第1話誤字脱字を報告する俺氏
【滝沢直人】24歳の趣味はWeb小説を読むことである、それだけなら人に寄っては知的に聞こえる人もいるだろう。
ただ、彼の性癖というか、趣向は少し一般の読み手とは違う。
そう、誤字脱字を発見してはそれを報告して愉悦に浸るという、ある意味絶対正義マンと同じ分類の人間だった、しかも作家本人が誤字脱字を報告してくれと書いてるのだ、一方的に叩ける位置からサンドバッグに出来るのだから、こんなに愉快な事は無い。
最初は直人だって違った、あくまでも善意で誤字脱字報告をしていたのだ、作家さんから感謝されると嬉しかったし、何か誇らしかった。
昔から本ばかり読んでたので、直人は速読を覚えている、速読と言ってもパラパラとページをめくって、はい終了と言うものではないが、他人と比べてかなり速いと自覚している。
有名な週刊少年ジャンポを全部読んでも1時間とかからない、「えっ?もう読んだの?と」回し読みをしていた学生時代の友人達も、目を丸くする程だったからだ。
今日は何を読もうかな?そうWeb小説を漁っていると、【処女作です、読んで下さいお願いします】と書かれた、まだ20ページ程度の作品を見付けた。
ほう、それなら読んでやろうか、そう思って素直に読み始めた。
残念だ、誤字脱字ばかりだコレ。
処女作と銘打ったその作品は1ページ読むだけで2つも3つも誤字脱字が見付かった。
まだ善意全開で直人は作品の応援コメントに誤字脱字を指摘しておく。
すぐに感謝の言葉と誤字脱字を直した形跡があった、気を良くした直人は更に続けて誤字脱字を指摘した。
また直ぐに感謝の言葉と誤字脱字を直した形跡があった、それでもページを続けてめくると、また酷い誤字脱字を見付けた、1ページだけで5箇所も見付かる。
そこも報告したら今度はブロックされてしまった。
そう、作品はリアルではないが、中の人は当然居る、ポンポンと続けて指摘されて最後まで有難いと感謝出来る人は中々居ないだろう。
作家さんだって人間だ指摘より当然面白いとか、ワクワクしたという褒め言葉が欲しいのは間違いない。
評価だってそうだ、低評価より高評価が欲しいのは当たり前だ、コレはツマラナイ作品、と出す作家なんて殆ど居ないだろう。
皆自信を持ってコレは面白いから読んで!と掲載するのだから。
初めてブロックされた事により、戸惑いつつも、何故かニヤリとしてしまった。
相手は指摘され悔しい思いをしたかも知れないが、こちらはノーダメージだ。
なんせ誤字脱字の報告くれと書いてある所にそのまま報告してやって、それが多かっただけだから言い返す事も出来ない。
一方的なサンドバッグだなこれは!
そう思うように歪んでしまった直人は、次から次へと誤字脱字報告をしていく。
「ウーン惜しい、そこそこ長編だったが2箇所見付けたな、ヨシ報告だ。」
「あぁこれは酷い、誤字脱字もあれば改行も無い見難さだ、はい指摘。」
「何だか文法がおかしいな?はい指摘」
「この漢字の使い方は同じようで似てるけどこっちが正しいな、ヨシ報告だ!」
作品を見れば大抵1箇所や2箇所の誤字脱字はある、長編なら尚更だ、その都度報告を重ねた。
そして一作品につき1回の報告に収めた、何故なら誤字脱字報告有難うと言われる方が、直人にとっても、気分が良いからだ。
「あー最高にぎんもぢいぃ〜」
はぁ~っと長い息を吐きながら恍惚とした顔で今日も達成感を味わっている。
まだ初心者ですとか、自信あります!とか書いてある所に突撃をして報告をする、初心者は当然誤字脱字が多いから見付けるのは簡単だし、自信ある奴のプライドをへし折るのも楽しかった。
「ノークレームでお願いしまーすアハハ」
笑いながら今日も、誤字脱字報告を重ねる。
人に寄っては直人は善人で、また違う人には作品にケチを付ける悪魔に見える、そんな奴だが、1回だけの指摘では報告有難う!という感謝の御礼しか無かった。
油断というか、思わぬしっぺ返しと言うのか?誤字脱字報告も500件を越えた頃、ランキング上位で作品はアニメ化、書籍化されている作品への誤字脱字報告をした時にそれは起きた。
「ここの〜の箇所、僕等がではなく、僕等は、だと思いました、誤字報告です。」
そう書いて送った所
「↑の奴そんな報告ばかりで作品のリスペクトが無いから作者さん気にしないで下さい。」
思わぬ展開だ、一方的なサンドバッグじゃなくなった。
直人はこれはダメだとランキング上位者の作品を読むのは止めた、ランキング上位者でも誤字脱字のミスなんていくらでもあった、あったが内容は面白く、一定層のファンが居る。
そしてそのファンは作者を神格化している恐ろしい人達も中にはいる、誤字脱字報告すら悪意と思われてしまうのだ。
なので止めた、ランキング上位者への報告も、読む事も。
直人と同じ作品を読み漁ってる奴らがいて、作者マンセーな人達が恐ろしいからだ、直人自身は叩かれたくない、一方的優位の立場からサンドバッグにしたかった。
そしてその後誤字脱字報告を止め、、、る訳がない、これは最早趣味ではない、生きる糧だ。
但し今度は作品を褒めてから誤字脱字報告する事に変更した、そしてその場合の方が反応はやはり良かった。
実際良い所を探すのも大変な、意味の分からない作品にも、褒める箇所を探して褒めた、そのうえで誤字脱字報告をした。
【イエスバット法】という相手を肯定[イエス]してから自分の意見を出す[ノー]そんな手法を使ってまで己の趣向を満たした。
有難うという感謝がやはり増えた、しかもかなり善意と捉えられているようだ、これは上手くいったぞと内心ほくそ笑んだ。
誤字脱字報告が丁度1000件に達した時、唐突にソレが現れた。