反トスーゴの狼煙②
香ばしい匂いがする。
フライパンで玉子焼きが焼かれている。
美理は器用にフライパンを傾けて玉子を巻く。
「おとうさん。甘いのでよかったよね?」
「・・・」
皿に盛り付ける。他にサラダとご飯と味噌汁。
返事がないので振り返って「おとうさん?」
流は泣いていた。この愛する娘はもういない。敵にさらわれた。今は夢の中でしか会えない。
「ワープアウトします」
明の声で流はそっと目を開ける。
疲れている。いつの間にかまどろんだようだ。
ジグが説明する。
「我々、君らが言うアンドロメダ銀河がトスーゴに敗れたのは銀河跳躍砲のためだと言っていい」
「銀河跳躍砲?」
ワープ先は”光の洪水”だった。自動で窓の明度が下がる。
「あれです」ジグが指差す。
「なんだ?あれ」
アンドロメダ銀河の中心部に存在する巨大ツインブラックホール。破壊された惑星ヤルーマの破片。その周囲に無数の人工物が浮かぶ。
「超長距離射程を持つエネルギー転送システムです。これは先の戦闘で破壊されましたが、その射程は300万光年。銀河系を狙えます」
「さ、300万?」
「ロトス=リカを破壊した兵器か」
うなずくジグ。
「そうです。我々はこれと同じもので隣の銀河から攻撃されました。その長射程のために、我々はなす術もなかった。・・降伏後彼らは紳士的でした。もちろん最前線には立たされましたが。この砲が正式に稼働していればあなた方の勝利はなかったでしょう」
「これと同じものが・・」
「隣の銀河って?(銀河系のことじゃないよな)」明は頬をぽりぽり。
「さんかく座銀河(M33)ですね。ここからの距離75万光年(銀河系からは250万光年*)」麗子ちゃん物知り。親友は元天文部だし。 *偶然だがアンドロメダ銀河と同じ距離
「そちらの呼び名ではそうです。それは今も健在で、トスーゴの支配下にあります。それを破壊しない限りアンドロメダ銀河から外に出られないでしょう」
「・・・」
ボッケンが前脚を上げて「あの、質問してもよろしいですか?」
ジグが「どうぞ」
「銀河跳躍砲の射程は300万光年と言われました。それならM33から250万光年先の銀河系を攻撃できるのでは?なぜしないのでしょう?」
「いい質問だ。銀河跳躍砲の射程距離は銀河中心のブラックホールの質量により決まる。M33は我々の銀河より小さい。そのため射程は200万光年だ。75万光年先のアンドロメダには届いても、250万光年先の銀河系には届かない」
「なるほど」
「彼らトスーゴが何のために戦うのか我々を支配するのか、それは明かされませんでした。先のあなた方との戦いでも多くの同胞を失いました。・・正直あなた方に協力するのが正しい事なのか、今も分かりません」
「・・・」
明は無言で外をみる。
その時、暗号通信が入る。担当する麗子が解読し(使いこなしている)、
「艦長。インパルスより通信です“魚がエサに食いついた”?(解読してコレ?)」
流は静かに言う。
「思ったより早かったな。帰還しよう」
<フロンティア号>はエンジンを噴射する。
黒い物体が宇宙の彼方より飛来する。
<暗黒星>。他次元生命体が操る?恒星を捕食する未知の存在だ。
無人の惑星を通り過ぎ、恒星へ近づく。
黒(い班)点が広がって行く・・恒星をのみ込んでいく・・・
<スペースインパルス>メインブリッジ。
“恒星の最期”がメインパネルに映し出されている。
アラン副長がデータを読む。
アランはロトス=オリ出身の異星人。長身にとんがった髪。目は無く髪の毛が触角の役目をする。合理的で生真面目だが実は熱血な面もある。
「思った通りだ。恒星はエネルギーに変換され、“転送”されている」
アンドロメダ銀河でも”恒星消滅”は起こっていた。むしろ銀河系より失われた星は多い。
今回いくつかの生物のいない恒星系にセンサーを設置、暗黒星に襲われた星がどうなるのか詳しく調査している。映像は370光年先の恒星だ。
「どこへ?」グレイが尋ねる。
グレイは元情報屋。金髪のイケメン。先の戦闘で妻ショーンを失った。
皆の視線がクリス索敵情報長に集まる。
クリスは金髪美女。メインレーダー担当。彼女も先の戦闘で弟と親友を失っている。
「結果が・出ます。・・位置・56億7千万光年先の銀河です」
「・・56億7千万光年!」
気の遠くなるような彼方だ。
「そこに何がある?」
「映像・・映りません。壊れたのか?遠すぎて届かないのか?」
「クリス。データをまとめてくれ。艦長が帰還したら報告する」
クリスは露骨に嫌な顔。その気持ちよくわかります。
「副長」新しく通信長になったモカ。後ろで束ねた藍色の髪が美しい。
「銀河連合本部より入電。『銀河連合所属の全艦艇は○○時からの放送を聴くように』とのことです」
三つの銀河の位置関係について
A:銀河系 B:アンドロメダ銀河 C:さんかく座銀河
各銀河間の距離は AB=250万光年 AC=250万光年 BC=75万光年
Aを頂点とした二等辺三角形になります
(銀河跳躍砲の射程距離はA250万光年、B300万光年、C200万光年)




