表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

タイトル未定2026/01/29 18:07

 車がついた場所は、繁華街にある有名なホテルだった。

 高い天井に、きらびやかなシャンデリア。

 広いロビーには数人の利用客がいたが、静かな空間だった。

 マスターと父親は、テーブルを挟んだ窓際のソファーに座った。

 大門は窓の側に立ち、外の景色を眺めていた。

 マスターと父親は、横に並んで座った。

 父親はマスターの左薬指にはめていた、二つの指輪に気が付いた。

「その指輪は、なんだ?」

「母さんが、はめていた指輪だよ」

「二つも、はめていなかったぞ」

「これは、お守りだ」

「お見合いの日に指輪をはめるなんて、場をわきまえろ」

「母さんが生きていたら、お見合いなんて即断っていたと思うよ。あれ、そうじゃない?」

 マスターがソファーから立ち上がりながら言うと、父親もソファーから立ち上がった。

 スーツ姿の男性と和服姿の女性二人の三人がホテルのロビーに入り、マスターと父親がいるテーブル席にやってきた。

「大門、おいで」

 マスターの言葉に、大門はマスターの所に行った。

「今日は忙しい中、時間を作ってくれてありがとう」

 マスターの父親の友人の浅倉が言うと、マスターの父親も言った。

「堅苦しい挨拶は、なしにしよう。息子の七海と、話をした七海と一緒に暮らしている大門君だ」

「七海君。すっかり立派になって」

 マスターは、黙ったまま頭を下げた。

 浅倉は、大門を見ながら言った。

「君が、大門君か。七海君のお父さんの友達の浅倉です」

 大門はマスターと同じように、黙ったまま頭を下げた。

「座って、ゆっくり話をしよう」

 マスターの父親は言いながら、ソファーに座った。

 父親の真ん中にマスターが座り、マスターの隣に大門が座った。

 テーブルを挟んで、浅倉が座り、真ん中には浅倉の娘しのぶが座り、しのぶの隣に、しのぶの母親が座った。

 ソファーに落ち着くと、浅倉が切り出した。

「七海君、娘のしのぶだ」

 マスターとしのぶは、お互い頭を下げた。

 顔を上げたしのぶは、大門の方を向いた。

「大門君、一年生になったんだよね。学校楽しい?」

 大門は、黙ったまま頷いた。

「何をして、遊んでいるの?」

「……お絵かき」

 大門は、小さな声で答えた。

「すみません。大門は、人見知りが激しくて」

 マスターが言うと、しのぶの母親が言った。

「大人ばかりで、緊張しちゃうわね。ロビーの奥にラウンジがあるから、大門君と三人で行ったら」

 しのぶの父親も、同調した。

「そうだな。その方が、ゆっくり話ができるだろう。代金はこっちで支払うから、ゆっくりしておいで」

 大門は不安そうにマスターを見上げた。

「大門。行きましょう」

 マスターの声かけに、大門は立ち上がった。

 マスターも大門と一緒に立ち上がると、大門はマスターの手を握った。


 ラウンジはピアノの曲が静かに流れていて、数名の利用客がいた。

 利用客は、静かに過ごしていた。

 マスターとしのぶは、テーブルをはさんだソファーに座った。

 ホールスタッフに、マスターはコーヒー、しのぶはアイスティー、大門はオレンジジュースをオーダーした。

 オーダーした飲み物が来ると、大門はオレンジジュースを飲み、持っていた手提げ袋からノートと筆箱を出し、ノートを抱え込むように書き出した。

「大門君は、本当に絵を描くのが好きなのね」

 マスターは、抱え込むように書いているノートの中身をチラリと覗き、マスターの思いは確信に変わった。

「絵を描くのは好きでしょうが、凄く好きで描いているわけではありません」

「どういうことですか?」

「大門は出かける時、ノートと筆箱が入った手提げ袋を常に持ち歩いています。それは知らない相手に会ったり、知らない場所に行ったりした時に絵を描く為です」

「何故、そんなことを」

「知らない世界に踏み込むことに、大門は強い恐怖心を抱いています。恐怖から少しでも目を背けるために、本能的に絵を描くんです」

 その証拠に大門が抱え込んだノートには、絵ではなく「あそう大もん」「あそう七み」といくつか書いてあった。

 「大」と言う字と「七」と言う字を学校で習ったのだろう。

「大門君、緊張をしているんですね」

 しのぶの言葉に、マスターはしのぶをじっとみつめて言った。

「ボクは、結婚をする気は全くありません。浅倉さんが、本気でお見合いをする気持ちがあると思い、敢えて大門を連れて行きました。不快な思いをさせてしまっていたら、すみません」

 マスターが頭を下げると、しのぶは慌てて言った。

「謝らないでください!」

 マスターは、頭を上げた。

「子どもができなくて離婚を言われた私を両親は不憫に思い、敢えて子供がいる麻生さんを紹介したんです」

 しのぶは優しい目で、大門を見ながら言った。

「麻生さんの気持ちもそうですが、一番大事なのは、大門君の気持ちですよね」

 マスターも、大門をみつめた。

 しのぶは大門をみつめていた視線を、マスターに戻した。

「両親には、大門君とやっていく自信がないからお見合いは断ったと言います。元々私の両親が、勝手にお見合いを申し込んだんですから」

「気を使わせて、すみません」

「でも……残念です」

「残念?」

「もし麻生さんに大門君がいなかったら、私はお見合いを勧めていました」

 マスターは、少し困ったように微笑んだ。


 ラウンジを出たマスター達は、お互いの両親がいる場所に戻った。

 浅倉が、しのぶに言った。

「ずいぶん早いな。三人で出かけても、いいんだぞ」

「ちゃんとお互いの気持ちを、言い合いました。もう、話すことはありません」

 マスターも、浅倉に言った。

「今日は、お忙しい中ありがとうございました」

 頭を下げたマスターは、大門に言った。

「大門、行こう」

 そのひと言で大門はパ〜っと明るい表情になり、飛びつくようにマスターの手を握った。

 マスターの父親は、慌てて言った。

「おい!勝手に何処へ行く」

「大門と、先に帰ります。失礼します」

 そう言うとマスターは、手を繋いだ大門と歩き出した。

 手を繋いだ大門はマスターを見あげながら、飛び上がるように歩いた。

 遠ざかるマスターと大門を、しのぶはじっとみつめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ