タイトル未定2026/01/29 15:46
午後の診療時間が終わり、一時間が経過していた。
診察室の机の椅子に座って作業をしていたマスターは、思いきり伸びをした。
もう終わるか。
立ち上がったマスターは、診療室から出て行った。
診療室を出ると待合室で、看護師長の紫野緑と鉢合わせをした。
「お疲れ様です。緑さん、まだいたんですね」
「お疲れ様です」
挨拶を交わしていると、マスターの父親でもある院長が来た。
マスターと緑は、揃って挨拶をした。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
院長は、言いながらマスターの方を見た。
「話がある」
自分がいては邪魔だと察した緑は、サラッと言った。
「お先に失礼します」
歩きかけた緑を、マスターが制止した。
「待ってください」
マスターの言葉で緑は立ち止まり、振り返った。
マスターは、院長を見ながら言った。
「話があるなら、緑さんも一緒でいいだろ。話を聞いたボクは、緑さんに相談をする。今ここで緑さんにも聞いてもらえれば、その手間が省ける」
院長ではない、父親に向けた口調を敏感に感じ取った緑は言った。
「院長、先生の言うとおりです。私も一緒に聞きます」
院長と緑は昔からの知り合いで、院長の亡き妻と知り合ったきっかけを作ったのは緑だった。
院長は、緑に頭が上がらない。
小さく息をついた院長は、マスターに向けて言った。
「単刀直入に言う。見合いをしろ」
驚いたマスターと緑は、顔を見合わせた。
「見合い?ボクには、養子を迎えた子供がいるのを知っているだろ」
「だからだ。子供には、母親がいた方がいいだろ」
「母親……」この言葉に、さすがにマスターは止まってしまった。
しかしすぐ思い直し、マスターは反論した。
「大きなお世話だ。大門は、ボクが育てる。子供がいるボクに見合いなんて、できるわけないだろ」
「そのことを含めて、友人には言った」
「なんで、見合い話になったんだよ?」
「お前のことを知っている、友人の医師から相談された。友人の娘夫婦は子供ができなくて、それが原因で離婚をした。見合いはもう決定事項だ。日付は決まり次第言う」
言うだけ言った院長は、マスターと緑の前から離れた。
マスターと緑の前から院長がいなくなると、マスターは大きく息をついた。
「見合いだなんて、何を考えているんだ」
「院長……いえ、父親なりに、先生のことを考えているのよ」
「考えているなら、そっとしてほしいです」
「気持ちはわかるけど、お見合いどうするの?」
「……当日、熱でないかな」
ポツリと言ったマスターに、緑は大声で笑った。
「なに、小学生みたいなこと言っているの!親孝行だと思って、お見合いに行ったら?」
「親孝行なんて、したくありません。緑さん、もう電気を消します」
「先生、お疲れ様」
「お疲れ様」
緑は、職員用のドアに向かって行った。
笑みを浮かべながら、緑は思った。
ホント頑固な所は、院長そっくり!




