」

 肉感がすごく、仔細に伝わる。密着する身体はユエに張り付かれたのだ。先ほどまでずっとそうしていたように、けれど今度は互いに裸同士で。

「――ッ!?」

 絶句する。そして、同時に動けなくなった。全く、微動だにできない。

(興奮するんじゃねぇー!!!この、この、~~~~!!)

 心の中でも言葉に出来ない。何故って、標葉の腰には布が一枚、巻かれている。けれど、それがどうにもユエにはないみたいだ。うすっぴろい布一枚を隔てた越しに伝わる、熱とソレ。

 腰、というよりもその少し下、尻の谷間部分に押し当てられる固い感触。

「 っ」

 首元を厚い吐息が掠め、小さな痛みがあった。

(吸い付かれてるっ!)

 驚愕する。何故こんな事態になったのか。何故、こんな状況で自分は抵抗一つしないのか。

 硬直した体は抵抗を望んでいる。けれど、何をされたわけでもないのに動かない。腕力で押さえつけられているわけでもない。拘束は腹に回った腕だけだ。それも押しのけられないほどのキツさではない。すぐ外れてしまうだろう、優しい拘束。

(変態だ。変態だ!こんなのっこんなところでっ!!)

 思っても、体は抵抗しない。疑問しか流れない思考は疾うにパニック状態だ。

「へんたいめ……」

 辛うじて言葉を出す。

「そうだよ。標葉には、変態になる」

 なんということだろう。この生物はやはり、美しさを利用するただの変態だ。記憶喪失で甘えている、とか不安がっている、とかそんなんではない。

「好きなんだから。仕方ないでしょ?」

 口調はいつも通りでも声音だけは真剣に。

 腕が、下へと下がる。

 腰布を外そうと、手が掛かる。

 滴が、ユエの髪から標葉へと垂れ、それが肩から胸へ、そして腹と下がっていく。その感覚に標葉は震えた。何がなされようとしているのか、その先はわかる。知っている。標葉にとって未知の領域。けれど、知識自体はあるのだ。

 好奇心なんてこれっぽっちもない。他人のできごとなら勝手にどうぞ、で済む。香寿と豊がそういう関係になる事は二人の友人として喜ばしいことだし、相談されれば出来る限りで真剣に返すと思う。けれど、それが自分の身に降りかかれば?――興味はなかった。今も、これからもそれは変わらない。けれど、抵抗が出来ない。恐怖でないものに縛られている。


「しっんや――!!いるかーぃ?」


 突然の声に、体はビクリと震え、動いた。

 自然に、肘を跳ね上げる。

「ぁぐっ!」

 ユエの顎にぶち込み直撃。けれど構わず足は腹へと回し蹴りを決める。

 カラカラカラ――


「なにしてるの……?」

 その疑問はもっともだろう。

 ユエは吹っ飛び、風呂の壁面へとめり込んでいた。裸で。

「なんでもないさ、リベル。変態を殲滅しただけだ」

「そ、そう?」

 あわよくば、と狙っていた魔王(リベル)を恐怖させ、引きつらせる人間(しんや)。真っ青になった顔は湯気で標葉にはよくわからなかったが。


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