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第9章:悪夢

アラクネが囁いた告白――「ごめんなさい…食べ物…お腹が…空いてて…」――は俺の耳に響いたが、俺の守護的な怒りの進路を変えるには間に合わなかった。

ライラの安全に対する原始的な恐怖、怪物の数メートル先に立つ子供の姿、彼女を暗い道で見つけてから背負ってきた責任の重さ――そのすべてが、ただ一つの行動へと収束した。

すでに掲げられていた短剣は、振り下ろされることを切望していた。

「ライラ!そいつから離れろ!」

俺は叫んだ。声は緊張と徹夜でかすれていた。

戦闘のために訓練された俺の体は、本能で動いた。一歩、前へ踏み込み、筋肉は致命的な一撃のために引き締められた。

アラクネのルビー色の目に恐怖が浮かび、その体が縮こまるのを見た。

ライラが、俺とその生き物の間を交互に見つめる大きな目で、固まっているのを見た。

しかし、体には限界があり、俺は自分の限界を超えていた。

前の晩の徹夜、農作業の日々で蓄積された疲労、旅、夜の訪問者を発見してからの絶え間ない緊張――そのすべてが、決定的な瞬間に代償を求めた。

攻撃のために筋肉が収縮した瞬間、圧倒的な暗闇が足元から這い上がり、俺の視界を飲み込んだ。

納屋が回転した。力が指の間から流れ落ちる水のように俺を見捨てた。

足が砕けた。

短剣が土の床に金属的な音を立てて手から滑り落ちた。

世界が傾き、俺は無力に前へ倒れ込んだ。意識の最後の断片で、俺の体が予期せず…柔らかいものに衝突するのを感じた。

胸と顔への柔らかな衝撃、それに続く古びた埃の匂い、そしてほとんど気づかないほどの、野生の花のような香り。

そして、暗闇が俺を完全に飲み込んだ。

暗闇は長くは続かなかった。それは歪んで抑圧的な風景へと溶けていった。

俺は立っていたが、足元の地面は感じられなかった。

空気は重く、水のように濃密で、周りの色は鮮やかすぎて、見るのがほとんど苦痛だった。

病的な紫色の空が、草ではなく、絡み合った黒い髪のようなもので覆われた無限に広がる野原の上に垂れ込めていた。

そして俺は彼女を見た。ライラ。

走っている。遠くで必死に走っている。不穏な地平線に対して、その小さな姿はか弱かった。

彼女の茶色い髪が後ろになびき、遠くからでも、彼女から発せられるパニックを感じることができた。

「ライラ!」

俺は叫ぼうとしたが、声は重い空気に飲み込まれ、窒息したような囁きとしてしか出てこなかった。なぜ彼女は走っているのだ?

何が彼女を追っているのだ?

俺は彼女の方へ走ろうとしたが、足は鉛でできているかのようだった。

一歩一歩が、俺を地面に縛り付ける見えない力に対する苦しい戦いだった。

俺とライラの間の距離は、必死の努力のたびに開いていくようだった。

そして、追跡者を見た。

俺の夢のような視界の周縁で踊る歪んだ影から、アラクネが現れた。

しかし、納屋で見た、縮こまって怯えていた生き物ではなかった。これは純粋な悪夢の化身だった。

その蜘蛛の体はより大きく、よりグロテスクで、足は黒曜石の槍のように冒涜的な速さで動いていた。

かつては心をかき乱す美しさを持っていた女性の胴体は、今や飢えた悪意の表情に歪み、赤い目は痛みと絶滅を約束する捕食者の光で輝いていた。

長く滴る牙が口元に現れ、恐ろしいシューという音が空気を切り裂いた。

「やめろ!」

その言葉は喉を切り裂いたが、遠く、くぐもって聞こえた。

アラクネは恐ろしいほどの容易さでライラに追いついていった。

少女は振り返り、その青白い小さな顔は純粋な恐怖に引きつっていた。

彼女の唇が動き、俺は、距離と悪夢の霧を通して、自分の名前を聞いた。

「セレン!助けて!セレン!」

その叫びは俺の心に突き刺さるナイフだった。俺は全身全霊で努力したが、欲求不満と絶望が黒い潮流のように増していった。

粘着質の地面が俺を下に引っ張っているようで、筋肉は燃え、肺は空気を求めて喘いだ。

俺は近くにいた、とても近くにいたが、決して十分な距離ではなかった。

アラクネはライラに追いついた。

剃刀のように鋭い爪を持つ怪物的な足が振り下ろされ、少女の小さなチュニックを捕らえ、布を引き裂いた。

ライラはつまずき、倒れた。

「やめろ!」俺は叫んだ。無力感は肉体的な拷問だった。

その生き物はライラの上にそびえ立ち、その巨大な体が病的な空を遮った。

女性の胴体が傾き、滴る牙が少女の頭の上で開かれた。

ライラは地面に縮こまり、その小さな腕を無駄な防御の試みとして掲げ、目を固く閉じ、泥だらけの顔を涙が伝っていた。

「セレン…お願い…セレン…」彼女の声は、恐怖によって途切れた細い糸だった。

そのイメージが俺の心に焼き付いた。無防備なライラが、まさに食われようとしている。

彼女を守るという、自分自身にした約束が、千々に砕け散っていく。

失敗が俺を押しつぶし、罪悪感が俺を溺れさせた。

「ライラァァァァァァ!やめろぉぉぉぉぉ!」

その叫びは俺の腹の底から、純粋な苦痛と絶望の音として、悪夢の虚空に響き渡った。

俺は最後の無駄な試みとして前へ身を投げ出したが、地面が足元で開いたように感じられ、俺は落ちて、さらに深い暗闇へと落ちていった。ライラの名前を唇に、彼女の恐怖のイメージを魂に刻みつけて。

「セレン…セレン!起きて!」

小さく、しつこい声。俺の顔への柔らかなタッチ。

俺はもがいた。まだ悪夢の爪に捕らわれていた。暗闇は続いたが、今は閉じたまぶたの暗闇だった。

土と恐怖の匂いがまだ鼻孔に染み付いていた。

「ライラ…」俺はうめいた。声は詰まっていた。

熱い涙がこめかみを伝い、頭の下にあるものを濡らした。

俺は押しつぶされそうで、胸は言葉にできない苦悩で痛んだ。「ライラ…だめだ…俺は失敗した…」

「シーッ、セレン、ここにいるよ」

声は今やはっきりと、耳元で聞こえた。「起きて、お願い」

多大な努力を払って、俺はまぶたをこじ開けた。

視界はぼやけていた。涙と突然の転換でかすんでいた。ぼんやりとした形が焦点を結び始めた。

木の天井。窓から差し込む柔らかな光。そして、俺のすぐ近くにある、心配そうな小さな顔。

茶色い髪。

大きくて茶色い目、夢の中で恐怖に満ちていたのと同じ目。

「ライラ?」

俺は囁いた。信じられない気持ちが残るパニックと戦っていた。

「ここにいるよ、セレン」彼女は繰り返した。声は震えていたが、しっかりしていた。

現実は、痛々しいほどゆっくりと浸透し始めた。俺は横になっていた。ベッドに。俺たちが掃除した部屋に。

空気中の匂いは悪夢のものではなかった。それは家の馴染みのある匂い、古い木と清潔なシーツの匂い、そして薪の煙と、失神する前に感じた香りに近い、花のような微かな香りが混じっていた。

安堵は、数分前の恐怖と同じくらい圧倒的だった。ライラはそこにいた。安全だった。生きていた。

「ああ、ライラ!」

俺はめまいを無視して飛び起き、彼女をきつく、ほとんど必死に抱きしめた。

俺の体は制御不能に震えていた。彼女の髪に顔を埋めると、嗚咽が胸から漏れた。

「ごめん…ライラ、ごめん…守ってやれなくて…夢の中で…彼女が…彼女が…」

言葉は嗚咽に消えた。

悪夢からであっても、罪悪感は圧倒的だった。俺は彼女を長い間抱きしめ、彼女の確かさ、その小さな体の温かさ、彼女の呼吸の音を吸収した。

徐々に、震えは収まった。怪物的なアラクネのイメージは後退し始め、少女の目の純粋な心配に取って代わられた。

俺は少し離れて、彼女の肩を掴み、彼女が本物であること、無傷であることを確かめるかのように彼女を調べた。

彼女の顔は少し青白かったが、俺が目撃した恐怖の兆候はなかった。

「あ…あの化け物は?」

俺は尋ねた。声はまだかすれていた。「納屋にいた…アラクネ…あれは全部…夢だったのか?」

希望は胸の中でか弱い炎だった。

ライラはゆっくりと首を横に振った。彼女の目は、驚くほどの真剣さで俺の目と合った。

「ううん、セレン。クモのおばさんは夢じゃなかったよ」

俺の心は沈んだ。では、脅威はまだ現実だったのだ。

対決、彼女の懇願…

「彼女は…お前を傷つけたのか?どこにいるんだ?」

俺は尋ねた。声に緊急性が戻り、体が抗議しても立ち上がって戦う準備ができていた。

「ううん、傷つけられてないよ」ライラは素早く言った。「ベッドに運んでくれたのは彼女だよ、セレン。納屋で気絶したでしょ。ここまで運んでくれたの。彼女…すごく心配そうだったよ」

俺は瞬きをして、その情報を処理しようとした。アラクネ?俺が殺そうとしていた、ライラにとって致命的な脅威だと恐れていた生き物が、俺をベッドに運んだ?

心配?その矛盾はあまりにも大きく、俺の脳はそれを受け入れるのに苦労した。

「彼女が…俺を運んだのか?」

俺は繰り返した。声は信じられない気持ちでいっぱいだった。柔らかいものの上に倒れた感覚を思い出した。それは…彼女の胴体だったのか?

そのイメージは、奇妙であると同時に、不思議なほど親密だった。

「うん」ライラは頷いて肯定した。

「彼女、すごく力持ちなんだよ。それに、すごく悲しそうな顔でずっとあなたを見てた。だから、あなたは大丈夫だよ、あなたは強いからって言ってあげたの。そしたら、あなたを見張っててって頼まれて、下に降りていったよ」

「下に?どこに?」

「居間に」ライラは、それが世界で最も自然なことであるかのように答えた。

「あなたが起きるのを待ってるって言ってた」

俺が処刑しようとしていたランクB、おそらくAのモンスターが、今、俺の居間で、俺をベッドに運び、心配を示した後に、お茶を淹れている?状況はあまりにも非現実的で、俺はまだ夢を見ているのではないか、おそらく夢の中の夢、層を重ねるごとに前の層よりもっと馬鹿げているのではないかと思った。

俺はライラを見た。少女は…落ち着いているように見えた。「クモのおばさん」について話すとき、彼女の目には恐怖はなかった。そこには子供らしい受容、俺が同時に感動的で警戒すべきだと感じた信頼があった。

俺は手で顔を覆い、

心を整理しようとした。悪夢はまだ長く暗い影を落としていたが、現在の現実はさらに混乱していた。アラクネは、俺の夢の中の盲目で貪欲なモンスターではなかった。少なくとも、完全には。彼女は食べ物を盗んだ、そうだ。しかし、彼女は恐怖を示し、話し、そして今、明らかに…注意深く行動した?

「セレン?」ライラは頭を傾けて、俺を観察していた。「本当に大丈夫?」

俺は深呼吸をして、空気を肺に満たし、自分を落ち着かせた。

疲労はまだ手足に重くのしかかっていたが、悪夢のアドレナリンと状況の混乱が俺を警戒させていた。

「俺は…処理中だ、おチビちゃん」俺は弱々しい笑顔を浮かべようとして言った。

俺は自分の目で見る必要があった。

俺の農場で、平和な生活を試みる中で、一体何が起こっているのかを理解する必要があった。

千の言葉にならない質問の重さを背負ったため息とともに、俺はベッドから起き上がり始めた。体は痛み、心は渦巻いていた。

クモのおばさんは居間にいた。待っていた。

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