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タイトル未定2026/01/29 18:03

 菓子メーカー水田の秘書課に勤める北神亮(きたがみとおる)は、夜の繁華街を独り歩いていた。

 亮は海外出張中だったが、休暇を取って帰国をしていた。

 北神亮、背が高くショートカットでメガネをしていた。

 女性なのに、男名前だった。

 もうすぐ、日付が変わろうとしている。

 亮は、急ぎ足で人波を歩いた。

 少し人通りが切れた所に、ほのかに明るく灯るbar「ジェシカ」の看板が見えた。

 ほっとした亮は、店のドアを開けた。

「いらっしゃいませ」

 店内には客はいなく、カウンターの中にマスター一人だった。

 心地のよい、マスターの声に導かれるように亮はマスターの目の前のカウンター席に座った。

「今日は、お一人なんですね」

 言いながらマスターは、店の看板の灯を消した。

 マスターの言葉に、亮は答えた。

「マリアは、今日は疲れたからゆっくりすると言って」

 少し前に、海外の同じ部署で働く同僚のマリアとbar「ジェシカ」に一緒に来たことがあった。

「今夜は料理はもう締め切ったので、飲み物しかお出しできませんが」

「食事は済ませました。果物を使ったカクテルを、お願いします」

「果物はイチゴ、オレンジがあります」

「オレンジを、お願いします」

「かしこまりました」

 マスターは、カクテルを作り始めた。

 カクテルを作るマスターのなめらかな手の動きを、亮は見つめていた。

「お待たせしました」

 マスターは、カクテルを亮の前に差し出した。

「ありがとうございます」

 亮はカクテルを一口飲み、小さく息をついた。

「マスターインカムを、付けたんですね」

 マスターの耳に付いていたイヤホンと、襟元に付いていたマイクに気が付いた亮は言った。

「白田さんが不在なので、インカムを付けることにしました」

「そう言えば、白田さんいませんね」

「大学が忙しくて、休んでいます。そろそろ復帰すると思います」

「白田さんが復帰する頃には、私は入れ違いに、また海外に戻るんだ」

 亮はゆっくり、カクテルを飲んだ。

「海外出張は、いつ頃終わりそうですか?」

「今年の夏には、終わると思うけど。どうだろ。マスター」

 亮は背筋を伸ばして、マスターに声をかけた。

 マスターは黙ったまま、亮を見つめた。

「マスターを、茶番劇に付き合わせてすみませんでした」

「あの時は、驚きました」

 数日前亮は、マスターを自分の彼と偽って同僚のマリヤに紹介をした。

「その後ご友人の方と、気まずくなりませんでしたか?」

「マリアは、おおらかでさっぱりした方です。逆に、私が心配されました」

 その言葉に、マスターはホッとした表情を見せた。

 亮は黙ったままカクテルを飲み干しひと息つくと、思い切って切り出した。

「マスターは、血の繋がりのない子供を育てているんですよね」

「はい」

「初めてマスターから聞いた時、私は理由を尋ねたけど、マスターは教えてはくれませんでした。もう一度、聞きます。どうして、血の繋がりのない子供を育てているんですか?」

 マスターは、しばらくの間亮をじっと見つめた。

「それには、答えられません」

「どうしてですか?凄く、気になります」

「これ以上、土足でボクに入り込まないでください」

 冷たい目できっぱりと言うマスターに、亮は小さな声で言った。

「す……すみません」

「お代は結構ですので、お帰りください」

 今まで聞いたことがない冷たく言うマスターの言葉に、亮は滑り落ちるようにイスから降りると、駆け足で店を出て行った。

 店を出た亮は、逃げるように走り出した。

 走り続けた亮の速度が落ち、やがてゆっくり歩き始めた。

 日付がかわり、繁華街を歩く人々はまばらだった。

 冷たい目と冷たい口調で、言い放つマスター。

 見たことがないマスターに、亮は驚きよりも恐怖を感じていた。

 マスターを、怒らせてしまった。

 もう、店には行けない。

 マスターに、会うことができない。

 しゃがみ込んだ亮は、泣き出した。

 夜の繁華街に、亮の鳴き声が響いた。


 店から亮が出ていき、マスターは耳に付いていたイヤホンと襟元に付いていたマイクを引きちぎるように外し、放り投げるようにカウンターの上に置いた。

 急な見合い話があがり内心イラついていたところに、亮に触れられたくない話題を切り出され、思わず感情をむき出しにしてしまった。

 前髪を掻きむしりゆっくりイスに座ったマスターは、突然笑い出した。

 感情をむき出しにするなんて、まだまだだな。

 カウンターにひじをつき頬杖をつくと、じっと遠くを見つめた。

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