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星なき世界の星探し【読み切り版】

作者: こうちゃ
掲載日:2026/04/05

こちらは、連載中の自分の作品の冒頭部分を読みやすいように短編にしたものです。

 俺はあの日、何も考えずに歩いていた。何も考えずというよりはどうにでもなれという気持ちだ。


 どうしたものか。どうしようかと考えるとき、俺は必ずここに来る。


 世界の中心、穴に来る。周りを歩いていると、端まで来てしまった。




 半径一kmにもなるこの穴は、高い柵で囲われていた。


 柵には一つ大きな切れ込みがあり、そこには町の中心、大聖堂があった。


 俺は穴を見下ろす。吸い込まれるような黒のこの穴は、悩みも吸ってくれる気がした。そんな時だ。不可解なものが見えた。少女だ。そこにいる。穴の中に。その少女はだんだんと浮かび上がっていた。




 少女は今起きたかのように目を開けると、空を歩いて大聖堂の屋上へと向かっていった。


 何が何だかわからない俺はそれを追いかけた。大聖堂の屋上は、この世界をすべて見渡せる。


 この世界は大きなドームに包まれている。そこに浮かぶ月は綺麗だ。




「星を探しているの。」




 彼女は言った。その顔はとても少女の物とは思えない、覚悟の顔だった。




「星?なんだそれは?」




 俺は目を合わせ、彼女の心を見た。美しい蒼の目の奥に、空を飾る宝石があった。


 そこにある物語。俺は思わず涙した。




「少々心を見させてもらった。そうか、これが星か。」




「そう、それがあなたの力なのね。ここはどこ?」




「ここは世界の中心、大聖堂。穴より生まれた子供に名前を授け、力を渡し、死にゆく人を穴に返す。」




「ふうん。不思議な世界ね。私はこの世界に来たばかりなの。あなたの名前は?」




「俺の名前はルナリス。君は?」




「私はアルヘナ。星を探す者。私の旅に付き合って。」




 星。その言葉は存在しないはずだった。


 俺は空を見上げる。いつもの空だ。でも何か足りない。知ってしまったら。


 知ってしまったら、探さずにはいられない。




「君が教えてくれ。星のことを。星を探しに行こう。」




 言葉は、心に染み渡る。


 彼女は年相応とも取れる、屈託のない笑顔を俺に向けた。




「ええ、行きましょう。」




 俺はもう一度空を見た。黒い空には宝石はなかった。


 俺達はどこに行くか。それを決める必要があった。




「まずは大書庫に行かないか?俺も行ったことがないが、この世界の本がすべてあるという。そこに行けば、何をすべきかわかるかもしれない。」




「それはいいわね。まずは私もこの世界について知らなければいけないと思っていたの。」




「じゃあ、まずは大書庫だ。ここから大体四日の距離にある。間には2つ町があるが、少なくとも2日は野宿だ。その準備や必要なものを、ここでそろえてから行こう。」




「わかったわ。私はお金は持っていないのだけれど、お金になりそうなものなら沢山持ってきたの。」




「金の事なら気にするな。金だけは沢山ある。それこそ、腐るほどな。だからその金はとっておけ。」




「ありがとう。じゃあ明日は買い物ね。私はこの町も見ておきたいの。今夜はどこで寝る?」




 俺は宿の部屋の鍵を無くして途方に暮れていたことを思い出した。




 ***






 彼は一瞬だけ黙った後、ばつが悪そうな顔をして、こちらを向いて話始めた。




「宿の部屋はあるのだが、鍵を無くしてしまったんだ。入れてもらえないかもしれん。」




「あなたって、頼りになりそうな顔をしてるのに、意外と抜けてるとこあるのね。」




「そんなつもりはないんだがなあ。」




 そうだ。いつも彼はこうだ。不器用な彼の優しさは、いつもいい方向に向かうわけではないのだ。




「仕方ないわね。何とか取り合ってもらいましょ。とりあえず寝れればいいわ。」




「すまんな。」






 ***






 二人は宿に到着した。幸い灯りはまだついている。


 ルナリスは宿主に謝った。




「帰るのが遅くなってすまない。鍵を無くしてしまった。何とか部屋に入れてもらえないか。


 宿主は笑い、




「そんなことだと思ったよ。鍵は届いてる。よかったな優しい人がいて。」




「ありがとう。」


 そんなこんなで無事に部屋に戻ることができた二人は、なんだか寝る気にもなれず、話し始めた。


 アルヘナは「星」について語った。




「星は、私たちにとっての希望よ。」




「星という言葉は聞いたことがなかったな。あるいは、俺が知らないだけかもしれないが。」


 彼女は星についての詩を教えてくれた。




「星は、空の果てにあり。」




「闇夜が世界を閉ざすとき、」




「散りばめられし、静かな光。」




 彼女は少し止まり、息を吸った。




「閉ざされし世界。」




「一つの希望。」




「人はそれを星と呼んだ。」




 彼女は自分の子供に語るかのように、優しく詠んだ。詩というよりは、お伽話の一節のような感じだ。


 静かな余韻に浸るように、彼女は語り始めた。




「この詩は、私の父が見つけたものなの。」




 俺の心に焼き付いた、誰も知らない光る宝石。




「この詩を書いた昔の人は、きっと星が好きだったんだろうな。」




「そうなのかしら。そこにあった星。それが綺麗だったから書いたんじゃないかしら。」




「そうかもな。」




 そんなことを話した。そんなことを話しながら、何かが足りない夜を明かした。


 これから二人は旅をする。長い、長い旅だ。


 向かう先は大書庫。お世辞にも近いとは言えない場所だ。


 しかしルナリスは決めた。彼は一度決めたことは貫き通す男だ。


 次の日。


 彼女はこの世界の不便に戸惑っているようであった。朝、水を飲もうとした彼女は、




「水はどこにあるのかしら」




「水なら宿に共用の井戸がある。」




「なんで水道が敷かれてないのよ。わざわざ井戸まで汲みにいかないといけないなんて…」




 と溢していた。俺には「水道」が何かわからないが、水なら生活魔法で何とかなる。それを知らないのかもと思い、聞いてみた。




「魔法は使わないのか?少しの飲み水なら汲むより楽だと思うが。」




「魔法?何それ便利そうね。」




「魔法を知らないのか?ならば見せたほうが早いな。『湧き出よ』」




 俺は初級水魔法、ウォータを使い、水を手の平から出しコップに入れた。




「わあ!すごい!そんなものがあるのね!」




 その姿は、初めて魔法を見た子供に相応しい、幼いものであった。その姿に、なんだか違和感を覚えた。


 俺は彼女を知っている気がした。でも思い出せない。遠い昔に逢ったような気がする。




「この魔法は、誰にでもできるはずだ。やってみるか?」




「やりたい!」




 学ぶ意欲があるのはいいことだ。子供たちが最初に覚える魔法、ウォータ。それを彼女に教えることにした。二人は、町の外れにある公園に来た。建物に囲まれ、人気のない公園だ。




「詠唱はさっきも言ったが、『湧き出よ』だ。やってみろ。」




「『湧き出よ』!」




 彼女は叫んだ。そうして出てきた水は、ほんの数滴だった。




「きっと才能がないのね。」




 一日中練習した彼女は、自分が出した水をのみながら言う。最初は数滴しか出なかった水も、一度でコップ一杯は余裕な量になっていた。




「一日でそんなに出たら上出来だ。本当は子供たちが二年も三年もかけてできるようになっていくことだからな。まずはその一歩だ。旅の途中でも、必要とあらば教えよう。」




 そうして二人は宿に戻り、彼女は相当疲れたようで、宿で夕飯を食べた後、部屋に帰ってすぐ、泥のように眠ってしまった。


 今日の様子を見るに、彼女はこの世界についてよく知らないようだった。


 明日はこの町を見て回ることにする。この町にはもう戻らないかもしれないが、この町はこの世界の 様々な町と通ずるところがある。


 今日は町の外れで過ごしたが、ここは央都、【ノヴァリア】であり、中央市場といわれる場所は、相当賑やかだ。そんなところにも行くつもりで、ルナリスも床に就く。


 窓から闇夜をのぞいてみても、そこに宝石はなかった。





 翌朝。二人は宿で朝食を取り、ノヴァリアの中央市場に来ていた。


 中央の広場には、今日が祭りかのように果物の屋台や軽食の屋台、雑貨の屋台が数多く並んでいた。少し中心を離れると専門店やランチを取れる場所が広がっている。


「すごく大きいのね。こんなに大きいのは私もそんなに見たことないわ。」


 この世界で2番目に大きな市場は、その称号に相応しい賑わいだった。

 旅支度を買いに来た二人は、旅の者たちがよく使う店へと入った。


「なんだか独特な匂いがするのね」


「ああ。革と香草の匂いだ。旅の者たちに好まれるのは、長持ちする香草を使った乾燥食料と、頑丈で使うほどが味が出る革製品なのさ。」


「なるほど。詳しいのね。」


「まあな。少し前まで俺も旅ばかりの生活だったからな。旅支度なら任せろ。とりあえず食料などは買っておく。欲しいものがあったら持ってこい。」


「わかったわ。」


 二人はなかなかに広く、三階建ての店内を回る。


「ここは三階建てで、央都で一番大きい。一階には旅の消耗品や必需品、初心者向けのキットなんかが売っている。ほかにも掘り出し物なんかがあるから、ここは見るべきだな。まずは見てみるか?」

 アルヘナはきょろきょろしながら、


「うーん、とりあえず全部説明してもらえるかしら。」


「わかった。じゃあ、次に二階。ここは主に防具や剣なんかが売っているな。」


「あの革でできている鎧は?」


「初心者向けの軽い加護付き革装備だな。金貨10枚、十万Gだな。」


「あっちの白っぽい金属の鎧は?」


「エンチャンテッドミスリルの一式だ。危険な旅をする人や貴族の親衛隊なんかが着るな。」


「それはおいくらぐらいするのかしら?」


「大体1200万Gだな。大金貨12枚だ。大体、泊まっている宿が銀貨20枚、だから、6000日は泊まれるな。飯もついて。欲しいか?」



「16年分…え、遠慮するわ」


「そうか。軽くて、防御力も高いんだがな。」


「え、ええ。探しておくわ。」


「……っと。話がそれてしまったな。次は3階だ。ここには魔道具や魔導書、杖やスクロールがある。ここで杖と魔法教書を買うと良い。」


「それはどんなものなの?」


「魔法教書は魔法の仕組みを説明するもの、魔法の詠唱が書いてあるものと大体二種類に分かれている。」


「魔法の仕組みを理解すれば、どんな感覚で魔力を集め、放出するかがわかる。最終的には詠唱がいらなくなるな。」


「詠唱って昨日やったやつよね。『湧き出よ』だったかしら。」


「そうだ。だが、詠唱だけでは魔法は出ない。魔力を手に集中させ、詠唱で放出すると水が出たり、火が出たりする。」


「なんで詠唱がいらなくなるのかしら?」


「そこまでは知らんな。だが、魔法を発動する感覚を、自分でやるんだと認識している。」


「逆にそれを簡単にしたのが詠唱なのね。」


「ああ。俺はある程度魔法を使えるが、君ほどの才能はない。俺は君ほど使えるようになるまで、10年ほどかかった。俺もどちらかというと魔法は得意なほうだ。それをはるかに凌駕する才能が君にはある。」


「本当?なんだかうれしいわね」


「どんどん練習すれば、どんどんうまくなると思うぞ。」


「それなら…杖にはどんな意味があるの?」


「発動時間の短縮とマナの節約になるな。」


「それは大切ね。買ってもらおうかしら。」


「それがいい。」

 

ルナリスは店員に話しかけた。


「店員、ちょっと来てもらえないか?魔法教本が欲しい。魔法理論の本と、詠唱が書いてある本だ。どちらも第一節から、第十節まで書いてあるものがいい。」


 店員は少し考えたあと、「魔法論」と「万唱集」という本を渡してきた。


「こちらそれぞれ20万Gとなります。重さが軽い魔道具版もありますが。」


「それでいい。アルヘナ、自分に合った杖を探すといい。心に聞くんだ。」


「わかったわ。」


 ルナリスは店員に向き直り、


「汚れを防ぐ魔法もかけておいてくれ。」


「承知いたしました。この本を買うとは。学校の先生なんですか?」


「いや、違う。ただのしがない冒険者だ。」


「そうでしたか。こんな本を買うのは教職についている人ばかりなもんでね。」


「構わん。ありがとう。よし。次は旅支度だな。」




 ***




 アルヘナはルナリスのもとを離れ、杖売り場に来ていた。


「いろいろな杖があるわね。」


 アルヘナは小さい杖を買うつもりだった。


「この初心者向けの杖にしようかしら。短くて扱いやすそうね。」


 取り合えず目星をつけた後は、一通り回る。


「こっちはセットが売っているみたいね。」


初心者向けのローブと杖のセットから、魔法学園の指定制服までいろいろなセットがある。

 少し外れたところに、目を引く杖とローブのセットがあった。


「お嬢ちゃん、いいのに目を付けたね。綺麗だろう?」


「本当にきれいね。これを買ってもらおうかしら。何て言うの?」


「それはただ一つしかないもので『夜空の杖』と『夜のローブ』と言う。なんの柄かわからないが綺麗だろう?」


「本当にきれいね。これを買ってもらうことにするわ。」


「ゆっくり見ていきな。」


 その柄はまるで星のようだった。この星のない世界で、初めて星を見つけた。

 この世界には星が無い。夜空を切り取ったようなこのローブと、いつか図鑑で見た【冥王星】のような色の魔石。

 懐かしい気持ちになりながら眺めていると、会計を済ませたルナリスがこちらへ来た。


「いいものは見つかったか?」


「ええ。これが欲しいわ。」


「『夜空の杖』と『夜のローブ』か。良い名前だな。よし。これをくれ。いくらだ?」


「ありがとうございます。大金貨40枚になります。」


「40枚か……なるほど、逸品なわけだ」


 値札を見るのを忘れていた。こんなに高いとは予想外だ。彼も少し驚いたような顔をしたあと、


「よし。これでいいかな。」


 ルナリスは笑顔で白金貨を1枚出し、店員に手渡した。


「ありがとうございます。白金貨なんて久しぶりに見ましたよ。近頃はギルドの口座払いがはやりですからね。」


「そうなのか。それはよさそうだな。」


「お釣りの大金貨10枚と、領収書です。」


 すごく高価だが、ただ一つの星の手がかりともなりそうなものだ。彼に今更高いからほかのにするとは言えない。


「ありがとう。よし、アルヘナ。旅支度は買っておいた。行くぞ。」


「わかったわ。」


 頼りになる背中を追いかけ、私たちは荘厳な雰囲気の店を後にし、市場の中心へと戻った。


 私たちは店を出て、広場の一角にある、酒場の隣にある大きな建物の前にやってきた。


「ここはどこなの?酒場に用でもあるの?」


 ルナリスは微笑みながら、


「ここは冒険者ギルド。特にこのノヴァリア中央ギルド舎は、築120年の歴史ある建物なんだ。ここで君の身分証となる『ギルドカード』を作る。」


 ギルドと言えばむわっとしたむさくるしいイメージだったが、実際には大理石の柱と美しいタイルで出来た、涼し気で美しいシンメトリーの建物だ。

 そんな建物の中心にある、登録所と書かれた窓口の列にならび、気になったことを聞いてみる。


「ギルドカードはどんなことに使えるのかしら。」


「まず、預金ができる。これがあるから、殆どの人が登録している。ほかの国にも点在するギルドで引き出せるから、現金で持ち歩かないで済む。さっき俺は現金で払ったが、ギルドカードを出せば、口座から払ってもらえる。」


「どういう仕組みなの?」


「魔道具だから詳しいことはわからないな。だがそれも大書庫に行けば資料があると思うぞ」

 そんなことを話していると、順番が回ってくる。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「この子のギルドカードの登録を頼む。」


「ギルドカードの登録ですね。ではまず、お名前を教えてください。」


「アルヘナ・レシルスよ。」


 事務的な会話はなんだか心地よい気がする。さらさらとする書くペンの音は、緊張感を表している。


「アルヘナ様ですね。次に連帯登録人となる方のお名前とギルドカードをご提示ください。」


「ルナリス・アルテミスだ。ギルドカードはこれだ。」


 ルナリスは枠が金色のカードを見せた。なかなかにすごそうなカードだ。


「ルナリス様でしたか。いつもありがとうございます。それではアルヘナ様。こちらの水晶に手形をかざしてください。」


「わかりました。これで大丈夫ですか?」


 そうやって手をかざすと藍と緑のグラデーションに、ちりばめられるように光が浮かんでいた。外側にカラフルな虹もあった。


「おぉ!三属性の適正がありますね。水属性に回復魔法、雷属性と、その他の魔法も鍛えればサテライト級程度は使えそうです。雷属性の適正なんて久しく見てないです!」


「サテライト級って何ですか?」


「すいません。ランクの説明が未だでしたね。ランクは六個あり、下からメテオラ、サテライト、プラント、アストラ、ルークィドゥス、スーパーノヴァとなります。」


「俺はアストラだな。」


「はい。そしてランクを上げるには、『ギルドスコア』をためる必要があります。」


「その『ギルドスコア』ってどうやれば貯まるのかしら?」


「クエストのクリアでクエストランクに応じた報酬と、それとは別に、魔物それぞれに割り当てられた討伐ポイントでためることができますよ。例えばゴブリンでしたら1pt貯まります。強さなどによってポイントの量が変わります。」


「なるほど。複数人で倒したりクエストをするときはどうするんですか?」


「パーティを組むことができます。パーティでポイントを割り振れますよ。」


「わかりました。」


「それでは説明は以上となります。こちらがアルヘナ様のギルドカードです。」


 受付嬢は微笑み、カードを手渡してきた。

 受け取ったカードは、紺色に木枠のカードだった。そこには私の名前、0ptの文字、ランクが記載されていた。


「…私のカード木枠なのね。ルナリスは金ぴかじゃない。」


「ははっ、俺は『アストラ』まで2万5000ポイント積み上げたからな。お前はその『メテオラ』から、まずは地道に500ポイント貯めて『サテライト』を目指せ。」


「500ポイントかあ。気が遠くなるわね。」


「目標を持つことは大切だぞ。どんなことにも、目標がなきゃやってられない。」


「ギルドカードの名前に間違いはありませんね?」


「ありません。」


「それでは、登録料の10万G頂戴いたします。」


 ルナリスは財布から金貨を一枚取り出し、


「これは建て替えておこう。自分のギルドカードだ。返したほうが気分が良いと思うしな。」


 カードを受け取った後、二人はギルドのロビーに戻る。


「私お腹がすいたわ。」


「そうだな。ギルドの喫茶店で何か食べるか。あそこの店はトマトライスの卵包みがうまいんだ。」


「なんだかオムライスみたいね。それにしようかしら。」


 そんなことを話しながら、喫茶店に入る。ギルドの荘厳な雰囲気とは打って変わって、小さいながらにおしゃれな雰囲気をまとう店は、昼時だからかなかなかに席が埋まって、談笑する人たちの声があちこちから聞こえてきていた。


「すまん。二人だが、入れるか?」


「いらっしゃいませー。二名様ですねー。こちらの席へどうぞー。」


 案内された席で、メニューを手に取る。

 さっき聞いたオムライスみたいな料理やおいしそうなケーキもあった。


「トマトライスの卵包みでいいか?俺はトマトと腸詰めのスパゲティにするぞ。」


「それでお願いするわ。飲み物はこのコークってのをお願いするわ。」


「わかった。すまん。いいか?」


「はーい。ご注文はお決まりですか?」


「トマトライスの卵包みとトマトと腸詰めのスパゲティを一皿づつ、飲み物はコークとボトルキープのチェラズオーロ・ダブルッツォを頼む。」


「承知いたしましたー。」


 ふわふわとした喫茶店の雰囲気に包まれ、飲み物と料理が運ばれてくる。


「トマトライスの卵包みとコーク、腸詰めのスパゲティとチェラズオーロ・ダブルッツォになりまーす。伝票失礼しますね。ごゆっくりどうぞー。」


 運ばれてきたオムライスはとてもおいしそうだった。

 ふわとろ卵に緑の小さい葉っぱが混ぜ込まれている。

 スプーンを差し込むと、プルプルと震える卵の層が優しく弾け、中から湯気と共に鮮やかなトマトレッドのライスが顔を出した。


 一粒一粒が完熟トマトのソースをたっぷりと纏い、艶やかに輝いている。具材の鶏肉や玉ねぎの甘みがソースの酸味と溶け合い、鼻をくすぐる香ばしい香りが食欲を強烈に突き動かす。


 一口頬張れば、まずは卵の濃厚なコクとバターの香りが広がり、次にトマトライスの爽やかな風味が追いかけてくる。卵に混ぜ込まれたハーブ——細かく刻まれたパセリの清涼感が、重たくなりがちな味に絶妙なアクセントを加え、スプーンを動かす手を止めさせてくれない。


 合間に流し込む漆黒の「コーク」は、ピリッとした刺激と冷たさで口の中をリセットし、次の一口をより鮮明な味わいへと変えてくれた。


 懐かしい味のこれらをたべていると、故郷の母を思い出す。


「どうだ、おいしいか?」


 手の中でワイングラスを転がしながら、ルナリスが聞いてくる。黙ってもくもくと食べてしまった。


「すっごくおいしいわ。このコークもスパイスが効いていておいしい。口の中がさっぱりするわ!」


 ルナリスは微笑んだ。


 ***


 俺たちは宿に戻り、少し魔法の訓練をすることにした。


「いいか。サンダの詠唱は『轟け』だ。やってみろ。水の生活魔法は魔力を圧縮しないが、攻撃魔法となると話は違う。魔力を一点に集中させ、狙った点と結べ。」


「わかったわ。『轟け』ライトニングボルト!」


 その刹那、修練場を白い光が通り抜け、そのあとを音が追いかけていった。


「すごいじゃないか!初めてなのにこの威力とは!!」


「はぁ、はぁ、なんだか、つか、れたわ。」


「大丈夫か?この水飲むんだ。」


 俺はとっさに無詠唱で氷のコップと水を出した。顔色が悪い。魔力酔いかもしれないな。まだ魔法に慣れていないから、無理は禁物だな。


「ありがとう。落ち着いたわ。」


 少しベンチに座ると、顔色もよくなってきた。


「おそらく魔力酔いだろう。一度に魔力を使ったときや魔力枯渇の手前まで使ったときになる症状だ。無理は禁物。今日はここまでにして、少し早いが夕食を取ろう。先に戻って少し休んでおけ。」


「わかったわ。ふう。つかれたー」


 アルヘナが行った後、ルナリスは少し感覚を取り戻すために魔法を使うことにした。


「すべてを凍らせろ!『永久凍土(ツンドラ)』」


 修練場すべてが凍り付いた。少し威力が落ちたかな。やはり、この魔法は寒い。


「炎の壁よ!焼き尽くせ!『太陽の欠片(ソラリス)』!」


 氷が全部溶けたな。上出来だ。最後に、


「魔力よ、矢となれ!『マジックアロー』」


 鋭い矢となった魔力の矢は、早いスピードで駆け抜けていく。

 高威力かつ消費が少ないこの魔法は、いつもお世話になる相棒だ。

 魔力の形を変えて打ち出すので、属性に対する耐性をものともしない。


 とりあえずこんなもんかな。さて、部屋に行ってアルヘナを呼び、ご飯を食べに行こう。今日の夕飯は何かなあ。



 ***



 少しベッドで休んでいるとルナリスが夕食に呼びに来た。


「アルヘナ、夕食に行くぞ。今日の夕飯は、ロールキャベツとブルスケッタだ。」


「ありがとう。おいしそうなメニューね。」


 そんなことを話しながら階段を下り、食堂につく。


 騒がしい食堂では、央都を拠点にする冒険者や、神殿への旅行者らしき人でいっぱいだ。

 カウンターで、来た旨を伝え、席に着くとすぐに料理が届いた。


 まずは、深いスープ皿に鎮座するロールキャベツにナイフを入れる。

 驚くほど柔らかく煮込まれたキャベツは、抵抗なくスッと刃が通り、中から溢れんばかりの肉汁がスープに溶け出していく。


 一口食べると、キャベツの優しい甘みが口いっぱいに広がり、その後に続く合挽き肉の旨味がガツンとやってくる。

 スープはコンソメベースかなあ?透き通っているのに、野菜と肉の出汁がこれでもかと凝縮されていて、一滴も残したくないほど深い味わい。熱々のスープが、魔法の訓練で冷えていた体にじわーっと染み渡っていくのがわかる。


 添えられたブルスケッタは、見た目も華やか。

 軽く炙られたバゲットの上には、オリーブオイルで和えられた真っ赤なトマトと、爽やかな香りのバジル。

 かじりつくと、「カリッ」と心地よい音が響き、ガーリックの香ばしさが鼻を抜ける。トマトの酸味が口の中をリフレッシュさせてくれるから、濃厚なロールキャベツとの相性も抜群だ。


 最後の一口まで堪能した私は、皿に残ったロールキャベツのスープを、小さくちぎったバゲットにたっぷりと吸わせた。


 野菜の甘みと肉の脂が溶け合った黄金色のスープは、パンに染み込むことでまた違った表情を見せる。噛みしめるたびにジュワッと溢れ出す旨味に、思わず頬が緩んでしまう。

 修行で空っぽになっていた体に、温かな活力が満ちていく感覚。


「……ふう。ごちそうさまでした。本当においしかったわ。」


 久しぶりにコンソメを味わった満足感で胸がいっぱいになり、自然と大きな吐息が漏れた。


 ポテトチップスが食べたいなあ。


「満足したようで何よりだ。ここの宿の飯は、この界隈じゃ一番だからな。」


 ルナリスはブルスケッタとワインを少しづつ楽しむように食べていた。


「アルヘナ。お前の魔法への適正はすごい。それはよくわかったと思う。しかし、今のところ魔力総量が少ない。だから毎日訓練を欠かすな。使えば使うほど増えていくはずだ。自信を持て。しかし傲慢にはなるなよ。」


 そこまで言うと、ふっと表情が緩み、いつもの微笑みに戻る。


「ええ。私にはきっと才能がある。でも今は使いこなせない。だからこれからも頑張るわ。」


 そうして長い一日を終えた二人は、明日の旅立ちに向け、部屋を片付け、早めに床に就いた。

 これからの旅に思いを寄せて。

続きを読みたいと思った方は、連載版を見てみてください!

星なき世界の星探し

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