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レベル1の勇者が魔王を倒すはずがない!  作者: 水乃ろか


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1/1

誰が勇者を推したのか

 


 私の名前は、丸野宮(まるのみや)エリカ。


 こないだまでは、女子高生やってました。

 今は、冒険者やってます。


 なぜって……それは異世界に召喚されたから!


 召喚された時のことは、今でもよく覚えています。

 夜中、コンビニで買ったプリンを食べながら、明日の数学のテストのことを考えていたら、部屋に突然光の魔法陣が現れて……気が付いたら、見知らぬ玉座の間に立っていたのです。

 

 玉座に座ったえらそうな人が「異世界の救世主よ、我が国を救いたまえ!」とかいう感じのことを言ってきたのですが……私には関係のないことでした。

 だって私、救世主じゃないですし。普通の女子高生ですし。


 でも地味で変なスキル『重力』(グラビティ)のおかげで、なんとか異世界でも生活できています。


 『重力』《グラビティ》スキル。

 聞いた感じはカッコイイですが、実際のところ、使い勝手が微妙なのです。

 

 重力を操るって、そもそも地味じゃないですか?

 炎とか、水とか氷とか、霧とか泡とか、そういうわかりやすい属性のスキルが欲しかったです。

 

 でも意外と何でも出来てしまうので、そこそこ便利ではあります。

 自分の重力を調整すればフワフワと浮けるし、対象に重力をかければ押しつけることができるし。


 召喚された直後、スキルを確認した偉そうな人がすごく微妙な顔をしていました。

 「え、重力……?」みたいな感じで。

 その顔、今でも覚えています。

 あの顔が悔しかったから、私はこのスキルで頑張っているのかもしれません。

 地味とか変とか言われても、重力スキルは便利ではあるんです。

 

 何が便利かというと……まあ、実際にあなたも使ってみてください。

 結構なんでも出来ますから。


 あと、異世界は基本的に地味で変な場所ですが、私には異世界が気に入っている点がひとつだけあります。


 それは――勇者が美少女だということ!


 冒険者ギルドにいる時に、出会ってしまったのです。

 勇者、フランチェスカちゃんに!


 それは運命とでもいうのでしょうか。

 ひと目、見た瞬間に身体に電撃が走るような衝撃!


 正直、最初はただの美少女が剣を持っているな、くらいに思っていたのです。

 でも、ギルドの掲示板の前で依頼書をじっと見ていたフランチェスカちゃんの横顔が、西日を受けてキラキラと輝いて……

 あの瞬間、私の中で何かが弾けました。

 これがいわゆる、『刺さった』という感覚なのでしょうか。


 その時のことを思い返すと、今でも胸がじんわりとします。

 掲示板の依頼を真剣な眼差しで読んでいたフランチェスカちゃん。

 白金の髪が揺れるたびに、その紫色の瞳がキラリと光って。

 その場にいた他の冒険者たちが全員そわそわしていたほど、場の空気を変えてしまう存在感でした。

 

 でも、フランチェスカちゃんはそんなことには全然気づいていなくて、ただひたすら依頼書を読み込んでいました。

 そのギャップが、また堪らなくかわいかった……!

 

 それ以来、ギルドに行くたびにフランチェスカちゃんを探してしまうようになり、気がつけば一日中フランチェスカちゃんの動向が気になって仕方なくなっていたのです。

 これはもう、完全に推しになった状態ですね。


 それ以来、私の異世界生活はフランチェスカちゃん一色になりました……

 そう、私は異世界でフランチェスカちゃんを推し活しているのです!


 フランチェスカちゃんに出会ってからというもの……


 かわいいフランチェスカちゃんにストーカーなんかが寄り付かないように、四六時中、フランチェスカちゃんを陰ながら見守る日々。

 

 あ、これだけ聞くと私がストーカーみたいに聞こえますね。

 でも違います! 私は推し活をしているだけです!

 ファンとしてフランチェスカちゃんを応援しているだけなのです!

 ……なんか自分で言っていて、ちょっと怪しいかなと思わなくもないですが、気のせいです。


 変な奴や悪そうなモンスターがフランチェスカちゃんに近づこうものなら、私の『重力』(グラビティ)で、フワフワにしてポイっと投げ飛ばしたりするのです。

 

 フランチェスカちゃんがダンジョンに行く時は少し離れたところから、フランチェスカちゃんが街を歩く時は物陰から。

 常に気づかれないよう、しかしいざという時にすぐ動けるような距離を保って。

 これは推し活の基本ですね。

 推しには、常に笑顔でいてほしい。そのために、ファンができることをする。

 それが私の信念です。


 実は私の『重力』(グラビティ)スキルは、1日の中で回数制限があるんです。

 でも、これを自分のために使うなんてもったいない!

 全てフランチェスカちゃんのために使います。当たり前ですね。


 ちなみに、推し活のために冒険者になったわけではないのですが、結果的に冒険者であることはフランチェスカちゃんを見守るのにとても便利でした。

 まず、冒険者なら各地のダンジョンに入ることができる。

 フランチェスカちゃんが挑戦するダンジョンを、事前に調査しておける。

 次に、冒険者ギルドに顔を出すことが自然なので、フランチェスカちゃんと同じ空間にいても怪しまれない。

 そして何より、重力スキルで空を飛べるので、移動がとても速い。

 フランチェスカちゃんを先回りして観戦場所を確保するのも、お手のものです。


 もっとも、私は銅級ランクというのは冒険者としてはかなり低い方なので、ギルドの先輩たちからはよく心配されます。

 「エリカちゃん、ちゃんと依頼こなしてる?」とか。

 こなしていますよ! ちゃんと! ……フランチェスカちゃんの観戦の合間に。


 そして今日。

 フランチェスカちゃんは、荒くれ山のボスモンスター。

 エンシェント・ドラゴンに挑戦するのです!


 荒くれ山というのは、この国の北にそびえる、ゴツゴツした岩山のことです。

 その名の通り荒々しい山で、ベテランの冒険者でなければ入山しないほど、強いモンスターがゴロゴロしています。

 そしてその頂上の洞窟に住んでいるのが、エンシェント・ドラゴン。

 古の竜と呼ばれる、Sランク相当のボスモンスターです。

 ギルドの先輩冒険者たちが震えあがるような、この国屈指の強敵なんです。


 でも、フランチェスカちゃんなら大丈夫!

 だって……勇者ですから!


 荒くれ山へ向かうフランチェスカちゃんを、私はずっと後ろから追いかけていました。

 もちろん、気づかれない距離を保って。

 山道を歩くフランチェスカちゃんの後ろ姿も、また素敵でした。

 長い白金の髪が山風になびいて、伝説の剣……ではなく普通の剣ですが、それを背中に背負った姿が凛としていて。

 フランチェスカちゃんが途中で小さな石につまずいて、「あっ」と声を出していたのが聞こえた時は、心臓が止まるかと思いました。

 かわいすぎる。

 山でもかわいい。

 さすがフランチェスカちゃんです。


 私は『重力』(グラビティ)を自分に掛け、重力を調整し空中に浮きながらフランチェスカちゃんを応援しています。

 近づくとバレるので、双眼鏡を使って観戦します。


 この双眼鏡、実はこの世界に来てから一番気に入っている買い物です。

 フランチェスカちゃんを遠くから見守るためだけに購入しました。

 冒険者として稼いだ最初のお金で買ったので、思い入れもひとしおです。


 フランチェスカちゃんの活躍を見れる事に、毎回胸がドキドキしてしまいますね。

 双眼鏡越しに見るフランチェスカちゃんは、いつも凛として美しい。

 剣を構えたその姿は、まるで絵画のよう……!

 私、今日も推しを拝むことができて幸せです。

 

 しかし……対峙するボスモンスターのエンシェント・ドラゴンは卑怯者でした。


 まず、身体が大きい。

 フランチェスカちゃんの50倍くらいはある。もっとあるかも。卑怯ですね。

 

 あと、爪とか尻尾があります。

 フランチェスカちゃんは、そんなに爪が大きくないし尻尾も生えていない。とても卑怯ですね。


 そもそもドラゴンって、なんで飛べるんですか?

 あんなに身体が大きいのに、翼で飛んだりするんですよ。

 物理的に、どう考えてもおかしくないですか?

 その点だけは重力の専門家として、私はドラゴンに文句を言いたいです。


 あっ!?

 フランチェスカちゃんはドラゴンに弾き飛ばされ、今にも負けそうな状態になってます!

 

 あ、あぶない! フランチェスカちゃん!

 双眼鏡を握る手に、力が入ります。


 そしてエンシェント・ドラゴンは、ダメージで動けないフランチェスカちゃんに対して、炎の息をかけようとしているのです!


 こんな……こんな卑怯な事があっていいのでしょうか?!

 いいわけがありません!

 

 ドラゴンの長い首に、赤い光が灯っています。

 まさに今、炎の息を使わんとしていました!

 

「……『重力』(グラビティ)!」


 ズドンッ!

 

 私の重力スキルによって、ドラゴンの頭が地面に落ち、重力でギリギリとドラゴンの頭が固定されています。

 重力によって口が塞がったドラゴンは、自らが吐き出そうとした炎の息の逃げ場が無くなり……


 ドガァァァン!


 ……ドラゴンの身体が爆発してしまいましたね。

 

 ちょっと、やりすぎましたかね。

 でも卑怯なドラゴンが悪いのです。


 ポカンとしているフランチェスカちゃん。


 ――フランチェスカちゃん、さすがです!


 負けているように見せて、あとで大逆転!

 その姿は、まさに勇者です!


 それに、その圧倒的な力!

 フランチェスカちゃんの本気によって、簡単に倒された弱すぎドラゴンに対して、フランチェスカちゃんが逆に驚いちゃっている。

 

 私は遠くから見物しているからフランチェスカちゃんの声が聞こえないけど、フランチェスカちゃんはたぶん「私、また何かやっちゃいました~?」と余裕の宣言をしているに違いないです!


 あのオロオロとした仕草も、計算のうちなのでしょうか。

 天然キャラを演じながらも、実は誰よりも強い勇者フランチェスカちゃん。

 ああ、完璧すぎる……!


 しかし、ドラゴン戦の後、ちょっと心配なことがありました。

 ドラゴンが爆散したせいで、フランチェスカちゃんに鱗の欠片が飛んでいってしまったのです。

 大きなものは飛んでいかなかったのですが、細かい鱗の粉みたいなのが……

 フランチェスカちゃんの白金の髪にかかってしまっています!

 

 これはいけない!

 すぐに重力スキルで、髪にかかった粉塵を払い除けました。

 フランチェスカちゃんは急に髪がサラサラっと揺れたのに気づいて、ちょっとキョロキョロしていました。

 風のせいだと思ってくれたでしょうか。


 でも本当に良かった。

 フランチェスカちゃんの美しい髪を汚すなんて、ドラゴンのくせに許せません。

 ドラゴンは死んでも卑怯者です。


 ああ、勇者フランチェスカちゃん。

 カッコイイ&カワイイ!

 私の推し! 異世界に来て良かったぁ~!


 それからというもの。


 フランチェスカちゃんはどうやら、伝説の剣を取りに森の奥深くのダンジョンに行く予定のようです。


 伝説の剣! なんかカッコイイ名前ですね。

 フランチェスカちゃんが持つのにふさわしいです!

 でも、ちゃんとフランチェスカちゃんの手に届くかどうかが心配です。


 そのダンジョンを先に調べてみたら……ダンジョン内は汚いし、伝説の剣を守っているボスモンスターも2体いるとかいう卑怯ものでした!


 ボスモンスターが2体いるって何ですか?

 なぜ1体でいけないのでしょうか。

 これはもう、明らかにフランチェスカちゃんへの嫌がらせとしか思えません。

 卑怯なのにもほどがある!


 あと、ダンジョン内が汚いのも問題です。

 フランチェスカちゃんのような清楚な美少女が来るかもしれないのに、汚いダンジョンはダメです。

 本当に、ちゃんとしてほしい。


 だから、フランチェスカちゃんがダンジョンに着く前に、ダンジョン内を一掃し卑怯なボスモンスターを倒しておきました。

 ついでに床に散らばっていた骨とか変な草とかも、重力でまとめてポイっとしておきました。

 これくらいは当然のことです。推しが通る道は、キレイであるべきなのです。


 そして、伝説の剣をダンジョンの入り口に置いておきます。


 奥まで取りに行くのも大変ですし、フランチェスカちゃんのお手間を取らせるのも申し訳ないですから。

 これくらいの気遣いは、ファンとして当たり前のことです。


 ちなみに、伝説の剣はとても重かったです。

 さすが伝説。

 ずっしりとした重量感があって、見た目も豪華で、まさにフランチェスカちゃんが持つにふさわしい剣でした。

 一瞬だけ、自分で持ってみようかなと思ったのですが……やめました。

 

 フランチェスカちゃんが初めて手にする剣として、誰にも触れられていない状態で渡すべきです。

 ファンとして、そこは譲れません。

 なので、重力スキルで浮かせながら、ダンジョンの入り口に丁寧に置きました。

 なるべくかっこいい角度で。

 フランチェスカちゃんが見た時に、素敵に見えるように。


 それを、私はいつもどおり遠くから身を隠して観戦しています。


 あっ! 来ました! フランチェスカちゃんです!

 今、ダンジョンに入りました!

 ……もう伝説の剣を入手したようです!


 攻略が早い! さすがフランチェスカちゃんです! ダンジョンRTA勇者!


 フランチェスカちゃんは伝説の剣を手に取り、キョロキョロしたりオロオロしたりしていました。


 ダンジョンの入り口でウロウロしているフランチェスカちゃんは、何を考えているのでしょうか。

 その表情は困惑しているようにも見えますが……

 もしかして、ダンジョンを攻略しすぎて手持ち無沙汰になってしまったのでしょうか。

 私にとって、こんなダンジョンは余裕、みたいな?


 勇者フランチェスカちゃんの力において、こんなダンジョンは簡単すぎたのでしょう。

 さすがフランチェスカちゃん。強すぎる……!


 伝説の剣を手にしたフランチェスカちゃんは、しばらくその場で剣を見つめていました。

 その仕草がまた、キラキラしていてかわいい……!

 伝説の剣を持ったフランチェスカちゃんの姿、この目に焼き付けておかなければ。

 双眼鏡のレンズをそっと拭いて、また覗き込みます。


 そして、数日後。

 ついに大イベントが始まります。


 勇者フランチェスカちゃんが、魔王城に赴き、魔王を倒す日が来たのです!

 なんでも、この世界には7人の魔王がいて、七魔王と云われているらしいです。そのまんまですね。

 

 しかし魔王討伐というのは、これは推し活史上、最大のイベントといっても過言ではありません。

 勇者の決戦! 魔王討伐!

 フランチェスカちゃんが晴れの舞台に立つ瞬間を、この目で見届けられる!

 私、今日のために双眼鏡の拭き掃除も念入りにしました。


 街を出発したフランチェスカちゃんの顔は、すごく緊張していました。

 そんな表情も麗しい!


 普段は凛としたフランチェスカちゃんですが、今日は少しだけ表情が固いように見えます。

 それはそうですよね。なにせ魔王との決戦ですから。

 でもそんな緊張した顔でさえ、しっかりと美しいのがフランチェスカちゃんのすごいところです。


 私はフランチェスカちゃんという英雄の出立を見届けると、私は先に魔王城に到着しました。

 もちろん、『重力』(グラビティ)で空を飛んでです。ね? 便利でしょう?


 今日も『重力』(グラビティ)により空中で、観戦のための特等席を探していました。


 魔王城は、黒くてゴツゴツとした城で、近くで見るとかなり不気味です。

 雷がいつも周りに落ちているような気がするし、空は常にどんよりと曇っている。

 こんな城に住みたいとは全く思いません。

 あとインテリアの趣味が悪すぎます。


 しかし、そこで私は気が付いてしまったのです……

 魔王城には、なんと数千のモンスターがフランチェスカちゃんを待ち構えていました!

 

 ええ。ひとめ見ただけで、わかりました。

 あれは全部、フランチェスカちゃんを迎え撃つための守備隊です。

 廊下にも、広間にも、城壁にも、あちこちにモンスターがみっしりと詰め込まれています。

 うん、数千はいますね。確実に。


 私はただ、フランチェスカちゃんが魔王を倒すところが見たいだけなのに!

 数千のモンスターは蛇足すぎます!

 フランチェスカちゃんが強いのはわかっていますが、数千のモンスターをひとつひとつ倒していったら、メインイベントの魔王戦まで時間がかかりすぎます!

 そんな時間のムダ、許せません!


『重力』(グラビティ)!」


 ズドドドドドドドドンッ!!


 ……よし! これでフランチェスカちゃんの邪魔をするモンスターはいません!


 城の外から、中のモンスターをまとめて上から押さえつけてやりました。

 重力を一気にかけると……モンスターたちは全部、床にぺったんこになりました。

 これで、すっきりしましたね。


 しかし改めて思いますが、なぜ魔王はこんなにモンスターを用意したのでしょうか。

 「勇者が来るかもしれない」という可能性はわかるとして……数千はやりすぎですよね。

 しかも廊下の幅を考えると、実際にフランチェスカちゃんと戦える前衛のモンスターは一度に数体しか入れない。

 つまり残りの数千体近くは、ほぼ関係ない場所で待機していたわけです。

 

 では、なんのために? よく分かりませんね。

 魔王、計画性がなさすぎます。

 魔王城の管理費用もかかるでしょうに。

 そういう無駄なところが、悪の組織の限界ですね。


 ……あっ! フランチェスカちゃんが魔王城に到着したようです!

 緊張した表情で、魔王城に入ってきました!


 城に入ったフランチェスカちゃんは、廊下を歩きながらキョロキョロしていました。

 床にぺったんこになったモンスターたちを見て、また困惑した顔をしています。

 でもそのまま、まっすぐ魔王の部屋を目指して歩いてきました。

 さすが勇者。迷いがありません。


 私は魔王城の天井から、魔王とフランチェスカちゃんの対峙を見守っています。

 天井の梁の上に腰かけて、双眼鏡で見下ろす形です。

 特等席、確保できました!


「くくく、勇者よ。まさか数千のモンスターを一瞬で倒すとは、噂通りの強さだな」


 魔王の声が響き渡ります。

 

 低くて不気味な声です。

 でも、フランチェスカちゃんは顔色ひとつ変えない。

 さすがです!


 しかしフランチェスカちゃん、いつの間にモンスターを倒したのでしょうか?

 さすが勇者。その底知れない強さに、いつも驚くばかりです!


 そして、ついにフランチェスカちゃんと魔王の戦いが始まりました。

 私もつい、両手を力強く握ってしまいます。

 いけ! フランチェスカちゃん!


 だけど……フランチェスカちゃんの様子がおかしいのです。


 魔王との力の強さの差が激しいのです。

 例えるなら、フランチェスカちゃんがレベル1くらいの強さといいますか……


 攻撃が通らない。

 回避が間に合わない。

 魔王の動きについていけていない。


 梁の上で、私は双眼鏡を握りしめながら、だんだんと嫌な汗が出てきました。

 フランチェスカちゃんが、本当に追い詰められています。

 

 いつもとは違う。

 ドラゴンの時も苦戦していましたが、あの時は「まあフランチェスカちゃんならなんとかする」という余裕がありました。

 でも今は違う。

 

 魔王の一撃一撃が、フランチェスカちゃんの身体に確実にダメージを与えている。

 これは……本当にマズい。

 フランチェスカちゃん、大丈夫ですか? ……大丈夫なんですか?!


 ドラゴンを軽々と倒したフランチェスカちゃん。

 伝説の剣のダンジョンを、誰よりも早く攻略したフランチェスカちゃん。

 

 そんなフランチェスカちゃんが、レベル1のはずがありません!


 これは、何かある……


 その時、私の頭脳の中に閃きが起こりました!


 そうです!

 フランチェスカちゃんが実力を出せないのは……魔王のせいなのですね!


 卑怯な魔王が、最強の勇者であるフランチェスカちゃんに、レベル1まで下がる魔法でもかけたのでしょう!


 なんて卑怯な魔王っ!

 汚いな。さすが魔王。きたない!

 魔王のくせに、ちっとも潔くない!


 今、魔王の剣が、フランチェスカちゃんに向かって振り払われようとしています!

 

『重力』(グラビティ)!」


 ズドン!


 私のスキルが、魔王の動きを拘束しました!

 身動きの出来ない魔王。


 フランチェスカちゃん、今です!

 

 そして、剣を取ったフランチェスカちゃんが魔王に切りかかりました!


 ドカ……


 しかし、その剣は魔王の肩に当ったものの、まったくダメージは通っていませんでした。

 剣の重さが足りていないようです!


 でも大丈夫!

 勇者フランチェスカちゃんの剣には、重さが必要なだけなのです。

 ならば、私が剣に重力を付与してあげれば済む話!


『重力』(グラビティ)!」

「ぐわあああああああ!!」

 

 ついに勇者フランチェスカちゃんの剣が、魔王の身体を一刀両断しました!

 さすがフランチェスカちゃん!

 天井の梁の上で、私は声を出さないようにしながら、ついついガッツポーズをしてしまいます。

 

 やりました! やりましたね、フランチェスカちゃん!

 

 梁の上で静かにガッツポーズしすぎて、ちょっとバランスを崩しそうになりましたが、重力スキルでなんとかこらえました。

 ここで落下するのは格好悪すぎます。

 フランチェスカちゃんに見られでもしたら、もう立ち直れません。

 

「ククク、さすが勇者よ。……我の本当の姿を見よ!」


 突然、魔王が巨大なモンスターに変身してしまいました。


 せっかく勇者フランチェスカちゃんが魔王を倒したところを喜ぼうと思ったのに!

 第二形態とか、本当に勘弁してほしい。

 こういうところが魔王のダメなところだと思います。

 負けを認めて潔く散ればいいのに、往生際が悪すぎますね。


 私は勇者フランチェスカちゃんの活躍を見たいだけで、長々とバトルが見たいわけではないのです!

 フランチェスカちゃんのやりきった顔が見たかった。

 それだけなのに!

 

『重力』(グラビティ)!」

「ぐわあああああああ!!」


 巨大なモンスターを、重力でビー玉サイズまで圧縮しておきました。

 こんな蛇足に付き合っている暇は無いのです!


 ……そうです! ついに勇者フランチェスカちゃんが魔王を倒したのです!


 フランチェスカちゃんは、しばらくの間、ビー玉になった魔王を見ていました。

 その困惑した表情が……かわいい。

 でも心の中でガッツポーズしているのでしょう。

 フランチェスカちゃんが喜びを隠すのが上手なのは、勇者として冷静さを保つ必要があるからです。

 さすがです! 勇者フランチェスカちゃん!


 街に戻ると、魔王を倒したフランチェスカちゃんの凱旋パレードが始まりました。


 街はお祭り騒ぎの大騒ぎです。

 人々が通りに出てきて、フランチェスカちゃんの名前を叫んでいます。

 花びらが舞って、旗が振られて、誰もかれもが笑顔で、この国の人たちがどれだけ魔王に苦しめられていたかがわかります。

 そしてそれを終わらせたのは、フランチェスカちゃんなのです。


 パレードの馬車の上に立つフランチェスカちゃんは、いつもより少し晴れやかな顔で、街の人々に手を振っていました。

 でもどこか、まだ腑に落ちないような表情もしていて。

 きっと、魔王城での出来事を振り返っているのでしょう。

 

 モンスターを簡単に全滅させたこと、魔王の動きが急に止まったこと、剣が急に重くなったこと。

 いろいろと不思議なことがあったと思います。

 でも、それはすべてフランチェスカちゃんの実力です!

 

 ……多少、アシストした気はしなくもないですが。

 でも最後に剣を振ったのはフランチェスカちゃんです。

 

 魔王を倒したのは、間違いなくフランチェスカちゃんなのです!

 なので問題ありません! 全く持って!


 しかし、感慨深いです。

 皆がフランチェスカちゃんを称えています。

 今までフランチェスカちゃんを応援してきて良かった……

 これからも、私はフランチェスカちゃんを推して参ります!


 街中がパレードで浮かれる中、私は冒険者ギルドで食事を取りながら、そんな決意をしていました。


 食べているのは、この国の定番料理、竜の肉のシチューです。

 こってりとしたスープに、でっかい肉の塊が沈んでいます。

 見た目はガッツリとしていますが、味はあっさりしていて美味しいのです。

 フランチェスカちゃんも好きだといいなぁ。


「ここの席、空いてますか?」


 今日はパレードで人が多いのです。

 だからこの冒険者ギルドも、たくさん人が居ました。


 こんな時は、相席になることがしょっちゅうです。


「ええ、どうぞ……」


 声を掛けられて事でフランチェスカちゃんへの想いを、途中でそがれてしまいました。


 ふと、相席になった人の姿をチラリと見ました。


 私の二人掛けのテーブルの正面に座ったのは……フランチェスカちゃんでした。


 幻? 幻覚? 幻想(ユメ)じゃないよね……?


 白金の髪が肩に流れていて、紫の大きな瞳がこちらを見ていて。

 間違いなく本物のフランチェスカちゃんです。

 目の前に……います。

 近い……! 今まで一番近くにいます……!


 今まで双眼鏡越しにしか見ていなかったフランチェスカちゃんが、テーブルひとつ分の距離にいる。

 肌の質感まで見える。

 まつ毛が長い。

 鼻がちいさくて、口元がふんわりしていて。

 かわいい。かわいすぎる。


 頭がうまく動きません。

 シチューのスプーンを持ったまま、固まってしまいました。


 しかもフランチェスカちゃんは、メニュー表を手に取りながら「何が美味しいですか?」とこちらに聞いてくれたのです。


 話しかけてくれた! フランチェスカちゃんが私に!

 私に! エリカに!


「……り、竜のシチューが、おすすめです、かね……」


 声が震えました。

 恥ずかしい。

 でも、なんとか答えられました。


「ありがとうございます! じゃあ私もそれにしますね」


 フランチェスカちゃんがにっこりと笑いながらそう言ってくれました。

 この笑顔、近くで見るとさらに破壊力がすごい。

 

 私の胸のあたりが、ぐわんぐわんとしています。

 重力がおかしくなったのかと思いましたが、スキルは正常でした。

 これは単純に私がやられているやつかもしれません。


 呆然とフランチェスカちゃんを見ていると、私なんかにさらに声をかけてくれました。


「私はフランチェスカといいます。今、パーティをさがしていて……よければ、一緒にパーティを組んでもらえませんか?」


「へ……?」


 勇者フランチェスカちゃんが、私にパーティの誘いを?


 銅級ランクの私に?

 え……えええ……?


 どうして私なのでしょう。

 ギルドにはもっと強い冒険者がたくさんいます。

 銀級の人も、金級の人だって何人かいる。

 なのに、なぜ銅級の私に?


 もしかして……フランチェスカちゃんは、気づいていたでしょうか!?

 ずっと見守っていた私の存在を……


 ……い、いや、それはないですね!

 フランチェスカちゃんは私のことを知らないはずです。

 きっと、たまたまひとりでいたから声をかけてくれただけです。

 単純にそういうことでしょう。


 でも、本当に銅級の私なんかでいいのでしょうか。

 もしかしたら、勘違いをされているのかもしれません。


「……あの、私、銅級ランクなんですけど……それでも、いいですか?」


「はい! もちろんです。あの実は私……レベル1なんです。だから、銅級ランクの人を探してて……」


 ……え?

 あの勇者フランチェスカちゃんがレベル1?!

 

 これはどういうことですか!? なんでですか?!


 エンシェント・ドラゴンを倒したフランチェスカちゃん。

 伝説の剣を簡単に手に入れたフランチェスカちゃん。

 そして、七魔王の一人を倒した勇者フランチェスカちゃん。


 フランチェスカちゃんが今まで楽々と攻略してきたのは、いったいどうやって……?

 

 レベル1の勇者、フランチェスカちゃん。

 そして銅級ランクの冒険者、私、丸野宮(まるのみや)エリカ。


 そんな二人の旅が……今、閉幕(へいまく)! (短編のため)

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