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第八章:侵入者

俺は身じろぎもせず、耳を澄ませた。何も聞こえない。気のせいか…。すると、また別の音が、キッチンの方角から静かに引きずるような音がした。

「気のせいじゃない」俺は思った。心臓が速く鼓動し始める。「誰かが…あるいは何かが…階下にいる」

超自然的なほどの慎重さで、ライラが動かないように気をつけながらベッドから滑り出た。床板が軋み、俺は凍りついた。静寂。ベッドの脇の鞘から短剣を抜き取った。

それは静かで、致命的だった。俺は影のように階段を下り、体重をかける前に一歩一歩確かめた。

外で稲妻が光り、何もない部屋を照らし出した。物音は再びキッチンから聞こえてきた。

「キッチン…残飯が消えた時と同じだ」俺の中で点と点がつながった。リスや小動物の仕業ではない。

キッチンのドアまでたどり着くと、少しだけ開いていた。湿った土の匂いと、何か別の、麝香のような奇妙な匂いが漂っていた。

深呼吸をして短剣を握りしめ、素早い動きでドアを蹴り開けた。

その瞬間、空を稲妻が切り裂き、キッチンを冷たい白い光で満たした。そして、俺は見た。

そこに、食料庫の近くに深まる薄闇の中に、その生き物はうずくまっていた。

その光景に俺の血は凍りつき、息を奪われた。

その姿は見間違えようもなく、最悪の伝説から抜け出してきたかのような悪夢そのものだった。下半身は巨大な蜘蛛、上半身は女のそれだった。

「アラクネ」その言葉が脳裏をかすめた。だが、物語や、引き裂かれた口、滴る牙、盲目的な怒りだけを描いた獣人寓話のグロテスクな挿絵は、俺に心の準備をさせてはくれなかった。

俺が対峙していたものは、伝説とは異なる歪みであり、その恐怖に混じり合う不自然な美しさのせいで、かえって心をかき乱すものだったかもしれない。

その下半身は、まさに蜘蛛の悪夢だった。固まった石油のように黒く艶やかなキチン質の膨らんだ腹部から、八本の長くて角張った脚が生えていた。

煤のように濃く暗い毛で覆われたそれぞれの脚は、見る者の肌を純粋な本能的嫌悪感で粟立たせるだろう。その先端は剃刀のように鋭く磨かれた黒い爪で、木の床にわずかに食い込み、ほんの少し体重を移動させるたびに、ほとんど聞こえない軋み音を立てていた。

古びた埃とオゾンが混じった、微かだが突き刺すような匂い、そして胃がむかつくような甘ったるく病的な香りが、彼女から発せられていた。

しかし、本当に目を奪い、正気を打ち砕こうとするのは、悪夢と邪悪な美しさとの間の移行、その冒涜的な融合だった。

巨大な蜘蛛の頭胸部があるべき場所から、恐ろしくも優雅に、女性のほっそりとした胴体が現れていた。それは、まるで狂った職人が男性の視線を引きつけて絡め取るという意図的な目的で彫り上げたかのような、心をかえってかき乱す、ほとんど痛々しいほど美しい芸術作品のようだった。

その肌は、印象的でほとんど熱を帯びたような白さで、内側から冷たい光で輝いているように見え、下の蜘蛛の体の暗さに対して鮮やかに対比していた。

その青白さとは激しく対照的に、月もない最も深い夜のような黒髪の滝が、彼女の肩と背中に流れ落ちていた。

彼女は、まるで夜の霧そのものを纏っているかのように、その下半身の暗い姿とは対照的に、蜘蛛の最も純粋で白い絹で織られた、最高級のシフォンのように透き通った布に部分的に包まれていた。

それはボロボロで何気ないヴェールではなく、意図的に幻想的で挑発的なもので、彼女の豊かな胸と細い腰の周りを漂い、曖昧で流れるような優雅さでその曲線を覆い隠しつつも強調していた。それは、彼女を支える蜘蛛の姿という明白な恐怖の中で、楽園のような美しさを囁く約束のようだった。

その人間の手には、俺が買ってきた燻製肉の一つが握られていた。

光に照らされると、彼女は顔を上げた。その目…燃えるような鮮やかな赤色で、俺の目と合うと驚きに見開かれた。

一瞬、二人とも固まった。すると、パニックに陥ったようなシューという音とともに、その生き物は肉を落とし、肉は床に鈍い音を立てて落ちた。

彼女は振り返ると、恐ろしいほどの速さで、ドアではなく、俺が固く閉まっていると思っていた裏口の窓へと走った。

その大きさに似合わない俊敏さで、彼女は隙間から身を滑り込ませ、雨の降る夜の中に消えた。

俺は窓に駆け寄ったが、外には暗闇しか見えなかった。

冷たく湿った空気が顔を打った。俺は振り返り、今は空っぽのキッチンを見回した。

床には、落ちた肉。そして窓の近く、木のとげに引っかかって、銀色で太くて粘着質の一本の蜘蛛の糸が残っていた。

「アラクネか」俺は囁いた。その言葉は鉛のように重かった。「ランクB、いやAかもしれん…素早く、そして知性も感じられる」

恐怖に見開かれた目、対決ではなく必死の逃走を思い出した。

「食い物を盗む…直接攻撃はしてこない。だがそれでも…」俺は太くて粘着質な蜘蛛の糸に目をやった。それは、その生き物の捕食者としての性質を思い出させるものだった。

「あんな化け物が、ライラのこんな近くに…」守護者としての俺の義務は絶対だ。「明日、夜が明けたら、奴を狩る」

できる限り窓に鍵をかけ、短剣を握ったまま二階へ上がった。

実際、眠りは訪れなかった。夜は長く、すでにすり減った俺の神経にとって、ゆっくりとした拷問のようだった。

俺はライラの部屋で寝心地の悪い椅子に陣取り、眠っている少女と窓やドアの隙間を交互に見つめながら、警戒を続けた。あらゆる影が潜在的な敵であり、古い家や外の風の音が新たな警報となった。

「俺はいったい、どんな場所に彼女を連れてきてしまったんだ?」外の闇が生きているように脅威的に感じられる中、俺は募る苦々しさとともに思った。

安全な避難所としての農場のイメージが崩れ始めていた。

「モンスターの目撃情報がない地域にある、人里離れた家…両親を亡くした彼女と俺にとって、再出発の場所、平和に暮らせる場所になると思っていた。だが、危険は最初の数夜で俺たちを見つけ出した」俺は短剣の柄を強く握りしめた。

アラクネの記憶――超自然的な俊敏さ、きらめくルビー色の目、その姿に秘められた力――が絶え間なく俺を苦しめた。

「あのクラスのモンスターが、こんなに近くをうろついているとは…」

罪悪感が俺を苛んだ。

ライラにシンプルで守られた生活を提供しようとする試みは、皮肉にも、彼女をより原始的で制御不能な種類の危険に晒してしまったようだった。

「この呪われた世界…本当に安全な場所なんてあるのだろうか?」俺の肩に責任が重くのしかかる。「関係ない。俺は約束をした。彼女を守る。何があっても」

ついに夜が明け、灰色で湿っぽい朝が来た。

雨は止んでいたが、空は重苦しい雲に覆われたままで、長い夜警の後の俺の心と顔に刻まれた疲労を映す鏡のようだった。

最初の弱い光が隙間から差し込むとすぐに、俺は体を起こした。体はこわばっていたが、心は緊急性によって研ぎ澄まされていた。

ライラがまだ深く眠っていることを確認した。外でも俺の中でも過ぎ去った嵐に気づいていない。

静かな動きで短剣とクロスボウを手に取った。あんな生き物に短剣だけで立ち向かうのは狂気の沙汰だ。

俺は影のように部屋を出て、この世界でまだ俺に戦う力を与えてくれる唯一のものを後にした。

窓の近くの泥には、その生き物の足跡がはっきりと残っていた。大きく、見間違えようのないものだった。

俺はその足跡をたどり、家を回り込み、納屋の方へ向かった。痕跡は建物の中へと続いていた。

心臓を激しく鳴らしながら、短剣を構え、中を覗き込んだ。そこに彼女はいた。

納屋の木の壁に身を縮こまらせ、湿気から身を守ろうと、寒さか恐怖からか震えていた。

彼女は疲れ果てているようで、慌てて逃げる際にどこかから落ちて怪我をしたのかもしれない。その赤い目は閉じていた。絶好の機会だった。

俺は短剣を振り上げた。冷たい金属が、俺の思考を夜通し悩ませた脅威を排除するという、俺の義務を果たす準備ができていた。

「ライラの近くにモンスター…許すわけにはいかない」

「セレン?何してるの?」

ライラの子供っぽい声が、張り詰めた空気を切り裂いた。彼女は目を覚まし、好奇心から俺についてきたのだ。

彼女は数メートル離れたところに立っていて、その眠そうな目はまず俺に、そして…その生き物に注がれた。

ライラの声でアラクネは目を覚ました。その赤い目が開き、まず俺の短剣に、次に少女に焦点を合わせた。

その奇妙に人間らしい顔にパニックが広がった。彼女は唸りもせず、攻撃の準備もしなかった。

彼女はさらに身を縮こませ、自分をより小さく、より無害に見せようとした。その人間の手が懇願のジェスチャーで持ち上げられた。

そして、俺が完全に驚いたことに、彼女は話した。

その声は細く、かすれた囁きで、奇妙なシューという音と混じっていたが、言葉は理解できた。

「ごめんなさい…食べ物…お腹が…空いてて…」

俺は短剣を掲げたまま固まった。世界がひっくり返ったようだった。

目の前で、理性のないはずのモンスターが命乞いをし、俺が守ると誓った子供が、何も理解できずにその全てを見つめていた。

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