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第15章:パパ

例の出来事から数時間が経ち、農場ではようやく日々の営みが始まった。

俺がオーロラと小さなマリアに割り当てられた部屋の整理を手伝っている間、ライラとセラは朝の最初の仕事に取り掛かっていた。外からは、ライラの元気な声が聞こえてくる。


「おはよう、ブチ!雨の中、よく眠れた?」彼女はセラが黙々とトロヴァオの飼い葉桶を一杯にしている間、おしゃべりを続けた。「セラがね、雨がすごく強かった時にあなたがモーモー鳴いてるのを聞いたって。でも、怖がらなくていいよ、私たちが守ってあげるから!」ライラはそれから新しく建てた鶏小屋へ走って行った。「見て、セラ!卵がまた三つ!これでセレンが私の好きなトウモロコシのケーキを作ってくれる!」


家の中では、オーロラとマリアの部屋が「家」らしくなっていた。俺が補強したダブルベッド、濃い色の木製ワードローブ、そして丹念に掃除した埃っぽい小さな机があるだけの簡素な部屋だ。

「夢にも思わなかったほどです、セレン。ありがとうございます」と彼女は声を詰まらせながら言った。


薬草の効果と安らかな夜の眠りで元気を取り戻したマリアは、ベッドの上で跳ねていた。「ママ、見て!すごくふわふわだよ!」彼女は笑いながら羽毛のマットレスに沈み込んだ。オーロラの顔に、ここに来てから初めて見るような、本物の笑みがこぼれた。


「ゆっくりくつろいでくれるといいんだが」俺はマリアの小さな喜びの爆発を見ながら言った。


午前中はあっという間に過ぎた。ライラとマariaはセラの注意深い視線の下で家の周りを探検し、俺は農場のいくつかの雑用を片付けた。昼食の時間近く、俺が外のたらいで手を洗っていると、オーロラが少し躊躇しながらも、新たな決意を目に宿して近づいてきた。


「セレン」彼女は、まだ柔らかいがしっかりとした声で始めた。「私…昼食の準備をさせていただけませんか。もちろん、ご迷惑でなければ。何らかの形で貢献したいのです」


不意を突かれたが、すぐに笑みがこぼれた。「迷惑なわけないさ、オーロラ。それは素晴らしい。ライラもセラも喜ぶと思うよ」彼女が積極的に参加しようとしてくれるのは良かった。少しずつ、彼女がこの場所を自分の家だと感じ始めている証拠だろう。


そして昼食の時間、以前は広々と感じた台所のテーブルは、今や心地よく満席だった。鍋から漂う香りは、オーロラの努力の結晶である美味しい約束だった。数日前に俺が狩った猪の肉がたっぷり入ったジャガイモのシチュー、ご飯、そして新鮮な野菜のサラダ。


「すごいな、オーロラ、これは…絶品だ!」最初の一口の後、俺は叫んだ。シチューは濃厚で風味豊か、肉は柔らかく、ご飯も完璧だった。


セラは、その大きさに似合わず驚くほどの繊細さで食事をしながら、頷いた。「肉の味付けが絶妙で、ジャガイモにも味がよく染みている。非常に良い」


ライラは口をいっぱいにしながら、熱心に同意した。「すっごく、すっごくおいちいよ、オーロラおばちゃん!でも、セレンも料理上手なんだからね?」彼女は忠誠心から俺を弁護した。「彼のオムレツは世界一なんだから!」


ライラと俺のやり取りを大きな青い瞳で見つめていたマリアは、新しい友達の方を向いた。「ライラ、セレンは…あなたのパパなの?」彼女は子供らしい無邪気さで尋ねた。


ライラは咀嚼を止め、フォークが小さな手に忘れられたまま宙に浮いた。「パパ」という言葉は、冷たい波のように彼女を打ち、遠い、遠い昔の時間へと彼女を連れ去った。本当の父親の姿が、彼女の小さな頭の中に白昼のように鮮明に浮かび上がった。


「私のパパは…」彼女は細い、ほとんど吐息のような声で始めた。その瞳は俺の向こう、遠いどこかを見つめていた。「すごく大きくて…彼に抱きしめられると、ちょっとだけ強く締め付けられるんだけど、とっても暖かかったんだ」父親の服のいい匂い、そして髭が少しだけくすぐったかったことを思い出した。「私が夜に怖がっていると、いつもわかってくれた」彼女の声は、大切な秘密を打ち明けるようなトーンになった。「私の部屋に来て、僕が守ってあげるから、悪いものは何も来ないよって言ってくれた」


「怪物たちに連れて行かれたあの人…」その思いが、尖った小石のように胸に突き刺さった。大きな悲しみが彼女を襲い、彼の楽しそうな笑い声――喜びの雷のようで、すべてを楽しくさせたあの声を、もう二度と聞けないのだと思うと、体を丸めたくなった。「彼の笑い声、すごく好きだった」彼女は呟き、悲しくて懐かしい笑みが唇に浮かんで消えた。「彼は私を全部から…醜くて悪いもの全部から守ってくれた…」


突然、ママの記憶がよみがえった。甘くて、同時に悲しい記憶が。


「それにママは…」彼女の瞳が涙で潤んだ。「焼きたてのクッキーに、お花を少しだけ混ぜたような匂いがしたの、わかる?髪はウサギさんの毛みたいにふわふわだった」


母が寝かしつけるときに歌ってくれた子守唄を思い出した。

「私を寝かせるために歌ってくれた…彼女の声は、抱擁みたいに暖かかった」母の優しい手を思い出した。「私の髪を三つ編みにしてくれて、空で瞬く星は、天使たちが『おやすみ』ってウインクしてるんだよって教えてくれた」


パパとママ、二人が一緒にいるところを思い出した。暖かくて安全な巣のようだった。彼女が何かいたずらをした時に交わす微笑み、彼女がベッドに入って眠りにつく頃に台所から聞こえてくる二人の会話の音、その時彼女は世界で一番幸せな女の子だと感じていた。今、その幸せな世界は消えてしまった。


とうとう大きな涙が一粒こぼれ、次から次へと続いた。小さなすすり泣きが漏れ、彼女の肩が震えた。それは、もう二度と聞けないパパの笑い声、記憶から薄れていくママの匂い、もう誰も歌ってくれない子守唄を思っての涙だった。そして、心の奥底で、どんなに強く願っても、彼らが二度と帰ってこないことを知っているからこその涙だった。彼女は鼻をすすり、手の甲で拭った。赤く濡れた茶色の瞳が、ようやく俺の方を向いた。まるで長く悲しい夢から覚めたかのように、すべてが始まったあの質問に、彼女なりの方法で答えようとしていた。


すると、夜明けの太陽のように、セレンとの思い出が蘇ってきた。森で迷い、寒さと飢えに震えていたこと、そして彼が現れたこと――最初は怖かった、髭面の巨人。

「覚えてるよ、セレン」彼女は話し始めた。最初は自分に言い聞かせるように、低い声で。「あなたが森で私を見つけてくれた時。私、すごく怖くて、お腹もぺこぺこだった」彼女は俺を見た。「あなたは食べ物を分けてくれて、暗闇から守ってくれた。私が寒くないように、ドレスを作ってくれた。トロヴァオに乗せて農場まで連れてきてくれて、お家をくれた。私が怖がった時は、落ち着かせてくれた」彼女は一呼吸おいて、目を輝かせた。「あなたはパパがしてくれたのと同じように、私のことを心配してくれた。同じくらい、私の面倒を見てくれた」


涙で濡れているが、深い理解と愛に満ちた優しい笑みが、ついに彼女の顔に広がった。彼女はマリアをしっかりと見つめた。


「うん!」彼女は言った。そして初めて、その言葉は魂から湧き出る確信をもって、高く、はっきりと彼女の唇から放たれた。「彼は私のパパだよ。世界で一番のパパ」


俺の心臓は一瞬止まり、そして激しく鼓動を始めた。言葉にできないほどの熱と感情の波が俺を襲った。俺の目は、抑えようともしない涙で燃えるようだった。彼女からの「パパ」という言葉は、俺が受け取ることのできる最高の贈り物だった。考える間もなく、俺は腕を伸ばしてライラをきつく、震える腕で抱きしめ、彼女の髪に顔を埋めた。


「ライラ…俺の娘だ」俺は声を詰まらせながら囁き、彼女を強く抱きしめ、彼女を蝕む痛みをすべて吸収したいと願った。彼女の茶色い髪の匂いと、その小さなか弱い体の温もりは、俺が手にしているものの尊さと責任を痛感させた。俺は彼女を優しく揺さぶり、彼女のすすり泣きの一つ一つが自分の心臓に突き刺さるのを感じた。「俺はここにいる。ここにいるからな」彼女が必要とするだけ泣かせる間、俺は彼女の背中を撫で、涙が俺のシャツを濡らすのを感じていた。


永遠に感じられる時間が過ぎ、すすり泣きが収まり始め、震えるような溜息に変わった。彼女は顔を上げ、目は腫れ、頬は涙で汚れていたが、感情を吐き出したことによる安堵の表情が浮かんでいた。「彼らは帰ってこないんだよね、セレン?」彼女は尋ねた。声はしゃがれ、疲れていた。その質問は、どんなに辛くても確認しなければならない、痛みを伴う事実の確認だった。


俺は彼女の目を見つめ、その深い悲しみの中に、信じられないほどの強さを見た。「ああ、ライラ。帰ってこない」俺はできる限りの優しさで答え、その言葉の重みを感じた。「でもね、ライラ、二人が君を愛していた気持ちは、絶対になくならない。それはここに、ほら」俺は優しく彼女の胸に触れた。「君の心の中に、大切にしまってあるんだ。そして、彼らはいつだって君の一部であり続ける」俺は彼女をしっかりと抱きしめた。「約束するよ、ライラ」俺は彼女の髪に囁いた。声には俺が持つすべての確信が込められていた。「いつだって君の面倒を見る。君を守り、愛し続ける。毎日、ずっとだ。愛してるよ、ライラ」彼女は俺にもっと寄り添い、小さな溜息が彼女の唇から漏れた。それは受容か、あるいは疲労のため息だったかもしれない。


テーブルの向こう側で、その静けさの中でほとんど見えなかったマリアが、複雑な感情の入り混じった表情でその光景を見ていた。彼女の大きな青い瞳は、普段は好奇心といたずら心でいっぱいだが、今は俺とライラの絆への憧れと、同時に、幼い子供には深すぎるように思える、微かな悲しみ、憂いを映していた。彼女は一言一句、一つ一つの仕草を見守り、唇がほとんど気づかないほど小さく尖った。ライラがようやく俺の膝の上で落ち着くと、優しい静寂が空間を満たし、子供たちの穏やかな呼吸音だけがそれを破っていた。その時、マリアはテーブルの上の自分の手に視線を落とし、小声で、ほとんど独り言のように、空気中の吐息ほどの声で呟いた。「私も、パパがいたらよかったな」


その呟きは、穏やかでありながら、予期せぬ重みを持って空中に漂った。


ライラは、いつも注意深く、自分自身が感情の嵐を乗り越えた後でさえ、彼女より大きな心で、俺の腕から少し身を離し、即座の純粋な同情心で友達を見た。彼女の目はまだ赤かったが、新たなアイデアで輝いていた。「でも、なれるよ!」彼女は、それが世界で最も明白で簡単な解決策であるかのように言った。「セレンがあなたのパパにもなれるよ!彼はみんなの面倒を見るんだから!」


続く沈黙は重かった。オーロラは水をごくんと飲んで軽くむせ、顔が激しく赤くなった。俺自身も顔が熱くなるのを感じ、ライラの子供らしい率直な論理に完全に不意を突かれた。テーブルの向こうのセラは、輝く赤い目で全てを見ており、彼女の胴体が微かに震えるのを、俺は抑えられた楽しみの形だと認識し始めていた。


マリアは、大人たちの突然の緊張を理解できず、ただ俺に微笑みかけた。その青い瞳は新たな希望で輝いていた。「パパ?」彼女は試すように言った。その言葉は甘く、少し躊躇いがちで、元気に揺れるふさふさの尻尾とは対照的だった。


俺やオーロラが何とかまともな返事をする前に、ライラは、まるで大きな謎を解いたかのように、思慮深く付け加えた。「でも…彼が本当にマリアのパパになるには、オーロラさんと結婚しなきゃいけないんだよね?」


もし先ほどまで空気が緊張していたなら、今は気まずさがほとんど触知できるほどだった。オーロラは卒倒しそうで、俺と娘の間で視線を往復させ、完全に言葉を失っていた。俺自身、熟したトマトと色で張り合えると感じた。咳をしてごまかそうとしたが、その音は絶望的なカエルの鳴き声のように聞こえた。


セラが音を漏らした。今度こそ、それが笑い声だと確信できた。彼女はテーブルの上でわざとらしく足の一つを調整してごまかそうとしていたが。


確かに、俺の人生はもはや単調ではなかった。

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