なんてこった、どうしてこうなった?
唐突に現れたソレは自称文学の神様らしい、何だかハーバードの卒業生が、かぶっているような帽子が頭の上にあった。
あの円錐の上に四角をポンと置いたような変な帽子だ、上から毛の束だか糸の束だかを垂らしているアレ。
そしてそいつはこう言った。
「お主は誤字脱字報告ばかりして、作品の本質や熱意を知ろうとしない、だったら実際にその世界を体験してみるがいい。」
そうして俺は瞬間的に違う世界へと飛んだと分かった、だって目の前に獣人がいるんだもん、何コイツ怖っ!
犬なのか狼なのか分からないが、身体は人で顔は狼に近いそんな顔をしている、とても獰猛そうに見える。
ソイツらが斧の柄の長いやつを持って革の鎧みたいなものを着ているからだが、特に何もして来ないし、此方を見もしない。
怖さからソイツにしか目がいかなかったが、落ち着いて周りを見れば、所謂エルフと呼ばれるような耳の長い美女や、髭面で背は小さいが肩幅の広い筋肉質な多分ドワーフだなと思われる奴等もいた。
「勇者が迎え撃つぞ!皆の者続け!魔王軍を叩き返すぞ!」
「オオオオオオオォ!」
声が高くそれでいて、よく通る声が聞こえたと思ったらそれに呼応するように地鳴りのような雄叫びが彼方此方から聞こえてくる。
先程見ていた獣人もエルフもドワーフもだ。
何だこれ防衛戦か?
直人の後ろには非常に大きな城があり、どうやらそこを守るという形のようだった。
そんな中に直人は巻き込まれている、自身の身体は革の鎧を着ていて、近くの兵士と思われるフルメタルの鎧を着た人から声を掛けられた。
「あんたも防衛戦に協力してくれるのか、ならせめて武器を持て、この槍なら使えるな?」
そう言って一方的に先の尖った二メートル程の槍を手渡された。
「うわっ、何だよこれ?槍?はっ?こんなの扱った事も、持った事もねーよ!」
ハッと頭の中に考えがよぎる、この設定って俺がさっき誤字脱字報告した作品じゃないか?
そうだ、間違いない、勇者が魔王軍と戦って最終的にはハッピーエンドになる予定とか書いてあったやつ、その中にあった俺が報告したページだ。
在り来りな設定の、チート勇者が一人で殆ど撲滅する内容だったはず、在り来り過ぎてタイトルすらうろ覚えだ。
[ドラゴンバスターの俺は魔王を倒してなんちゃらかんちゃらで無双してハーレムを作るとかなんとか]
確かそんなタイトルだったはず、そしてその中身はチート勇者以外は殆ど雑魚だった。
目の前にいる怖い獣人も、エルフもドワーフも、その他諸々という形でしか書かれて居なかった。
頑張っていたとか、なんとか守っているとかそんな内容しか覚えがなかった。
だからまさかそのモブキャラとも言える人達に話し掛けられるなんて思ってもいなかった。
「おい、兄ちゃん槍先が震えてんぞ、大丈夫かぁ?」
「ウフフ可愛いじゃない、お姉さんが守ってあげるから後ろで見ていればいいわ」
「何じゃ坊主ええの〜ワシもエルフに手解きされてみたいわガハハ」
獣人、エルフ、ドワーフから励ましの声、いやドワーフは殆ど願望だったが、声を掛けられて唖然とした。
この人達は、モブキャラとして名前すら無かったはず、でも実際はこうして生きていて、各々性格も思考もあるのか?
「来るぞ!迎え撃て!」
ドカン、バキバキ、ゴシャ、ガラガラガラ
大きな音が聞こえて目の前の門が崩れた、前列は既に応戦している、獣人やドワーフはまだ動かないが、エルフのお姉さんは既に弓を構えていた。
バシュっと鳴って矢が魔物と思われる巨大な蛇にぶつかる、蛇は少しだけ身体をくねらせたが、そのまま盾を構えた兵士達に突撃をしている。
前列の兵士達が吹っ飛ぶと2列目が前に出てまた応戦をしている、エルフのお姉さんは何度も弓を構えては矢を放っている、そしてその全てが蛇の魔物に当っていた。
凄い腕前だ、これでモブキャラなのかよ、書かれてもいないモブキャラの一人がこんなに活躍する強キャラだとは思わなかった。
「君、矢が足りないわ、補充をお願い出来る?」
俺の事を見ながらその美しいエルフがそう頼ってきた、俺は直ぐに周りの兵士に、矢の補充がしたいので矢がある所を教えてくれと聞いた。
「※※※だ!」
ハッ?まさかのここで誤字炸裂なのか?聞き取れない言葉を発したその兵士に舌を打ち、他の兵士を探して聞いた。
「補給所だ!」
今度は聞き取れた良かった、指を差された先の補給所を見付け、矢を束で受け取り美しいエルフに渡す、矢は既に後二本しか無かった。
渡した時に少しだけ指先が触れる、ドキッと心臓が跳ねるが触った箇所に薄っすら血が付いていた。
指の皮が裂けているのか、少し痛そうな顔をしつつもエルフは手を止めない。
戻ってくる間に2列目も抜かれ、今3列目も抜かれた所だった、獣人とドワーフはもう前線に出ている、俺は恐怖でガタガタと足が震える。
槍なんかまともに持ってられない、抱きかかえるようにして細い槍を何とか支える、エルフはチラッと俺を見て口角を上げた。
「させないから!」
そう言ってまた血の滲む手で矢を放った、余っ程良い所に当ったのか、体力の限界なのか分からないがやっと蛇が倒れた。
ウオオオおお!
周りの士気が高まるが、たった一匹の巨大な蛇を倒すのに3列目まで抜かされた、まだ後ろにはウヨウヨと魔物がいる、蛇を乗り越えた魔物と前列がまたぶつかっている。
今度は鬼人と言うのか?3メートル程の背丈で、角を生やし牙の長い魔物だ、しかもそれが3体いて物凄い力で前列の兵士を吹っ飛ばしている。
リーチが長く、重そうな鈍器を軽々片手で振り回し、まさに紙のように前列を吹っ飛ばしている、ドワーフのオッサンも、獣人も飛んでいく。
「何だよアレ化け物じゃねーか」
俺はそう呟くのがやっとで、まだ何もしていない、したのは矢の補充だけだ。
同じようにただ震えてる奴も居れば、頭を抱えて座り込んでる奴もいた、まだマシなのか?いや限りなく0に近い0、01程度の差しかない。
俺は声を掛けてもらい、勇気を少しだけ貰ったから動けた、それが超絶美しいエルフなのだから動けただけだ。
ヤバい、そんな事を考えている間に鬼人達がドンドン近付いてくる。
俺は力の限り声を出した。
「勇者は何処にいるんだよぉぉぉ!!」